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「いらっしゃい。『神の使徒』リン。歓迎するわ」
絶壁の上には、神殿と花畑が広がっていました。
「わぁ、ファンタジー」と現実逃避する私をどうか許してほしい。
『月の丘』とはよく言ったもので、ガラスのように透き通った花が一面に咲いている。それがシャラシャラと風になびいてキラキラと輝いているのだ。星の海原に降り立ったよう。夜になったらどんなに綺麗なことか!今から楽しみだな。
「こんにちは。えっと『月の丘』の守人さんでいいのかな?」
美人さんはフフフッと笑いながら近くの四阿に案内してくれた。
そこには、お茶会のセットが用意されていてそれぞれ適当に座るように進めると美人さんはティーポットからお茶をサーブしてくれた。
「さぁ、召し上がれ。それから楽にしてちょうだいな。堅苦しいのは苦手なのよ。私の名前は、ディアーナ。よろしくね」
ニコリと笑うと可愛らしい印象になる。美人は何しても絵になる。
「私は、リン。こちらが、ルカとディーン。こちらこそ、よろしく」
美味しいハーブティーとクッキーを堪能したところで、早速マテリアルについて聞いておこう。
「早速で申し訳ないのだけど。マテリアルの確認をしてもいいかな?」
「別に構わないけど、『月の丘』のマテリアルは夜にならないと力を引き出せないわよ」
へぇ~。月の名を冠に持つだけあって夜にならないと力が出ないんだね。
「成るほどねぇ。実は、マテリアルを見るのはココが一つ目になるんだよね。良かったら明るいうちに一度確認しておきたいかな」
普通の人間である私は、夜目が効かない。多分。夜は出歩かないから分からない。
だから、今のうちに全貌が見たいな。
「じゃあ、着いてきて」
フワリとドレスを翻し歩き出したディアーナについて神殿の奥へと歩を進めると、天井がポッカリと開いた場所にマテリアルが鎮座していた。
「これが『月の丘』のマテリアル。通称、月のマテリアル」
「成るほど」
私が唸るのも仕方ない。私の身長ほどの高さのある月のような球体で夜空のような濃紺のマテリアルは残念ながら大きな亀裂と欠けが生じていた。
「この欠けちゃった所はどこに行っちゃったの?」
私の問いに寂しそうにディアーナがこう答えた。
「亀裂は200年程前から入りはじめて、ある日突然その部分が弾け飛んでしまったの。欠片をすぐに探したけど見つからなかったわ。それから、月のマテリアルの力がガクンと下がったのを感じたわ」
マテリアルの力の減少は世界の境界を曖昧にさせる。そこから、魔物が侵入して来る。
「今は、月の力が満ちているけども。年々、こぼれ落ちる力が増えていたからとても心配していたのよ」
毎日、神様にマテリアルの修復をお祈りしていたんだって。
神様、美人さんのお祈りは早く聞いてあげないと!可愛そうでしょ!
「じゃあ、今夜。マテリアルの修復をするとして。少しこのあたりを散策してきていいかな?」
「もちろんよ。良ければあの子達を連れていってあげて。さっきから遊びたくてウズウズしてるの」
だれ?と振り返ればフワフワと光る物体が目に入った。
「おぉっ!まさかまさか、妖精さんキター!!」
ファンタジーの世界に来たらお目にかかりたいベスト10には入るよね。
私のハシャギように一緒になってワーイ!と喜ぶ妖精さん達とても可愛い。ルカとディーンの目線が若干冷たく感じたのは気のせいかな?気のせいにしておこう。
遠目には光る球体に見えた妖精さんだが、近くでみるとちゃんと人型をしておりディアーナとお揃いの濃紺に金の刺繍が可愛らしい衣装を来ている。
「可愛い」
感動している私を小さな妖精達がグイグイ引っ張って何処かへ連れていこうとする。
「この子達が『月の雫』をあなたにプレゼントしたいんだって。数日後から山沿いで大雨が降る予定だから全部持っていって良いわよ」
ディアーナの説明によると、昨日くらいのシトシト雨なら妖精達の力で川の水量を調整できるが山で降った大雨は土砂を多く含むから『月の雫』の多くがダメになってしまうらしい。根が残っていればまた生えて来るから妖精がくれる分だけ持ち帰ってほしいとの事。
「そう言うことならば、喜んで頂きます」
と、言う訳で。妖精さんと薬草採りにいきました。
結果は、ルカの顔が引き攣るくらいの量を妖精さん達が入れ替わり立ち替わり運んで。私のアイテムボックスにせっせと投げ込んでいたことをここにご報告いたします。