第47話
金曜投稿です。
うう。
トラウマの衝撃が、なかなか治まりません。
これで、魔力喰いが蜘蛛型だったりしたら、私の精神はもつのでしょうか。
微妙に不安です。
はい。
魔力喰いに、定まった形はありません。
不定形です。
何を喰らったかによって、形は様々に変化させます。
獣形だったり、人形だったり、昆虫形だったりです。
はあ。
昆虫形でないのを祈ります。
今、私達は最奥の手前で、一時待機しています。
後続の勇者一行を待っているのです。
最奥に入った瞬間に、魔力喰いとの戦闘をしていましたら、絶対に勇者一行に兎や角因縁をつけられてしまいます。
回避する為に、待機です。
あと、私の精神の安定する目的もあったりします。
「よしよし。セーラは、いい子」
「魔力喰いは、勇者に任せてしまえばよいですよ」
「高みの見物だな」
三人に、慰められます。
リーゼちゃんに至っては、抱き付かれたまま、離してはくれません。
私も、安心してもたれ掛かっています。
暫く、そうしていましたら、賑やかな場違いな声が響いてきました。
勇者一行の登場です。
リーゼちゃんが、名残惜しげに離れました。
「何だよ。ほんとに、魔物一匹もいないじゃんか。おれの活躍を見せれないじゃんか」
「勇者様、安心して下さいませ。邪神との戦闘では、勇者様が活躍を見せればいいのですから」
「だからって、拍子抜けした。あいつら、やり過ぎだ」
露払いの意味を分かっていないご様子。
しかし、討ち漏らしていたら、それで因縁つけられてたりするのでしょうね。
気にしないでおきましょう。
ラーズ君も、リーゼちゃんも無関心を貫いています。
アッシュ君は表情を消して、到着を待っています。
「黙れ、勇者。露払いとは、そういうものだ」
「むっ。様を忘れているぞ。俺の手助けがないと、邪神は討伐できないんだからな」
「実戦経験がない、魔物一匹も倒せない勇者しか見ていないのでね。本当に勇者か、疑わしいうちは、様を付けられない」
「なんだとう‼」
「勇者様。身分の低い騎士の戯言です。お気にしないでくださいませ」
勇者の沸点低すぎですね。
それにしましても、朱の死神さんは上級騎士だと思いますが。
聖女さんも、世間知らずです。
お兄さん辺りに、説明されたりはしないのでしょうか。
下々の話題は禁句ですかね。
そうこうしている間に、勇者一行の姿が見えてきました。
「魔人。何をしている」
先頭の死神さんが、此方を気付きました。
自らを先頭に立たれているのは、魔物を鬱憤晴らしにする気だったりしまして。
「何も。ここが最奥だ。中に入って良かったか」
「……いや。そうか、やっと着いたか」
勇者一行を囲んでいました部隊を解散させ、最後尾に編成しなおす指示を出します死神さん。
万感込めた息を吐き出されます。
死神さんも、勇者一行と離れられる事に安堵しているみたいです。
「ハーヴェイ殿?」
「伯爵、ここが最奥にあたる。ここからは、勇者と聖女騎士団の出番になる。活躍を期待する」
「邪神討伐を、わたし達だけで行えと?」
「行うも、何も。我が部隊と魔族は、支援だけを指示されている。邪神討伐は、勇者教の本願だろうが」
「だが、皇帝陛下のお言葉を無視するとは……」
「アンジェの兄さん。いいじゃないか。役立たずは、放っておいてさ。勇者がいるんだし。やっと、勇者の出番だ。腕が鳴る」
渋る聖女さんのお兄さんも、勇者の活躍に期待してはいないのが分かります。
実戦経験させていないですし、聖女さんの魅了魔法に囚われて、何処まで鍛練してきたかは、未知数です。
不安視しかありませんが、私達の心配を他所に勇者は自信満々です。
その、自信は何を根拠にしているのか、甚だ疑問です。
