冒険者教育1
自己紹介をかねた模擬戦から1週間がたった。
授業は基本朝出てきて、ストレッチなどの軽い運動から始まり地球の部活動のような体力や持久力向上のランニングや筋トレなどをこなし、各人が加護やスキルを練習しながらブラウマン先生が助言をする。
導く者の加護の力なので、直接的な助言はあまりないのだけれど、”こうしたほうがいい方向へ向かう”みたいな助言であとは各人が考えて鍛錬を進める。
たまに現役の冒険者が剣と魔法に分かれて指導にきてくれるが、その人たちも自分の剣技や詠唱なんかを無理強いはしない。基本を見せてくれて素振りや詠唱やまずい所があったら指摘してくれるが戦い方自体は加護と本人の資質によるので、こちらも自己研鑽がベースとなる。
基礎訓練はサボれないけど、オレは眠いだけで体力がなかったり運動が苦手だったりもしないのでフラフラしながら(半分寝ながら)メニューをこなす。魔法使い組や意外にもブラックも体力が低いらしくゼーゼーいいながらランニングをしている。ブラックはスピードはあるけれど瞬発力だけで生きてきたようだ。
ソフィアとブラックは意気投合?してよく2人でこしょこしょ内緒話をしている。
又聞きだけど、ブラックはスラムで生きてきたみたいな設定だけど、フツーの商家のお嬢さんらしい。
そもそも、この国にはスラムはない。どんなに大量の孤児がでようとも、すべて国が孤児院で育成するのだ。独り立ちしてから養育費返却や寄付なんかの義務はあるけれど、加護の打算があるとはいえ福利厚生が素晴らしい。
この1週間で各人ある程度打ち解けて休憩時間なんかには雑談している。ルルグくんだけは女性陣を狩人の眼差しで少し遠くから値踏みしている。聞こえるようにきもちわるいと言われているのだが本人には通じていない。ルルグくんに直接嫌われてるよって雑談(直球)を振ってみたら「オラ、鈍感系主人公だがら・・・オメーにもいずれ分かるようになるだ」と返ってきた。
今も分からないし、今後も分かる事はないのだろう。
めんどくさい基礎錬の後の個人練習は加護を鍛える事なので、はばかる事無く寝ていた。それがオレの加護だから!ブラウマン先生は導く者が働かないのでナニも言わないし、練習時間が終わったらソフィアに起こしてもらうのだ。
その後、1時間ほどは座学だ。冒険の各種道具や敵魔物の特徴弱点など、まぁ近くにいる程度の魔物だけで実際の冒険者はクエストに出る前にしっかりと下準備で資料の確認をするのが当たり前とかまぁ、そういう必要な知識を少しづつ教わるのだ。
それで昼過ぎには解散となる。そんなに詰め込むものでもないし、1年かけて基礎を固めるので身につかせる為に実地試験や補講なんかもある。
普段は解散後自由なのだが、今日はみんなそれぞれ寮や家や店などで昼御飯を食べたら再集合だ。
一大イベント、冒険者ギルドで冒険者登録!をするのだ!。
不良先輩冒険者が絡んできたり、絡まれてる新人女の子を助けたり、登録する時美人受付嬢にびっくりされたり。
あったらいいなぁ・・ないだろうなぁ・・。
お昼を食べた後、寝転んでいると台所から”ダムン!”の声が聞こえてきた。
おやつにソフィアの得意スイーツ、ヴェチレッチョが振舞われるのだろう。
オレとブラックだけに。考えないようにして出来るだけ寝る事にした。
集合時間に間に合うよう叩き起こされ、引きずられ、なんとか学校の校庭に集まる。
ブラウマン先生が全員揃った事を確認して出発だ。
街中といっても郊外のほうを歩いて東門の辺りにある冒険者ギルドの建物にぞろぞろと入っていく。
他の門の近くにも魔物や動物など獲物の解体所と簡単な依頼確認ができる支店もあるらしい。
冒険者ギルドの中は閑散としていて、絡んでくる先輩冒険者はいなかった。昼過ぎだからね。依頼で出かけても今日が休息日でもこの時間にはギルドにはいないだろう。
一応ファンダジーっぽく建物の奥1/3ほどのスペースが酒場のようになっていてバーカウンターの向こうにはナイスミドルがピシっと立っている。意味もないだろうがワイングラスとか拭いている。
冒険者ギルドは毎年の行事のような物で、連絡もいっているので受付カウンターに座ったおねーさんがにこやかに手を振っている。
「新規登録の方はこちらへお願いします」
やはり、水晶球とかに手を当てるのだろうかとワクワクしているとブラウマン先生に書類束が渡され全員に配っていく。
冒険者登録は記入だけだった。
