探偵と司書
人の形をした化け物に、私達は名前を付けた。
それは得てして、いつの間にか私の家族になった。
その名前は、特別なモノになった
日曜日の朝。
眠気覚ましのエナジードリンクが欠かせなくなっていたこの頃。
糖分とカフェインを十分に摂取しながら、放映されている街の日常を画面越しに眺める。
十日前の話。34区で従業員が暴動を起こし、数十名の死傷者が出たという話が持ちきりだった。警察は、給料未払いに対しての抗議だと表明しているらしい。
今日、57区で麻薬組織や常習犯が集団で警察署や関係公共施設を強襲。適切な対応により、関連施設には重大な損傷は見られなかった等。どう見ても麻薬ではなく、ゾンビ映画のような現実離れした死体模様を映し続ける。
今日も変わらない。
駅前から五分を謳うマンション。
築二十年終わりには新しめの底は、セキュリティ対策がしっかりとしていて。特に、独り立ちした学生に人気の場所であり、正六角形のハニカム構造群が密集した何とも珍妙なマンションだ。その持ち前の奇妙な構造性質から、そのマンションはハニービーと呼ばれ、住居者たちは六角形の特殊なカギを与えられ生活している。
魔術的作用が施しているのか、それは入居者以外は決して明ける事が出来ない鍵であり、魔術的セキュリティも人気に拍車をかけていた。
「……」
休日。
学校は休み、趣味に深けようと準備を始めたがある事に気付いた。
箱で買ったはずのエナドリが無くなっていた。
これでは何もできない為、近所の雑貨店に向かおうとした所。ちょうど、一本の電話がかかってきた。
相手は、知り合いの人間。
珍しいと思いながら、返信ボタンをスライドする。
電話の主である緑髪の彼女は、一回り大きめの長椅子に座っていた。
彼女の名前は、クリミア・ノース
僕の父が所属していたノース研究所所長の娘であり、この図書館係の書記長を務めている。深度は地下十階。魑魅魍魎と呼ばれる何者かが徘徊する階層。それは彼女の手で管理されたクリミアの配下であり、獣以上に獰猛である。
図書館係は全ての世界の書籍の収集。管理。蓄積を生業としている。それは異世界側もしかり、現実世界もしかり。すべての記述された知識がそこには蓄えられている。それも現在進行でその大きさは肥大化している。迷宮のように入り組んだ地形は、それぞれフロアに分かれており、地下に進むにつれて知識の量は膨大となる。
この図書館の奥深くへと進むために必要なのは知識だ。
知識鍵であり、必要な知識を持たぬ人間は深淵に向かう事は出来ない。
知識を持つ者は、それ以上の知識を会得するために深淵を目指す。
知識の抑制者。
それが、クリミア・ノースのもう一つの名前だった。
「久しぶりだね。4-7(シーナ)。調子はどう?」
胸元を崩らせ、ニット帽をかぶりながら彼女は語る。
見せつけている様に豊満な其れと、横の掛けられている愛用のAK。潰れた目を覆い隠すように充てられた眼帯は、司書ではなく軍人を思わせるだろう。だが、彼女はまごう事無き此処の司書であり、この先へと進む者を管理する門番だ。そんな司書は、白い液体が入ったグラスを上げ、その周りには空になった瓶が放置されていた。
化け物だろうが。何であろうが。
君に、退屈なんてさせないだろう。