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「国防大臣」


俺がそう呼びかけると筋肉隆々としたいかつい老将がひざまついた。


ここは謁見の間。


ただのパフォーマンスのためだけにあるような場所で事務作業とか地味な作業は大体執務室で行われる。


俺は威厳を見せつけるために今日はこの場所を使っている。


やっぱりまだ玉座にはなれないけど、ここから見下ろす景色にはなれてきた。


「はっ、国王陛下に仰せられたとおり王都の警備兵を増員いたしました。訓練はこれからでございますが中々、有望な若者たちが集っております」

「そうか、よし。これからも精進せよ」


俺の言葉を聞き入れると国防大臣は恭しく謁見の間から出て行く。

彼にはいろんなことを頼んであるから老体にムチを打ってでも働いてもらわねば。


ラグルドの街を視察してから早2日。俺の計画は着々と進んでいた。

産業革命を起こすための下準備や各大臣への命令。あれから俺は大忙しだったのだ。


反射炉を作るとはいったもののそうすぐすぐ作り始めるわけにもいかない。


物事には順序というものがあって、その順序どおりにやればどんなことも大体うまくいくのだ。


コレは俺のモットーだ。これまでものづくりで培ってきた俺の座右の銘でもある。


反射炉を作る……いや、産業革命を起こすためにはまずカタチから。


ということで俺はまずはじめにある役職を新設することにしたのだ。


それは……。


「次、産業大臣」


産業大臣。

文字通り産業革命を統括する大臣だ。

俺の意思を聞き入れ、産業革命をする大事な役職だ。


そのため、当然、その役職にあたる人物は信頼のおける人物が担うほかない。


「はぁい! お兄ちゃん!」


元気よく謁見の間にやってきたのは我が妹ティナである。


そう、彼女こそ俺が任命した産業大臣である。


はじめはいろいろと渋っていたものの反射炉の話やその後の展開について話をしたら面白そうだと食いついてくれた。


バカでよかった。


「石炭の件は問題ないか?」

「うん! 予備の資金で買い集めてるよ。石炭は燃料に使えるけどどの国にも需要は少ないからいっぱい集まってるよ!」

「なら、そろそろアダムにコークスの生産をはじめるよう連絡しといてくれ。これからが大忙しだ」

「はーい!」


産業大臣といっても半分お飾りだ。重要ではあるし、信頼のおける人物でないと務まらないが実際の仕事はたいした内容ではない。


まぁ、だからティナに任したというのもあるけどな。


「でも、お兄ちゃん。コークスでホントにはんしゃろってのが作れるの?」

「作るのにコークスはいらないよ。使うのにいるんだ。まぁ、その辺はアダムの方がよくわかっているはずだ」


実は工房主であるアダムにもコークスと反射炉については話をしており、彼もその重要性を理解している。


コークス。

聞きなれない言葉だと思うけど練炭みたいなものといえばまだ理解できるであろう。


石炭には燃料となる部分のほかに硫黄や鉄といった不純物が混じっている。

そのせいで石炭をそのまま使っても燃料としては使えるけど金属の精錬に使っても不純物が混ざってしまうため適さない。


俺の世界でもこの世界でも石炭はそのまま使えないからこそあまり普及していない。


せいぜい家庭の暖炉とかに使う程度だった。

その石炭の欠点をなくしたものがコークスだ。


作り方は簡単で石炭を蒸し焼きにする。

蒸し焼きにすることで不純物が抜け純粋な炭だけとなる。

それだけで高温を出せる燃料が手に入る。

精錬に使う燃料として最適なものだろう。


そして、用途は精錬だけではない。産業革命で最も印象的な発明のひとつ蒸気機関。コークスは蒸気機関の燃料としても優秀だ。


パワーは石油には劣るが生産しやすい。それにこの国でまだ石油は見つかっていない。

おいおい探すことになると思うが見つけても精油する技術が必要となるため当分はコークスを利用することになるだろう。


それでもいろいろと夢が広がる。


「わかった! じゃあ、連絡してくるね!」


ティナは元気よく飛び出していった。

