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また、いつの間にか寝ていたようで、豊が目覚めてみれば寝所だった。
頭に巻いた手縫いを解けば、昨夜の怪我を物語るようにしっかり赤黒い。
あちこち痛む体に、顔を歪めながら起きて回りを見れば、隣で弾正が寝ていた。
(何故、こんなに部屋がある屋敷でおっさん二人が同室…)
いい目覚めじゃないが、心配してくれたのだろうと、起きさないように部屋を出た。
うろうろしていると台所で直家と会った。
「殿、おはようございます。朝餉を作っておりますので、暫しお待ちください」
「ああ、ありがとう」
「とはいっても麦粥でございますが、ご辛抱下さい」
苦笑いする直家は、どこまでも爽やかで朝から眩しい。
そして、手渡された水を喉を鳴らして飲む。
飲料用にと、直家が朝、井戸から甕へと移していた物だ。
(こんな労働が似合わそうな人なのに、なんだか申し訳ない)
台所裏にある井戸で顔を洗う。
この電気のない生活は、現代人だと苦労しそうだと、豊は少し憂鬱になった。
起きてきた弾正と三人で食卓を囲う。
卓上には台所に収納されていた見事な漆器が並ぶ。
もっとも、盛られているのはお粥や漬け物だ。
「さて、これからどうしたらいいかな?」
縋るように豊は視線を交互に向ける。
「私が確認したところ、蔵には相当数の武具と食糧が備蓄してありました。当面は問題ないかと」
「あるじ、兵がいるわい。金を集めて百姓どもを抱えこまねば」
また、殿と呼べなどとやり合う二人を横目に考え込んだ。
領主の権限がわからないのだ。
税金の徴収や徴兵は出来るのか。常備軍はあるのか。敵の勢力も不明…、分からないこと尽くしであった。
「とりあえず、もう一度エルマーさんのとこに行って色々と教えてもらおう」
「左様ですな。ところで殿、テレビの写し方はご存知ですか?」
「て? え、宇喜多さん知ってるの?」
「知っておるだけですが。殿の世の物でございましょう」
「おう、わしも知っとるぞ。バースー、デンシャー、クウキセイジョーキー」
一瞬、衝撃を受けた豊だったが、
記憶の補填ーー。
(欠けた記憶を俺の知識で補ったからか。まあ、知ってる方がありがたい。微妙な現代知識っぽいけど)
早速に案内してもらったのは、屋敷に唯一ある二階一間の部屋だった。
他と同じように、木造で畳敷きの物だ。
部屋には金属製の大きな箱と、文机の上にモニターがある。
一見、テレビの様にも見えるが、豊が前から後ろから眺めて見てもよく分からない。
起動ボタンや電源コードもなければ、もちろんリモコンもない。
が、触っているとブンッという音ともに起動してスクリーンを映し出した。
モニターには地図らしき物が表示され、触れば反応した。地図の一番下、真ん中の辺りには自分の名前が小さく表示されている。
他は外国人らしき名前が表示されていたが、日本人らしき名前もあることに豊は目を見張った。
「他にも日本人がいるよ!」
興奮して叫ぶ。佐田光輝、秦泉寺香、と表示されている。
だが、不思議に思ってないのか二人の反応の無さに興奮を冷ましながら自分の領地を押した。
表示された人口はおよそ8200人、下の桁ほど激しく動いている。人の出入りによるものだろう。
兵力は181人、他領は押しても無反応だった。
あご髭をしごいて眺めていた弾正が、呆れたように言った。
「あるじの領地は一万石ほどじゃな。吹けば飛びそうじゃわい」
直家が苦々しげに睨んだが、豊は頷くと腕を組んで考え込み、モニターに目を注いでいる。
「この百八十一人の兵力って何だろうね。何にしてもエルマーさんのとこに行こうか」
と、出て行きかけたが、金属製の箱に視線を向けた。すると、弾正が手を振って答えた。
「開けたがなーんも無いぞ。空っぽじゃ」
豊は残念そうに暫く眺めていたが、後ろ髪引かれるように部屋を後にした。