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高橋さんのタクシー日誌

作者: ぎたこん

 私は高橋。

 タクシーの乗務員である。

 

 タクシーと言うのはその職業柄、体の弱った人を乗せる事も多く、病院の送り迎えをする事も頻繁にある。

 病院と言うのは生死の分かれ目が多いところでもあるから、外部の人間である私でもそう言う事に関する心霊現象を目にする事も少なくない。


 ある日の事であった。

 電車の駅までのお客様を送り届けた後、会社より無線注文の信号が入ってきた。

 会社より無線配車を受けた私は病院へ向かう事になった。

 駅待ちで並ぶタクシーたちを横目に、再び車を動かし始める。

 私は駅待ちはあまりしない。

 駅待ちだけは仕事こそ楽かもしれないが、稼ぎがすごぶる悪いからだ。

 よくテレビのインタビューなどで駅待ちのタクシー乗務員が稼げないと言っているがあれは嘘だ。

 いや、当人からしたら本当なのかもしれないが、街中を走らせてお客様を見つける目を磨けばそこそこ稼げる。

 要は、駅でずっと止まっているタクシーはサボっているだけなのだ。


 おっと、話が逸れてしまいすいません。

 お客様の名前はRさん。

 Rさんはいつも当社をご利用いただいており、私も自宅からの往路、病院からの復路で何度か乗車していただいた事がある。

 高齢で杖をついており足元がおぼつかないお客様ではあるが、話が好きで私もRさんの話には時折楽しませてもらっている。


 今回は病院からの復路。

 自宅へ戻る注文だ。

 見知った道に車を走らせ病院へ向かう。


 外は雨。

 じめじめとした空気の中、長いことお客様を待たせるわけにも行くまいと思い、安全運転を心がけながらなるべく早く病院へと到着する。

 しかし、病院のタクシー乗り場を見回してもRさんはいなかった。

 雨が降っている為、ロビーで待っているのかと思い病院の中を覗く。

 しかし、見渡せる範囲にその姿は確認できなかった。


 間違えて他のタクシーに乗ったのか?

 それとも、トイレかどこかに行っているのか?


 私はとりあえず病院の受付に聞いてみる事にした。


「R様からタクシーのご注文をいただいているのですが、今どこにいらっしゃるかわかりませんか?」


 すると受付の女性は不思議そうな顔をしていた。

 知らない事は無いと思う。

 Rさんの話によると、病院の受付の子ともよく話すから仲がいいとの事だったからだ。


「Rさんですか?」


 改めて名前を聞き返される。


「そうです、△△町のRさんです」


 すると、思わぬ答えが返ってきた。


「Rさんは先日お亡くなりになられましたが……――」


 私は驚きを隠せなかった。

 だとしたら誰が注文をしたのだろうか。

 私は受付の女性に「それは知りませんでした、ありがとうございます」と礼を言い、会社へ確認する事にした。


 車の中で会社からの返事を待つ。

 10分ほど立った頃だろうか。

 会社からの返事の電話が入ってきた。


 その返事の内容はこうだった。


 確かにいつものRさんの声と携帯電話の番号で電話がかかってきたのだが、私の連絡を聞いてから改めてRさんの携帯電話に電話をすると、家族の方が電話に出たらしい。

 家族の方の話によると、数日前に容態が悪化し、同病院に運ばれて息を引き取ったそうだ。

 携帯電話はまだ解約されていなかったが、今日解約しに行く予定だったのことである。


 Rさんの生への執着が、魂に生前の行動を呼び起こしたのであろうか。

 これが今回私が体験した不思議な現象。


 タクシーは色々と出会う事が多い。

 また、別の話は機会があればその時にでもお話します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 命が脅かされるとかやばいものが見えたとかじゃないけど「えっ」てなるような、静かな衝撃が感じられました。タクシーの運転手が主人公だからこそ感じられたものだと思います。
2019/07/16 22:28 退会済み
管理
[一言]  ぎたこんす 様。  最後に「Rさんの生への執着――」とありましたが、私はRさんなりの別れの挨拶だったのかなと思いました。  偶然出会った、ただのお客さんと運転手ではあったものの、何度も楽…
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