名前とスキルとポジションや出来る事、自己アピール等どう見ても履歴書っぽい。
提出しても得に内容の確認もしない。名前の書かれたタグを渡されタグにはⒻの文字が入っている
受付のおねーさんが軽く説明をしてくれるようだ。
「書いてもらった書類はこちらでパーティーの斡旋なんかの時に使用します。」
1年後は卒業するし、ずっと全員この街にいるわけでもない。ちゃんとしたパーティーに必要な役割として入れてもらうのが通常だが、ギルドのほうでもその人に合ったパーティーを探してくれるらしい。
「ⒻはFランクの認証でFからAランクがあります。Aランクの実力から飛びぬけたり、なにか凄い実績を積むとSランクになれますが、王都ギルドマスターと王城の管理官などの推薦が必要でSランクになる時は王様から叙勲されます。別に貴族になれるとかいう事はありませんが、名誉な為滅多な事ではなれません。今現在王国にいるSランク冒険者は0人です。過去に何人かいたという程度ですので毎年何人か”Sランクになる”という新人がいるので、現実を知って諦めるようにお願いします。」
ルルグ君がオレは違うけどねという顔でウンウンうなずいている。あと受付のおねーさんの胸の辺りを凝視している。周りのみんなはスルーだ。
「依頼途中で遺体など見つけましたらタグを見つけて回収や埋葬をしていただけると助かります。無理のない範囲でお願いしますね。」
近くにその冒険者を殺したナニかがいるだろうし悠長に死体あさりも出来ないだろう。でも死体をそのままにしておくと別の魔物や動物が集まってくるし、アンデッドになる事もある。この世界のアンデッドは結構危険で意識もないし意思の疎通など皆目無理だが、生前持ってたスキルを使ってくる。
スキルは魂に刻まれるので死んで魂がないから使えないはずだが体が覚えた動きなどでなんちゃってスキルを使ってくるのだ。そこらへんも大分グダグダだとは思うんだけどそういうものと思うしかない。
今のオレなら神の力を見れば仕組みがわかるかもしれないけど、アンデッドを見た事はないし出来るなら一生見たくないものだ。
「学校の生徒はここで登録して、卒業までは強制Fランクです。どんなに強い魔物を倒してもランクが上がる事はないので無理をしないように基礎を身に着けてください。冒険者として活躍してランクをあげるのは卒業してからです。」
「最後に冒険者の死は自己責任です。たとえ卑怯な手段や大量の魔物に襲われ死んでもそこで死ぬのが神に定められた役目とみなされます。この1年の期間でさえも油断していなくても死ぬかもしれません。タグだけとなって帰還しないよう、生き残ってください。以上です。」
受付嬢のおねーさんは、毎年の事なので原稿があるのだろうけど注意事項を教えてくれた。
この世界で冒険者になろうと決めたのだから大体の事は知っている、知らされているだろうけれどギルドでこうハッキリと言われると身が引き締まる思いだ。眠いから目をつぶっているけれどちゃんと聞いてたよ!。
ルルグ君は受付嬢の胸から目を離さないが視線が時々動いている。どうやらオレと同じく右おっぱいと左おっぱいの大きさが右のほうが大きいのに気が付いたらしい。オレは目をつぶっているから見ていない事になっているけど周りの女性陣はさりげなくちゃんとルルグ君の動向を見ている。受付嬢に迫ったら取り押さえる為だ。
「よし!登録がすんだらとりあえず近くの森へ行くぞ!常設の依頼でゴブリン退治と薬草採取がある!そのレクチャーだ!準備時間を5分設けるので5分後に再集合だ!解散!」
どんな準備が必要か授業でちょっとやったけど本当にちょっとさわりだけだ。自分で考えて必要なものを調達するのが今回の試験で、うまくいかなかった後に導く者で教えてくれるのだろう。
ギルドの端っこに物販コーナーみたいのがあって冒険者が使うような道具が売っている。何人かギルドの外へ出て行ったので周りの商店で安いのを探すのだろう。
オレとソフィは物販で腰のベルトに下げる事ができる袋を2つ買ってすぐ集合場所に戻る。ルルグ君とブラックは距離をとっているが得に買い物には出かけなかったようだ。
5分後集まった面々に言いたそうな顔でしぶしぶブラウマン先生が号令をかける
「今回は常設依頼なので受付への依頼受諾は必要ない!そのまま出発だ!」
ギルドを出てぞろぞろと門をくぐるオレ達を街の人たちは、”もうそんな季節か”みたいな顔で見送っていた。