連絡してくるとはいうが遣いの者を出すだけだから実質やることはほとんどない。


クソ姫には十分な仕事だろう。


とまぁ、こんな感じに産業革命へと一歩一歩進んでいっているのだが、とりあえず困った問題が一つだけある。


「予算が足りませんね」

「のわっ! メアリー! まさか、心を読んだのか!?」


俺の補佐として玉座の横に立たせていたメアリーがボソッと呟く。マジで俺の心を読んでいるとしかいいようがない。エスパーだ。


「いえ、これでも補佐役を仰せつかっておりますので私から見たただの感想でございます」

「ただの感想ね。まぁいいか。メアリーのいうとおり予算が足りない。石炭集めるだけで予備が尽きそうだよ」


実際これは由々しき事態だ。産業革命するお金がないなんて出鼻を挫かれるようなものだ。


「ユウヤ様、私から一つ提案でございますがよろしいでしょうか」

「え、なんかあるの。対策とか」

「対策……と呼べるかはわかりませんがユウヤ様がお作りになった見積もりですがハッキリいいますと杜撰だと思います」

「思った以上にストレートだなおい」

「申し訳ございません。ですが、お金の見積もりならプロに任せてしまえばもっとスマートになるのではないかと思います」

「なるほど、見積もりが甘々だから削れるところはないかプロに見てもらうってことか」

「はい、そうでございます」


たしかに俺の見積もりは素人レベルだ。

もしかしたら、いらない部分もあるかもしれないし、逆に必要なことがごそっと抜けているかもしれない。


必要となる予算が増える可能性もあるし、減る可能性もある。

もちろん、プロに頼むというからには可能な限り予算を削減する方向で話し合わなければならないが。


しかし、それをするにしても問題がある。

俺が考えているプランを話さなければならないのだ。


正直いって産業革命はこの国の生命線だと考えている。

もしも、このことが他国にバレてでもすれば一貫の終わりとなる可能性もある。いや、バレることは問題ない。一番問題なのは計画が事前に露見することだ。


俺らが作るよりも早く誰かが反射炉なりコークスなりを作ってしまえばその時点でこの国が技術力でトップになることが難しくなる。


無論、俺がいるかぎりは現代知識をフル活用するので十分に戦えると思う。怖いのは他の国で天才が俺よりも高度な物を発明してしまうことだ。


その可能性を少しでも減らすためには産業革命の計画をある程度、秘密にしておかなければならない。


つまり、プロと相談するにしても秘密を守れる立場の人間でなければならない。


「ユウヤ様、おそらくこの件に関してうってつけの人物がおります」

「うってつけの人物?」


はて?

お金のプロフェッショナルでこの国の秘密を守れそうな人物に俺は心当たりはない。

だけど、万能メイドメアリーがいうのだからたぶん信用できるだろう。


「はい、財政大臣のレイナ様でございます」

「財政大臣か」


たしかに財政大臣はお金のプロだろう。大臣という要職についているなら相談するにはもってこいな人物だ。


これまで忙しいという理由で一度も顔を合わせたことがない唯一の大臣でいつも財政の話は副大臣であるニルスとしているくらいだ。


だから相談するにはもってこいでも俺はまだ信頼できるとは思っていない。


「レイナ様はおそらく適任かと思います。能力もそうですがそれ以上に人柄として今回の件にはぴったりかと存じ上げます」


メアリーがそこまで言うのなら一度話をしてみてもいいかもしれない。

それに人柄としてもピッタリなんていうからにはたぶん、期待できる人物なのだろう。




他の大臣たちとの会談の後、財政大臣がいる屋敷へ向かうことにした。


以前から聞いていた通り財政大臣であるレイナは忙しく仕事は自宅兼職場であるバーティ邸でおこなっている。


家名から察するとおり財政大臣レイナ・バーティはニルスの実姉だ。

この国の大臣達の中でニルスの次に若くなおかつ女性というのも相まって国民からの人気は高いらしい。しかし、本人はあまり人前には出たらがらないらしく任命された時に国民の前に立ったきり一度もイベント類には参加していない。


