表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
与えられた家臣は梟雄でした  作者: 梅を愛でる人
領内平定
15/82

15

 八人の者が村へ戻らず留まり、弾正と連れ立ち屋敷へ向かって歩きだす。

 数名は家長であったり、戦闘未経験の者だったりと条件から外れていたが、領主さまの力になりたい、と強く懇願されると豊はあっさり折れた。


 白壁に沿うように蔵が並んでる。

 そのうちの一つの蔵の前に立ち、身を反らし息を大きく吸う。

 扉に手を掛けると軋むような音を立てて開いた。

 中は長箱に収まった刀剣類がびっしりである。

 人を覆うような木製の盾、和弓、矢。

 さすがに三間槍(5・5メートル)は見当たらないが、それでも長柄の類いもしっかり揃っていた。

 三メートルほどの騎馬武者用の槍、それより少し短い足軽用の槍がいくつもある。

 弾正たちも他の蔵から、具足櫃(ぐそくびつ)を次々と出していた。装備の方は充分である。


「ロルフさん、ちょっといいかな?」


 歩き寄ってくると十文字槍が気に入ったようで、豊の前で誇らしく掲げている。

 ロルフは髪も髭も真っ白になった老人だ。話したところ、領軍で兵士だったらしい。だが、歳のせいで退役させられたと矍鑠(かくしゃく)として笑っていた。


「ラウレンツさんの装備が領軍の正式な兵装なのかな?」


 ロルフが頷くと、豊は小さく笑った。

 領軍の装備は十三世紀前後の物だ。戦国時代の具足の方があらゆる点で優れている。もっとも、豊は同時代のフルプーレトメイルにだって負けてないと思っているのだ。西洋では一般的なこの鉄の全身鎧だが、柔軟性に乏しく衝撃に弱い。日本では腐食しやすい為に金属を控え、あらゆる素材で強度を補い欠点を克服した。


「じゃあ、オイゲンさんが来たら報せに入って下さい」


 オイゲンは自警団のメンバーと一緒に偵察に出ている。

 偵察に出たオイゲンが、もしも軍勢を見つけたなら足掻いても終わりだ。大名屋敷にこんな小勢で籠城というのも夢物語だろう。

 いつもの悲観的な考えに支配されながら、衣装棚をパタパタと鎧下を漁る。早速にロルフが叫ぶ声がした。選ぶ間もないと毒づきながら、急ぎ着がえて足を運んだ。

 オイゲンが上気した顔で報告する。


「領軍の姿はありません。3の村にウキタさまが入られるまでを確認して、先ずはお伝えしようと戻って参りました」


「ありがとう。あとは他の人たちに引き継いでくれる? それから、村の人たちと避難するようにエルマーさんに伝えて下さい」


「俺も、親父も村に残りますよ」


 オイゲンが訝しそうな視線を向ける。


「もしも、ってことがあるから」


 豊の消え入りそうな声にオイゲンは不満そうだ。

 どうにも思い詰めたような顔で頷かない。


「殿!」


 豊の顔が救われたように輝く。


「話し合いに応じるよしに御座います」


「そっか」


 身が竦むような思いは変わらないが、恐怖という重石が少しだけ軽くなった。だが、直家の暗い顔に内心慌てながら尋ねる。


「3の村で会談ってことかな?」


「いえ、此処(ここ)まで出向くとのこと。奴は呼びつけるつもりのようでしたので、殿が酷く怯えているので難しいと伝えると、既に噂を耳にしていたのでしょう、嘲笑とともに承諾しました」


「そう、ありがとう。さすがに敵中で話し合いなんて怖いからね。ああ、よかった」


 片膝ついた直家が、怜悧な目で見上げる。

 その目に射られた豊はたじろぎ、悪い予感に身震いした。


「よくは御座いませぬ。殿と誼を結ぶことなど考えておらぬでしょう。ましてや、殿の下につくなど及びもつかぬこと」


 道が閉ざされたように四肢から力が抜けていく。定まらぬ視線のまま、かすれた声で呟いた。


「ど、どうして…、おれを殺しても次の領主が来るだけじゃないか」


 直家は冷たく地を見つめ、淡々とした口調で語った。


「殿は百二十年振りに現れた領主だそうです。前領主の死後、領軍がすべての政権を握り、それは今も変わらぬようです」


 豊はぺたりと力なく座り混んだ。


「先ほど話していた税も領軍に納めていたようです。領軍司令のダミアーノは、お告げに関しても忌々しそうに語っており、何ら気にしておらぬ様子」


 豊の顔を歪め、恐怖に染めようとも、分からせねばならぬ。自らを鼓舞して直家は声を励ます。


「かのダミアーノは豺狼(さいろう)の如き者。その目は(よこしま)なる欲に満ちて濁り、邪魔者を排除するのに躊躇わぬでしょう」


 虚ろな豊に活を入れるように、裂帛の気合いとともに肩を揺さぶる。


「抗わねば、虫けらの如く殺されます!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