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アンドロイド、店名を決める

 外へと出てきたハニーとチカイは寝転ぶ場所を探す。


「土の上より草原の上の方がいいかしら」

「うん、寝ころんだ時の違和感はないかもねー」


ハニーは畑横の草をかき分けて、リンゴの木を見つけた。


「あっ、良い木がある。チカちゃん、ここにしよっ」

「真下はダメよ。リンゴが降ってきたら困るから、少し離れて」

「仰せの通りに!」


リンゴの木から少し離れた草むらの上に腰を掛けた二人。

ハニーも手首を回転させて、体内から電気コードを取り出す。


「話信じて来ちゃったけど、本当にこれ充電されるのかしらね」

「まぁ、物は試しっしょ」


ハニーは固めの土にほんの少し力を込めて、コードの先を差し込む。根本まで差し込んだ瞬間、ハニーの体に心地よい熱が流れ込んでくる。


「あっ、すごい。充電出来てる」

「本当に?」

「うん。入れてみ?」


恐る恐る差し込んで、ハニーの言葉が嘘ではない事を確認するチカイ。


「ん、あったかい」

「でしょー」


コードを土に差したまま寝転んだハニーとチカイ。空を見上げて、今まで見た事の無い星の数々を瞳に焼き付ける。

静かな空間の中でも眠る事のないアンドロイド達。ハニーはゆっくり、唇を動かした。


「チカちゃんさぁ、もし工場の方から戻って来いって言われたら戻りたい?」

「何よ突然。まぁ酷い目にあわないなら戻ってもいいわ。ノルマをこなして、終わったら充電。そのために作られたんだもの」

「だよね。でもやっぱりあたしはここでアップルパイを作りたいよ。それにリヤカーじゃない、建物のお店も。バルス公国じゃなくて、カタブラ国で」

「そんなにバージョンアップしたいの?」

「……うん。ワガママかな」


チカイはしばらくの間沈黙を続け、返答の言葉を考える。そして。


「ワガママかどうかも、何が正解なのかも私には分からない。でも、人を誘っておいてやっぱり止めるとか一番許されないわよ。連れて行くなら最後まで連れてって。何とかなるって言って連れて来たんだから、何もしないは一番やめなさいよね」

「それもそーか」

「バージョンアップしたいならすればいい。今まで通り作れとは言われたけど、新しい事をするなとは言われてないもの」

「じゃあ、新しい事してもいいかな」

「良いんじゃないの。私的には、そんなに急がなくてもいいとは思うけど。私達まだまだ壊れそうにないし、充電さえ出来れば人間より長い年月動けるもの。無理にすぐ変わる必要はないでしょう。だったら今は、今の自分の力を出し切れば良いじゃない。無理して師匠さんに迷惑かけるのも悪いし」

「確かにぃ」


納得の言葉を呟いたハニーだが、その表情はまだ諦めきれていない様子。

チカイは彼女の表情を見ることなく、声のトーンで理解した。


「そんなに悩んでいるなら、アップルパイじゃなくてお店の方を先に考えてみたら?」

「お店」

「だってアップルパイがどうであれ、ハニーは自分の店を持ちたいのでしょ。ディスプレイとか、衛生面とか。色々考えなきゃ」

「あぁ、衛生面は気にしないとだよね。今までは工場毎日消毒されてたし、あたしらも外出た事なかったから月一の洗浄で良かったけど、これからはきっとそういう訳にはいかないじゃん? どうしようね」

