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『国王陛下のおなーりー』


政務へと向かった俺を出迎えは野太い声とおっさん達の熱い視線だった。


国王の政務はざっと聞いた感じこうだ。

ひとつ、謁見の間で国民や大臣の声や報告を聞き、判断したり質問に答えたりすること。

ひとつ、今後の国の方針について大臣や要人と話をしたり、決議したりすること。

ひとつ、城内や城下町の視察を行うこと。

ひとつ、他国の発表や通達などを謁見の間にて直接聞くこと。

これ以外にも軍を率たり、パーティ出席したりといろいろあるが基本的には上の4つだ。

この中でも謁見の間での仕事は一種のパフォーマンスで外交官との謁見以外は王の気が向いたときにするらしい。


今日は俺の初政務ということもあっていきなり、謁見の間での仕事だ。

まぁ、外交官も即位に対するお祝いの言葉とかあるらしいし、大臣とかも話したそうにウズウズしている。少し離れたところには国民の代表もいるらしい……はぁ、めんどくさそうだ。


「お兄ちゃん、頑張ってね!」


ティナはそう言ってくれたが俺が王になったのはもともとティナのせいなのだ。なにが頑張ってねだよ。


「よっこいしょっと」


謁見の間にある豪華な椅子。それが俺のポジションだ。座り心地は悪くないけど、日本の自室にある人をダメにするソファには敵わない。

アレは文字通り人をダメにするのだ。


「これより、謁見を開始する。はじめに隣国より参られた5名の大使どのから国王へ即位祝いの言葉を」


はじまった。

まだこの国とか周辺国家のことは付け焼き刃知識程度しか知らない。

うまくやれるかなんてわからないけどやるしかないだろう。


そんな気持ちで始まった政務だったが最初は拍子抜けするほどに楽だった。


隣国の大使からはだいたい似たような言葉だけでいかにこの国が見下されているのか痛感した。

周辺4国の大使がいたが西のリオミヤ王国以外は大使が1名。一言二言祝いの言葉を述べてさっさと退場した。

例外であるリオミヤ王国も大使が2名で内容も他の国と比べて長かったがあまり中身のないものだった。


気になる点があるとすればそのリオミヤ王国の大使のうち1名は昨日の戴冠式で顔を見た覚えがあるくらいだ。大使なのだから参加していても不思議はないが妙に印象に残った。


まぁ、それだけだ。


大使からの祝いの言葉も終わり今度は各大臣からの言葉もとい挨拶がはじまった。


こっちもまぁ、大使からの祝いの言葉と同じく中身はあまりなかった。

せいぜい大臣の顔と名前と担当がわかったくらいで国の運営に関わることは一切話はなかった。

それもそのはず、昨日体感したばかりの若王にいきなり国の財政やらなんやらをぶつけるわけにもいかぬのだろう。

その辺は後で執務室でゆっくりお勉強する予定なのだ。


そして、最後に国民の代表とかいう連中。彼らに関しては論外だった。

顔と名前はわかったがそれ以上に腐敗してそうな雰囲気を醸し出していた。

大臣たちは国の中でもそれなりの地位に就いているため例え腐敗していたとしても尻尾は簡単に出さないであろう。

しかし、彼らは腐敗臭のする尻尾丸出しで俺に対して媚を売るように自分を持ち上げた。

やれ、自分はどこぞの農民たちの代表で偉いんだぞとか、城下町で大きな商会をもっているので宝物を献上しますとか。

この国の特性なのか、彼らが腐りきっているのか判断は難しいがあまりいい気持ちではなかった。


「ふぅ、疲れた」

「お疲れ様、お兄ちゃん! 疲れたときはリラックスできるハーブティーはいかが?」

「ああ、ありがとう」


謁見の間での政務が終わり執務室へとやってきた俺は肩の荷を下ろした。

緊張していた分が拍子抜けして余計に疲れたのだ。


「ユウヤ様。この後、財政副大臣と総務大臣との会議が控えております。今のうちに少し休憩されてはいかがでしょうか」

「大丈夫、大丈夫。やることは多いし、仕事は早めに済ませておきたいタイプなんだ」

「お兄ちゃん、クッキーもあるよ。食べて食べて」

「はいはい、もぐもぐ。甘いな」

「えへへ、メアリーが焼いてくれたんだよ」

「そうか、メアリーサンキューな」

「感謝されるほどのことではございません」


っと和んでいる場合じゃない。

