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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
98/197

第47話

金曜投稿です。

 うう。

 トラウマの衝撃が、なかなか治まりません。

 これで、魔力喰い(マナイーター)が蜘蛛型だったりしたら、私の精神はもつのでしょうか。

 微妙に不安です。

 はい。

 魔力喰いに、定まった形はありません。

 不定形です。

 何を喰らったかによって、形は様々に変化させます。

 獣形だったり、人形だったり、昆虫形だったりです。

 はあ。

 昆虫形でないのを祈ります。

 今、私達は最奥の手前で、一時待機しています。

 後続の勇者一行を待っているのです。

 最奥に入った瞬間に、魔力喰いとの戦闘をしていましたら、絶対に勇者一行に兎や角因縁をつけられてしまいます。

 回避する為に、待機です。

 あと、私の精神の安定する目的もあったりします。


「よしよし。セーラは、いい子」

「魔力喰いは、勇者に任せてしまえばよいですよ」

「高みの見物だな」


 三人に、慰められます。

 リーゼちゃんに至っては、抱き付かれたまま、離してはくれません。

 私も、安心してもたれ掛かっています。

 暫く、そうしていましたら、賑やかな場違いな声が響いてきました。

 勇者一行の登場です。

 リーゼちゃんが、名残惜しげに離れました。


「何だよ。ほんとに、魔物一匹もいないじゃんか。おれの活躍を見せれないじゃんか」

「勇者様、安心して下さいませ。邪神との戦闘では、勇者様が活躍を見せればいいのですから」

「だからって、拍子抜けした。あいつら、やり過ぎだ」


 露払いの意味を分かっていないご様子。

 しかし、討ち漏らしていたら、それで因縁つけられてたりするのでしょうね。

 気にしないでおきましょう。

 ラーズ君も、リーゼちゃんも無関心を貫いています。

 アッシュ君は表情を消して、到着を待っています。


「黙れ、勇者。露払いとは、そういうものだ」

「むっ。様を忘れているぞ。俺の手助けがないと、邪神は討伐できないんだからな」

「実戦経験がない、魔物一匹も倒せない勇者しか見ていないのでね。本当に勇者か、疑わしいうちは、様を付けられない」

「なんだとう‼」

「勇者様。身分の低い騎士の戯言です。お気にしないでくださいませ」


 勇者の沸点低すぎですね。

 それにしましても、朱の死神さんは上級騎士だと思いますが。

 聖女さんも、世間知らずです。

 お兄さん辺りに、説明されたりはしないのでしょうか。

 下々の話題は禁句ですかね。

 そうこうしている間に、勇者一行の姿が見えてきました。


「魔人。何をしている」


 先頭の死神さんが、此方を気付きました。

 自らを先頭に立たれているのは、魔物を鬱憤晴らしにする気だったりしまして。


「何も。ここが最奥だ。中に入って良かったか」

「……いや。そうか、やっと着いたか」


 勇者一行を囲んでいました部隊を解散させ、最後尾に編成しなおす指示を出します死神さん。

 万感込めた息を吐き出されます。

 死神さんも、勇者一行と離れられる事に安堵しているみたいです。


「ハーヴェイ殿?」

「伯爵、ここが最奥にあたる。ここからは、勇者と聖女騎士団の出番になる。活躍を期待する」

「邪神討伐を、わたし達だけで行えと?」

「行うも、何も。我が部隊と魔族は、支援だけを指示されている。邪神討伐は、勇者教の本願だろうが」

「だが、皇帝陛下のお言葉を無視するとは……」

「アンジェの兄さん。いいじゃないか。役立たずは、放っておいてさ。勇者(おれ)がいるんだし。やっと、勇者の出番だ。腕が鳴る」


 渋る聖女さんのお兄さんも、勇者の活躍に期待してはいないのが分かります。

 実戦経験させていないですし、聖女さんの魅了魔法に囚われて、何処まで鍛練してきたかは、未知数です。

