”クラフター”
シチューを食べながら、雑談をしながら、この世界の真実を話す。この世界の神の目的と、見えないけれどこの世界に満ちている神の力の事を。
シルヴィはほえーっていいながら聞いているが、自分の作ったシチューが美味しくて手が止まらない。パンは店で買った安物だから美味しくも不味くもないけれど、シチューが美味しすぎてあっという間に無くなった。ホントに話を聞いているのか不安だが・・・。
「それで、ですね。シチューの話になる訳です。」
シチューもあっという間になくなって食後のお茶を飲みながら考察を話す。
「ずーっと不思議だったんですよ。料理の途中で”ギャダム”をすると完成品が出来上がる。なんでって。もちろん”ギャダム”しなくてもちゃんと最後まで作れば同じ物が出来上がる。じゃあ、料理をしないで最初から”ギャダム”すればいいじゃんって。そう言ったら母さんは”ギャダム”のタイミングはその時によって違う。出来るようになると感覚で分かるから”ギャダム”するのだと。最初から”ギャダム”出来た事はないと。”ギャダム”は料理人とかでなくても才能があれば使えます。コモン魔法みたいな感じですね。それで神の力が見えるようになって見ていると、料理をしていると周りから料理の神の力が寄ってくるんですよ。ある程度溜まったらギャダムが使えるみたいです。オレは使えないんですけどね。神の力逃げるんで。」
「ほえー。」
オタクの習性でつらつらと語ってしまっているがほんとに分かってるんだろうか?
「さっきはソフィにお願いしてここらへん100mくらいの料理の神の力を先に集めてもらいました。だから”ギャダム”が使える人なら料理を始めなくても完成品が出来たんです。美味しいシチューになったのは多分クラフターの影響か、シルヴィの料理の腕がいいのか。そんなところです。」
「はーなるほどー。いきなりシチューが出来たのはびっくりしましたー。」
「そして、ここからが本題です。”ギャダム”は才能があれば恩恵がなくても使えますが、鍛冶師の、鍛冶の神の恩恵がないと使えないスキルがありますよね?」
「はいー。」
カバンの中から鉄のインゴットをごとんと取り出して机の上に置く。
「ほんとは魔法剣でごり押しでなんとか出来ないか試すつもりだったんですが・・・ソフィ。東外街の鍛冶の神の力を全部集めて魔法剣にして。」
ソフィアが立ち上がり目をつぶる。
「魔法剣”鍛冶の神”」
ソフィアの前方に鈍色に輝く剣が現れる。
「攻撃力を無くして神の力をシルヴィに。」
「えっ」
避ける間もなく魔法剣がシルヴィの体に突き刺さりそのまま体内に入っていく。
オレはインゴットをシルヴィに渡して叫ぶ
「さあ!今こそ叫べ!”ガンダム”!」
「えええええ炉もハンマーも火もないんですけどおー。が・・”ガンダム”!」
インゴットが光り形を変えていく。そして机の上には一本のショートソードが置かれていた。鞘もなく、柄も一体の鋳造で飾り気はないが。
「いい出来です。我の目利きが保障しますよ。装備ダンジョンのコボルトが落とすなまくらよりも大分いいです。」
シルヴィはそれまでののほほんとした空気が消えてただただ真剣に自分が作ったショートソードを凝視している。
「なんで・・・いままで一度も・・・・・・出来損ないのナイフしか・・作れなかったのに 。」
「クラフターの恩恵は確かに専業の恩恵には劣るのでしょう。だけどシルヴィの努力は決してムダなんかじゃありません。今の実力でも神の力がちゃんとあれば質の高い剣が作れます。神の力はソフィが集めたけれど、その剣はちゃんとシルヴィが作った物ですよ。」
シルヴィは静かに泣きながら、ショートソードを撫でている。
ソフィアとダークもウンウンうなずいている。
「さっきの料理の話と同じで”ガンダム”をしなくても最後まで普通に作れば普通に剣が出来ます。”鍛冶師”や”クラフター”があればもちろんない人よりもいい物ができるはずです。じゃあ”ガンダム”はなんなのか。推測ですが、神の作ったセーフティネットです。工房が壊されたり、技術の継承が途絶えたり。本当に最悪人類が追い込まれても、設備がなくても剣を、鎧を作れるように。炉やハンマーや実際に鍛冶を進めるのは料理で包丁や鍋や実際に調理を始めるのと同じで、それによって鍛冶の神の力が周りから集まってくるんだと思います。だから鍛冶の神の力をソフィアが集めれば炉も火もハンマーもいりません。材料があれば完成品が出来ます。それがこの世界の隙間です。そういうものだと思っているから、そういう風に出来ているから不思議には思わない。」
「なんでシルヴィにはナイフしか作れなかったの?」
シルヴィが顔をあげてこちらを見つめてくる。食べ物を食べていない真剣な表情だ。
