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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
99/197

第48話

月曜投稿です。

 戦場において、やってはいけない事。

 混乱しない事、指揮者の言葉に従わない事、敵前逃亡する事。

 いろいろありますが、一番にあげられるのは、最大戦力の邪魔をすることです。

 邪神討伐を、声高に唱えたのは帝国です。

 それなのに、今戦闘していますのは、亜人と差別されているラーズ君とリーゼちゃんです。

 帝国の騎士さんは、聖女騎士団の保護に回ってしまっています。

 勇者はお腹に穴が開いて、意識不明の重体。

 聖女さんは、混乱して軽度の【癒し(ヒール)】を唱えるだけ。

 作戦立案の聖女さんのお兄さんは、最大戦力のアッシュ君を捕まえて、行動を阻害しています。

 私は、余りにも杜撰な計画に腹を立てています。


「妖精姫。勇者を助けられるか?」

「聖女さんが、邪魔しなければ助けられます」

「分かった」


 死神さんが、私に治療を促します。

 勇者等どうなろうが、私には関係がありません。

 ただ、調薬師として、目の前の怪我人は見過ごす訳にはいきません。


「きゃっ。何をするのよ」

「治療の邪魔だ」


 死神さんが、聖女さんを勇者から引き離します。

 小型ポーチから、霊薬エリキサーを取り出して、勇者の怪我にぶちまけました。


「ぎゃあああ‼」

「勇者様‼」

「妖精姫。治癒なのか」


 当たり前です。

 歴とした治療行為ですよ。

 部位欠損を治療するのに、悲鳴が挙がるのは仕方がありません。

 勇者が、暴れ始めました。

 お腹を触ろうとしていますので、腕を押さえました。


「部位欠損の治癒には、時間がかかります。誰か、押さえつけておいてください」

「あ、ああ。誰か、代われ」

「はっ」


 暴れる勇者は部下の方に、お任せします。

 私は、他にやることがあります。


「聖女さん。貴女は何をしているのか、分かっていますか?」

「えっ⁉ 何をって、勇者様を治療していたのよ。何で、邪魔するのよ」

「貴女は馬鹿ですか。部位が欠損している怪我に初級の【癒し】をかけただけで、何が治療ですか。危うく、勇者は死ぬ処でした」

「⁉ 嘘よ。わたしは、上級を唱えていたわ」

「では、何故に勇者の怪我が治っていないのでしたか」

「そ、それは……」


 聖女さんと真正面から、対決します。

 本当は魔力喰いと闘うラーズ君とリーゼちゃんに、合流したいのですが。

 そうも言ってられなくなりました。

 何時までも、他所事面をする相手がいます。

 彼にも、お説教をしなくてはなりません。

 聖女さんは、前哨戦です。


「そもそも、邪神討伐に向かい、勇者と聖女騎士団は壊滅しています。今まで、何をしてきたか、何をしに来ているか、理解していますか?」

「何をって、闘うのは騎士の役目だわ。わたしには、関係がないわ」

「貴女には関係がないなら、何故に聖女騎士団と名乗っているのです? 皆、貴女の魅了魔法で集めた男性ですよね。貴女に、責任があるに決まっていますよ」

「聖女騎士団の名前は、お兄様が決めたのよ。わたしは聖女だもの。当たり前じゃない。それに、わたしの騎士団だもの。わたしが選んで何が悪いのよ」

「話が矛盾していますよ。貴女の騎士団が壊滅したと、言っているのです。周りを見なさい。怪我人は、勇者だけではないのです」

「まわり?」


 やっと、周囲を認識した聖女さんは、自分の騎士団の姿を目の当たりにしました。

 勇者一人に託つけて、聖女騎士団を顧みない聖女さんからは、騎士団を見放した発言が飛び出しています。

 聖女騎士団のなかには、我に返り自我を取り戻した人が目に付きます。

 皆さん、剣呑な眼差しで聖女さんを見ています。


「あっ。どうして、そんな目で見るの?」