 不安視しかありませんが、私達の心配を他所に勇者は自信満々です。

 その、自信は何を根拠にしているのか、甚だ疑問です。


「魔族、退けよ。勇者様が通るんだ。見ていろよ。いずれお前達も、勇者様に膝まづくんだからな」

「勇者殿⁉」


 何の気なしに、勇者が最奥の扉を開きます。

 作戦とか練らなくて大丈夫なんですかね。

 慌てるお兄さんを無視して、勇者は無謀にも単身で乗り込んで行きました。


「アンジェ‼ 勇者殿に加護を。皆、勇者殿の援護を」

「はいっ。勇者様。お待ちくださいませ」


 目の前を、聖女騎士団が走って行きました。

 指揮はお兄さんが取るのですね。

 守られながら、聖女さんもついていきました。

 ですが、お兄さんは残られています。

 行かないのでしょうか。


「ハーヴェイ殿。魔族の方々。勇者殿の非礼は詫びる。どうか、ご助力を願う」


 頭を下げられました。

 驚きです。

 人族至情主義の帝国貴族がです。

 素直には受け止められません。


「勇者には、連携は出来ないだろう。そう訓練を受けてはいないだろう」

「それは、此方の失態だが。むざむざ、若い命を散らしたくはない」

「教育を誤ったな」

「言葉はないよ。だからといって、見過ごす訳にはいかない」

「我々は、帝国騎士だ。助力を願われたら、やるしかないが。魔人? 何処に行く」


 アッシュ君は、何ら寛容を見せずに最奥の部屋に向かいました。

 私達、年少組も続きます。


「遅すぎだ。肝心の勇者は、突撃して反撃を食らい、意識消失だ」

「はあ⁉」

「ラーズ、疾れ!」

「はい」

「リーゼ、セーラ、殴れ!」

「はい」

「了承」


 アッシュ君の指示に従います。

 開け放たれた扉を潜ります。

 室内は、大きなホールになっていました。

 聖堂の間を模しています。

 最奥には何か巨大な物を置く祭壇がありましたが、今は何もありませんでした。

 気になりましたが、戦闘に意識をむけます。

 武器は、長戦斧(バルディシュ)を選択します。

 ラーズ君が壁に叩き付けられ、気絶した勇者の元に疾駆していきます。

 私とリーゼちゃんは、魔力喰いの元に走ります。

 視認した魔力喰いは、流線型を描く定型をしていました。

 手足は短く、胴体は長く、嘴と尻尾は独特の型をしています。

 全体的に見て、カモノハシが脳裏によぎりました。

 ですが、体毛はなく、濃紺の魔素に体躯を覆われています。

 全長は数十メートルは、あります。

 かなりの大型です。

 何を喰らったか、知りたくはないです。

 敵対する私達は、さながら象に群がる蟻です。


「勇者様‼」


 戦場で大声は駄目です。

 勇者に向けられてい視線が、聖女さんに向きます。

 鈍重な歩みで、聖女さんに近付いていってます。

 保有する魔力に惹かれているのは明らかです。

 私の魔力は抑制の指輪によりまして、漏れない様になっています。

 魔力喰いにしてみたら、垂れ流しの聖女さんは美味しい餌です。

 威力偵察もしないで、突撃していくから、お花畑一行と言われてしまうのです。


「セーラ」

「はい」


 リーゼちゃんの合図で前肢に、身体強化を施した腕を一振りします。

 狙い違わずに、長戦斧が前肢に食い込みました。

 リーゼちゃんの追撃で、両方の前肢に打撃を食らわせて、ダウンを奪います。


「えっ⁉」


 勇者に気を取られて、魔力喰いに気づいていませんでした聖女さんが、すぐ近くでダウンした音に驚きを露にしました。

 誰か、ここにもお花畑さんがいます。

 回収してください。

 戦闘の邪魔です。


「アンジェ⁉」

「聖女が、邪魔だ。さっさと勇者の元に運べ」


 邪魔なのは、聖女さんだけではないのです。

 床に倒れた聖女騎士団も、運んでください。

 意識の有無に拘わらずに、お願いします。

 死神さんの部下の騎士は、動揺を露にせずに、死神さんの指示に応えています。

 さすがは、職業軍人です。

