バランスをとるのがヘタな世界
なんとか起きていられるくらいに眠気が収まるのに1週間かかった。
もちろん起きていられるだけで眠いのは眠いのでそのまま3日だらだら寝ていたらソフィアに叩き起こされた。
「おにいさま、王都へ向かいますわよ。」
元々そういう予定だったので乗り合い馬車を利用して王都へと旅立つ。
父は元気でいて、たまに顔を見せればいいよとだけ言って送り出してくれた。
くれたのは言葉だけでお金などはないが、ここまで育ててくれたのだから十分だ。
後ろのほうで母もうんうん頷いている。次に帰ったら弟か妹がいるかもしれない。
お金はブー男爵家からちょっとだけ入ったので馬車の運賃とか当面の生活費くらいはなんとかなるだろう。
魔王軍四天王を倒したのだから本当は結構な大金が褒章として出たらしい。でも目立ちたくなかったのでヴィルヘルム君に手柄を押し付けた上にそれをナーラさんの人脈でなんとかしてもらった。おならの力でも人脈の力でもなくフツーに情報工作費用として褒章はほとんど使われたのだ。ちょっと残った分とヴィルヘルム君が死なずに済んだのでナーラさんから個人的に報酬をもらったのだ。
ヴィルヘルム君はもうとっくに王都へ向けて出発している。まぁ王都までは2週間くらいかかるからまだ到着はしてないだろうけど。王都のハイ学校ではギャルゲーが始まるのだろうか、乙女ゲーが始まるのだろうか。どっちにしろ近づきたくないものだ。
王都直通の乗り合い馬車なんてものはなくてちょっと大きい都市で何回か乗り換える。よっぽどの事がなければ野宿はなくて途中の村で寝泊まりできる。暇だったので3人でコソコソ会議である。とても重要な案件にとりあえず決着をつけて、個人的な案件を寝ながら思索する。初めて使った技はちゃんと理屈通りに展開できた。けれどさすがにコストが重すぎる。ずっと眠かったのと引き換えの力を半分以上使ってしまった。それぐらいしないと多分死んでたくらいの敵なんだけどもうちょっと気軽に使えるようにいろいろ考えないと。一応世界への干渉の仕方みたいなのが多少分かったのでちょっとは楽になるだろうけどさらにコストを下げる策を考える。まぁ半分寝てるんだけど、コツコツ力も貯めないとだしね。
王都への馬車旅のちょうど中間あたりの乗り合い馬車で護衛の冒険者が付いてきた。魔物でも出たんだろうか。基本街道は整備されているのであんまり魔物もでないハズだけど、最近はちょっとどうなんだろうね。魔王とかそこらへんをうろついてそうで怖いわ。
ただ、護衛の冒険者は2人組の男女だけなのでそんなに強い魔物でもないかもしれない。一応の保険みたいな?。
異変があったのはお昼すぎ。街道をふさぐように丸太が置かれていた。街道の外は草丈が高くて避けて通るのは大変そうだ。馬車がゆっくりと速度を落として止まったあたりで周りの草地から馬車を取り囲むように20人ほどの人が現れる。
全員がぼさぼさの頭に無精ひげ、筋肉に盛り上がった素肌に猪や熊の毛皮のベストのようなものを羽織り、そして斧を持っている。
「おれたちゃ”山賊団”!女と食い物を出せ!男は皆殺しだぁ!」
馬車の中の空気が重い。ソフィアの無表情がえーって訴えている。
「こんな小物相手なのは癪ではありますが・・・仕方ありませんね。」
よっこらせと動きだそうとした所で外から別の声が聞こえてきた。
「この”疾風の勇者”ハヤテの前に出てくるとは命知らずな!ホーリーソードの錆びとなれ!」
疾風の勇者ってなんだ。聞いたことないぞ。
「ファイアボール!」「ジャスティススラッシュ!!!」
戦闘が始まってしまった。女の子は魔術師だったみたいだ。
「「「うおおおおお!我らに宿りし”山賊”の力よ!我が肉体に力を!我が斧に力を!!」」」
「パワーアックス!!」
山賊の力ってなんだよ。10才の恩恵で子供が山賊の恩恵だったら親が泣くぞ。
山賊の筋肉がてかり輝いて刃こぼれした斧が黒くゆらめく。
あーーーーなるほど。なるほど。邪神の方の恩恵かー。なんで人間についてんだよ。
勇者は頑張ってるけど多勢に無勢、なんとか凌いでいる感じで敵が減らない。
「我に宿りし”山賊頭”の力よ!我の肉体に力を!」
「きゃーーー!」
外見からじゃ分からないけどどうやら山賊頭が魔法を無理矢理つっきって女の子を人質にとったようだ。
「ハヤテー!」
「マリーーーン!」
「小娘の命が惜しければ大人しく殺されろ!コイツの命だけは助けてやるぞお」
「くっ卑怯な!」
山賊頭がナイフではなく手斧を首に当てて脅している。器用な山賊だ。
バン!
