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いろいろ紆余曲折があって俺はなぜか国王となるべく戴冠式へと出ていた。


え? 抵抗したかって?

いや、無理だったよ。あのティナ……クソ姫がかけた契約魔法とやらで俺はどうやら“お兄ちゃん”にならなければならないらしい。


ティナの言うことを無条件に聞くとかそんなえげつのない契約ではないからまだマシだが、何か目に見えない強制力みたいなものが働いて俺はいま、彼女の”お兄ちゃん“になっているのだ。


そう、これはお兄ちゃん契約だ。

俺は契約があるかぎりティナの“お兄ちゃん”なのだ。


国王になることも“お兄ちゃん”である条件の一つのようで拒否できなかった。

理由は説明できないけどここ昨日の夜試してみたことのおかげで拒否できないことだけは十分に理解できた。


どうやら、逃げたり、サボったりすると身体のいうことが効かなくなり、ヘタをすれば意識も失ってしまう。


これがお兄ちゃん契約の力なのだろう。

まったく、ふざけた契約だぜ。


はてさて、俺はこの戴冠式とやらで王様に任命されるらしい。


ってかマジで王様の隠し子ってことで簡単に王になれるのかよ。

あのメイド……メアリーからの情報によればティナが王様になりたくないことは城どころか王都の浮浪者だって知っていることらしい。


そんなティナが見つけた王の隠し子だ。俺なら替え玉じゃねと疑うところだがティナの信用度はずいぶん高く、皆すんなりと俺が王の隠し子であることを受け入れた。


もちろん、すべての人がそう思っているわけではないはずだ。

玉座から見える配下たちの顔ぶれの中にはこちらを睨みつけるような目をしている奴もいた。


彼らがどういう意図を持って睨みつけているのかはわからないが俺に対してなんらかの反感は持っていそうだ。


はぁ、やっぱり王様なんてやだな……日本に帰らせてほしい。


そんな俺の気持ちなんぞつゆ知らず側に控えた偉そうなおじいちゃんが声を張り上げた。


「いまここにアストリア王国第20代国王ユウヤ様が戴冠なされた! 皆のもの、ユウヤ王のもとに我らの忠誠を示せ!」

『はっ!』


みな、一斉に跪く。まるで軍隊の行進のように淀みなく俺へと忠誠が注がれる。


「では、ユウヤ王様。ここにいる者たちへお声がけをお願いします」


え?

そんな話聞いてないんだけど。

慌ててメアリーやティナの顔を見るが知らんぷりの表情。

あいつら、謀ったな。

戴冠式では言われるままに立って座ってればいいなんて嘘っぱちじゃないか。


俺の中でティナのクソ姫度が跳ね上がる。

あのヤロー覚えてろよ。


しかし、困ったな。

何か演説みたいなものをしなければならないなんて。


どうしよう……。

配下からはなにかを期待するような視線。いや、俺隠し子って設定じゃん。隠し子が次期国王としての教育とか受けてるわけないじゃん。だから、期待されてもうまい言葉なんて言えないよ。


それに俺はこのアストリア王国についてまだ何も知らない。せいぜい王政であることくらいだ。

そんな俺にこんなことを頼むなんてやっぱりティナは最低のクソ姫だ。


「あ、えーと」


何か話さなければ。

そう思って出た言葉がそれだった。

間抜けにもほどがある。でも、なぜか俺の声はこの謁見の間によく響いた。

配下たちが静かにしているせいもあるがこれも王様の威厳ってやつか(笑)。

まぁ、とにかくなんかそれらしいことを言えばいいんだな。

それらしいこと、それらしいこと、それらしいこと……。


「俺は人間が好きだ」


あれ? 何言ってんんだ俺!?

ほら、謁見の間にいる人たちもぽかんとしてるし、いますぐこんな演説やめなければ!!


「人間が大好きだ」


「この王国にはたくさんの人が住んでいる。

明日の食事もままならないようなスラム街の人間からいま、この場で俺の言葉を聞いているような人間まで

ほんとにたくさんの人がこの王国で生きているんだ」


あれ? あれれ?

なんか知らないけどスラスラと言葉が出てくる。

まるで歴戦の政治家みたいだ。

なんかすごそうだし。このまま勢いに乗っちまえ。


「正直、俺はこの国のことなんてちっともわかんねぇ。ただ前の王様の隠し子だからって担ぎ出されたあわれな一般人だ。秀でた才能もなければ特技と呼べる力なんかもねぇ。

そう、俺はこれまで自分のしたいことばかりを優先させてきたんだ。自分のやりたいことをトコトンやりつめてきたんだ。はっきり言って俺はワガママだ。自分の望みは高いのに努力しないただの子供だ。でも、そんな俺も今日からこの国の王だ。たくさんの俺よりも価値のある人間が暮らすこの国の王だ。王には責務がある。国を、国を導き暮らす人々を幸せにする責務がある。

俺にはその責務を果たすだけの力があるかなんてわかんねぇ。だって、これまで王になるなんてちっとも思っちゃいなかったからな。俺から一つ言えることは俺はやるからには全力でやる。これまでやらなかった分、全力やる。王になるのが宿命なら最後までやり遂げる。

この国のために……ひいてはこの国に住まうひとびとのために

俺は全身全霊をもってこの国の王になる。

だから、ここにいる皆、力を貸してくれ! 俺と一緒にこの国を導いてくれ!」


……


やっちまった。

完膚なきまでにやっちまった。

最初はいろいろ考えてたけど途中からノリに任せすぎちまった。

マジで引く。ってか、人間が大好きってめっちゃ青臭いし、なんだよ俺と一緒にこの国を導いてくれって自分で言っててすごく恥ずかしい。


これも王の威厳……もとい“お兄ちゃん”効果なのか。めちゃ恥ずかしい。


ぱちぱち。


「え?」


1人で恥ずかしがっていると拍手が聞こえた。

はじめは小さな拍手だったけど、だんだんと大きくなりやがては謁見の間全体に響く大合唱となった。


おいおい、お世辞でも拍手はやめてくれ。いくら、王様だからってあんな恥ずかしい演説に拍手するなんて悶えてしまいそうだ。


「えーごほんっユウヤ王よりありがたいお言葉を頂戴したところで次に進ませていただきます」


なかなか拍手が終わらなかったので偉そうなおじいちゃんがわざとらしく次へ進めた。


その後の俺は当初の予定通り座ったり立ったりするだけで戴冠式は無事(?)に終わった。


ああ、死にたい。

そう思うほどにあの演説は恥ずかしかったぜ。

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