 自分を律しています。

 聖女さんと役立たずの聖女騎士団を、確保していってます。


「……これが、邪神。我々の手に負えないじゃないか」


 鋭敏な耳が、放心するお兄さんの声を拾います。

 多分、間違えています。

 邪神ではなく、魔力喰いと言う名の魔物です。

 ただ、ひたすらに魔力を喰い散らかす魔物です。


「セーラ、離れる」


 ダウンを奪いました魔力喰いが、立ちあがります。

 その、怒りは私とリーゼちゃんに向いてます。

 前肢で、踏み潰そうとしていました。

 バックステップで難なく交わします。

 同じ箇所を狙い、長戦斧を再び振るいました。

 前肢の半分を絶ち斬ります。

 思った程、堅くはありませんでしたが、全部を絶ち斬れなくて、失敗しました。


 ぐぎゃああああ。


 背後から尻尾に狙われました。

 前肢に食い込む長戦斧から、手を離して回避します。


「セーラ。バトンタッチです。勇者の回復を」

「聖女さんは?」

「役立たずです」


 近寄るラーズ君に、背を叩かれました。

 簡潔に言い放ち、魔力喰いに対峙するラーズ君に、指を指されました。

 何時の間にか、勇者と聖女騎士団は、部屋から出されていました。

 帝国の騎士が周囲を囲んでいます。

 長戦斧を無間収納(インベントリ)に仕舞い、弓を手にします。

 距離をとりながら、弓で牽制します。

 私の方に向かう魔力喰いは、ラーズ君とリーゼちゃんに阻まれて、近付いてはこれません。

 背後を警戒しつつ、勇者の元に走ります。


「妖精姫。死者三名。重傷者七名。軽傷者十数名だ」

「死者は、助けられません。重傷者には上級ポーションを、軽傷者には中級ポーションを使用します」


 死者蘇生は禁忌の手段です。

 神国の秘技でもあります。

 おいそれと、披露はできません。

 はい。

 実は、蘇生薬は所持しています。

 ラーズ君とリーゼちゃんには、使用しますよ。

 身内には躊躇なく使用します。

 まあ、本性が幻獣な二人が易々と倒されるなんてことは、あり得ませんが。


「勇者様‼ 勇者様、しっかりしてください」


 ポーションを聖女騎士団に使用していると、役目を忘れた聖女さんの声に苛立ちました。

 自分の騎士団でしょうが。

 回復をしてあげなさい。

 声が喉まででかかりました。

 聖女さんは、必死に勇者に対して癒しを行っていました。

 ですが、中々傷が癒えていません。


「どうして、どうして、怪我が治らないの」


 勇者の身体は、お腹に穴が開いていました。

 流れ出る出血により、顔色は真っ青です。

 魔力喰いに、鎧の継ぎ目を狙われたようです。

 聖女さんが施行する【癒し(ヒール)】は、軽度の怪我を癒す術です。

 混乱振りが分かります。

 欠損部位があります勇者には、穴が開いたザルに水を注ぐ行為にしかなりません。

 無駄な術を何度も施行されては、上級な【全治癒(オールヒール)】をかける魔力が足りなくなります。

 冷静な判断をするべき、聖女さんのお兄さんは何をしているのでしょう。

 半狂乱な妹を嗜める場でしょう。

 何処にいますか。

 周囲を見渡して見ましたら、アッシュ君がお兄さんに捕まっていました。

 何かを必死に訴えています。

 アッシュ君は、不快感を露にしています。

 実質、魔力喰いに対峙していますのは、ラーズ君とリーゼちゃんの二人です。

 早く援護に回らないと、幾らラーズ君とリーゼちゃんが疲れ知らずでも、不詳な出来事が起きたらいけません。

 何を優先するのかは、分かりきっているでしょうに。

 頭にきました。

 実戦を経験していないのは、聖女騎士団全員です。

 作戦立案のお兄さんも、経験していません。

 こんなので、よく邪神討伐とか言えましたね。

 腹立たしいです。

 ブチリと、堪忍袋がキレました。


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