馬車の上で破裂音が鳴って山賊もみんな見上げている。
あんまりな展開でぼーっとしてたら出遅れた。まぁいいけど。
馬車の上でゴスロリ風ワンピース皮補強を着たソフィアが扇を広げて威風堂々とかっこいいポーズをとっている。
隣でうずくまったダークが片手で顔半分を覆いながらかっこいいポーズをとっている。
この馬車は側面にハシゴが付いていて馬車の上に荷物を載せられるようになっているのだ。
「我ら闇の住人の門出となれる事を光栄に思いなさい。」
パーティー名は馬車の中で厳正な議論によってこのあいだ決まった。
「帳。」
ダークが黒い球を上空に投げると球から夕闇があふれ出す。
昼間の明るさに慣れた目が急な夕闇に焦点を失う。真っ暗でなにも見えない訳じゃない。でも夕方の朧気な暗く眩しい光が視界を惑わす。もうダークの姿は見えない。
いかに気配を消して姿を隠してもさすがに真昼間ではすぐ見つかってしまう。ダークが持っている色々な道具類はソフィアが魔法剣の力を無理矢理押し込んで作った使い捨ての必殺技だ。直接攻撃力よりも光や闇や音などの現象が本命で黄昏時を作り出す帳の中では一瞬でも意識を離せばダークを見つけ出せる者はいない。いないといいなというコンセプトだ。
「バックスタブ」
山賊頭は声も出せず後ろから喉を短剣で一突きされて絶命した。
「輪舞」
ソフィアが呟くと彼女の周りに一周ぐるりと魔法剣が並ぶ。そして1本づつ山賊に向かって全周打ち出される。魔法剣は打ちだしたら補充されるのでかんばって何回か斧で叩き落した山賊もいたけど全ての山賊がハリネズミになるのに1分もかからなかった。いや、やっぱりハリネズミは比喩表現としては可愛すぎだ。
「バースト」
真っ赤な魔法剣が道をふさいでいた丸太に突き刺さり爆発四散する。ちょっと道もえぐれたけど、まぁ通れない事もないだろう。
「はやてーーーー」
「まーーりーーん」
冒険者2人は抱き合っている。勇者が死んでから助ければよかったのに。
状況クリアを確認していると屋根の上の2人になんか神の力が群がっている。
「はっ?闇の勇者?なんでもかんでも闇とかつければいいと思ってるの?バカなの?」
「ワタクシのおにいさまを狙う神々がよくもおめおめと。散れ!」
ソフィアが扇を振りかざすと周りの神の力は散っていった。
話を聞くとダークは闇の勇者に、ソフィアは剣の勇者と剣の魔王に勧誘されたらしい。なんだそれ。
ついでに疾風の勇者にも話を聞いたら最近神の声が聞こえて疾風の勇者の恩恵を得たらしい。
その後はスムーズに次の乗り換え地点の都市につくと驚くべき情報が待っていた。
無頼毎日特別増刊号が出ていたのだ。
各地に現れた〇〇の勇者、人族でありながら邪神の加護を得て魔物のように暴れまわる者、そして当然のごとく出てくる〇〇の魔王。いや、ヘタクソか!いくらなんでもバランスとるのへたすぎるだろ!
多分オレ達が魔王軍四天王と伝説の魔獣を殺しちゃったから予定が狂ったんだ。欠けた邪神側の勢力を補填するのに魔物を作る神の力が足りなくて人族を邪神の手駒にしたら人間が不利になって見込みがありそうな人間を勧誘して勇者を作ったら同じだけ魔王が必要で・・・。ホントに最後は調和するのか?死んでやる気は毛頭ないけど。いやオレはハゲないよ!大丈夫だよ!
そして無頼毎日特別増刊号の最後を飾る緊急特報。魔物との最前線で肉壁にされていた奴隷が魔王の力に目覚めて前線が崩壊したらしい。少し引いた砦まで後退して体制を立て直しているけれど近くの村はいくつも壊滅したそうだ。
”ゴブリンの魔王”ルルグ=アシュレイ。人間でありながら数千のゴブリンを従えゴブリンと共に女を襲い、セイジョセイジョとわめいているらしい。・・・。ホント心底どうでもいい。
ナーラさんが助命の時に神に与えられた役割があるはずって詭弁を言っていたけど、ホントに役割を振られるとは・・・。全国の勇者には是非ともがんばってほしいものだ。
もうすぐ王都への最後の乗り継ぎ馬車が出る。もうめんどくさいからソフィアに任せてオレは寝るのだ!




