18
大通りの混乱を収めつつ俺は兵たちと共に城壁内部へと潜入した。
城壁内には未だに黒装束たちが制圧しているようだ。
大臣や貴族たちを人質にとっているためなかなか兵たちも踏み込めないらしい。
「若造どもめ、しくじりおってからに。ソリュダスのやつも捕まるとはな……」
国防大臣のアランは大臣たちの中で唯一、ステージ上にいなかった人物だ。
彼が陣頭指揮をしているおかげで城壁内への布陣は迅速に行われていた。
「国防大臣はそのまま指揮をしてくれ。何人か精鋭を俺に」
「こ、国王陛下!? ご無事でしたか!」
「ああ、城壁内への隠し通路がある。そこからならば城壁の上層へ向かえるはずだ」
「はっ……いますぐ精鋭を向かわせます。国王陛下はお下がりください」
「いや、俺も行く。この件は俺と黒幕が直接話をしないといけないんだ」
「しかし……」
「【命令】だ」
「はっ」
能力を使うとアランは素直に応じた。
あまり強く命令をしていないのに頷いたということは彼自身、今回の件にはあまり干渉したくないのだろう。
近衛騎士団に所属する騎士が何名か俺の側にやってきた。顔は何度か見かけた奴らで腕前はナタリーに匹敵するはずだ。
この中に黒幕側の人間がいる可能性もあるので念のため、俺への直接攻撃をできないよう厳命しておく。
こうして考えるとこの能力は意外と便利だ。だが、相手の意思を捻じ曲げることもできるため、あまり使いたくは無い。
俺は騎士たちを引き連れて隠し通路のある方へと向かった。
「……あれ」
「いかがなさいましたか?」
「いや、通路が塞がれている」
嫌な予感。
この隠し通路にはティナがいたはずだ。
それが塞がれているとなると十中八九、ティナが敵側に渡ったと考えるべきだろう。
敵は今回の件にティナを巻き込むことはないと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
ティナを王にしたいと考えているかぎりティナへ危害を加えることはないはずだ。
しかし、どうしよう。手詰まりだ。
「国王陛下。よろしいでしょうか」
悩んでいると騎士の1人が声をかけてきた。
「なんだ?」
「私は昔、ここの門番をしておりまして、隠し通路への扉がここ以外にもございます」
「ナイス! だけど、どうして知ってるんだ?」
「えーと、前王様が街娘に会いに行く時いつも使っておりまして……その……」
「なるほど……そういうことか。前王の悪癖にも感謝だな」
見張りに気づかれるほど何度も使ってたのは問題あるが前王に感謝しないとな。
当初の方向とは反対側へと向かって俺たちはようやく前へ進むことができた。
扉はずいぶんと使われていないようで開けるのには一苦労したがこの様子なら、敵も何か細工をしているとは考えづらい。
暗闇の中でろうそくを灯し、進む。
道にはホコリが積もっており、最近誰かが通った足跡はない。
前王は急死ではあったが前々から身体は弱っていたと聞く。当分、この通路は使ってなかったのだろう。
しばらく歩くと分岐路に出た。
城壁の中は大した広さではないので迷ったとしても挽回は可能。でも、出来れば急ぎたいところである。
「どっちに進めばいいかわかるか?」
「はい、えーと……左のようです」
「そうか」
「この次で右……だそうです」
「そうか」
「この後、真っ直ぐいけばステージ近くへの扉へと出れるそうです」
「……なぁ、さっきから誰に道聞いてんだ?」
「ピクトさんです」
そう言って騎士は壁際にいる不思議生命体ピクトさんを指差した。
目も鼻も口もないつるつるな顔につるつるな肌。身長は30センチほどで身体はムキムキマッチョ。彼らは一様に1つの方向を指差ししている。
なんでこんなところにピクトさんが?
