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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
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第46話

水曜投稿です。

 森の妖精族(フォレエルフ)が遺した遺跡に、突入です。

 石作りな筈の遺跡は、苔に侵食されて蔓草に巻き付かれています。

 入口とおぼしき場所には一枚岩が有りました。

 風化してしまっていますが、何か文字が刻み込まれていました。


「精霊言語ですね」

「解読できるか?」

「うーんと」


 精霊言語にはこう刻まれていました。


『資格なき者は去れ。遥かなる同胞に頼る。眠れし()の方の目覚めし兆しは、悪魔を解き放つ罠が有り。神聖なる神炎にて悪魔は焼き尽くせ。成就せしは、彼の女神は目覚めん』


 遺跡の最奥にいるのは、魔力喰い(マナイーター)では、なかったかと。

 悪魔の部分に一抹の不安と謎が残りました。


「アッシュ君。悪魔がいると、刻まれていますよ」

「悪魔か。存在を感じないな。魔力喰いに食われたか」

「なら、魔力喰いはある意味、進化していると思いますが、倒せるのですかね」

「無理。先生の装備、宝の持ち腐れ」

「まあ、いい。悪魔に関してはおれが対処する。セーラ、扉を開けろ」

「はい」


 悪魔は、魔神さまの眷属です。

 天人族が、神々の眷属であり御遣いであるのにたいして、悪魔は魔神さまの御遣いとなります。

 この、遺跡は妖精族が守護してきました。

 先代の実りの女神様が、時の牢獄に囚われているのです。

 その場所に悪魔が潜んでいるとは、甚だ疑問が増えました。

 ですが、私達も手薬煉(てぐすね)引いて、準備は済ませています。

 私は、岩の扉に手を振れました。

 すると、半透明な板が出現しました。

 精霊言語で、私が妖精族であるか問い質してきています。

 指先に魔力を集め、文字を書いていきます。

 父と母の部族名をです。

 両親の名前と私の名前を最後に書き入れましたら、チクリと何かに指先を刺されました。


「セーラ‼」


 ラーズ君が見咎めて、私と光る板の間にに出ました。

 えーと。

 識別をされたのだとおもいます。

 板に、莫大な文字の羅列が表れて、ながれていきます。

 最後に私が妖精族であると、結論ずけられた文章がながれました。

 すると、半透明な板は消えてなくなり、入口を塞ぐ岩の間に隙間ができて、左右に開いていきました。

 中からは、永年溜まりに溜まった魔素が漂ってきています。


「第一段階の承認は終了したな。と、言っても本来あるべき遺跡の番人は沈黙していたからな」


 アッシュ君の示された指先を見ますと、入口の脇には石人形が鎮座していました。

 ゴーレムですね。

 カズバルの村長さんが、解いた遺跡の封印の中には、ゴーレムを待機状態にする仕掛けもあったと見てとれます。

 四体の門番は永い年月に晒されたのか、一部風化しています。

 どれだけの年月を重ねたのか計りしれません。


「扉は開いたままの状態を維持していられますか?」

「はい。一度開いてしまうと、そのままです。閉じ込められる心配はないですよ」

「そうですか。いえ、妖精族がいない彼方のパーティーはどうするかと、気になりました」


 そうですね。

 遺跡の成り立ちを調べていない様子でしたね。

 カズバルの村長さんを取り調べはしてないですから、遺跡にどう入るつもりだったのでしょうか。

 そこまで、お膳立てしないと、いけなかったのでしょうか。

 他力本願は、良くないと思います。

 勇者の名が泣きます。


「さあ、行くぞ。露払いは任されたからな」

「はい。先行します」


 ラーズ君が先頭に立ちます。

 中衛に私とアッシュ君。

 最後尾にリーゼちゃん。

 いつもの、順番です。

 異界化した遺跡の内部は、灯りがひとつとしてありません。

