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「【止まれ】、マーキュリー」


隠し通路から外へと出た俺はすぐさまナタリーを救出するために大通りへと向かった。


途中で何人か兵士を連れ、ようやく辿りついた時、ナタリーの首に剣が突きつけられていた。


「……ユウヤ王様ではありませんか」


冷たい目。人殺しの目だ。

俺の命令通り、マーキュリーは剣を止めている。

もっとも、本人にその自覚はないようだが。


「マーキュリー。お前には聞きたいことが山ほどあるんだ」

「聞きたいことですか?」

「ああ、今回の黒幕についてとかな」

「黒幕ですか……ユウヤ王様が気づいているとおり我々はティナ様を王にすべきという派閥ですよ」

「それについては大体わかってる。俺が知りたいのは誰がティナを王にしたいって言ってるのかだ」

「それはですから我々の派閥全員が……」

「違うだろ。お前らの派閥は根が深い。王国の中枢にまで息がかかっている。前、ラグルドの街から城へ戻る際に襲撃されたのもお前らの派閥が手引きしたんだろ」

「……」

「あの時、俺の行動は突発的で知っている奴が少なかった。だから、はじめはただの偶然だと思っていた。でも、詰めがあまかったな。あの盗賊たちの武器は王国の兵士たちに配られている物だったし、そもそも王都近くの街道であの規模の盗賊が網を張ること自体おかしい。となると俺の突発的な行動を知り、秘密裏に兵を動かせた人物になる」

「素晴らしい。頭が良い愚王だと思っていましたが想像以上です。ユウヤ王様のおっしゃるとおり、あの襲撃は主人から命を受け私が手配いたしました。魔眼の騎士が護衛だったことは想定外でした」

「じゃあ、答えあわせも済んだところで再度、聞くが……誰だ。お前の主人は。お前に正義を教えた人物は誰なんだ」

「ユウヤ王様。それはそう簡単に答えられるはずがありませんよ。主人はあくまで裏方、実行犯は私です」

「そうか、お前は俺に【力を貸して】くれないんだな」

「何をおっしゃいますか私は……」

「どうした、答えられないのか?」

「な、何で……どういうことですか」


マーキュリーが突然、喉を抑える。彼の感情はよくわかる。おそらく、自分の中から飛び出てしまう言葉を必死に抑えているのであろう。


彼にはいろいろとヒントをもらった。

裏にいる派閥の存在。そして、異能力の存在。


俺は今まで不思議だった。

なんで俺は王になれたのだろう。

なんで戴冠式のときに俺を暗殺しなかったのだろう。


答えはマーキュリーのおかげで気づくことができた。


マーキュリーと邂逅した執務室で俺ははじめて意識してこの能力を使った。


『隠れていないで出てきたらどうだ、マーキュリー』


あの一言でマーキュリーは出てきた。


マーキュリーがいることには気づいていたが、言葉ひとつで出てくる可能性はないと感じていたので能力を使ったのだ。


五分五分だった。


もしも、俺にその能力がないなら、マーキュリーが逃げたり殺しにきたりする可能性があった。


だが、成功した。

そして、マーキュリーはベラベラと情報を吐いてくれた。


俺の能力。

おそらく、言葉による意識の強制だ。


戴冠式で俺は恥ずかしいほどいろんな言葉を力強く演説していた。

その中には『俺に力を貸してくれ』という文言が含まれている。

あのときの俺は能力の存在についてまったく知らなかったため、俺が力強く言葉をつげたタイミングで勝手に発動していたのであろう。


あの言葉のおかげで演説を聞いた国の重鎮たちは協力的になった。


それで俺の暗殺はたち消しとなったのだろう。


それ以外の件もそうだ。

無意識のうちに能力を使っていたため、みんな俺の命令を強制的に受け付けていたのであろう。


この能力の利点は相手に気づかれることなく強制させることができることだ。


といっても本人が望まないことを無理やりしようとすると気づかれるようでで俺がやんわりと能力を使えばやんわりと受け入れ本人も気づかないまま協力的になってくれる。


「マーキュリー。俺は異世界からやってきた異世界人だ。お前もいってただろ。異能力って」

「まさか……これは強制的に……」

「ああ、お前は一度俺の言霊を受け入れている。力を貸してくれって言霊だな。あれ自体の効果は薄いからお前の意思を曲げるほどではない。けど、一度受け入れた命令はずっと有効みたいなんだ。だから、お前は俺に対して力を貸そうとしている。そのうえで命令を重ねがけした。だから、意思と対抗できるほどの強制力が今、働いているはずだ」

「くっ……申し訳ございません……セシリア様」

「セシリア。彼女か」


今日出会ったばかりの白髪の少女を思い出す。

たしかにウェスト家の権力であれば今回のような大事とも起こせるはず。


「マーキュリー、すまないが【捕まって】くれ」


兵士たちに指示を送り、マーキュリーを捕まえる。


「ユウヤ殿。助けていただき感謝いたします」

「気にすんな。それよりもありがとうな。お前のおかげでティナを逃がすことができた」

「いえ、それが私の務めです」


ナタリーはボロボロだ。右腕は怪我をしているのか動いていない。これ以上の戦闘は無理だろう。


「ナタリーはここで待ってろ。俺はこれから黒幕に話をつけてくる」

「待ってください! 危険です! 私も……っ」

「その怪我じゃお前のほうが危険だよ」

「しかし!」

「心配すんな。話し合いで解決するつもりだよ」

「わかりました……」


俺の言葉にうなずくナタリー。あまり能力は使いたくないので素直に応じてくれて何よりだ。


さてと。

セシリアの下へ行く前にマーキュリーとも話をしておこう。


「マーキュリー」

「なんでしょうか。もう用はないでしょう」

「ひとつだけ言っておくことがある」

「……」

「俺はだれも死なせるつもりはない」

「……」

「セシリアもそうだし、もう1人の協力者も助けるつもりだ」

「ユウヤ王様。あなたは……どこまで……」

「さあな。俺はもともとただの学生だ。ちょっと物を作るのが好きなだけの高校生だ。だから、人が死んだりするのは嫌いだし、悲しんでいるのをみるのも嫌いだ。お前の正義にとって俺は不正解かもしんねぇけど。とりあえずまぁ、見てろ。絶対、悪い気にはさせない」

「言葉ではなんとでも言えますよ。ですが、わかりました。とりあえず、幻想という夢をもう少し見てみたいと思います」


説得できたのかはわからないけど、マーキュリーもとりあえず何かするつもりはなくしたようだ。


これで後顧の憂いは絶った。


セシリアの下へと行こう。

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