ってか、ピクトさんはじめてみた気がする。
城のあちこちにいるらしいという話は聞いていたが実物をみたのはこれが初めて。
こんな姿だったんだねピクトさん。
道案内してくれてありがとう。
「前王がここをよく使っていたのでいるんだと思います」
「そうか、だったらここも危ないかもな」
「はい?」
ピクトさんがいるということはおそらく彼女もこの道の存在を知っているということだ。もしかしたら、何かあるかもしれないし、あえてこの道を残しているかもしれない。
それは神のみぞ……いや、彼女のみぞ知ることだろう。
そう思いながら進むと出口らしき扉が見えた。
出口は塞がれていない。
俺の心配は杞憂に終わったのか、はたまた誘われているのか。
考えても仕方がないので城壁へと侵入する。
「国王様。我らが前に出ます」
騎士を前方に警戒しながら廊下へと出る。だが、誰もおらず、ステージへと向かう道にも人の気配はない。
敵は城壁上層の内部にでも立てこもっているのだろう。
「奥へ行くぞ。人質はそこにいるはずだ」
ティナと一緒に向かった隠し通路への扉を素通りし、以前、黒装束たちと出会った場所までたどり着いた。
「どうやら、ここに捕まってるようだな」
廊下の先、そこはちょっとした広間になっており、人質が見えた。
ソリュダスとレイナとその他の大臣だ。
あの広間は有事の際は武器庫、兵の収容場所として使われ、出入り口は2つ。ステージ側……つまり、俺たちがいる側の入り口と階下からこの広間へ入ってくる入り口。
黒装束たちは専ら下から登ってくる入り口の方を警戒していた。
これはチャンスだ。
敵は後方から兵が入ってくることを予知していない。
俺とティナが使った隠し通路の扉を塞いでいる点から見ても安心しきっているだろう。
ここで背後から一気に急襲すれば敵は一気に瓦解するはずだ。
この気を逃す手はない。
唯一気がかりなのはティナとセシリアだ。
この場所からでは全員の姿が見えないため、あの部屋にいない可能性もある。
しかし……。
「行くぞ」
俺は腹を括る。
あの場所にいないのなら探せばいい。セシリアが主犯であることはわかっているのであとから追うこともできる。
ティナに関しては心配はしているが生命の危険はないはずだ。
彼女らがティナに危害を加えることは絶対にない。彼女らはティナを無理やり王位に就かせたり危害を加えたりはしないはずだ。
その点においては無理やり俺を王にしたティナよりも彼女らのほうが優しいと言えるのだが……。
憂いはない。
あとは突き進むだけだ。
騎士たちに任せて部屋の中に突入する。
人質たちが目を丸くさせ俺たちの急襲に驚く。ソリュダスとレイナにその他の大臣、そして、貴族。ティナとレイナはいない。それと貴族も何人かいないようだ。
突然の騎士乱入に驚いた黒装束たちはあっという間に制圧された。
精鋭なだけあって圧倒的だ。手際もいい。相手が弱すぎるという気もするがこんなものだろう。
こちらは1人も被害を出さずに黒装束たちの討伐は終わった。
これで下の部隊と合流できるだろう。
「助けに来たぞ」
ティナのことは気になるが先に人質を解放しよう。
「おおっユウヤ王様。助けていただき感謝いたします。このソリュダスめ、老い先短いですが死ぬまで奉公いたします」
「ユウヤ、ユウヤ。私、新しいことに気づいた。ロープに縛られると気持ちいいみたい」
「はいはい、2人とも感謝と性癖の暴露は後にしてくれ」
ソリュダスとレイナが擦り寄ってくるので両手で押し返す。
遊んでいるヒマはないのだ。
「ティナとセシリアは見かけてないか」
「ティナ様は……おそらく、城に連れていかれたのじゃ」
「城? あそこには警備の者もいるはずだが」
「今回の主犯はセシリア様じゃろう? 彼女ほどに城内部へ権力を持っておるものはおらん」
「そうか、警備がいてもセシリアの前じゃ役立たずってことか」
「早く、行きなされ。セシリア様はティナ様を……ぐっ」
「ソリュダス!? け、怪我をしてるじゃないか」
「はぁ……はぁ……、早く……ティナ様を……」
「ユウヤ。ここは私がみる。だから、早く城へ行って」
「……ありがとう」
「大丈夫。私はユウヤの友達だから」
俺は城へ向けて走り出した。
ソリュダスはティナについて何かを知っているようだ。
セシリアがティナに対して何かをする。
王にしたいと考えるならなんでその“何か”をするんだ?
何か、俺の知らない重要な情報がスッポリと抜け落ちているような気がする。
急がねば。
ティナに危害は及ばないと考えていたがソリュダスの様子を見るにそれは思い違いのようだ。
何人か手すきの騎士を連れて俺は城壁を出る。
黒装束たちの討伐は済んでいるようで国防大臣が空いた兵で被害の確認等をしていた。
彼の力を借りればもう少し余力がでるかもしれないが、街はまだ混乱している。マーキュリーとの戦闘で被害が結構でているのだ。
国防大臣にはそっちで働いてもらった方が良いだろう。
数名の騎士を連れて俺は急ぐ。
城の入り口へと向かう途中、あるものが目に入った。
「あれは……」
急いでいたけど、これからのことを考えると必要になるものだと思ったので騎士たちの手を借りて運ぶことにした。
そうして、俺は城へとたどりついた。
セシリアの居場所はなんとなくわかる。
たぶんあの場所だ。
謁見の間にある秘密の入り口。
王になった俺にさえも教えてもらえなかった秘密の部屋。
セシリアはそこにいる。
え? どうして俺がそんなことわかるかって?
秘密の部屋についてはこれまで何度か調査してきた。
城に伝わる七不思議の1つに誰も知らない秘密の部屋というものがある。
眉唾なウワサだとタカをくくっていたのだがどうしても気になって調査し、そして、見つけたのだ。
入り口を。
みつけたときは鍵がかかっているようで中には入れなかったけど、もしも、俺の知らない秘密があるというならその秘密の部屋が関係しているはずだ。
これでハズレなら城の内部をシラミ潰しに探すしかないがな。
謁見の間へとたどり着き。
秘密の入り口の場所へと向かう。
「ビンゴだ」
想定通り、入り口の鍵は開いていた。
騎士たちを伴って俺は秘密の部屋へ進入した。