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月明海底

作者: しのぶん

なんてことはない

二人の男女のお話です

「私、シャコガイが好き」

僕の前にいる女性は唐突に語った

どうして?と聞くと

「シャコガイって強い力と固い殻をもっているでしょ?それに長生きですもの」

深い理由はないただシンプルな答えが返ってきた

どうしてシャコガイなんだ?疑問は尽きない

そうやって眉を顰める僕に彼女は

「あなたはなにが好き?」

と目を輝かせていじわるに微笑んだ。

ぱっと思い浮かぶものは何もない。

深く考えこみ自分の好きなものを探す

すると頭上に大きな影が降り

その影は自分の知っている生物の影に変わっていった。

「マンタ……かな?」

「かな?ってなによ。ありきたりね」

迷いながら答えたせいか彼女の顔からはつまらないという感情が

はっきりと表に出ていた。

「でも、二人とも海に暮らしてるものが好きだなんて素敵じゃない」

蒼いワンピースを着た彼女はそういうと名前もわからない巻貝を拾い耳に当て

麦わら帽子が夕日を細かく裁断し僕の顔を照らしながら

またいじわるに微笑んだ。


------


懐かしいものを思い出した。

十数年前の在りし日のセピアのようにくすみ

頭の中の画廊に立派な額縁をつける

そんな大切な思い出。

記憶の中の少女はそれ以来顔を見ていない、

そのせいで余計大切さが増すのだろう。


懐かしさに目を細め口角を上げながら

私は昼前に店の暖簾を上げた。

 チョウセキ 

【潮汐】

いま私が働いている店だ。

この店は実家も兼ねている建物で元漁師の父親が経営している、

寂れた漁師町のなんてことはない寂れた居酒屋だ。

潮汐とは父親いわく潮の満ち引きなんだそうだ、

客が潮みたいに引いてしまったら大丈夫なのか?と不安を覚えるが

どうせお客様はみんな昔馴染みと漁師たちだと

酒に鼻を赤く染め笑いながら話をしてくれた。

しかしそれだけで店は当然やっていけない、

旅行客や運送トラックのひとの止まり木として

昼前から日が変わるほどまで営業できるよう努めている。


そうこうしてるうちに一仕事終えた漁師たちが、

昼飯を求め店いっぱいになる時間が来た。

ここの漁師たちは少し特殊で自分たちが食べたい魚を

持参し「おまかせで」と注文するのだ。

そのおかけで私は毎日頭を抱えながら満足のいく料理を

提供し続けなくてはならない。

まぁ脳みそを回転させてるかいあってか

店に卸す魚は凄まじく安くすんでいる。

これがwin-winの関係というのか

持ちつ持たれつという関係というのか助かっている。

そうして一通り料理を作り終えると

仲のいい漁師の一人が

「そういやこの町には珍しい感じの人が漁港にさっきいたべな」

とすごく驚いた様子で語り始めた

「いたべなぁ!!!俺なんて一瞬人魚様かと思っちまったべ」

隣の漁師が同調し口にした。

会話は漁師達で盛り上がってしまい

肝心そうな部分は聞き取れず、

聞き耳を立てかろうじて取れた単語は

話をした、旅をしてる

の二つだった。



-----



もうすぐ日が落ちる。

客も来る気配などしない。

こんな時はいくら店を開けていても父親の飲み仲間しかあとはやって来ない。

私はそれを幾度となく経験している。

今日ぐらい早めに店仕舞いとしてみるかと、

自分への微かな褒美として日が落ちきる前に閉店させた。


残った暗くなるだけの自由を散歩に使おうと暖簾を下げ道路向こうに広がる

見慣れた砂浜へ足を動かした。

しばらくたち水平線から太陽が見えなくなる、

だがぬくもりを感じる暖色の空はまだ僕ともう一人を照らしていた。

(もう一人????)

