01
本日、2話投稿しています。
事の発端は私が異世界召喚でこの世界に呼ばれたからなのだけど、一緒に召喚されたのが可愛いらしい女子高生だった。
それに尽きる。
召喚の儀を指揮していた王子様は、可愛いらしい女子高生に大層喜んでエスコートして出て行った。
そして、残された私はこの国の国王陛下の元に連れて行かれ宰相様から事の次第を聞かされた。
曰く、間違えて聖女召喚に巻き込んでしまったこと。元の世界には帰れないこと。だから、城で聖女様の侍女として働かせてやるから喜べとの国王陛下のお言葉です、と。要約するとそんな感じのことを言われた。
いや、普通に喜べないだろうと思うのは私だけだろうか。
「聖女の侍女はやりたくないので結構です」
アラサーにして独り身ではあったわたくしですが、社会人としてそれなりのポストでお仕事をして来たのですよ。
それを、いきなり召喚して間違えました。聖女の侍女にしてやるから喜べとはちょっと無理があります。
「そうですね。3年間この国で生活していくのに困らない資金を私に下さい。そうしたら、大人しくこのお城から出て行きます」
国王陛下は、顔を大きく顰めて私を睨みつけると
「2度とこの城に足を踏み入れる事が出来ぬ契約魔法をその者に施し、サッサと追い出せ」
と言うので、喜んでそれに応じた。
勿論、内容を良く読んだ上で(自動翻訳万歳)。
城の敷地を出たら二度と踏み込めないようにと言う文言に『及び、国を出たら』を追加し、国王陛下の許可が降りなければ魔法契約が破棄される事は無いと言う文言を『両者の合意が無ければ』と言う文言にコッソリ変えさせてもらった。
そして宰相様から手渡された革袋の中身を確認して溜息をついた。
魔法契約の為に待たされていた部屋で監視役の騎士様達に城下の暮らしやお金の単位などをを聞いていたのだけど、袋の中身は1ヶ月暮らせれるかな?程度の金額しか入っていなかったのだ。まぁ、予想はしていたから良いのだけれど。
と、ここまでがお城での出来事。
――――――――――
城門前から転移した先は国境近くにある森の中。木漏れ日の差すその下でソファに腰掛け優雅に紅茶を嗜む男性が手を振っていた。
「いらっしゃい。災難だったね」
と、苦笑いして居るのは私をこの世界に呼び出した張本人でこの世界の神様なのだ。
Q,聖女召喚に巻き込まれた被害者なのでは?
A,いいえ、聖女召喚に便乗させて頂いたので被害者ではありません。
異世界転移にはそれなりのエネルギーが必要ですからね。聖女召喚の準備をしている所に神様がチョチョイと細工をして、女子高生のお嬢さんが召喚される時間に近くをフラフラしていれば異世界転移完了と言うわけですよ。神様と私による計画的犯行です。
お城で聖女の侍女を断ってお金貰っていたのにも理由がありまして。国王に自分が追い出したと言う事実を作ってもらう為に煽った結果なのですよ。自分から手放した物って執着心が薄くなると言うからね。但し、あの宰相様の態度にはちょっとカチーンと来たから嫌がらせを。まぁ、出鱈目な事を言っていた訳ではないから良しとしよう。
因みにこの神様、私の元に来て一年後に異世界に移り住んでもらうから準備をしておいて欲しいと律儀に挨拶をしに来た。
ええ、しっかりと説明を聞いて準備をしましたとも。決定事項であり、変えが効かない為、お断りできないと言う事を確認の上で。転移先の生活水準、衛生環境、お仕事の内容から食事事情まで色々と神様を質問攻めにしてなんとか自分を納得させた。
気持ちの整理をするのに少し時間のかかった私はこれまで生きてきたこの世界とお別れする準備を始めた。
まずは家族への説明、説得。友人とのお別れ然り、会社を辞めるために仕事の引き継ぎから車や私物の処理等など。
ある意味開き直って異世界へお引越しする感覚でいる私は、まず神様と交渉をした訳ですよ。その結果、アラサーの私がこれまでバリバリと働きローンを払い終わったお気に入りのマンションを持ち込む許可をもぎ取り。マンション内の生活必需品と化粧品類、調味料、それから大事なお米なんかは使っても減らぬようにして貰った。
いくら魔法が使えるファンタジーな世界でも中世ヨーロッパ並の生活水準に現代の日本人が我慢できるわけが無い。化粧品類は手作りすれば良い?そんなの現代の化粧品クオリティで育てたアラサーの肌が耐えられるとは思えない。日本食が食べれないなんて精神的に参りそう。今まで貯めた貯金もしっかり持参してきている。勿論、こちらのお金と換金可能。
と、言う訳で。厳選して選ばれたお気に入りの家具家電インテリアの揃ったマイルームをそのまま異世界へ持ち込んだ私は、神様からのお使いで壊れかけのマテリアルを補修して回る事が決まっている。
神様が創生時に施した結界陣を形成するマテリアルが経年劣化で壊れ始めたせいで世界の境界から魔物が蔓延り始めているらしい。今回の聖女召喚もその対策だったんではないかな。
「さて、手始めにこの国を出て隣国の『月の丘』にあるマテリアルの修復から始めて欲しい」
アイテムボックスに収納可能なマイホームの確認を終えた私は、勝手知ったるリビングでコーヒーマシーンのボタンをポチッとしてコーヒーを淹れていた神様に座るようを勧められながら「まずはギルドでポーター登録をしてから国境を越えて」と親切にギルド迄の安全なルートからギルドの説明まで始めたのでつい笑ってしまった。