僕だけに神様がいない世界
3話目です。
それから10才になるまでは双子の妹と体を鍛えたり、おもちゃの剣でちゃんばらしたりして将来戦う職業になった時の為にそこそこ頑張った。
妹は僕の口に料理らしいなにかを突っ込むようになった頃からなぜか急に姉のように振舞いだした。
体力も、子供の遊びとはいえ剣の腕も僕より上をいき、子供から少女へと美しく成長しながらも基本的には体育会系のような感じで僕を鍛る事に熱中しているようである。職業がどうなるか分からない上に僕は異世界転生者だから将来泣かしてしまうかもなとか考えながら、妹のしごきに付き合って・・・
ついに10才の誕生日12時を迎える。
長々と今までの事を振り返り、なにが悪かったのかを考えるがさっぱり分からない。
冒頭に戻るわけなのだが、つい一時間ほど前に10才の誕生日の12時を迎え・・・その事件は起こった。
いや、起こらなかかったのだ。なにも。
双子の妹のソフィアは教会の中でなんか輝くみたいな光に一瞬つつまれて、恩恵をさずかった。
なんと職業<冒険者>とスキル<魔法剣>の2つを貰って喜んでいる。
恩恵が2つや3つというのはないわけではないし、10才の時だけでなく人生になんらかの事件があった時など追加の恩恵がもらえることもあるのだが、あるというだけで実際にそうなる人間は10年に1人か2人くらいと言われている。
喜んでいる両親と妹の横で僕はちょっと泣きそうになっていた。神の声なんて聞こえてこない。チートスキルなんて授かっていない。ハーレムどころか彼女さえ現れそうにない現状に泣きそうになっていると<神官>から、両親から声がかかる。
「キミはどんな恩恵だった?」
「アルはどんな職業だったの?」
前世の大人の価値観がギリギリで歯を食いしばって言葉を返してくれる。
「神様の声が聞こえません、恩恵も・・・まだ授かっていないようです。」
<神官>は首をかしげてそんな事は聞いたことがないなぁとつぶやいていたが、しばらくして
「様子を見てみましょう」
と全員に提案してきた。なんらかの理由で恩恵を授けるのが遅くなっているのかもしれないと・・・
この世界に生まれ、生きて行く以上必ず恩恵は与えられるハズなのだからと。
1時間ほど経って一人にしてもらい部屋で座りながら考える。
確かに今までやってきたことは失敗してはいたけれど無駄になった訳じゃない。そしてなにかを間違えた訳でもない。決して人には言えないけれど、僕だけには恩恵が与えられなかった理由がなんとなく推測できた。なぜだか分からないけれどおそらく僕が転生者だからだ。そうなると一生恩恵がない人生かもしれない。隠さなくてはならないけれど、今後の事はよく考えないと・・・。具体的には恩恵に頼らずにどうやって女の子と仲良くなればいいか。ちょっと自分でも前世にひきずられすぎではないかとも思うのだけれど、僕だって普通に彼女は欲しいのだ。恩恵に関してはぶっちゃけ考えてもしかたないし、もし嫁になってくれる可愛い女の子が現れたとしたら恩恵なんていらないのである。
実際のところはショックが大きすぎて現実逃避をしていたんだとは思うけれど、ぼーっとしている部屋にノックの音がしたと思ったら、返事もしていないのにドアが開いた。
いいとも言っていないのにいつものようにずかずかと部屋に入ってきたのは双子の妹のソフィア=カーバンクルだ。金髪碧眼に可愛らしい顔立ち、前髪をまゆげの上でいわゆるぱっつんに切りそろえ、肩ほどの長さのさらさらな金髪をちょっと邪魔かもとでも思ているような手つきで押さえながら笑顔で近づいてくる。ちなみに僕の外見は茶髪に黒目の丸顔で、まぁ不細工ではないと信じているけれど地味な感じだ。
この世界での外見は遺伝とか関係なく、髪の色とか目の色とかピンクとか緑とか生まれてくるらしい。