 ラーズ君の狐火とアッシュ君の【魔灯(ライト)】が、辺りを照らします。

 格段とみやすくなりました。


「魔物、気配薄い」

「永年、閉ざされていた割りには魔素が薄いです」

「それだけ、魔力喰いに食われたな。リーゼ、一番デカイ魔物の気配は、最奥にあるか?」

「ある。動きない」


 異界化した遺跡の内部は表側の石作りとは、また違った雰囲気を醸し出しています。

 緑の気配はなくなり、苔や蔓草は見当たりません。

 燭台や壺が飾られた通路は、神国で拝見した重厚な神殿を思いだします。

 そうです。

 神殿です。

 赤絨毯が敷き詰めてありましたら、なおいっそうに旧い遺跡だとは思えません。

 外壁とは違い、内部は風化していません。

 魔素が薄いことと言い、魔物が暴れた形跡が見当たらないことと言い、何だか遺跡攻略の感動が薄れてきています。

 異界化の影響下でしょうか。


「どうやら、最奥まで一本道な様です」

「ん。風も一方行」


 リーゼちゃんも、ラーズ君に肯定します。

 これでは、露払いは出来そうにないです。

 肩透かしを食らいました。


「こんなに、楽な攻略が有って良いのでしょうか」

「安心する。魔物来る」

「前方三個体、後方七個体が接近」


 あら。

 フラグを建ててしまいました。

 アッシュ君を除いて、各自の武器を構えます。

 ラーズ君が前方、リーゼちゃんが後方。

 私は、中間の位置に着きます。

 ラーズ君程ではない鋭敏な耳を澄まします。

 前方と後方の接近してきます速度は、若干後方の方が速いです。

 壁を背にして、矢をつがえます。

 後方から接近する魔物の姿を視認しました。


「ギャアアア‼」

「あっ。しまった」

「何だ、まだ駄目だったか」

「兄さん。セーラ、確保して」


 くも。

 くも、くも。

 蜘蛛が襲ってきています。

 力一杯引き絞った弓を放ちます。

 狙いなんて、付けてはいられません。

 無茶苦茶です。

 次の矢をつがえる前に、アッシュ君に抱えられました。


「いやぁ。アッシュ君、蜘蛛が、蜘蛛が来ます」

「分かっている。蜘蛛は、リーゼが殲滅したぞ。もういないからな」


 幼子の様に縦抱きされて、首にしがみつきました。

 攻撃の意思が無くなりましたので、弓は無間収納(インベントリ)へと収納されました。

 迷宮でアラクネを退治した時には、沸かない混乱に見舞われてしまっています。

 何でですかね。

 迷宮と遺跡の違いは何でしょうか。

 アッシュ君がいるか、いないかの違いしか思い当たりません。

 ふえええん。

 蜘蛛だ。

 蜘蛛がいるよぅ。

 カサカサ言っています。


「第二陣か。厄介だな。仕方ないな」


 後方を見れません。

 前方を見ましたら、音を立てて蜘蛛がやって来ます。

 また首にしがみつきました。

 嫌だよう。

 早く殲滅して欲しいです。

 私を戦力に加えないでください。

 涙が滲んできました。


「目を瞑り、耳を塞いでいろよ」

「はいぃ」


 言われた通りにします。

 アッシュ君が魔力を高めます。


「出でよ、緋龍。我が敵を焼き尽くせ」


 身体の動きで、腕を一振りしたのが分かります。

 濃密なアッシュ君の魔力を間近に感じて、熱気が伝わってきます。

 四方八方に熱気が走ります。

 甲高い魔物の悲鳴が聴こえてきました。

 思わず耳を押さえる手を外してしまいました。


「アッシュ君?」

「まあ、安心して運ばれておけ。また、騒がれたら面倒だ」

「うう。ごめんなさあい」


 素直に謝ります。

 迷惑をかけてしまいました。

 大反省です。

 これが、命をかけた場所でしたら、顰蹙どころではありません。

 大大迷惑です。

 聖女さんにやらかされたら、苛立ち行為です。

 まさか、私がある意味敵前逃亡するとは。

 抱き上げられたまま、大人しく運ばれています。

 ああ。

 穴が有りましたら、入りたい心境です。

 何処かに、深い穴はありませんか。


