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ぼくは雷の子  作者: ふらののこ
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雷坊やと逃避行

 生まれたばかりの赤ん坊を抱き、おばあさんは山道を下りています。死んだ娘の代わりに、この子の母親になるつもりでした。

 赤ん坊は腹を空かせてぐずぐず泣いていました。そのうちに雨もはげしく降ってきます。雷様がお嫁さんの死を知って嘆いておいでなのかもしれません。お婆さんの首筋に流れる雨を赤ん坊は勢いよく吸い始めました。

 それを見て、おばあさんは赤ん坊を連れてきたことを後悔しました。この子には父親の雷様の方が必要なのかもしれません。自分にはお乳も出ず、このままではこの子を飢え死にさせてしまうかもしれません。

 雷様にこの子を返しに戻ろうかと思った矢先、目の前に大きな熊が現われました。そして、おばあさんを襲ってきたのです。

 一瞬で、熊は赤ん坊を奪って逃げました。

 おばあさんは慌てて追いかけました。自分のせいでこの子にもしものことが起きたら、娘に何と詫びればいいでしょう。

 熊の姿はどこにも見あたりません。おばあさんはその場にへたり込みました。

 すると赤ん坊の声が近くで聞えました。よく見ると、藪の中に熊が座っています。その熊の乳に赤ん坊が吸いついているじゃないですか。熊の乳をうまそうに飲んでいるのです。

 どうやら熊は自分の子を最近亡くしたばかりのようでした。腹を減らして泣く赤ん坊の声を聞き、熊は母性を動かされたようです。

 熊は赤ん坊を返してくれませんでしたが、おばあさんがついてくるのを怒りませんでした。熊とおばあさんは木の実を食べながら、山を何日も歩きました。赤ん坊は熊の乳を飲みながら、日に日に大きくなっていきます。

 どれだけ月日が過ぎたのでしょう。虫の鳴き声がしなくなり、冷たい風が吹くようになりました。雪もちらちら降ってきます。

 ある日大きなイノシシと遭遇し、驚いたイノシシが襲ってきました。熊は赤ん坊を木蔭に隠し、イノシシに立ち向かっていきます。おばあさんは急いで赤ん坊を拾って背中にくくりつけ、太い木の上に登りました。

 近くに湖があるのが見えます。傍に小屋がありました。人間が住んでいるのでしょうか。

下では、激しい戦いが繰り広げられていました。最後にイノシシが鋭い牙で熊を突き刺すと、熊は動かなくなりました。イノシシも重傷を負いながらよろよろ去っていきました。

 おばあさんが下りて見ると、熊はまだ息をしていました。熊はおばあさんをじっと見つめます。おばあさんはうなづいて、荷物の中から鎌を取り出し熊の心臓に突き刺しました。

 熊に手を合わせた後、おばあさんは熊の皮をはぎ、糸で縫い合わせて赤ん坊に着せます。残った毛皮で自分のものも作りました。熊の毛皮は二人を暖かく包みこみます。

 おばあさんは赤ん坊を抱いて、湖の辺に立つ小屋を目指しました。山を抜け、湖に出ます。途中で、怪我をして動けない白鳥を見つけました。

 このままでは死んでしまうでしょう。白鳥がおばあさんを見つめます。娘に見られているような気がしました。早く小屋に行きたいのですが、仕方なく山に戻り薬草を探しました。目当ての草を見つけると持ち帰り、石ですり潰して白鳥の羽根や体に塗りつけました。

 しかしこのまま置いて行けません。おばあさんは熊の毛皮を脱いで、その上に白鳥をのせ、棒に縛りつけてそれを持って引きずって歩きました。

 やっとのことで小屋に辿りつき、戸を叩きます。しかし誰もいないようです。おばあさんは戸を開けて、中に入りました。

 壁にぐるりと薪が高く積まれており、真ん中に囲炉裏がありました。ここで、冬が過ごせそうです。おばあさんは早速囲炉裏で、持ってきた僅かの米から重湯を炊き、赤ん坊に飲ませました。自分は何も食べず我慢します。

 すると外でバタバタと羽ばたく音と、ケエーという鳴き声が聞えました。戸の前に横たわっている白鳥も答えて鳴きます。

 おばあさんが戸を開けると、目の前に大量の魚が置かれていました。仲間の白鳥が置いてくれたようです。これで、怪我した白鳥もおばあさんも、飢えずに済みます。

 そのうちに白鳥の怪我も良くなり、飛べるようになりました。それからは、この白鳥が魚を捕っ来てくれるようになりました。赤ん坊もやわらかく煮た魚を食べてすくすく大きく育っています。

 いつのまにか寒い冬も過ぎ、春が訪れようとしています。赤ん坊は這うようになりました。白鳥も旅立ちの時が来ていました。怪我した白鳥が別れの挨拶にやってきます。

 「ああ、おらたちも行きてえな」

 おばあさんのもらしたその一言で、白鳥はおばあさんと赤ん坊を自分の背に乗せました。そして、飛び立ったのです。

 おばあさんと赤ん坊は空高く白鳥の群れの中にいます。目指すはエゾ、今の北海道です。


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