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二ヶ月ほど作業の無かった採掘坑の前に、討伐隊の者たちや、炭鉱夫たちが集まっている。
その前では、ゲアトらの討伐隊が大声で叫んでいた。
「ここからミノタウロスが出て来る! だが、絶対に手を出すな。これは、あのダンジョー殿の命令だ!」
集まっていた者たちは顔を見合わせ、一様に疑問符を浮かべて騒めいている。
「ミノタウロスに捕まって、人質になっているのか?」
集まる人々からあがった質問に、何人かは納得したように頷いた。
だが、ゲアトは顔を歪ませ、首を横に振った。
「いいか、信じられないだろうが、ミノタウロスをヤマナ軍の兵士にするそうだ。それとゴブリンも出て来るかも知れないが同様だ」
ゲアトの悲壮な表情から、嘘ではないと、顔を青ざめさせる者は少数であった。
多くはせせら笑い、中には腹を抱えてゲアトを指差す者までいる。
「いいか、俺はしっかり伝えたぞ。手出しして処罰されるのは、お前たちの自由だ」
いくつもの質問に答えながら、ゲアトは弾正を待つがなかなか出て来ない。
遂には日が沈み、篝火が用意されるが、怯えと好奇の目を洞穴に向け、集まる誰もが立ち去らなかった。
「で、出てくるぞ」
群衆の誰かがあげた声に応えるように、漆黒の闇を纏ったようなミノタウロスの巨体が現れた。
続々とミノタウロスが姿を見せ、更にはゴブリンまで続き出る様子に、群衆の誰もが声を無くし後ずさる。
「なんじゃ、わざわざ集まって待っとったのか」
ミノタウロスの巨体の陰から、弾正が顔を覗かせて呑気な声をあげた。
「みんなに説明したんだが、自分の目で見なきゃ誰も納得しなくてな。俺も未だに信じられないんだが」
ゲアトも顔を強張らせ、ミノタウロスを畏怖するように見上げている。
「それもそうじゃな。お前たち、この牛頭と餓鬼どもは山名軍の兵である。剣を向ける者があれば、叛徒として扱うから、そう心得よ」
驚きと恐怖で硬直し、誰も返事する者はいない。魔物の群れを前に、叫び声を上げないだけで精一杯だったのだ。
半信半疑で駆けつけたフォルクハルトも、目前の光景に足元が揺らぐようだった。
「ダ、ダンジョー殿、魔物を兵士とするなど本気なのですか?」
「本気に決まっておろう。丁度よい、此奴らに宿を用意してやってくれ」
フォルクハルトは、青ざめた顔を全力で横に振った。
「魔物を泊めるなど…、ミ、ミノタウロスが収まるようなベッドがありません」
「そうか、今日のところは村の外で野営しよう。お前は村の者たちに説明しておけ。此奴らを討とうとする者には、容赦せずともよいと話してある」
厄介払い出来たことに胸を撫で下ろしたが、相手は魔物である。フォルクハルトは村の長として聞かねばならない。
「そ、その魔物たちが村で暴れたら、どうするつもりなのです」
「無論、人を傷つければ獄に入れ、人を殺せば死罪にする」
面倒くさそうに答えると、弾正は集う人々を一人ずつ指差して、十人ほどに同行を命じた。
満天の星の下、村を出た適当な空き地で、弾正の部下たちは恐怖を押し殺し、きびきびと設営してゆく。
「何故、俺を連れて来た?」
ゲアトも弾正に指差され、悪夢の続きを見せられるように、とぼとぼと付いて来たのである。
「お前の部下たちは統制がとれておったし、下知もよかった。それに、わしを守ろうと素早く飛び出したであろう。まずまず見込みがある」
「罪に問わないそうだが、俺は領軍の十人長だった。部下たちも元領軍兵だ」
苦しげに懺悔するゲアトの様子を、可笑しそうに見つめた。
「大方そんなところだと思っておった。賊にしては身ごなしが見事だったからな。呼び洩らした部下がいれば、お前が呼んで来るがいい」
「わかった。部下だけでなく、ここで知り合った馬が合う奴らにも声をかけよう」
無言で群れ立つミノタウロスの重圧に、ゲアトは声が震える自分を腹立たしく感じた。
ミノタウロスやゴブリンたちに向き直り、弾正は鷹揚な態度で声をあげた。
「さて、穴ぐらで話した通りじゃが、人を害することは禁ずる。ただし、身を守るとあらば存分にせよ。それと、我が軍で手柄をあげれば、金でも品物でも褒美を与える」
テントの好きなとこで眠るように告げ、追い払うように手をふると、杭の上に布を貼っただけのそれに弾正も転がった。
「お、おい。コイツらと一緒に寝るなんて、あんた正気かよ」
肘枕で目を閉じていた弾正は、うるさそうに片目だけ開けてゲアトを見る。
「此奴らは身の置き場なく、穴ぐらに隠れ棲んでおったのだ。わしらを殺しても、境遇は変わらぬどころか悪化するであろう。分かったら、お前も安心して眠るがよい」
「生憎だが、俺には村に寝床がある。ついでに仲間たちに声を掛けて引き入れなきゃならない」
好きにしろ、と弾正は両目を閉じた。
ゲアトは顔を歪め、魔物と一緒に寝られるか、と内心で毒づいて村へと足を運んだ。




