1話 菜園管理人
内容も更新もマッタリのんびり行きたいと思っています。
広大な菜園には色とりどり種類豊富な食材が育てられている。
白崎隼人14歳、男。そして日本人。現在菜園でお手伝いをしている身である。1週間ほど前からここで手伝わせてもらっているのだが、それには訳があった。
「…ん?」
ふとにんじん畑の一角で白い双葉を発見した。にんじんといったら緑の細かな葉っぱが生えているものだろう。だがその傍らに白い双葉が生えているのを見つけた。
「なんだこれ…」
双葉を掴み引っこ抜く。出てきたものは…白いウサギの耳を生やした2歳くらいの女の子だった。もちろん服など着ていないので素肌が直接泥まみれになっている。
「あーーーーーーっ」
そこに突如大きな声が響く。
「ハヤトさんまた引っこ抜いちゃったの~?」
「いや、だってなんだろうーって…」
「2度目ですよね、それ。前は黒猫の女の子でしたよね??」
「わからないなら呼んでくださいよ…」
2人の声が騒がしかったのかウサギの子供はゆっくりと目を開き、隼人をみて「パーパ」と呼んだのだった…
見ての通りこの菜園ではまれに人が生まれる。最初に見た人を親だと思う習性があるらしく、見つけたら同種族の子供が欲しい人に声をかけ引き抜いてもらうことになっている。だが隼人はつい引き抜いてしまったというわけだ。しかも2回目。
この話から分かるようにここは日本ではない。隼人も1週間前この畑で引き抜かれた存在で、服も着ておりすでに14歳の大きさで、この引き抜かれた子供達と違うところはそこだけではなく、引き抜いた存在を親と認めることもなく、そもそも14年分の記憶も有していた。10年に1度引き抜かれる異世界人がいるそうで隼人もそれであった。
「ハヤトさんどうするんですか、14歳にして種族の違う2児の父ですよ?」
「この世界のことまだいまいち分からないんだけど、まあ育てるしかないのかなーと。」
「まあ、そうなんですけどね?ここの手伝いだけで2人も養えるかどう…」
先ほどからうるさいこの男はパトといってここの従業員だ。ちなみに隼人を引き抜いたのはここの管理人で、人間という種族が畑から引き抜かれることはないのですぐに異世界人だとわかったそうだ。
「あら、あらあらあら。ハヤトまたですか…」
「すみませんシータさん…」
このシータと呼ばれた女性がこの菜園の管理人さんだ。青くて長い髪の毛を後ろに束ね邪魔にならないようにしている。服装も派手でなく作業がしやすいように配慮された感じだ。
「あの、シータさん。ここのお手伝いで2人養っていけるでしょうか…」
別にパトに言われたから聞いたわけではない。現に2人でも少し厳しい感じだったからだ。そう、パトは無関係だ。
「ん~そうね~…」
シータは頬に手をあて考え出した。
「たしかハヤトは魔力はあるけど魔法もスキルもないのでしたよね…」
「はい…」
何の普通かは知らないがこういった異世界にくるとチートとかあるらしいが、はっきり言って隼人には何もない。あるのは常人より少し大目の魔力だけである。魔力があってもそれを使うための魔法やスキルを持ち合わせていないので、宝の持ち腐れなのだ。
「じゃあ自分の畑でも持ってみる?」
「…は?」
いやだから…魔法もスキルもないのですよ?この人は何をいいだしたのだ??
