宰相の憂鬱
城門の外に締め出した女が3つの問題を口にすると突然出現した転移陣によって目の前で消えた。
背中を冷たい汗が流れ落ちる。
「宰相様っ、お怪我はありませんか?」
直ぐ側にいた騎士に声をかけられて頭が回りだす。
「私は大丈夫だ。大至急、魔道士団に連絡を入れて転移陣の痕跡を調べさせろ。それから、鑑定士を呼べ」
足早に城へ戻ると第2王子殿下と聖女として召喚された少女の元へと向かう。
「ご歓談の所、失礼をいたします。殿下少し宜しいでしょうか」
王子殿下を隣の部屋に連れ出すとたった今、起きた出来事とあの女が告げた3つの問題について伝える。
「只今、鑑定士をこちらへ呼んでおりますので一度、聖女様の鑑定をする許可をいただけないでしょうか」
王子殿下も事の重大さが伝わったのだろう。苦虫を噛み潰したような顔で頷くと聖女様の元へ戻って行った。
召喚された少女の鑑定をした鑑定士から伝えられた結果はー
「聖女『見習い』様に間違いはございません。但し、注釈として、本人の努力次第によっては大聖女にも御成になる。とあります」
鑑定の結果に王子殿下と共に詰めていた息を吐き出した。
「聖遺物の綻びを修復するには年単位で掛かると言う事でしょう。聖女様には神殿にて早急に修行をしていただくとしましょう」
間違いなく我々の期待した結果には及ばないが及第点と言えなくもないだろう。
「殿下には聖女様を精神的に支えると言う大きなお役目をお願いいたしますが宜しいでしょうか?」
王子殿下に問えば、しっかりと頷き神殿の神官長との話し合いに向かわれた。第2王子殿下も王太子への足掛かりとしてあの少女を大聖女として祀り上げなければいけない立場だからな、後は大丈夫だろう。
「さて、私は陛下へのご報告へ参りましょうー」
―――――――――
私は、陛下への報告を済ませると聖女召喚の為に用意された召喚陣の施された部屋に向った。
「魔道士団長。どうだ、何か分かったか?」
召喚陣を調べていた魔道士団長がこちらに来ると報告を始めた。
「まず、城門の外に発生した転移陣の痕跡ですが。魔力の量から言って転移先は国内であると思われますが、痕跡が綺麗に掻き消されており追跡は不可能でした」
やはり追跡は不可能だったか。念の為、女の追跡の為に配置していた影の者達からも痕跡が一瞬で消えたと報告を受けていた。
「それから、こちらの召喚陣ですが。何者かに干渉され書き換えられた形跡が見つかりました。しかし、常に監視の兵が見張っている中で書き換える事は不可能かと」
干渉された形跡、しかし書き換え不可能な環境。これは一体。
「因みに、書き換えられた内容は」
魔道士団長は召喚陣を指差し
「こちらは聖なる乙女を特定する部分なのですが。聖なる乙女と共に神の使いを特定すると書き換えられております」
「神の使い…」
あの女の事なのか?
「それから、1人分の召喚をする為の魔力しか用意していなかったのですが」
何やら悩まし気な魔道士団長はこちらを向くと渋い顔でこう言った。
「召喚陣の起動に膨大な魔力が必要なのであって2人目を召喚するにはそんなに多くの魔力は必要ないのです。ですから、2人目の分の魔力が供給された事に気付いた者は私を含め誰もいなかったのです」
盲点を突いたのか…あの女。一体、何者なのだ。
「2人目の召喚者ですが、彼女には魔力の欠片も感知出来ませんでしたから。彼女が実際に現れるまで誰も気付く事が出来ませんでしたね」
「何だと?では、どうやって転移陣を発動させたと言うんだ!」
私の問に魔道士団長は、あってはならない答を口にした。
「こちらの世界に協力者が居ることは間違いないでしょう」
あの女、必ず正体を暴いてやる。