10
「そうか、わかった」
その者は彼からの報告を聞き終えると静かに目を閉じた。
月の光が差し込む窓辺。虫の音が外から鳴り響いている。
その部屋には安楽椅子だけが置かれている。
それ以外には何もない。家具もない。窓にはカーテンもなく、むき出しの窓ガラスにその者の顔が映っていた。
その者は少女だった。
寂しい部屋とは対照的にきらびやかな衣装。そして、雪のように真っ白な長髪に蒼い瞳。
「セシリア様。いかがなさいますか」
窓の外を見つめる少女に向けて一人の男が声を掛ける。
黒いフードで顔を隠し、いかにも自分は不審者ですとでもいわんばかりの風貌。
「そうね害虫は駆除しないといけないわ」
「害虫駆除ですか?」
「気にしないで。ただの独り言よ。マーキュリー」
窓から目を離してようやく少女はフードの男……マーキュリーへと顔を向けた。
「新王の件はあの子に一任することに決めたわ。私と志を同じくするあの子ならうまくやってくれるはずよ」
「さようですか。では、計画の実行はまだなしと」
「ええ、今すぐしても意味はないわ。でも、早いうちに手を打たないといけないわ」
「早いうちですか……具体的にはいつになりますかな?」
「そうね、1週間……リミット限界まで待ってみて成功しないようであれば強硬手段としましょう」
「わかりました。では、手配のみ進めておきます」
「そうね、お願いするわ」
「それでは、私はこれにて。最近、城のうるさい連中が嗅ぎ回っているようですので、こちらにはしばらく寄らないようにいたします」
それだけを言い残すとマーキュリーは姿を消した。
自分以外誰もいなくなった部屋でセシリアは安楽椅子から立ち上がると再び窓から外を伺う。
そこからは王都の景色が見て取れる。
奥には城がそびえている。セシリアはその大きな城の方へ視線を向けと小さく呟いた。
「私の宝に群がる害虫ははやく駆除しないと」
まるで親の仇を憎むように言葉を反芻する。
セシリアの計画は順調だ。だからこそ、油断するわけにはいかない。