「貴女が自身で、聖女騎士団を裏切る発言をしたからです。自分には責任がない。今まで、尽くしてきた方に対して、よく言えましたね」

「えっ? だって、騎士は聖女を守るのよ。わたしを守るのは、当然でしょ」

「そして、怪我をしたら放置ですか。聖女の名は、そんなに御大層なものなのですね」

「? 怪我? 怪我なんてしてないじゃない。勇者様の方が重傷よ。そうよ。勇者様に何をしたのよ。闇の妖精族(ダークエルフ)が、治療なんて、嘘っぱちでしょうが」


 またもや、聖女騎士団を軽視する発言に、呆れてしまいます。

 彼等が怪我を負ったのは、衣服から見てとれます。

 破れていたり、出血の跡があります。

 きちんと、向き合わない聖女さんに、騎士団の一人が立ちあがりました。


「ふざけるな。何が怪我をしていないだ。ちゃんと、見ろよ。お前の為に犠牲になった騎士もいるんだぞ」


 何処かで見た顔なのは、トリシアの領主の息子でした。

 彼は、利き腕を無くしています。

 肘から先が喪われた腕を、聖女さんに突きだしました。


「ひっ。いやぁ。お兄様。お兄様は何処?」

「現実を見ろよ。逃げるな‼」

「いやぁ‼ お兄様ぁ」


 生々しい傷に聖女さんの悲鳴が挙がります。

 貴女のお兄さんは、悲鳴を無視して未だにアッシュ君を拘束していますよ。

 転移がどうのと、喚いていますから、一人だけ逃げる気です。

 妹と勇者を見捨てて、自分だけ助かるつもりですよ。

 なんて、我が儘で強欲な人間でしょう。

 帝国そのモノです。


「セーラ。怪我の状況はどうだ」

「怪我人は、重度、軽度の有無に拘わらず、回復させました。ですが、部位欠損者が多勢です」

「魔人。わたしを、無視するな。早く、離脱するのだ」

「お兄様?」

「勇者も、聖女も使えない。わたしを、兄と呼ぶな。この、役立たずが」


 化けの皮が外れたのか、聖女さんのお兄さんは、すがり付いた聖女さんを突き放しました。

 よろけた聖女さんが、信じられないとばかりに、目を見開きます。


「何が聖女だ。大して能力がないお前が、聖女になれたのは皇帝陛下の気紛れだ。魅了魔法で、敵国の重鎮を虜にするだけの能力が見込まれたに、過ぎないのだぞ。なのに、陛下に楯ついて、何が神託だ。お前の為に帝国があるのではないぞ」

「お兄様?」

「伯爵。急に何を、喚き始めた」

「煩い。早く、勇者共に果てろ。わたしは、神子を手土産に、功績をあげるのだ」


 お兄さんの手が私に伸びます。

 愚鈍な動作では、交わすのはわけありません。

 アッシュ君。

 魔眼を使いましたね。

 状態異常に陥っています。

 だから、ペラペラと喋り始めたのですか。

 聴いていて、耳障りがよくはありません。

 それに、妹に対して酷い仕打ちです。

 妹を隠れ蓑に、随分とやりたい放題してきたと見ます。


「死神。煩わしいハエを拘束しろ。対価に、あれを始末する」

「……承知した」

「ハーヴェイ。魔族の手をとり、帝国を裏切る気か」

「伯爵。ならば、自身があれと対峙してくれるのか? 自分は、皇帝陛下の騎士を、預かる身だ。部下を生き残さねばならん」

「下級騎士より、上位貴族のわたしが優先だ。わたしを、何としても帝都に帰還させるのが、貴様の役目だ」


 あの妹にして、この兄有り。

 自分勝手に喚いています。

 勿論、反感は沸き上がります。

 帝国騎士が、手早くお兄さんを拘束していきます。

 拘束具で囚われたお兄さんは、身をよじりますが、ロープは食い込むだけです。

 帝国騎士や聖女騎士団の、聖女兄妹を見る目は厳しさに溢れていました。

 まだ、聖女さんが暴れださないだけ、ましです。

 その聖女さんは、お兄さんの裏切る発言に、うちひしがれていました。

 頼りになるはずの身内に駒扱いをされては、おとなしくならざる負えないでしょう。

 ふらふらと、勇者にとりすがります。


「勇者さまぁ」


 泣いています。

 お得意の泣き真似ですか?