「んーとね~ハヤトのいた世界でも普通に畑はあったんでしょ?」
「まあ…たしかに?」
「うんうん。じゃあできるわよ~それに魔力だけはあるし、子供達に魔法やスキルを使ってもらえばなんとかなるんじゃないかな~?」
「子供にですか…」
小さな子供に働かせるのは少々気が引けるのだが…よく考えたら隼人もまだ子供である。生きていくためには仕方がないことなのかもしれない。出来ることはお互いが協力するしかないのだろう。
「わかりました、やってみます。」
「うん、いい返事ね。じゃあ…この区画を貸してあげるから、がんばってみてね。」
地図を広げながらシータさんが場所を教えてくれた。
#####
「おかえりなさいパパ。」
「ただいまチナ。」
出迎えてくれたのは猫人族の幼女だ。銀髪を肩まで垂らしており耳も尻尾も銀色で唯一瞳だけ紫色である。ここはこの菜園の従業員用施設で泊り込みで働いている人のために用意されている場所で、現在一人用の部屋を利用させていただいている。
「それ…何?」
隼人が抱えているのは兎人族の幼女だ。ただしドロだらけなのでぱっと見何なのかがわからなかったのだろう。
「チナの妹だよ。」
「妹…」
気持ち複雑な顔をして抱えている幼女を見つめている。
大きな桶を用意し水をため、ドロだらけの幼女を桶の中で洗う。この部屋にはお風呂がないのだ。3回ほど水を取り替えると幼女は身奇麗になった。髪の色は白だったようでそれが今でははっきりと見てとれる。耳と尻尾も真っ白だ。そのせいか赤い瞳がやけに目立つ。
「にゅふふふふ……」
半分寝かけているのだろうふらふらとしながらされるがまま体を拭かれている。
「ごめんなー裸はだめだからとりあえずこれを着ような~」
布袋に首と腕が出る場所を開けた程度の形をした服を着せる。チナとおそろいだ。お金がある程度用意できたら必ず服を買ってあげようと隼人は考えている。
「パパ、この子の名前は?」
「名前か、そうだな…リアなんでどうだ?」
「リア…リアの名前はリア!」
どうやら気に入ってくれたようだ。
「さて…今日パパ畑を借りたんだ。2人にも手伝ってもらおうと思ってる。」
2人に本題である畑仕事の手伝いをお願いしてみる。何を言われているのかわからないのか首をかしげていた。
「何を?」
「どうやって?」
「うん、まずは他の人の畑を見に行ってみようか。」
右側にリア、左側にチナと手を繋ぎすぐ近くの畑へ見学をさせにやってきた。丁度畑が整ったようで、今から魔法で栽培が始まるところだ。
「よく見ててねパパは魔法が使えないからこの工程をやってもらいたいんだ。」
もちろん畑作りも魔法で出来るのだが、それも任せてしまったら隼人の仕事がなくなってしまうし、小さな子たちばかり働かせてしまうことになる。それだけは避けたかったので分担作業をしたい。
作業の様子を眺めていると次々と畑から作物が目を出し、葉を大きく広げていく。どうやらここはトマトの畑だったようだ。ある程度大きく伸びると次々に緑色の実を付け出した。畑はそこまでで一度作業が止められた。
「あの…一気に収穫まで育てないんですか?」
気になったので作業をしていた人に聞いてみる。魔力を込め続ければ数分で収穫まで育てられるのにこの畑はそれをしていなかったからだ。
「ああ、うちの畑はここから1日は日の光に当ててから、再び魔力いれるんだよ。」
「へぇ…いろんなやりかたがあるんですね。」
幼女達が目をキラキラと輝かせながら今の作業工程を眺めていた。どうやら興味をもってくれたようだ。そこで簡単にレクチャーを受け隼人たちは自分の畑へと足を運んだ。
目の前には自分達がこれから育てる畑がある。畳6畳くらいの広さだろうか。それほどおおきな畑ではない。
「じゃあまずはパパが畑作るからそれまでいい子に座っててね。」
「「はーい。」」
畑の外側で2人の幼女はしゃがみこんでこちらを見ている。これは隼人もしっかりと働くところを見せるしかないと鍬を手に取った。魔法を使えない隼人だが、魔力はある。それを利用し、桑に魔力を流す。すると大して力もいらず鍬の重さも感じなくなり、楽に畑を耕やすことが出来るのだ。たったの数分で畑の土はふわりとやわらかくなった。
「こんなもんかな…」
額の汗をぬぐいながら出来上がった畑を眺める。満足の出来だと自負しよう。
「パーパすご~いっ」
リアがぴょんぴょん飛び跳ねはしゃいでいる。
「今度は2人の番だぞ~」
「「はーい!」」
元気よく返事をして2人は畑の前に立った。両手を前にだし動きが止まった。
「パパ…やり方は見たけど、魔法ってどう使うの?」
「あー…そうか魔法初めて使うんだよな。」
「リアもわかんない~」
「簡単にいうと、こうしたいって気持ちを魔力にのせて使う感じだって聞いたよ。」
「魔力って…なに?」