「これも多分になっちゃうけど、・・・”クラフター”より”鍛冶師”のほうが鍛冶の神の力を引っ張ってきて使う力が強いんだと思う。周りにはたくさんの鍛冶師と鍛冶見習いがいて、みんな鍛冶をやってたんだ。鍛冶の神の力は集まってくるし、使ってもまたちょっとづつ補充はされるけどソフィみたいに周りから強制的に集める訳じゃない。同じ”鍛冶師”の加護だったら神の力の取り合いも拮抗するけど他がみんな”鍛冶師”で神の力を使っちゃったら”クラフター”じゃ碌に力を引っ張ってこれない。最後まで手作業で続ければショートソードくらい作れただろうけど、見習いになってからずっと”ガンダム”を練習してたんでしょ?見習いを卒業して立派な鍛冶師になるには必要だったんだからしょうがないけど、一人で修行してたらナイフしか作れないなんて事にはならなかったと思うよ。そのままだとさすがに”クラフター”だと鍛冶師には負けるんだろうけどね。あと東外街の鍛冶の力は今使っちゃったからしばらく周りでは”ガンダム”出来ないんだけどね・・・。ナイショだよ。」
シルヴィの瞳の中にはいろいろな感情が渦巻いている。ちゃんと鍛冶が出来た喜び、自分が遠回りをしていた後悔、それでも鍛冶師に勝てない恩恵・・・。
「でもね、さっきの集めた鍛冶の神の力はほとんどこぼれちゃってた。各人の恩恵によって使える神の力は決まってるからたくさんあるだけじゃダメなんだけど・・・・そこで今回の神託なんだよ。恩恵のLVが上がれば使える神の力が増える。取り合いに勝てるようになる訳じゃないけどソフィアがいれば関係ない。全ての生産が出来る”クラフター”なら伝説の魔剣だろうが、蘇生の秘薬だろうが、LVを上げて材料をそろえるだけで作れるようになる。設備もいらない。」
涙で濡れた瞳に強い意思が灯る。
「”クラフター”は外れなんかじゃない。このPTでしか輝けないけれど、このPTにはどうしてもシルヴィが必要なんだ。」
「しかたがないですねー。おねえさんですからね!。なんでも作っちゃいますよーー。」
やる気に満ちあふれて笑顔になったシルヴィ。3人はウンウンうなずいている。
そして今のうちにと次の素材を出す。
いくつか魔石とスパイダーシルクの生地、チェーンストリングという鋼糸にシェルボタンという貝の魔物の殻から作られたボタン。次々に机の上に載せていく。
「ここに素材があるじゃろ?」
「「「じゃろ?」」」
「ソフィ。こんどは王都中外街も含めて裁縫、錬金、魔道具作成、あと時間魔法と空間魔法、クラフターも全部、神の力集めて。」
こくりとうなずいて集中をはじめる。範囲も広いしちょっと時間がかかる。
「シルヴィ。裁縫が”シーラカンス”錬金が”ムールタン”魔道具作成が”ブリッツギャルン”止めないで連続でお願い。こんな作り方出来るのはクラフターだけだけど、多分魔法のカバンが出来るハズだ。」
「・・・・えーーーむりですよぅーー」
「クラフターを信じろ!さあ!」
ソフィアの前にさっきとはくらべものにならない力が渦巻く。
「魔法剣”クラフトワークス”」
一瞬でシルヴィの体に突き刺さる。
「もうーーー”シーラカンス!””ムールタン!””ブリッツぎゃるんんん-!”」
材料が虹色に光輝きカバンを形作り魔石が取り込まれ、なんかうねうねしている。あ、ちょっと邪神の力も入ってる。まぁ別にいいけど。
そしてカバンというには小さ目なボタン付きのポシェットのような袋が出来た。デザインとか気にしてはいけない。
袋を開けておもむろに机に置いてあったむき出しのショートソードを剣先から突っ込むと。まるで手品のように柄まで全て袋に収まってしまった。魔法のカバンの完成だ。
加減が分からなかったから思いっきり力を集めすぎたけど、ほとんど霧散していたので容量自体は小さい。だが、恩恵LVを上げて使える神の力が増え、ダンジョンで素材をそろえれば大きい魔法のカバンも作れるだろう。まぁ急にスキルが使えなくなるから生産は夜にしたほうがいいと思うけどね。
「ダンジョンの23階層の森にいろいろな蜘蛛の魔物がいてさっきのスパイダーシルクとかいろいろ布や糸をドロップするらしい。デザインを描けば下着だろうがゴスロリドレスだろうが可愛い防具だろうが作ってもらえるよ。」
ソフィアとダークが目を見開いてぎらぎらとシルヴィを見つめている。
「えーーーなんなんですかーーこれーーーー」
シルヴィは大混乱の最中だ。多少無理矢理だが勢いで乗り切って正解だった。
「シルヴィお姉さま。あなたの名前は今からシルヴィアーナ=シン=クラフトマイスターです。」
「えええええええええええ」
こうして、合法ロリドワーフお姉さん幼女クラフトマイスター”シルヴィアーナ”が爆誕したのである。
慣れない高テンションでやりきってぐったりしたので3人で戯れる女性陣を後に寝る事にした。たのしかったー。




