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遅れて申し訳ございません

そろそろクライマックスです


セシリア・ウェストは生まれながらにして忌み子と呼ばれ恐れられていた。


雪のように白い髪に空のように深い青の瞳。


それは金色の髪と金色の瞳を持つ両親や祖父母にはない色であった。


当時、当主であったセシリアの祖父は彼女を見て一言『先祖返り』という言葉を残した。


過去のウェスト家にはセシリアと同じ髪、同じ瞳

を持つものがいたのだ。しかし、記録に残っている限りその者はウェスト家の存続を左右するような災厄をもたらしたらしいのだ。


そのため、セシリアは母を除いた家の者から忌み子として扱われた。


「早くあの害虫を駆除せんか!」

「申し訳ございませんお父様。それだけは……それだけは勘弁してください!」


幼い頃のセシリアは祖父に頭を下げる母の姿ばかりを見ていた。


父はセシリアを腫れ物を扱うように接し、基本的には無干渉。話しかけられることはほとんどなく。必然とセシリアの世界は狭い牢獄のような子供部屋に無口で不愛想な世話係と冷酷な父、侮蔑の表情を浮かべる祖父、そして悲しく微笑む母だけになった。


セシリアは孤独だった。


ただでさえセシリアは孤独だった。


セシリアをさらに孤独にしたのはウェスト家に起きた悲劇が原因だった。

セシリアが5歳のときに祖母が原因不明の病で亡くなり、セシリアが7歳となった時にセシリアの弟が祖母と同じ病気で亡くなった。


忌み子という言葉が真実味を帯びてしまったのだ。


しかしながら、ウェスト家はアストリア王国古来より続く名家。身内に忌み子と呼ばれる存在がいるとは外部に知られたくなかった。


だから、セシリアは害虫と呼ばれた。


「キサマッ! 早くあの害虫をせんか!」

「申し訳ございません、お父様。それだけは……それだけは勘弁してください!」


何度も何度も祖父と母は同じような口論をしていた。そのせいで母もまた次第に孤立していった。


弟が死んでからは父も母を見捨て。

セシリアと母は別邸へ幽閉されることになった。


その頃にはもう母はボロボロだった。

冷遇され、夫からも見捨てられ心を病んでしまっていた。


母がセシリアに罵倒を浴びせるようになったのはセシリアが10歳の誕生日を迎えた後のことだった。


それまで優しかった母の影がなく。


ただただセシリアは罵倒された。


「生まれなければよかった」

「あなたがいなければよかった」

「早く死んで欲しい」


唯一信頼していた母からの言葉にセシリアもまた心を病んでいった。


自分が生きている必要なんてない。

そう思い始めたセシリアは別邸を飛び出した。


行く宛なんてない。


帰るところもない。


王都を出てすぐのところで花畑を見つけたセシリアは花の匂いにつられて転がった。



その日は快晴だった。

セシリアの瞳の色と同じで綺麗に澄みきった青色。


おだやかな気温と気持ちの良いそよ風。


セシリアはそのままそこで涯てたいと願った。

このまま花畑に埋めれて人生を終えたい。

そうすれば、セシリアのために冷遇されていた母も本邸に戻れるであろう。


そう静かに目を閉じた。


その時だった。

春に咲くタンポポのような柔らかな声をかけられたのは。


「ねぇ、何してるの?」


セシリアが欲してやまない金色の髪を持った少女がセシリアを覗きこんできた。


「もしかして、ひなたぼっこしてるの? 私もたるぅ!」

「いけません、ティナ様。こんなところで寝転んでは」

「いいじゃない。こんなに気持ちいいんだから」


金髪の少女の名はクリスティナ・ソフィーリィ・アストリア。

セシリアははじめてティナと出会った。


「ねぇねぇ、あなたはどこの子? 貴族? 平民? うふふ、私はね……」

「知ってるわ。クリスティナ様でしょ」


不遇であってもセシリアは貴族。ティナの顔は知っていた。


「あ、私のこと知ってくれてんだ! ありがとう! で、あなたは?」

「私は……」


名前を告げようとしたがすぐに口をつぐんだ。

自分は忌み子……害虫なのだ。駆除されるべき人なのだ。

だから、王国の姫と話をする資格なんてない。


「私に構わないでください姫様。私は忌み子なんです」

「いみご?」

「はい……私に関わった人はみな必ず不幸になるんです。弟もお母様も……」

「ふーん、でもあなた可愛いじゃない」

「こんな白い髪と青い瞳なんて可愛くない……姫様の金髪の方が綺麗です」

「そんなことないよ。髪は雪みたいに白くて綺麗だし、瞳の色もこの空のように青くてすごくすごく綺麗だよ」

「そんなの嘘。だって、私はこの髪と瞳で……忌み子なんだから」

「何言ってるの! あなたの髪と目はとても素敵よ。忌み子なんかじゃないよ!」

「でも……お母様が……」

「だから、あなたのお母様なんて関係ない。あなたはとても綺麗で素敵な女の子。あーゆーおーけー?」