「消毒液が手に入ればいいのだけれど、それだけだと心もとないかしら。濡れたタオルで拭く程度なら、毎日やっても壊れないかしらね」

「保証がないけど、試さない事にはなんとも言えないのがねぇ」

「壊れてもすぐ直してもらえないし」


考えないといけないのは、アップルパイの事だけではないと理解したハニー。自分が気づいていない問題点もまだまだ多いのかもしれない、そう考えたら段々不安になってきた。


「無鉄砲すぎたかな?」

「そこがハニーの良い所よ」


一見褒めていないような言葉だが、褒められていると受け取ったハニーは嬉しそうに「……そっか」と返した。


「あとは店名かしらね」

「うん。親しみのある、あたし達らしい名前がいいよね」

「あぁ、それだけど……機械仕掛けのアップルパイ、っていうのは?」

「機械仕掛けの……」

「ほら、ピーリカも師匠さんも私の手を見て機械仕掛けって言ってたし。もしかしたら、この国の人達もそう思う人が多いのかと思って」

「うん。いいね、すっごく良い!」

「そう?」

「店名だけじゃなくて商品名としてでも使えると思うな。うん、作ろう。機械仕掛けの、アップルパイ!」


今まで通りでいくのか、新しい事に挑戦するのか。

まだ答えは出せていないハニーだったが、自分のお店を出したいという夢に変わりはなくて。


「そのためにも充電満タンにしておかなくちゃ。省エネモードに入るわよ」

「うん……チカちゃん、ありがとね」

「別に何もしてない」

「ふふ、そんな事ないよ」

「そう」


まだまだ星が光る夜。

太陽が昇るまでの間、二人は眠るように目を瞑った。




「起きろですよ、お寝坊さん!」


ピーリカの声に反応して、アンドロイド二人はパチリと目をあけた。

空はすっかり青空が広がっていて、いつの間にか星は見えなくなっていた。


「あれ、ピーリカ。おはよう」

「おはようですよ。もうすぐ出発ですって。起きろです」

「寝てないよ。省エネモードで目を閉じてただけだから」

「しょうねぇモードが何だか知らねーですけど、早く動けです。貴様らのために赤の領土に行くようなものなのですから、来ないなんて許されねーですよ。早く赤の領土に行って、収穫祭に出られるように頼み込むです。まぁわたしも一緒に行くので、断られるとかあり得ませんけどね!」


ハニーとチカイは何故だか断られるような気がしてきた。そして気づいた。例え特別なアップルパイを作れたとしても、今まで通りのアップルパイを作ったとしても、誰にも食べて貰えないのであれば違いはないという事に。


「どんなアップルパイを作ったとしても、食べて貰えればそれだけで幸せだったね」

「間違いないわね」

「どっちを作るかはさておいて。頑張ろう、頼み込むの。土下座ってやつをしてでも収穫祭に出て、少しでも好感度と知名度を上げよう」

「間違いないわね」


アンドロイド達の喋る内容をピーリカは理解していない。いつもなら説明を求めたかもしれないが、今の彼女はとにかく早く師匠とお出かけがしたくて。


「何をほざいてやがるですか。行くですよー」

「待って待って、今行くから。行こう、チカちゃん」


スタタタターっと走って行くピーリカの後を、ハニーとチカイは急いで追いかけた。



            ***



『ここから先、赤の領土。熱気にご注意を』


広がっていたのは土壁の四角い建物が並ぶ風景。中でも一番高さのある建物の前にやってきたピーリカ達。マージジルマは扉代わりにかけられたぶ厚いカーテンをめくった。


「シャバー、いるかー」


中にいたのは紺色ビキニ姿の女。腰元まで伸びた長い桃色髪に、いかにも魔女がかぶりそうな紺色三角の帽子をかぶっている。にっこり笑った彼女は、大きな胸を揺らしながらマージジルマへと近づいて来た。


「おかえりなさいシーちゃん、私と一緒にお風呂にする? ご飯と一緒に私を食べる? それともやっぱり、私にする? どれがい……間違えたわ、マー君。どれがいい?」

「シャバ相手にその質問をしようとしたのはともかく、そのまま俺に選ばせようとするんじゃねーよ」

「だってシーちゃんもマー君も私の恋人だし、どっちでも変わらないと思って」

「いつ俺がお前の恋人になったんだよ。そんな事より、シャバどこ行った?」

「多分お仕事よ。私が起きた時にはもういなかったから、本当にそうかは分からないけど」

「泊まり込みかよ」


ピーリカはマージジルマに近づく巨乳相手に威嚇する。


「こら痴女! 師匠と一緒にお風呂入ったりご飯食べたりするなんてダメです。師匠の嫌がる事は止めろです!」

「あらピーちゃん。おはよう。マー君は嫌がったりしないわ。だって私達恋人同士だもの」

「師匠が違うって言ってるじゃないですか!」

「やきもち焼かなくていいのよピーちゃん。私と貴女も恋人だからね」

「餅なんて焼いてねぇです! わたしと貴様も恋人なんかじゃないです!」


巨乳は騒ぐピーリカの頭を撫でながら、ハニーとチカイに目を向ける。


「それよりマー君、この可愛い女の子達はだぁれ?」

「ハニーとチカイ。今度の収穫祭とやらでコイツらが活躍出来る場を設けて欲しくてな」


アンドロイド二人を見つめた巨乳は、微笑みながらご挨拶。


「ごきげんよう。貴女の恋人、ピピルピです」

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