ダンジョンの問題
「やぁ、アルク。久しぶり。」
声をかけてきたのはキラキラ笑顔のヴィルヘルム君だった。
「コンニチハ」
とりあえず感情を殺して返事だけはする。余計な事は言えない。なにせ彼の後ろに見た事ないけど明らかに身分の高そうな女の子が2人いる。
「結構探していたんだけど、やっと会えたね。紹介するよ。ハイ学校でPTを組んでくれてるサクラさんとアリサさん。他にも何人か紹介したい人はいるんだけどね、今日は休息日なんだ。」
後ろを見ているオレに気が付いて紹介してくれるが、さっくり名前だけだ。わざとなのだろうか。腰までの金髪のストレートに意思の強そうな青い瞳、聖職者の衣装を改造してあるドレス風。とんでもない美人なのはもちろんだが、聖女の神の力が群がっている。あんなにがんばって(寝て)接触を回避したのに紹介されてしまった第三王女サクラ=クリスタル=ムーンレインさんに間違いはない。
「サクラよ。」
不審者を見るような目で見ながら名前だけ名乗る。どうやら王女とか聖女はひけらかさないタイプなようだ。
「アリサ=フォーリンスです。よろしく。」
当たり障りのない笑顔で紹介されたアリサさんは赤い髪のショートカットで黒い瞳にワンピース風の軽鎧で実に冒険者っぽい。でも勇者だ。勇者の神の力がきらめいている。最近増えたなんちゃって勇者じゃない。10才で恩恵を授かった本物の勇者だ。なんかこの3人眩しい。
2人とも素性を言わないのでヴィルヘルム君の知り合いと言えど警戒しているのだろう。
それにしても勇者女の子だったのか・・・。どうやらギャルゲーが始まっていたらしい。砂はきそう。
表情には出さないようにしているがとっとと去ってほしいものだ。
「オレを探してたって?なんで?」
「いや、同郷の友達が王都に来てるなら会えるかなと。3人で来たんだろ?」
それはまぁ王都に行くのは言ってあったし友達と言ってくれるのは嬉しいけれど絶対その件じゃねぇ。
「それに・・・ルルグ君の事は聞いてるかい?」
とりあえず何も言わずイヤそうな顔をしておいた。後ろの王女が物凄く睨んでくる。
「実は因縁もあって、正式に僕のPTが討伐の指令を受けたんだ。なんか言われてるより大分強いみたいでね。元前線一帯は壊滅状態で男は皆殺し、女の人は年齢問わず死ぬまで慰みものらしいんだ。ルルグ君性格はともかく強かったからね・・・。あんまり攻めてくるような動きはないみたいだけど早く討伐してあげないと。ルルグ君のためにも。」
ヴィルヘルム君は相変わらずいいやつである。
「それで、討伐の際には是非キミ達にも手伝って欲しくて・・・。ダメかなぁ」
ヴィルヘルム君は相変わらずイヤなヤツである。
後ろで王女の圧が凄すぎて断れない。王女で聖女がゴブリンにやられたら国の威信に関わるのだ。相当力を入れるだろうに、オレらはいらないと思うんだけど・・・思うんだけど断れない。
「どうせすぐじゃないんでしょ?」
「ああ。一応まだ僕等はハイ学校の生徒だし、実力もまだまだだからね。ダンジョンで力をつけてからになるよ。万に一つも負けるワケにはいかないからね。そういう意味でも今回の神託はちょうど良かったよ。」
「?」
神託?新しい神託があったのか?
