表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

4

パチパチ。

最初はまばらであった拍手は次第に大きくなりやがて謁見の間すべてを包み込んだ。


突然現れた前王の隠し子を名乗る王子の戴冠式は予想外にもつつがなく終わりを迎えた。

はじめは彼が王位に就くことにためらいを持っていた高官たちもあの演説を聞いてからは目を色を変えたかのように彼を支持しはじめた。

どうやら、彼には王の資格はないが才覚はあるようだ。

少なくともその男にはそう感じた。

身を隠すようなマントを翻して男はまだ熱狂に包まれている謁見の間を後にする。

いくら魔法で偽装しているからといって男はこの場にはいてはならない人物である。

皆が帰り始めないうちにそそくさと退散する。


「早く、あの方に伝えねば。ユウヤ王の戴冠はなった」


男は今回の戴冠式について深く事情を知っていた。それこそ、新たに即位するユウヤ王がティナ姫のワガママによって擁立されたことも知っている。

ユウヤが異世界人であることは知らなかったが、ティナの替え玉であることは知っているのだ。

そして、戴冠式に出席する高官の半分がユウヤ王の暗殺を目論んでいたことも知っていた。


もし、あの演説がなければユウヤ王は戴冠式を終える前に暗殺されていたであろう。


だからこそ男の主人は今回のユウヤ王の戴冠に対して介入することを見送った。

そう、ユウヤ王即位が成り立つことを彼の主人は想像していなかったのだ。


だから、経過観察の気分で戴冠式に紛れ込んでいたのだがあの演説のせいで状況が変わった。


ユウヤ王暗殺はない。

少なくとも真面目な高官たちから刺客が送られることは当分ないだろう。

暗殺に好意見を述べていた者もあの演説によって今後は様子見となったところだろう。


ユウヤ王の評価は彼の中でも大きく上昇していた。

もちろん、あの演説によって。

もしも、彼の主人が熱心な信者でなければユウヤ王に賛同しただろう。

そう思えるほどだ。


「そんなに急いでどこへ向かってるんですか」


そんな声を投げかけられたのは脱出ポイントへ辿りつく一歩手前のところだった。


「真っ赤な髪に紅の瞳……ナタリー・ウォルマーか」

「あれ? 私のことを知ってるみたいですね。みるからに不審者なあなたが」

「ふっスラム街の者でもお前のことを知らぬ奴はいないだろう魔眼の騎士。今日は非番と聞いていたんだがな」

「新しい王様を見に来たんですがまさか、私でないと気づかない不審者が侵入してたなんて」

「さすがは魔眼の騎士。我らの偽装魔法を容易く見破るとは」

「ええ、むしろその魔法のおかげであなたが不審者だと気づいたんですが」

「なるほど、今日は本当についていない日だな……しかし、残念ながらお前の相手をしているヒマはない。逃げさせてもらう」

「逃すとお思いですか。私はこれでも近衛騎士団ですよ」

「ふははっ戦うならまだしも逃げに徹すれば俺の風魔法には叶うまい」

「風魔法……まさか、あなたは!」


一瞬、光ったかと思えば男の周囲に台風のような旋風が捲き上った。


「じゃあな、ナタリー・ウォルマー。貴様が近衛騎士であるかぎりまた会い見えよう」


風に乗って男は退避する。

事前に決めていた脱出ポイントはすぐ目の前だ。男はそこまで走り抜けると紫色の光とともに空高く飛び上がった。


「大規模な飛行魔法に魔石……用意周到ね」


逃げ去る男にナタリーはなすすべなく立ち尽くす。


「団長に報告しておかないと……ってここはどこだったかしら」


こうして、ナタリーは迷子になった。

ムムムと唸りながらどうやって元の場所へ戻ろうか思案にくれる。

バカなのかアホなのか、ナタリーは男のことを綺麗さっぱり忘れると迷子を脱すべく歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