そして件のおならの女の子はどうやらピンク髪だったらしい。この情報を得る為にお小遣いを3か月分つぎこんだのだ!。いやもう現実逃避で思考が飛び回る。そんなことよりだ。
「ソフィ・・・」
もしかして慰めてくれるのだろうか・・ちょっと期待して俯いていたいた顔をあげて言葉を待つ。
いやもう優しさに飢えている狼のようにどさくさにまぎれて抱き着いてやろうと(さすがに一緒に生まれた双子の妹は幾ら可愛くても家族で、彼女とは別カテゴリなのではあるけれどそれはそれとして)手を抱きしめる形に準備して重心を前に傾けていく。
しかし、笑顔で彼女はこう言ったのだ
「アル、私の魔法剣のじっけN・・・じゃなくて性能テストに付き合ってよ。」
僕はそのまま準備していた通りにソフィアに飛びつき抱き着いて泣いてるような感じを醸し出しつつまだ薄い胸に顔をうずめぐりぐりしながら女の子のいい匂いを堪能する。
慰めてはもらえなかったがそれはそれである。
ぎゃーーというあまり可愛くない叫び声と同時にまず膝がおなかに飛んできた。
ぐふっと呻きながらもなんとか抱き着いていたが、手はゆるんでいたようでそのまま振り回すように投げられた。
2Mくらい向こうで顔を真っ赤にしたソフィが片手を頭上に上げているのが見える。
その手にはいつもチャンバラしていたおもちゃの剣。素振りなんかは木刀や木の棒でやっていたけど立ち合いはさすがに危ないからと買ってもらった前世でいうとプラスチックの中身がカラの玩具の剣。
思いっきり叩かれたら痛いけれども死んだり怪我したりはしないそれをいつものように握りしめて彼女はその言葉を紡ぐ。
「<魔法剣>」
なんかルビがおかしいだろとツッコミをいれようと口を開いたその目の前で・・・おもちゃの剣は光輝く。
そんな経験はないはずなのに熟練の冒険者のような滑らかな足さばきで、一瞬で目の前に現れた時にはすでに剣は目の前で・・・恩恵ってすげーなーと思いながら人生で2度目の気絶と・・・そして魂が体から一瞬ずれて元に戻るような感じがあって意識を失った。
気が付くとなにか真っ黒が空間にいた。体はなんか動かないけど状況はなんとなく理解した。これはあれだ。神様に会ってチート能力をもらうヤツだ。知ってる!
ウキウキして待っていると、なんか白いモヤみたいなのが集まってぼやけた丸い球みたいな感じになって喋りだした。
「やっと魂を探知できたよ・・。あんまり時間もないし必要な事を話していくよ?」
僕はすぐに返事を返した。
「こういう時は美人の女神様が現れるんじゃないんですか?」
モヤはこちらの話を聞かずに話を進める。
「生まれ変わった魂に前世の魂が混ざるのは完全に事故ではあったんだけど、結果からいうとキミは10才の12時にあの世界の神様から異物として、世界の外に放り出された。この世界の人間じゃないぞって思われて、今までは元のアルクとしての魂があったから気が付かなかったみたいだけど完全に融合し終わったあの時に恩恵を与える為にきた神様に見つかって、あちらの世界の神様の力から完全に切り離されたんだ。」
「ふむ、なるほど・・・。」
「いや、分からないのも無理はないけど今後は色々と問題が生じるんだよ、あの神様の作った世界では。」
「まさか!・・・お、お、女の子と仲良くなれない・・とか?」
「もうそろそろ時間なんで一応スキルを渡すけれど、そのスキルはそちらの世界の神様の力は一切使わない。アルクの中の小さな力を使うんだけど力を貯めたりいろいろ出来るから知識と一緒に自分で考えて!」
おおおおおなんかスキルもらえるらしい!
「女の子はもらえませんか!?」
返事はなく、意識が霞んでくる。なんだか・・・ひどく・・・・・・眠い。
だがこれできっと計画は進むだろう。スキルも神様も割とどうでもいいが、女の子にモテモテになるにはきっと必要なものなのだ。眠い。頑張ろう。ね・む・・・