「魔族、退けよ。勇者様が通るんだ。見ていろよ。いずれお前達も、勇者様に膝まづくんだからな」
「勇者殿⁉」
何の気なしに、勇者が最奥の扉を開きます。
作戦とか練らなくて大丈夫なんですかね。
慌てるお兄さんを無視して、勇者は無謀にも単身で乗り込んで行きました。
「アンジェ‼ 勇者殿に加護を。皆、勇者殿の援護を」
「はいっ。勇者様。お待ちくださいませ」
目の前を、聖女騎士団が走って行きました。
指揮はお兄さんが取るのですね。
守られながら、聖女さんもついていきました。
ですが、お兄さんは残られています。
行かないのでしょうか。
「ハーヴェイ殿。魔族の方々。勇者殿の非礼は詫びる。どうか、ご助力を願う」
頭を下げられました。
驚きです。
人族至情主義の帝国貴族がです。
素直には受け止められません。
「勇者には、連携は出来ないだろう。そう訓練を受けてはいないだろう」
「それは、此方の失態だが。むざむざ、若い命を散らしたくはない」
「教育を誤ったな」
「言葉はないよ。だからといって、見過ごす訳にはいかない」
「我々は、帝国騎士だ。助力を願われたら、やるしかないが。魔人? 何処に行く」
アッシュ君は、何ら寛容を見せずに最奥の部屋に向かいました。
私達、年少組も続きます。
「遅すぎだ。肝心の勇者は、突撃して反撃を食らい、意識消失だ」
「はあ⁉」
「ラーズ、疾れ!」
「はい」
「リーゼ、セーラ、殴れ!」
「はい」
「了承」
アッシュ君の指示に従います。
開け放たれた扉を潜ります。
室内は、大きなホールになっていました。
聖堂の間を模しています。
最奥には何か巨大な物を置く祭壇がありましたが、今は何もありませんでした。
気になりましたが、戦闘に意識をむけます。
武器は、長戦斧を選択します。
ラーズ君が壁に叩き付けられ、気絶した勇者の元に疾駆していきます。
私とリーゼちゃんは、魔力喰いの元に走ります。
視認した魔力喰いは、流線型を描く定型をしていました。
手足は短く、胴体は長く、嘴と尻尾は独特の型をしています。
全体的に見て、カモノハシが脳裏によぎりました。
ですが、体毛はなく、濃紺の魔素に体躯を覆われています。
全長は数十メートルは、あります。
かなりの大型です。
何を喰らったか、知りたくはないです。
敵対する私達は、さながら象に群がる蟻です。
「勇者様‼」
戦場で大声は駄目です。
勇者に向けられてい視線が、聖女さんに向きます。
鈍重な歩みで、聖女さんに近付いていってます。
保有する魔力に惹かれているのは明らかです。
私の魔力は抑制の指輪によりまして、漏れない様になっています。
魔力喰いにしてみたら、垂れ流しの聖女さんは美味しい餌です。
威力偵察もしないで、突撃していくから、お花畑一行と言われてしまうのです。
「セーラ」
「はい」
リーゼちゃんの合図で前肢に、身体強化を施した腕を一振りします。
狙い違わずに、長戦斧が前肢に食い込みました。
リーゼちゃんの追撃で、両方の前肢に打撃を食らわせて、ダウンを奪います。
「えっ⁉」
勇者に気を取られて、魔力喰いに気づいていませんでした聖女さんが、すぐ近くでダウンした音に驚きを露にしました。
誰か、ここにもお花畑さんがいます。
回収してください。
戦闘の邪魔です。
「アンジェ⁉」
「聖女が、邪魔だ。さっさと勇者の元に運べ」
邪魔なのは、聖女さんだけではないのです。
床に倒れた聖女騎士団も、運んでください。
意識の有無に拘わらずに、お願いします。
死神さんの部下の騎士は、動揺を露にせずに、死神さんの指示に応えています。
さすがは、職業軍人です。
自分を律しています。
