第45話
月曜投稿です。
やっとです。
やっと、遺跡に辿り着きました。
普段の倍は時間が掛かりました。
私達は悪くありません。
聖女さん側の休憩時間が長く、遺跡に着いたのはお昼になってしまいました。
帝国の引率者たる朱の死神さんは、見放したのか何も言い出しません。
遺跡前の広場で食事休憩を宣言して、各自のパーティに別れました。
聖女さん側は、またシートを広げて料理人が作ったであろうバスケットを開けています。
私達も、適当な場所で昼食にします。
携帯型魔導具コンロにお鍋を設置して、リーゼちゃんにお水を満たして貰います。
材料とスープの素を入れて、鶏肉のシチューを作りました。
パンは朝に焼いておいたものが、あります。
一戦前ですから、腹八分目を心掛けました。
「暖かな料理を味わえるだけ、有り難いですよ」
「ん。食べ過ぎ注意」
「こんなものだろう。セーラがいると、携帯食に頼らなくて済む」
三者三様の答えが返ってきました。
アッシュ君。
亜空間を所持していますから、暖かな料理を前以て購入出来るでしょうが。
全く、ずぼらなんだから。
ジェス君が真似しない様にお願いしますよ。
「魔人。妖精姫。頼みがある」
シチューを配膳していますと、死神さんに頼られました。
「暖かな料理が余っているなら、部下に別けて貰いたい」
「いいのか。亜人が作ったシチューだ。後で、腹でも壊した理由にされたくはないぞ」
「構わん。腹を壊した部下は切り捨てる。生憎と、帝国の携帯食はまずい。暖かな料理を食えるだけましだ」
大食漢なリーゼちゃん用に大鍋で、作りましたから部下の皆さんにも十分に行き渡ります。
忌避感がないのであれば、兎や角いいません。
アッシュ君が言質をとりましたから、毒の有無には責任が被せられることは無くなりました。
「まあ、此方は構わん」
「良し。頼んだ。皆、並べ。暖かな料理を味わえ。だが、腹を壊したら責任は自分にあると思え」
欠食児童もかくや。
帝国の騎士さんが、お鍋の前に並びました。
どれだけ、帝国の携帯食は不味いのでしょうか。
つき出されるお椀に、シチューをよそっていきます。
総勢二十名程の騎士さんは、行儀よく並んで配膳されていきます。
ご苦労様です。
最後に並ばれた死神さんに、頭を撫でられました。
「無理を言った。助かった」
「いえ。どう、致しまして」
まるで、敵対しているのを感じさせられませんでした。
死神さんは、他種族に寛容ですね。
見世物になっていました妖精族を案じていましたし、帝国の中でも異端だったのではないでしょうか。
「ああ。済まん。妹と混同した」
驚いていますと、苦笑されました。
妹ですか。
はい。
外見年齢通りに見られていました。
帝国との縛りが無ければ、甘えて見せても良かったかもです。
靡くつもりではないですが、この人何だか憎めないのですよね。
側に、問題児の群れがいるせいか、苦労をしていますのを見ているからか、そう感じてしまいました。
「セーラも、ハーヴェイさんも、食事をしてください。折角な暖かなシチューが冷めてしまいますよ」
「そうだな。噂の妖精姫のシチューを堪能させて貰う」
「はい。どうぞ」
死神さんは、部下の皆さんの処に戻られました。
微妙に気になります。
が、私も食事に専念しましょう。
リーゼちゃんの隣に座りました。
「あれ。純粋に撫でた」
「そうですね。下心ありませんでした」
「いたぶられていた妖精族を見逃されたのも、妹さんを思い出したからですかね」
「あれの妹なら、幼い時分に皇族の阿呆の身代わりにさせられ、下半身に障害が残っている」
アッシュ君の何気ない言葉に、沈黙させられます。
よく、職業軍人になりましたよね。
皇族を恨まなかったのでしょうか。
「かなりの賠償金が支払われ、事故その物が無いことにさせられている。だから、あれは妹と同じ年頃の娘には甘い」
「の、割りには聖女には怒鳴っていましたよね」
「怒鳴るのは関心があるからだ。無ければ、無関心を装うだろう。今は、兄と勇者が張り付いているからか、諫言ができないな」