そう思い気配を感じた先を見つめると

裸足で立ち白いワンピースが暖色に染まった一人の女性が立っていた

こちらの視線に気づいたのかその女性は微笑み

こちらに歩み寄ってくる。

「あなたここの人?」

潮風になびかせる黒髪を鬱陶しいそうに抑えながら語りかけてきた。

「はい。そうですよ、ここなんもないでしょ」

と僕は苦笑いしながら答えた。

女性もその苦笑い釣られたのかフフッと笑い


「そうね、でも静かで良いところだと思うわ」


「そうゆうものですかねぇ」


「そう感じたのだから良いところよ」

不思議な女性だと僕は思いながら会話は淡々進んでいった。

「あなたはどうしてこんな町に??」

と一つの疑問を投げかけると

「そうね。私これまでいろんなところを周ってきたの海遊するみたいに」

そう答えるとそのまま女性はこれまでのことを話してくれた


「色んな景色を見てきたわ、朝日に乱反射して目が焼けるような海や

大地がどこまでも続くと思うほど白い氷海、うだるような暑さでも優しい顔を見せてくれる漣

勿論海だけじゃなくこうやってそこで暮らしてる人たちともおしゃべりをしてきたわ!

そう!これ自慢なんだけどおしゃべりした人たち皆、私の事かわいい!って褒めてくれるのよ!」


急に目の色を輝かせすまし顔でこちらを見つめてきた。


「は…はぁ…」

僕はため息交じりで相槌を打った。


「なによ、お堅い人ね。そこは「「確かに可愛いですね!」」って女性を建てるものよ」

と彼女は暖色が1割ほどしか残ってない空を見つめつまらなそうな顔をした、

その顔に僕はどこか懐かしさを感じた。

「昔どこかで会いました?」

感じたので聞いたただそれだけであった。

「あら?私はあなたとおしゃべりするのは初めてよ?」

つまらなそうな顔からすぐ表情は変わりキョトンとした顔で

僕の顔を細かく落としたコンタクトを探すように見返してきた。



-----


時が建ち僕らは会話をせず砂浜で座り込み空を見上げていた。

月明かりが鮮明に辺りを照らす。

空の星々が光るようにこの辺りでは波にもまれ海面にも星空ができる。

その光景を食い入るように見つめる女性は、ねぇと口を開き、

「ねぇ、あなたって世界を旅する生き物って知ってる?」

と問いかけてきた。

「わかりませんね、僕は世界を旅できない生き物なので」

僕は月を見つめ悲しい感情とともに答えた。

「答えはマンタよ、神様のお使いとしてこの大きな海をその大きなヒレで抱きしめながら

世界を見廻り、見守ってるのよ。

あなたはどうして旅ができないの?」

彼女は屈めた足に腕を組み口元を隠し海に照らされながら語った。

「壮大ですね。僕はこの町に根付いてしまった。ここから動けないんです。

そりゃ旅行したいな、抜け出したいなって気持ちもありますけど、生活があります、両親もいます。

そんな気持ちは貝の殻が自分を守るように閉じ込めるしかないんです。」

僕は僕でも驚くほどに感情が零れた

いままで考えたこともなかったことがスラスラと口にできた。

「そう、あなた寂しい人なのね」

彼女が真実を刺してきた。

「でもいいじゃない。さっきも言ったけどこの町は良いところ…素敵なところよ

静かで夜には海に星ができる誇れる場所だと私は思うわ」

僕は答えれずうつ伏せるしか出来なかった。

そうしていると彼女が僕の前に立った

見上げると暖色だったワンピースが海の灯りにより蒼いワンピースになっており

潮風になびく髪の毛からは月灯りが一本一本の隙間から零れていた

その姿にあっけを取られていると

「あなたシャコガイみたいね、同じ場所でずっと育って自分を殻に閉じ込めて…」

貶されているのだと思い

怒りながら僕も立った

しかし彼女は怯まず

見覚えのある意地悪な笑顔で僕に言った

「でも私、シャコガイが好き」


短い割に考えて読むと凝ってるなってなる部分に気づいていただけるととてもうれしいです

深く書いたけど伝えたいとこは分かりやすく書けたと思います

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