衝撃的だった。

それまで髪や目はセシリアの負の象徴だったのに褒められた。

そして、綺麗で素敵な女の子。


生まれて初めてセシリアは目に涙を浮かべた。

セシリアの母でさえ慰めることはあっても髪と瞳を褒めることはなかった。


だから、ティナの純粋なセリフに涙した。


「あーもう、なんで泣くの!? ほら、私のハンカチ使いなさい。えーと……」

「セシリア……私はセシリア」

「セシリアだね。涙と鼻水拭いたら遊ぼう。今日から私たちは【友達】だよ」


こうしてセシリアとティナは出会い、友達となった。


セシリアにとって初めての友達。家族と使用人しかいなかった世界にティナが加わった。


その日からセシリアは別邸を抜け出してはティナと遊んだ。


セシリアが抜け出すことを予想していないウェスト家の目をかいくぐるのは容易だった。


セシリアにとってティナは初めての友達だった。


二人で花畑を走り回り。

二人でかくれんぼしたり鬼ごっこしたりした。


楽しかった。

それはセシリアにとってようやく感じることができた感情であった。


しかし、それは長く続かなかった。


ある日、セシリアの父が亡くなった。

暗殺だった。何者かがセシリアの父を殺したのだ。


その一件でただでさえ心を病んでいたセシリアの母はますます病んでいった。


また、セシリアの親類も次々と亡くなった。

事故であったり、病気であったり理由は様々だったが全て忌み子であるセシリアのせいとされた。


遠ざけたことで溜飲を下げていた祖父は再びセシリアを弾劾した。


「害虫は駆除せねばいかん!」

「さっさとその害虫めを駆除せんか!」


心を病んでしまっていた母はもうセシリアを守ることはしなかった。


セシリアは祖父によってウェスト家の本邸へ呼び出された。


セシリアを毒殺するためだ。


「お祖父様。参りました、セシリアです」

「ふんっ……ようやく来よったかこの害虫め」


祖父の顔には疲れの色が見て取れた。

次々に亡くなった親類。残っているのはセシリアとセシリアの母を含め4、5人。さらに言うなら血筋順で次の当主はセシリア。


もしも祖父自身に何かあった場合、セシリアが当主になってしまう。


もう祖父に残された選択肢は無かった。


「さぁ、セシリアよ。そのワインを飲むが良い。ワシからのささやかな贈り物じゃ」


毒入りのワイン。グラスに注がれたワインレッドの液体は害虫を駆除するための駆除薬。


セシリアにはそのグラスを意味を正しく理解していた。理解していたがため、迷わずグラスを手に取り口元へ傾けた。


「やめて!」


ひときわ大きな声に驚きセシリアはグラスを落としてしまった。


「だ、誰じゃ!」

「私よ、ウェスト伯爵」

「な、姫殿下!? なぜこのような場所に!?」


突然のことで祖父は目を白黒させる。


「ウェスト伯爵。あなたのことを調べさせていただきました。どうやらあなたはお孫さんを随分とひどい扱いをしているそうね」

「な、何を言っておっしゃいますか姫殿下。ワシはただ駆除……害虫を駆除していただけですぞ」

「どちらが本当の害虫なのかしら。実の息子を殺しておいて」

「な……なにを」

「使用人のひとりから聞きました。セシリアの父を暗殺したそうですね」

「だれじゃ! あのことを漏らしたのは!?」


祖父はあたりにいる使用人たちへ目を向けるが目を逸らされる。


「まさか……全員なのか?」


セシリアの父を暗殺したことは屋敷内では公然の秘密だった。誰が漏らしたとしてもおかしくはないし、全員という可能性もなくはない。


「お父様にはもう伝えてあるわ。観念しなさい」


ティナの言葉に祖父が項垂れる。

セシリアの父はセシリアの処遇を巡って事あるごとに祖父と対立していたらしい。

それらは決して、セシリアの見えるところでは行われなかった。


結局、意見が食い違った祖父は父へと暗殺者を放ち、殺した。


父の死が自分のせいで無いとわかったセシリアはその場で崩れ落ちた。これまで、忌み子と呼ばれてきたセシリアにとって初めて自分に責がない死だった。


「セシリアッ」


崩れ落ちたままセシリアは起きなかった。

慌てたティナが近づくと口からワインがこぼれる。


毒入りワインを少しではあるが飲んでしまったのだ。


「早く医者をっ!」

「姫様大丈夫です。このワインには毒は入っておりません」


祖父の使用人の1人が恭しく申し上げる。

どうやら、祖父は使用人へ毒を入れるよう指示をしたのだが使用人は命令を無視し入れなかったようだ。


「セシリア、もう大丈夫だよ。私たちは【友達】だもんね」

「ティナ様……」


この日からセシリアはウェスト家の次期当主候補となった。

そして、ティナに対して純粋で一歩的な信頼を寄せた。側から見れば異常なほどにセシリアはティナに固執したのだ。


これがセシリアの原点であった。


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