そうか魔力もわからないのか。でも魔力だけなら僕でも教えられそうだ。2人の間に入り先ほどと同じく右手でリア、左手でチナと手を繋ぐ。
「わわっ…なんかふわってふわって!」
「温かい…」
手を繋いだところから2人にゆっくりと魔力を流してみる。
「これが魔力だよ。じゃあこのまま何か試してみようか。2人とも何作りたい?」
「はい!リアはにんじんしかしらないのですっ」
そういえばにんじん畑生まれでまだ何も食べたことがないんだっけ…これが終わったら色々食べさせてあげよう。
「じゃあリアはにんじんかな。チナはどうする?」
「…パパの食べたいもの。」
「そうだな…かぼちゃ…かな?」
「かぼちゃにする…」
3人で手を繋いだまま畑に向き合った。今から2人ににんじんとかぼちゃを作ってもらう。
「よし、2人とも作りたいものを考えながら畑に魔法を使ってみようか。」
「「うんっ」」
「にんじん~にんじん~にんじん…」
「………」
2人は一生懸命畑に向かって魔法を使っている。しばらくその様子を眺めていると、少し芽が出てきた。
「おっ…」
少しずつ芽が伸びていき、にんじんの葉っぱはよく畑で見る長さになり、かぼちゃは土の上に出来るのでゆっくりと実が大きくなっていくのを確認出来た。
「ん~~~つかれたぁ~…」
「…ふぅ。」
「がんばったね。」
魔法を使え終えた2人の頭を撫でてやる。嬉しそうに目を細めていた。
「早速やってるわねハヤト。」
「あ、シータさん…はい、今2人に試してもらったところです。」
「どれどれ…」
シータはおもむろににんじんに手をやり1本引っこ抜いた。土に埋まっているにんじんはそこから出してやらないと状態がわからないので仕方がないのだ。
「あら。ちょっと魔力が足りないかしら。」
引き抜かれたにんじんはオレンジ色をしていてたしかににんじんだった。だが、少し実が細い。
「ほんとですね。かぼちゃもサイズが少し足りないですかね?」
「まあかぼちゃは小さくてもそれほど問題はないわよ。ほら、坊ちゃんかぼちゃみたいな?」
「なるほど…」
にんじんとかぼちゃを眺めながらシータは少しなにやら考え始めた。
「そうね…ハヤトが魔力を貸してあげればよくなるんじゃないかしら?」
「魔法を使用中に2人に魔力をながしてやるってことですか?」
「そうそうそんな感じ。足りない分を貸してあげれば立派な野菜ができそうよ~」
とりあえず今回はこの畑に隼人が直接魔力を送ってみることにした。
「パーパすごーい。」
「……あっ」
さっきまで小さかったかぼちゃが見る見ると大きくなりだす。
「え…ハヤトまって!」
「ん?…あっ」
大きくなりすぎたかぼちゃは軽くチナとリアの身長を越えた。どう考えてもやりすぎた…
「…これ運べるかな。」
「無理でしょう…見本だけもって後日引き取ってもらうしかないじゃないかしら?」
「ですよねー…」
「あ、これから王都へ売りに行ってくる?もしそうならお使い頼みたいのだけど。」
「はい、ついでなのでいいですよ。」
#####
「おーとー」
「おうちより大きい。」
3人で王都へやってきた…といっても菜園がそもそも王都のすぐ隣なので数分でこれる距離だ。基本王都へ卸すための菜園として活動している。
「さて…いつも買ってもらっているお店にいくよ。2人ともそこから降りないでね。」
「わかった。」
「あーい。」
菜園が王都の東側にあることから、東門より入り少し南下すると菜園の野菜を買い取ってくれる市場がある。
「こんにちはーっ」
「いらっしゃい、ハヤトくん。今日は何を…ん?」
隼人が引いているリヤカーから覗く大きなかぼちゃに気がついたようだ。ここまで来る間にも何人もの人が振り返っていた。
「これはまた大きなかぼちゃだねぇ…」
「おっさんのとこで買い取ってもらえるかな?」
「もちろんかまわないが、これ1個だけかい?」
「まだ畑にあるぞ。」
「じゃあ後で回収にいくよ。1個いくらがいいかな…通常の4倍くらい、400テトでどうだい?」
「うん。それでいいよ。後にんじんもよろしく。」
リヤカーに乗せてあるにんじんを取り出す。これも通常より少し大きめのものだ。ちなみにお金の単位は円じゃなくなっただけと考えればいいらしい。
「これも少し大きいんだな…これは2倍かな、100テトで。」
「問題ないよ。」
おっさん(本当はちゃんと名前があるんだが普段からおっさん呼んでたら忘れてしまった。)との取引が終わり、シータに頼まれたお使いのメモを眺める。
「なになに…ん?」
『お金は渡したものを使っていいから、いい加減子供にパンツをはかせてあげてね?周りが困ってるよ?』
あ…はい。大変助かります…。
「パーパかいものー?」
「何をかうの?」
とりあえず2人を連れ衣料品店へ足を運び、無事(多少色々あったが)パンツを数枚買うことが出来た。その後菜園に戻るとおっさんが数人引き連れて待っていた。
