憧れの貴女
「”リリース”」
前に出てきたヤツがそう呟くと、容姿が見えるようになる。
隠蔽とか認識阻害とかかかっていたのが解除されたようだ。オレにはスキルとか効果自体は効かないのだけれど、ヤツの顔のあたりに物凄い数の神の力がぎっしり張り付いていて顔がみえなかったのだ。
その顔を見た瞬間、オレはココに来た目的を思い出した・・・。
肩にかかるさらさらな透き通るようなピンクの髪の毛にゼリーでできているようなぷるぷるの唇、肌は透き通るようなキメ細かさでシミとか一切ない。まつ毛はマッチ棒とか乗りそうなほど長くて・・・完璧な・・・完璧な・・・美少年がそこに立っていた。
「ボクはヴィルヘルム=フォン=ブー。誇り高きブー男爵家の嫡男で<おならの神>の加護を賜っている」
周りは女子も男子もその美少年ぶりに色めき立っている。目立つので認識阻害をかけていたのだろう。
服装はかぼちゃパンツというか、物語の王子様が着ているような薄手のシャツに丸いボールが2つ連なったようなズボンに白いタイツだ。
オレは人目もはばからず泣いた。おならをかがせてくれる彼女とかいなかったらしい。
「やっかいなライバルが現れたもんだべ」
ルルグ君の言葉は誰にも響かなかった。
過去の無頼毎日バックナンバーを漁り、得たおならの彼女の逸話は当時けっこうセンセーショナルな噂となった、無意味なおならが出るだけの加護で王都のハイ学校で王子や騎士団長の息子など多くの貴族が彼女にぞっこんになり、しかし、卒業時に回りに侍る中で一番地味でぱっとしないブー男爵の手をとり地方へ帰っていったらしい。
まさか子供が同じ加護を引くとは・・・
加護は血筋とかほぼ関係なくランダムだ。一応、田舎でずっと農業手伝ったりするとそれ関係に振られやすいとか傾向はあるけれど狙った加護をもらえるわけではない。らしい。
だが、目の前の美少年を見ると理由がよくわかった。
ヴィルヘルム君の周りにちょっと離れた所に見守るような覗いているようなキモイ雰囲気のおならの神の力がぎっしりとついてきている。
基本その場に漂う神の力を使うだけなのに特定の神の力がストーカーするとか、どんだけ気に入られてるんだろうね。
おならの神の加護も勇者と同じように1人しかいないらしいので(おならはお母さんと2人かもしれないが)世界に満ちる神の力が一人についてまわるのは強いのだろう。神の力がなくてもおならはフツーに出るしね。
「アルクだ」
泣きながら右手を差し出すと、ヴィルヘルム君はちょっと考えて呟く。
「ブーレジスト」
”ぷっ”
周りのおならの神の力が耐性系の神の力を引きずっていってヴィルヘルム君にまとわりつく。
神の力が見えない周りのみんなには尻から青い光が出て全身を包んでいく神々しい様子に見えたことだろう。
ジルコニア君の全耐性もちょっとひっぺがされている。おなら結構強いな。
「よろしく」
ヴィルヘルム君が準備万端にオレの手を取って寝ないのを確信して爽やかに微笑む。
さっき怒られたからね。同じヘマはしないのだ。そんな事より!
「お母さんは元気ですか?今度家に遊びに行っていい?姉とか妹いない?」
握手した手を振りながら気になる事を訪ねていく。あくまで情報収集だ。
ソフィアが淑女がしてはいけない顔で地面をけっている。
「は、母は元気だし、妹は2歳になってかわいいね。家に招くのはもっと仲良くなってからかな?」
かなり引き気味だがフレンドリーに情報をくれた。
貴族の人妻かぁ・・ムリかなぁ。
「そろそろ始めるぞ!」
ブラウマン先生に言われて握手をはなしてちょっと離れる。手もスベスベだった。男ダケド。
ヴィルヘルム君が木の細剣を構える。流派があるのか分からんけどサマになっているのでちゃんと鍛えているのだろう。オレは背中から短めの木刀を取り出して適当に構える。
「始め!」
「”ブースピード””ブーパワー”」ぷっぷー
2連続のおならが出るとヴィルヘルム君に赤と緑の光が吸い込まれる。もちろん尻から出た光だ。
物凄いスピードで目の前に現れて細剣が横に振るわれる。
落ち着いて手で持った木刀を細剣に斜めに当てて力をそらしながら身を傾ける。
上下左右から突きまで流れるように一撃にこだわることなく連撃を放ってくる。
パワーバフが効いているのか全く力が入っていない一撃でも重い。とりあえず頑張って攻撃を弾く。
オレに剣の才能も加護もないけれど、2年間ソフィの魔法剣の特訓に付き合って前後左右から襲い掛かる魔法剣を防御し続けたのだ。攻撃とか剣術とかはさっぱりだけど、とりあえずパリィとかの攻撃をずらしたり避けたりは上手くなったと思う。
そして、何度かの連撃を弾きながら躱していると、ヴィルヘルム君の動きは少し遅くなってきた。
剣がふれあう度に少しずつ眠くなるよう力を送る。
「くっ」
一旦離れたヴィルヘルム君が自分の頬を叩いている。オレの眠くなる力はそんなことでは晴れない。多分よくある短剣で自分の足を刺してとかやっても眠いはずだ。だって力を使ってるから今オレも凄く眠い。
船をこいでるし目も閉じたり開いたりかなり怪しいし真っ直ぐ立っていられないのでふらふらしている。
ジルコニア君のように一発で寝てもダメだけど、ずっと眠いのも戦闘には致命的なのだ。
ヴィルヘルム君が目をしぱしぱさせながら「長期戦は不利か。」と突っ込んでくる。
最初のスピードは出ないようでふわふわしながら突っ込んできて細剣を横に振る。
オレは後ろに避けてやり過ごすと目の前のヴィルヘルム君はそのまま体を半回転させて後ろを向く。
「”ブーサンダー”!」ぷぷぷぷぷ
尻から出た雷がオレにまとわりつき全身が動かない
「あばばばbbb」
オレは倒れ伏して、眠かったのでそのまま寝ることにした。
「そこまで!」
「まさか、屁魔法まで使わされるとはな」
「”ヒール”」
ヴィルヘルム君がのたまう隣でリリーが遠距離のヒールで癒してくれる。
zzz~
「ヴィルヘルムはバッファー、いや、オールマイティだな!自分だけでなく他の者にバフをかけながら戦闘をこなせるよう修行するといい!」
「アルクはよくわからん!導く者が働かないのでとりあえず死ぬ気でがんばれ!以上!これで各人の自己紹介を終わる!」
「タンク、アタッカー、バフデバフに、スカウト、ヒーラーまで一通り揃っている!少し人数は多いがこの9人でPTを組み、1年間の教育を受けてもらう!それぞれの課題や他の者の加護など意識して、1年後一人前の冒険者として卒業してほしい!授業や実習の一環とはいえ、安全が保障されているわけではない!卒業を迎えるまでに各人死なないように!本日は解散だ!明日からは朝の鐘から1つ時くらいまでにココに集合するように!装備は持っている者は実戦ようの武装をしてくるように!かいさん!」
「引きずる者」
寝始めたオレの足に魔法剣から伸びた光の帯が巻き付いて引きずっていく。寝始めたら自ら起きるまでは起きないのがよくわかっているソフィと共に引きずられて家に帰った。
オレの彼女はいったいドコに隠れているんだろうネ。