 勇者は、部位欠損の治す症状が穏やかになりましたからか、呑気に寝息を立てています。

 聖女さんには、もう勇者しか頼る、相手はいないです。

 自業自得ですが。

 哀れですね。

 聖女騎士団は壊滅。

 最早、問題発言満載で元には戻りません。

 魅了魔法に囚われた聖女騎士団は、真面な思考をする騎士は数少ないです。

 命令が無ければ、ぼおっと放心しているだけ。

 比較的新しい騎士は、身体の欠損部位が酷く、身動きがとれないまま、聖女さんとお兄さんを睨んでいます。

 これ、気を付けていないと、身内から断罪されますよ。

 帝国騎士に、それとなく武器を取り上げる忠告をするべきでしょうか。

 ですが、無関係な私が、言っても信じてはくれないかもです。


「セーラ」

「はっ、はい」

「気を緩めるな。あれを始末する。鏃はトールの新作を使用しろ」

「分かりました」


 矢筒の中身を精査します。

 精霊銀(ミスリル)に混じり、不思議な色合いの鏃を抜きます。

 鑑定しましたら、超硬石(アダマンタイト)霊鋼(たまはがね)の複合鉱石でした。

 しかもです。

 魔力喰いが唯一吸収できない、聖属性の付与つきでした。


「先ずは、手足を狙え。それなら、浄化力が上回る」


 鏃は聖属性が付与されていますが、浄化力は期待できないですよ。

 案に、私の固有技能(ユニークスキル)を使用して良いと、言っていますか。

 浄化できますのは、トール君の新作を使用しているからだと思わせるのですね。

 分かりました。

 そう、演じます。

 やっと、ラーズ君とリーゼちゃんの支援に入れます。

 安全地帯から飛び出しまして、射線をとれる位置に移動です。

 ラーズ君とリーゼちゃんは、魔法を封じて物理攻撃を続けていました。

 息もつかない連携攻撃に、魔力喰いは私には気付いていません。


「合図で放て」


 災害級の魔人が普段使用する長剣とは違う、大剣を亜空間から取り出しました。

 一瞬、魔力喰いが動きを止めました。


「狙え、放て」


 先ずは前肢。

 それも、私が傷を付けた場所を狙います。

 固有技能の浄化を乗せて、矢が翔びます。


 ドカン。


 右前肢が吹き飛びました。

 魔素に分解されていきます。


「ニ射目。放て」


 悲鳴をあげる魔力喰いの声に負けじと、アッシュ君の指示がきます。

 狙いは左前肢です。


 ドカン。


 再び、前肢が吹き飛びました。

 上半身の支えが無くなり、地に墜ちた頭を目掛けて、アッシュ君が疾駆します。

 狙いは魔力喰いの魔核です。

 堂々と頭の眉間に有りました。


「セーラ、退避」


 リーゼちゃんに言われて、横に跳びます。

 私がいた場所に硬質な太い針が、突き刺さりました。

 勇者のお腹を貫いた攻撃手段ですね。

 魔力喰いは、粘着生物であるスライムも捕食しているみたいです。

 針攻撃は、アッシュ君も襲います。

 けれども、アッシュ君の楯魔法に弾かれています。


「セーラ。三射目、嘴を狙え」

「はい」


 アッシュ君を喰らおうとしといます、魔力喰いは嘴を大きく開けました。

 その、嘴を三射目で射抜きます。


 ドカン。


 嘴が魔素に分解されていきます。

 前肢がない、嘴も喪った魔力喰いは、アッシュ君の到来を予期して、身体を捻り尻尾で反撃にでました。

 アッシュ君は身軽に交わして、魔力喰いの背中に飛び乗り、軽くジャンプして頭上に到達します。

 後は、大剣で魔核を壊すのみです。

 チェックメイトです。

 大剣の銘は魔狩り。

 あらゆる魔力を喰らう神剣です。

 魔力の塊な魔力喰いには、天敵とも言う武器です。

 果たして、アッシュ君は魔核を一閃のもとに破壊しました。

 断末魔の声をあげて、魔力喰いは取り込んだ魔素を一気に放出していきます。

 比例して、身体が縮小していく魔力喰い。

 ですが、思わぬ代物が魔力喰いの体内からでてきました。

 数メートルはある水晶体の塊です。

 もしや、封印された女神様に関わりがあるのでしょうか。

 はたまた、悪魔か。

 どちらにしましても、まだ波乱は残されている様子です。


ブックマーク登録ありがとうございます。


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