「お、帰ったな。数確認しといたぜ。かぼちゃが53個、にんじんが65個だな。」
「結構あったんだな…」
「で、合計27700テトになるな。」
1日の稼ぎとしては上々である。文句などあるはずがない。このお金で今度は2人に服とかも買って上げられそうだ。おっさんはお金を隼人に渡すとさっさと帰って行った。
「いいなー空間庫…」
おっさんが連れてきていた人達は空間庫持ちで、別の空間に荷物を保管しておける魔法を持った人たちで、こういった荷物を運ぶときに重宝されている。ちなみに隼人はもちろん持っていない。
「ま、無い物はしかたないよな。」
一度部屋に戻り2人をその場におき、隼人はシータにお釣りの返却と報告のために管理人室へ向かう。
コンコン
扉をノックしてから声をかける。……反応がない。数回ノックしてみるがやはり同じようで一向に反応は返ってこない。
「はて…まだ畑でも周ってるのかな?」
管理人の仕事は畑仕事ではなく畑で作業をしている人たちの管理だ。毎日定期的に畑を周っている。まあそれでも日が暮れてきたら仕事も終わりなので、戻って気来るはずだ。
「また少し後にするか。」
自分の部屋へと戻り、2人が今日作ったかぼちゃとにんじんを使用して今日の食事のメニューを決める。今日はかぼちゃとにんじんのシチューに決めた。他の野菜も少し加えつつ、肉は高いのでほんの少しだけ加える。自分で肉も狩ってこれればいいのだが、隼人は物理的に殴ることくらいしか出来ないので厳しいのだ。どうしても店で購入することになってしまう。だから高い。
「2人は魔法使えるし、今度何が出来るか色々試してみようかね。」
シチューを煮込みながら考える。2人の子供はそんなことはお構い無しにごろごろと転げて笑っているようだ。楽しげな声が背後から聞こえてくる。まあ主にリアの声なんだがね…この部屋もにぎやかになったものだ。
「よし、こんなものかな。」
シチューが完成した。器によそい机に並べたら子供達に声をかける。
「はい、いただきますー」
「いただきます…」
「いたーらきま?」
チナが上手にスプーンですくって食べ始める。それをまねてリアが手をグーにしてスプーンを握り、どうにかシチューをすくい上げ口に運ぶ。
「うまぁ~」
「そうかそりゃよかった。」
多少こぼしながらもどうにかリアはシチューを食べ続ける。それを見かねたチナがこぼれたシチューを片付けたりしている。少しほほえましい。
「リア、もう少しゆっくり。こぼれてる。」
「ん~~」
チナも半日で立派なお姉さんをするようになった。
3人で仲良く食事を済ませると、大きな桶に水を汲み2人を中に入れる。少しだけお湯を沸かし中に入れると程よくぬるいお風呂の完成だ。別の桶にぬるま湯を用意し、2人の頭からかけ、全身の汗を流してやる。せっけんとか使えるといいのだが、これがまた高い。3日に一度使ってやることしかできない。
2人のお風呂を終えると、しっかりと体と髪の毛を拭いてやり寝る準備をする。小さな子供だけあって、食事をしてお風呂で温まると眠くなってくるからだ。着ていた服を残り湯で洗い、部屋に吊るしておく。今日からはパンツがあるからその上から布にくるまり2人はうとうとしはじめた。
今まで来ていた服(布?)を寝るときに着るようにして、明日新しい服を買いに行くようにするかな…
子供達が寝付くまでそんなことを考えつつ時間をつぶした。いいかげんシータさんも部屋に戻っているだろう。再びシータさんの部屋へ向かうことにした。
コンコン
ノックをするが今回も反応がない。数回ためすがやはり同じで、部屋からは物音すらしないのだ。
「流石に変だな…」
扉に手をかけそっとあけて中を覗いてみる。…誰もいない。というか中は真っ暗だ。部屋の入り口にある魔方陣を起動して部屋を明るくする。
「シータさん?」
人の姿はない。…が、机の上に2冊の本と手紙が置かれていた。その手紙の表には『白崎隼人様』と書かれている。
「…ん?」
とりあえず隼人宛の手紙のようだ。隼人は手紙を手に取り内容を読んでみた。
「……ふぁ?」
手紙に書かれていた内容をいまいち理解できず変な声がでてしまった。再確認も込めてもう一度読み直してみる。
「なんだそりゃ…」
何度読み直しても手紙のないようは見たままであった。
《白崎隼人様
やっほー管理人さんだよ~?おつかいおつかれさまー。今君がこの手紙を読んでいるってことは、私はもうここにはいませーん。何でかって言うと、管理人をやめて自由になるからでーす。ちなみに管理人権限は隼人君に渡しておいたから安心して?詳しいことはこの手紙の下に置いておく本でも読んでおいて?ということでまたどっかで会えたらよろしくね~
あ、管理人室を使うように引っ越してね?