城中では天才美少女であるということと弟のニルスのことくらいしかウワサされない。


そのため、俺も事前情報はメアリーから聞いた限りしかない。


「国王様、こちらが僕の実家であるバーティ邸になります」


城から馬車でほんの10分ほどの場所にバーティ家はあった。


今回もまたお忍びということでメンバーは案内役のニルスと護衛役のナタリー、そして興味本位のティナだ。


メアリーは例のごとく付いてくるかと思ったが今日は一部の使用人だけ参加必須の会議があるらしく秘密裏にも付いてくることはなかった。


いつも付いてきているので少し寂しいと思ったが城から出る間際、メアリーから少しだけ意味深なセリフをコソッと吐かれた。


「レイナ様をみても驚かないでください」


驚かないでくださいということは驚く要素があるということなのだろう。


ティナやナタリーに何か知っているのか聞いてみたが知らないとのこと。ナタリーはともかくティナは面識があると思っていたが、昔遠目で一度だけ見たことがあるだけらしい。


ニルスに聞いてみたが答えてくれなかった。表情を見る限り、やはりレイナには何かありそうだ。


門をくぐり屋敷の前までくるとニルスが先に出た。


「国王様。も、申し訳ございません。姉上に準備するよう行ってまいりますので……こ、ここでしばらくお待ちください」


俺は王様だし事前準備は必要なのだろう。しばらく待つとしよう。


「グカー、スピー」


ティナはいつのまにか寝ていた。昨日もこの時間は昼寝していたな。城の使用人たちもティナはよく昼寝をしているという話も聞いたし日課なんだろう。


それに今日は天気が良い。

ポカポカしてて日光浴日和。こんな日は散歩したり庭先でお茶したりしてゆっくりしたいな。


産業革命のために最近は忙しいのだ。


「ユウヤ殿。どちらへ。ニルス様はこちらでお待ちくださいとのことですが」

「少し庭を見てくるよ。ナタリーも来るか?」

「はい。と言っても私はあまり太陽が好きではないので遠くから護衛させていただきます」

「了解」


近衛騎士なのに太陽が嫌いとか意外だ。ここは王都で警備も増員している。

盗賊とかが貴族の屋敷まで侵入してくるとは思えない。


少しくらい離れても大丈夫だろう。


ポカポカな陽気を浴びるように俺は庭へと向かう。

ティナのように昼寝をしたいが我慢我慢。今日は遊びにきたわけではないのだ。


「花か……」


庭。バーティ邸ほどの豪邸ともなると庭は大きい。いわゆる庭園というやつがある。


色とりどりの花が植えられて綺麗だ。

そんな庭園の中心には花達を眺められるようにガーデンテーブルが置かれている。


貴族の女性達がサロン会を開いてお茶を楽しめるようなテーブル。漫画とかアニメとか写真で見たくらいで本物ははじめてだ。


そう思って近づいたところそのテーブルでお茶を楽しんでいる人がいた。


「え? ……あれ?」


人がいた。いや、人はいた。けれどもあれおかしいな。


俺は目の前にいる人物をじっくり見たのち自分の目が汚れていないのか確認した。


いや、だって……ねぇ。


信じられない光景。それが目の前に広がっていたのだ。


わかる。わかるんだ。こんな気持ちの良い午後にお茶を楽しみたいって気持ちはわかる。


けどね……なんで裸なの?


テーブルにいたのは俺と歳がそう変わらないであろう少女。


透けるような青い空を彷彿させる綺麗な淡い髪にスラッとした女性らしい体つき。


金色の瞳が俺を捉えると少女は小さく会釈をした。


「あ、ども」


日本人としてのクセで俺も会釈を返してしまう。


「って、なんで裸なのぉ!?」


いや、眼福。眼福だけどさ。あの少女もティナに負けず劣らず美少女。人生ではじめてみる生の裸体は刺激が強すぎるよ!


「ユウヤ殿! 悪漢ですか!」


俺の騒ぎに気づいたのか、ナタリーが駆けつける。


「違う、変質者だ! 裸族だ!」

「裸族? ……は、ユウヤ殿! みてはなりませぬ!」

「ってなんで俺を攻撃すんの! 鞘だからいいけど! 不敬罪に処すぞ!」

「も、申し訳ございません! ついうっかりと!」

「護衛がうっかりすんじゃねぇえ!」


と一悶着あったがすぐにナタリーを押さえつけることに成功した。

いや、まさか護衛から攻撃される国王なんて前代未聞だぞ。それこそクーデターでもないかぎりありえないだろ。


「はぁっはぁっ……姉上! こちらにいらしたんですか」


屋敷の方からニルスが走ってくる。

ってか姉上?

この裸美少女がレイナ・バーティ?


「ニルス。何の用? 今日の仕事はもう終わってるわよ」

「あ、姉上……また、そんな格好を……国王様の前ですよ。はしたない」

「国王様?」


レイナが椅子から立ち上がる……っていろいろと見えてるから! 見えちゃいけない乙女の大事なところとか見えちゃってるから!


「国王様、申し訳ございません!」


ゆっくりと見る間もなく俺の両目はナタリーによって塞がれた。


くそ、もう少しで桃源郷だったのに。


「そう、もう来たのね。おもてなしするわ。きなさい」


レイナは恥ずかしいという様子もなく淡々とそう告げる。


「わわっ……姉上! 早く服を着てください!」


なるほど。メアリーの言っていた意味がようやくわかった。

彼女はヘンタイなんだ。それも露出魔なんだ。


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