表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
与えられた家臣は梟雄でした  作者: 梅を愛でる人
領内平定
7/82

7

 いつの間にか現れたのか。

 村の真ん中には大の字に寝転んだ男が、沈みかけた陽に照らされていた。

 やがて、男に気づいた村人たちが集まった。

 が、見たこともないような異風な姿に、きっと、新しい領主の客人だろうと頷きあう。


 皆、心配そうに声をかけた。

 騒めく声に反応して、男は薄く目を開け、ひとつ身じろぎした。


「おお、気がついたようだぞ!」


 一層、大きくなった騒めきに、うるさそうに体を起こすと、右膝を立てて片胡座をかき、村人たちをジロリを睥睨した。


「よかったよかった」


 喜びの声が次々と上がる。

 村人たちに促されるようにして、人混みから金髪の女の子が顔を出した。

 零さないようにと、慎重に両手で持ってきたグラスを差し出す。男の鋭い眼光のせいで、おっかなびっくりといった様子だ。


「あの、お水です。ど、どうぞ」


 グラスを無造作に掴みとった男は、ゴクゴクと喉が鳴らし、ぷはっと、一息ついて口をぬぐった。


「かたじけない。美味かった」


 わしわしと、女の子を乱暴に撫でる。

 女の子はほっとしたように見上げている。

 だが、男の方は心配して群がった村人たちを見るや、舌打ちしたくなるような思いであった。


(これは、南蛮坊主どもの国ではないか。

 あの、ヴィレラやザビエルどもと同じような奴らが集まっとるわい)


 膝をひとつ叩いて立ち上がる。

 鷹揚に立つ男は、村人たちと変わらぬほど大柄であった。

 村をぐるりと眺めた大柄な男の視線は、ある、異風な屋敷に注がれて止まった。


(あれか!)


 男は村人たちを無視するように、大名屋敷らしき物へ、のしのしと進んで行く。

 その姿に、先程の女の子と幾人かの村人から、クスクスと笑い声が起きた。


「なに、あの人、変なの」


 理由は男の歩き方にあった。

 右手と右足、左手と左足を同時に出しながら歩くのである。

 この笑われてしまった歩き方だが、『なんば歩き』という戦国時代では一般的なものであった。


 目当ての大名屋敷の門前まで来ると、男はゆっくりと息を吸って、震えるような大声を張り上げた。


「御免! どなたかおられるか! 御免!」


 戦場錆びが効いた凄まじい大音が響き渡る。

 すぐに、誰か飛び出してきても良さそうなものだが、男が焦れるほど待っても、ただ静寂があるのみだった。


「ふうむ。小姓の一人もおらんとみえる」


 御免つかまつる! と、ひと声叫んで、男は門内へと入りこんだ。

 仔細げに辺り眺めるや、迷うことなく上屋敷へと歩みを進めてゆく。


 シュタッと、いくつかの襖を開いていては、覗き見るのを繰り返した。

 やがて、表座敷で小柄な男がうたた寝をしているのが見えた。

 小柄な男の姿を目にするや、男の体は痺れ、ビリビリと天啓のようなものが貫いた。


(間違いない!かの御仁がわしの仕えるお方のようじゃ)


「お側の方もおられぬよし。お(くつろ)ぎのところ勝手に参上いたした段、お許しいただきたく!」


 またも、辺りが震えるような大音で告げる。

 優雅な所作で、座敷の端へと這いつくばるように頭を下げた。

 さすがに目を覚ました様子で、上座の方では慌てて起きあがる気配がしている。


「あ、ああ、武将の方ですね?」


 寝ぼけ眼をこすり、小柄な男が答えた。

 しかし、ささやくような声は座敷の端にまで届かないのか、土下座にも見える大柄な男は身動(みじろ)ぎひとつしない。

 不気味な沈黙が続く。


「あ、あの…」


 声をかけようとした矢先である。

 大柄な男の額が、わずかに畳から上がった。


「されば直答にて御免つかまつる。

 それがし松永(まつなが)弾正少弼(だんじょうしょうひつ)と申します!

 忠を尽くし、犬馬の労も厭わぬ所存にて、これより、よろしくお願い申します」


 座椅子をガタリと揺らすほどに驚き、茫然自失といった様子で、小柄な男はわなわなと呟いた。


「んなっ!? ギ、ギリワン!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