私は子供だった。
ぼんやりとした意識で私は夢を見ていた。
これは夢だと自覚しながら、覚めようと思っても自分では覚めれない。
「ままあ…っママー!」
「痛いよぉ…」
「助けて!誰か助けてぇ!!」
狭いトンネルの中は子供の叫びと炎の熱がこもってて、うまく呼吸ができなかった。
「……こほっ」
楽しい楽しい遠足は、瓦礫と衝突音によって一転した。
前のほうに座っていた大人と子供は全員死に、残された子供は血と炎と暗闇でパニックになり、ただ泣き叫ぶしか出来る事が無かった。
そんな中自分は横に倒れたバスの下敷きになって上半身以外全く動かすことができないので、ただひたすら燃える炎を横目に花を描いていた。
血まみれの口内に人差し指を突っ込み、その指でコンクリートに赤い花を描き続けた。
何故描いているのかと問われれば、うまく答えれる自信はない。
ただ言えることは、母を喜ばせたかったという子供の単純な思考のために私はそうしていた。
きっと私は死ぬのだろうと確信していた私は、私の死でどうか悲しまないで欲しいとだけしか考えてなかった。
あの優しい家族の顔を曇らせたくはない、とそんな的外れな願いから母の好きな花をただただ描いていた。
それも今思うと、周りの空気に飲み込まれないように無意識に行ったことかもしれない。
着実に近づく死と小さくなることはない泣き声に抗おうとしたのかな、とふと感じた。
自分の腕が届く範囲全体に花を描き終えた私は、やり切ったという達成感と終わってしまったという絶望感で目を閉じた。
感覚の無い下半身と激しい痛みの上半身両方の苦しみから逃れる術を知らない私はただ目をきつく閉じて耐えるしかなかった。
地獄だ、ここは。
子供は泣き苦しみ、炎は生き物のように襲い掛かってくる。
こんな風景を見るより、目を閉じていた方が幾分かはマシだ。
「うあああっ!!熱い!やだ!やだぁ!!ままあぁぁあ゛!!!」
「…!」
何メートル横で私と同じようにバスの下敷きになっていた子供は、迫りくる炎になす術もなく無残に焼かれていった。
その悲鳴に目を見開き、再び固く閉じることが私にはできなかった。
数秒先の自分かもしれない彼から目を反らすことがどうしても嫌だった。
「…っあ、はぁ」
肉が焼かれる音と、臭いがする。
「…っ、あ、あ゛ぁ……」
「っは、っはあっ、はあ……!!」
呼吸をしようしても、まるで海に溺れているみたいに酸素が吸えない。
餌を求める鯉のように飽きずに何度も何度も口を開けて酸素を求める。
だが吸えるのは煙だけ、苦しくなる一方だ。
それでも私は酸素を求め続けた。
「はあっっ、あ゛あっ、っは」
焼かれながらも、彼は私に手を伸ばしてきた。
目を そ らせない !
「だ、すけて」
「っひゅ、ふ、っっあ゛…!」
こ こ は じご くだ
そんな地獄の中に彼女は舞い降りた。
「ねえ、これ何の花?」
「……あなた、は」