プロローグ
「妹は、俺が守る」
そう呟いた瞬間、綾瀬アヤトの目の色が変わった。
剣を構え、強く地面を蹴る。
速い。前傾姿勢で風を切り、一瞬にして魔物との間合いを詰める。
そして、その勢いを剣に乗せて思い切り振りかざす。
「レン、今だ!」
「任せてよ、お兄ちゃん!」
アヤトの剣を受けひるんだ魔物に妹のレンがとどめの一撃を与える。
華奢な彼女の身体のどこにそれ程の怪力が隠れているのだろうか、レンのハンマーにより潰された魔物は中程度の魔力を放出して消滅した。
「ふぅ、やったか・・・。そうだ、アカネ、イノリちゃん、大丈夫か?」
アヤトは魔物の触手から解放された2人の妹に訊いた。
「うぅ、触手のせいで身体がぬめぬめしているのです・・・気持ち悪いのです・・・」
「なんでアンタ私たちが捕まるまであんなにへなちょこなのよ!もっと最初から本気出しなさいよ、ばか!」
杖を片手にテンサゲげなイノリに対してアカネはアヤトへの怒りが収まらない様子である。
「いや、俺だって出来ることならさっさとフルパワーで戦いたいよ。でもしょうがないじゃんか、ピンチにならないと力でないんだし」
そう言いながらアヤトは刀を鞘にしまう。
アヤトは一流の剣士の血を受け継いでいる。しかし、この「綾瀬家」には昔、「妹」を過度に大切にする風潮があった。詳細は知らないが、5代くらい前のじいちゃんが超シスコンで自らの身を犠牲にして妹のピンチを救った逸話がある。
その名残がアヤトの祖父の時代から、力の解放のトリガーとして受け継がれているのだ。
しかし、これはアヤトにとって本当に迷惑なことだった。話は単純で、彼が年上好きなことと、次の日の新聞記事から安易に想像できる。
「やっぱりか・・・」
翌日、勇者新聞はさっそくアヤトたちについて報じていた。
『3代目シスコン王子、Ⅱ型魔物討伐成功。触手プレイにご満悦』