聖女さんと役立たずの聖女騎士団を、確保していってます。
「……これが、邪神。我々の手に負えないじゃないか」
鋭敏な耳が、放心するお兄さんの声を拾います。
多分、間違えています。
邪神ではなく、魔力喰いと言う名の魔物です。
ただ、ひたすらに魔力を喰い散らかす魔物です。
「セーラ、離れる」
ダウンを奪いました魔力喰いが、立ちあがります。
その、怒りは私とリーゼちゃんに向いてます。
前肢で、踏み潰そうとしていました。
バックステップで難なく交わします。
同じ箇所を狙い、長戦斧を再び振るいました。
前肢の半分を絶ち斬ります。
思った程、堅くはありませんでしたが、全部を絶ち斬れなくて、失敗しました。
ぐぎゃああああ。
背後から尻尾に狙われました。
前肢に食い込む長戦斧から、手を離して回避します。
「セーラ。バトンタッチです。勇者の回復を」
「聖女さんは?」
「役立たずです」
近寄るラーズ君に、背を叩かれました。
簡潔に言い放ち、魔力喰いに対峙するラーズ君に、指を指されました。
何時の間にか、勇者と聖女騎士団は、部屋から出されていました。
帝国の騎士が周囲を囲んでいます。
長戦斧を無間収納に仕舞い、弓を手にします。
距離をとりながら、弓で牽制します。
私の方に向かう魔力喰いは、ラーズ君とリーゼちゃんに阻まれて、近付いてはこれません。
背後を警戒しつつ、勇者の元に走ります。
「妖精姫。死者三名。重傷者七名。軽傷者十数名だ」
「死者は、助けられません。重傷者には上級ポーションを、軽傷者には中級ポーションを使用します」
死者蘇生は禁忌の手段です。
神国の秘技でもあります。
おいそれと、披露はできません。
はい。
実は、蘇生薬は所持しています。
ラーズ君とリーゼちゃんには、使用しますよ。
身内には躊躇なく使用します。
まあ、本性が幻獣な二人が易々と倒されるなんてことは、あり得ませんが。
「勇者様‼ 勇者様、しっかりしてください」
ポーションを聖女騎士団に使用していると、役目を忘れた聖女さんの声に苛立ちました。
自分の騎士団でしょうが。
回復をしてあげなさい。
声が喉まででかかりました。
聖女さんは、必死に勇者に対して癒しを行っていました。
ですが、中々傷が癒えていません。
「どうして、どうして、怪我が治らないの」
勇者の身体は、お腹に穴が開いていました。
流れ出る出血により、顔色は真っ青です。
魔力喰いに、鎧の継ぎ目を狙われたようです。
聖女さんが施行する【癒し】は、軽度の怪我を癒す術です。
混乱振りが分かります。
欠損部位があります勇者には、穴が開いたザルに水を注ぐ行為にしかなりません。
無駄な術を何度も施行されては、上級な【全治癒】をかける魔力が足りなくなります。
冷静な判断をするべき、聖女さんのお兄さんは何をしているのでしょう。
半狂乱な妹を嗜める場でしょう。
何処にいますか。
周囲を見渡して見ましたら、アッシュ君がお兄さんに捕まっていました。
何かを必死に訴えています。
アッシュ君は、不快感を露にしています。
実質、魔力喰いに対峙していますのは、ラーズ君とリーゼちゃんの二人です。
早く援護に回らないと、幾らラーズ君とリーゼちゃんが疲れ知らずでも、不詳な出来事が起きたらいけません。
何を優先するのかは、分かりきっているでしょうに。
頭にきました。
実戦を経験していないのは、聖女騎士団全員です。
作戦立案のお兄さんも、経験していません。
こんなので、よく邪神討伐とか言えましたね。
腹立たしいです。
ブチリと、堪忍袋がキレました。
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