「オレ達も実は王都に来たばかりで、ダンジョンに入ったんだけど2階層で逃げ帰ってきたんだよ。力になれないとは思うんだけど。まぁがんばってね。」
とりあえず濁しておいたが、王女が物凄い目で見下してきていた。顔面は笑っているのに目だけで伝えてくる。さすが王女。そういうスキルでもあるのか?。
ヴィルヘルム君は微笑みながら少し考えていたが、思いついたように言った。
「そういえば、僕もなんかヘンな勇者にされそうになって断ったんだけど、そっちは大丈夫だった?」
きっとおならの勇者にされそうになって断ったんだろう。
「ソフィアとダークが勧誘されたけど、あんな怪しいもんに頷かないわ。オレにはナニもきてないよ?」
「そうだろうねぇ。じゃあまた。キミ達ならすぐに中央ギルドで会えるだろうけど、他のみんなの紹介はその時にね。」
ヴィルヘルム君は爽やかに去っていった。王女は胡乱な様子で、勇者はなにかつかめないような首をかしげながらヴィルヘルム君を追っていった。
ハイ学校の生徒は最初から中央ギルド所属だ。まさかオレ達がFランクから上げない作戦を取ると思うまい。王女にも見下されたし、まぁ大丈夫だろう。でもなるべく会いたくないから調べものがんばらないと。
3日ほどかけて情報収集を進めて、夜、とりあえずの情報交換と問題の共有をする。
「で、各ダンジョンの概要はこんな感じ。あとは4つのダンジョン共通事項だね。やっぱり1日だと2階層か3階層目で野営になるみたい。5階層に中ボス部屋があって必ずしも倒さなくても道があれば先に進めるみたい。各10階層はボス部屋だけの階層でボスを倒すとそこまでの階層と次の階層に入り口の水晶から行くことが出来るようになる。つまり一度10階層をクリアすると次に入る時に1から11階まで選んで行ける。帰りは5階の中ボス部屋と10階のボス部屋に帰還水晶があるけど、それ以外に銀貨3枚で帰還の札が買える。」
銀貨3枚は安くないけど高すぎる事もない。
「つまり、1週間くらいづつかけて10層づつ攻略して38階層で稼ぐには40階層のボスを倒してから38階層に飛んで帰りは帰還の札で脱出する。簡単にいうとこうなるワケだけど。」
まさに言うは易しである。
「ギルドで帰還の札が売っているのは確認した。試練の塔でしか使えないらしいぞ。あと戦闘中も使えない。なんか魔道具職人?か錬金術師?が作れるらしい。」
ダークがギルドの情報を上げる。
「ダンジョンの地図は1~9階層は1階層銅貨10枚11階層からは銀貨1枚、20階層からは銀貨10枚30階層からは金貨一枚。10倍づつになっているけど一応その階層で稼げる冒険者には買える値段になっているみたい。ダンジョンの迷宮は形が変わった事はないから地図は有効だけど、実はフロアに入った時に5か所ある入り口のどれかにランダムに飛ばされるらしい。飛ばされた入り口がどこか確認してからじゃないと地図が無意味っぽい。」
「一度入ったダンジョンの敵の感じでは魔石がないのはやりにくかったですわ。ダメージを与えるのに使う神の力が少し余分にかかって、低階層ではともかく上の階層に行ったとき辺りの神の力を使い尽くすと危険かもしれません。あと、この東の外街3番街にあるクレープ屋は午後3時から売り切れまでの限定営業でイチゴクリームチョコスペシャルは是非一度みんなで食べましょう。」
3人は無言でうなずいた。
つまり、問題は山積みだ。まず荷物。魔法のカバンを買うのに金が必要だから38階に行きたいけど、行くのに時間がかかって水はともかく食料とテントなどの野営道具の運搬が不可欠。ドロップアイテムも拾わないとならない。オレはあんまり役にたちそうにないから荷物持ちをやろうとは思ってたけどちょっと多すぎる。普通のPTは6人編成とかプラスでポーターとか雇うらしい。魔法のカバンを買うお金を稼ぐ為に魔法のカバンが欲しい。どうしよう。
地図も必要だけど先立つものがない。地道に稼げよと思うかもしれないが、敵魔物自体は弱いし低階層じゃ禄な稼ぎにならないのだ。
ソフィアの攻撃力は一応思いついてはいるけれどやっぱりお金がかかる。
うーーーん。
「とりあえず明日もう一日図書館でなんか考えてみる。ダークは引き続き冒険者ギルドに。あ、なんか新しい神託があったらしいけど、そろそろ冒険者ギルドには情報回るはずだから調べといて。ソフィアは美味しいゴハンの開拓と、明日並んでクレープを3人分頼む。」
「あっ!忘れてました。神託は今日張り出されてましたよ。ウチには関係なさそうですが・・・なにか恩恵にレベル?が付くらしいですよ?試練の塔でたくさん魔物を倒すとそのレベル?が上がって恩恵の威力が上がったり新しいスキルを覚えるらしいです。ソフィアがいればレベルがいくつでも変わらないかと。」
それでヴィルヘルム君が張り切っていたのかー。多分レベルが上がると使用できる神の力が多くなるんだろう。強くはなるけどソフィアには関係ないな。恩恵もらってないオレにも関係ないな。
「なるほどー」
「冒険者ギルドに無料で使える鑑定水晶が置かれて恩恵のLVが見れるそうです。」
そんなの使ったらオレにこの世界の恩恵がないのがバレちゃうじゃん。
「やっぱりなるべく近づかないようにしようネ。そんな感じで問題をどうするか適当に考えながらうろうろしてきてー。今日のところはおやすみだよー。」