今度はガチの国の方針についての話し合いだ。気合いを入れねば。


「メアリー、今日の会議の議題ってなんだっけ」

「はい、国王不在時に溜まっていた各種決済についてと王国の財政についてです」


決済についてはおそらく承認するだけの形ばかりのものだろう。

主題は王国の財政のほうだ。

朝、少しだけ王国について話を聞いたがまだまだ知らないことが多すぎる。

国家運営どころかこの国の制度や国民の暮らしすらまともにしらないのだ。


ってか今更ながらメアリーって何者だ。ティナの専属メイドとか言ってるけど有能すぎて秘書代わりにしてるんだが。


本人もティナも何も言わないので秘書として使っていいのだろう。そのティナですら遊んで暮らしたいとかほざきながら俺にくっついているわけなんだが。


その辺はつっこまずにいよう。


総務大臣と財政副大臣は俺が執務室についてから数分後にやってきた。

総務大臣。名前はソ、ソリュ……なんちゃらこうちゃら。長すぎて覚えきれていない。


「ソリュダス様。ハーブティーです」

「おお、スマンのぅ」


そうだ。ソリュダス・オオスマンノだ。思い出しやすい名前で助かった。


総務大臣ソリュダスは白ひげをたっぷりと蓄えたおじいちゃんで戴冠式では司会も務めた老賢者だ。

仕事は主に王への助言や大臣の総括で事実上のナンバーツーだ。


戴冠式の前と今日の謁見で何度か話を交わしたが

とても聡明なじいさんだ。賢者とよばれるのも納得だ。

俺もこんな人になって余生を過ごしたいな。


「ときにメアリーよ」

「なんでございますかソリュダス様」

「また見ないうちに大きくなってないかの、胸が」


ワキワキといやらしい手つきをメアリーへ見せつける。


前言撤回。

こいつはただのセクハラジジイじゃねぇか。


「ふざけるのも大概にしてくださいソリュダス様。会議が終わりましたら土の下へご案内いたしますよ」

「ほほぅ、わしは土の下よりもベットの上の方が好みじゃが。どうじゃ今夜。ワシと一夜のアバンチュールをしてみては」

「ソリュダス様。ティナ様の前です。セクハラはお控えにお願いします」

「おお、そうじゃったそうじゃった。うっかり発作が出てしもうたわ」


そう言いつつハーブティーを煽るジイさん。ほんとロクでもねぇな。


「あ、あの……こちらに座ってもよ、よろしいでしょうか」


財政副大臣のニルス・バーティ。一言でいえばショタだ。

大臣勢の中でも最年少の天才。最近抜擢されたばかりなのでいろいろとぎこちないのが特徴だ。


ちなみに彼は副大臣で財政大臣は別にいるとのこと。聞く話によれば財政大臣は忙しすぎて城にくることが少ないらしい。今日も代理だそうだ。


「ほら、遠慮せんで良いニルス。お前さんも大臣なんじゃろ」

「は、はい。それでは失礼いたします」


多少、気が弱そうだ。大臣としてやってけるのかなこの子。ちょっと心配だ。


「さて、国王陛下……ユウヤ王よ今日の会議についてはどこまでわかっておるかの」


威厳。

先ほどまでの軽薄な態度とは違う。なんというか本物だ。本物の賢者。為政者。そんな雰囲気がする。


さすがこの国のトップツーだ。元学生の俺とは次元が違う。


とはいえ、俺はすでに国王だ。ビビる必要なんかない。


「ああ、決済の件はともかく本題の方はやっかいなんだろ」

「やっかいとな?」

「内容は大したことはない。けれども重要な話。だろ」

「ふ、お主についてはまだ計りかねるが及第点といったところじゃの」

「……えと、一体なんのお話を??」

「ああ、俺が王にふさわしいかどうかって話だろ」

「かっかっ……そんな大層な話じゃないわい。ただちょっと確かめたかっただけじゃい。お主が本物かどうか」

「そうか。及第点もらえたということはとりあえずは良しってことだな」

「そうじゃ。お主のことはティナ姫様よりそれなりに聞いておるからのぅ。国政から夜のお供までなんでも聞いてくれぃ」


鋭い眼光。どうやら、このじいさんは俺の事情を知ってそうだな。ティナも口が軽い。


ニルスは俺とじいさんの話についていけてないのか困惑した表情を浮かべている。

そろそろ話をはじめた方が良いだろう。


「ソリュダスにニルス。そろそろ会議を始めようか」

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