「後方は、おれが担当する。前方の魔物を警戒していろ」

「はい。セーラをお任せします」

「ん。魔物、近付けさせない」


 うう。

 ラーズ君とリーゼちゃんの気遣いに、涙が溢れます。

 本当にごめんなさい。

 情けが身に染みます。


「セーラの蜘蛛嫌いは、半分はおれに責任があるしな。セーラは、悪くないだろう」

「ふええ。何が有りましたか」

「いや。蜘蛛嫌いを無くそうとして、やらかした。本気でトールに抹消されるかと思った」


 えー。

 記憶にありませんが。

 何が起きていたのか、聴くのが怖いです。


「あの時は、良かれと思ったのだがな。今思い返せば、危険な行為だった。ギディオンにも半狂乱で殴られたし、イザベラにも大魔法食らった」

「記憶にございません」

「だろうな。五日は魘されて寝込んだしな。トールに半殺しにされた程だ。記憶にないほうがいいが、遺跡とおれの組合せが思い出しかけているのかもな」


 うえっ。

 アッシュ君は何て事のないように言いますが、私にしたら大問題です。

 トラウマ解消が、更なるトラウマを発生した訳ですか。

 絶対に思い出すな、私。

 うん。

 絶対にです。

 欠片も思い出すなです。


「それ、ラーズ君とリーゼちゃんも知っていますか?」

「ん? 多分知らないだろう。合う前の時期だ」


 どおりで、過保護なリーゼちゃんが、遺跡攻略に反論しなかった訳です。

 知っていましたら、梃子でも譲らずに反対していましたでしょう。

 下手をしたら本性に戻り、暴れていたかもです。

 そうしていましたら、ラーズ君でも止められなかったでしょうね。


「そう言った事情は、前以て教えて欲しかったです」

「うん。済まん。おれにも、想定外だった」


 涙目で訴えましたら、謝られました。

 アッシュ君にも忘れられていた、私のトラウマ。

 きっと、このまま一生に付き合って行くしかないのでしょう。


「兄さん、最奥に着きました」

「魔物、排除した。後は、中に一体」


 話していましたら、最奥に着いていました。

 短い距離が永く感じました。

 蜘蛛に怯えていたのが、悪かったですね。

 完全にお荷物になっていました。

 これからは、挽回しなくては。

 アッシュ君の腕の中で意気込みました。


「セーラ、おいで」

「リーゼちゃん。お荷物になってしまって、ごめんなさい。ラーズ君も、ごめんなさい」

「よしよし。セーラは、悪くない」


 アッシュ君の腕から、リーゼちゃんに抱き上げられました。

 足元の魔物の遺骸はラーズ君に燃やされたのか、原型を留めてはいません。

 二人とも苦笑しています。

 迷惑をかけましたのに、苦笑で済ましてしまうのが二人の優しいところです。

 本来なら苦笑で済ましてはいけないのに。


「仕方がありません。兄さんと遺跡が旧い記憶を、呼び覚ましかけたのですから」

「ん。兄さんの責任大」

「まあ、そうしておこう」


 アッシュ君も、優しいです。

 何て甘い家族なんでしょう。

 リーゼちゃんに抱き上げられたままでは、格好がつきませんが、魔力喰いは蜘蛛ではありませんから、討伐には役立ちますよ。

 勇者?

 彼の実力には似合わないランクの魔物です。

 最終的には、此方にお鉢が回ってきます。

 聖女騎士団も、帝国の騎士団も、魔剣を所持している方が多かったです。

 魔法戦になり、魔力喰いを活性化させるだけですよ。

 魔力喰いには、物理攻撃あるのみです。

 あれ?

 そう言った魔物の情報は、話してないように思います。

 帝国側も抜けていますか。

 情報収集は大事ですよ。


「セーラ、大丈夫?」

「あっ、はい。大丈夫です」


 私が気にする案件ではないですね。

 彼方も、ダークエルフに心配されたくはないでしょうし。

 一撃死しない限りは、回復してあげます。

 きちんと、回復要員は勤めます。

 さあ、頑張っていきましょう。


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