椎田雪穂ことシータ》
手紙の内容は以上であった。つまり隼人は管理人という仕事を押し付けられてしまったということだろう。
「え…この名前は日本人?どういうことだ…」
手紙の下にあった2冊の本を手にとって見る。1冊は『管理人の仕事』と書かれた本で、もう1冊はこの菜園の『記録帳』のようだ。記録帳を見ると誰にどこの畑と部屋を貸しているかという記録が書かれていた。最後のほうの頁に最新情報として丁寧にまとめられていた。多分シータさんが去る前に纏めてくれたのだろう。
「まあ…今日はもう寝よう…疲れた。」
いわゆる現実逃避というやつである。部屋に戻り軽く汗を流すと隼人も子供達と同じように布にくるまりそのまま眠ってしまった…
いつもより早く目を覚ますと部屋には2冊の本と手紙があった。どうやら夢ではなかったらしい。ため息をつきながらもとりあえず『管理人の仕事』と書かれた本を開く。
「異世界人の皆様へ…?」
そんな出だしから始まる文章が書かれていた。
こうして隼人は無理やり押し付けられた形だが、菜園の管理人としてこの世界で生きていくとこが確定してしまったのであった。
~これは衣料品店でのお話です~
「いらっしゃいませー?」
店に入ると女性が不思議なものでも見るような顔でこちらを見ている。
「あのぉーここにあるものは女性専用ですよ??」
「もちろんわかっているよ。ほら、この子達の下着を買いに来たんだ。」
ざわっと周りが少し騒がしくなった気がする。店の中にいる女性達がいっせいにこちらに視線を向けた。
「……子供をだしに店にきやがりました賊か何かですか?」
店員さん怖いです…
「いや、本当にこの子達のパンツを買いにですよ…」
「まあ…パンツですって!」
とりあえず大きな声で話すのはやめてください…まわりの視線がいたいです!
「どちらにしても男性を気軽に店に入れるわけにはいけません!」
「え、でもこの子達の…」
「どうかなさいましたか?」
そんなやり取りを見かねて少し年配の女性が出てきた。この店の店長さんなのだろう。さっきまでうるさかった店員が大人しくなった。
「この男が店に入れろとうるさいのですよ!」
「…は?ちがいます!この子達の下着買いたいだけなんです。」
すっと子供達の前にしゃがむと年配の女性は目線を合わせて子供達に質問を始めた。
「こんにちは。今日は誰ときたのかしら?」
「パパとです。」
「パーパですよー」
「何をしにきたかわかりますか?」
「何かかいもの。」
「そうなのです~はいれなくてぷんぷんなのですぅ。」
年配の女性は立ち上がると女性店員のほうを見て、
「お父さんと買い物みたいですよ?問題ないでしょう?」
「ですがこんな若い男性を入れるだなんて…」
「あのっ僕は外で待っているので子供達と選んでもらえませんか?」
「あらどうして?」
「多少入るのに抵抗はあるので…お願いできると助かります。」
頭をさげ年配の女性に頼んでみた。肩に触れる感触がしたので顔を上げるとやさしげな笑顔を向けてくれていた。
「わかりましたでは私がこの子達と選んできましょうかね。…で何を選べばいいかしら?」
「2人のパンツを数枚づつお願いします…」
お金を渡し再度頭を下げる。
「パンツですか…」
「リアまだはいてないから…」
「わたしも持ってないです。」
「あらあらそれは大変。とりあえず選んだらすぐはかせておきますね。」
「はい、よろしくお願いします!」
2人は年配の女性と手を繋ぎ中へと入っていった。残されたのは隼人と店員の女性。
「……」
「……」
「…見張ってますから。」
「いや、入らないよ…」
…というかあんたも仕事にもどれよ!
10数分ほどすると子供達は嬉しそうに戻ってきた。
「パーパ見てみてパンツはいた~」
「チナも。」
見せなくてよろしい。
あわてて捲り上げられた裾を押さえる。その後ろから年配の女性も戻ってきた。
「はい、こちらが商品と残りのお金になります。」
「ありがとうございます!」
お金を受け取り頭をさげる。年配の女性はしゃがみこみ2人の子供と視線を合わせた。
「チナちゃんもリアちゃんもまた買い物に来てね。」
「「はーい。」」
無事買い物が終わった隼人たちは店を去るのでした…
「ちょっとあなた…」
「はい、なんでしょう店長?」
「接客について勉強のしなおしをしましょうか?」
「…え?」
女性店員は年配の女性に引きづられるように店内へと消えていった。