成る程。
何とかの裏返しは無関心だと聴きました。
それでしょうか。
私には、ラーズ君とリーゼちゃんにアッシュ君が付いています。
安全性には問題がありません。
不備があるとしますと、聖女さん側の一行です。
顔の美醜で選ばれた聖女騎士団の実力は、不安視されています。
逃げ出した不忠義者もいました。
何事もなく過ごしていますが、罰せなくて良いのかなと思います。
逃げ出した先で帝国の機密情報を喋らないとは、限りありません。
その辺りは、どうなっているのか、気になります。
「アッシュ君。聖女騎士団の出奔した人は、どうなりましたか?」
「ん? ああ、人里に辿り着く前に、魔物に食われたし、あっちの影者に処断された」
顎先で示されたのは、輪の中心にいる聖女さんのお兄さん。
思ったとおりの、結末に溜め息が零れます。
「しっかりと、監視されているのですね」
「まあな、邪神討伐は帝国の肝いりで始められたからな。何としても、成功させなくてはならないし、不確定要素はすぐに排除だ」
「僕等も気を付けておかないと、背後から強襲されても可笑しくはないですね」
「ん。特に、セーラ。離れず、守る」
「リーゼが本性で暴れださない様に、気を付けてくださいよ」
「むう。分かっていますよ」
そんな事になりましたら、リーゼちゃんに帝国の刃が向けられてしまいますよ。
竜殺しの名声目当ての、お馬鹿さんが殺到してしまいます。
それは、絶対に回避をします。
処で、食事を終えたのに、何時まで休憩ですか。
この時間配分ですと、日が暮れてしまいます。
帝国の騎士さんは、とうに準備に入っています。
異界化した遺跡の内部を探索に赴いています。
聖女さん側を見ますと、あろうことか聖女さんは横になっていました。
まあ、悪路を我が儘言わず進んだのは称賛に値しますが、お昼寝時間ですか。
そうですか。
阿呆ですか。
休憩地は安全ではありません。
何をしてやがりますか。
緊張感は何処に行きましたか。
拾って来なさい。
あっ。
気付いた死神さんが、怒鳴り込みに行きました。
余り怒声を響かせると、魔物を呼びますよ。
「この、お花畑な思考を止めろ。ここは、敵地にも等しい場所で、安全ではないのだぞ。伯爵も、油断するな。死にたいのか」
「ぼく達の安全を守るのが、帝国の騎士の役目だろう。それに、アンジェの体調は万全にしないと、癒しの効果が落ちる」
「……何の為に、妖精姫がいる。眠気覚ましに、薬でも貰え」
「えー。何でダークエルフの薬に、頼らないといけないんだ。毒を渡されるの、嫌じゃん」
「勇者様。ありがとうございます。でも、騎士様の言う通り、軽率でした。充分に休めましたから、邪神討伐に参りましょう」
意気ごみだけは良いのですが、態とらしくふらついて見せる聖女さんに、呆れます。
余程、私の薬の厄介にはなりたくはないらしいです。
昨日は頬を張りましたから、敵愾心を持たれたようすです。
まあ、私は気にしないでいます。
昨日のポーション代は、請求済みです。
まだ、支払われていませんが。
「おい、魔族達。先に行って、魔物を殲滅してこい。邪神討伐は、勇者様の獲物だからな」
「何を勝手に決めつけている。魔物の一匹でも退治してから、大口を叩け」
「何だよ、あんたも魔族の仲間入りか。なら、宗敵だな」
「勇者殿。戯れも程々にしなさい。ハーヴェイ殿は、味方だよ。帝国の騎士を妄りに宗敵発言は、勇者殿でも赦されない」
死神さんに食って掛かる勇者は、嗜められて頬を膨らましています。
何でも、宗敵扱いすれば大義名分から処断しても構わないと、優越感に浸っています。
お花畑な聖女さんに、お馬鹿な勇者。
本当に、邪神討伐出来ると思ったのなら、勇者教にもお馬鹿な指導者がいるのですね。
「勇者の発言に魔族は従おう」
「魔人。何を考えている」
「だから、露払いはするが、邪神討伐には関わらないと宣言しておく」
怪訝な面持ちの死神さんに、アッシュ君は言い放ちます。
それは、一種の約定です。
勇者の独断で、私達魔族は邪神討伐には関係がなくなる。
即ち、討伐失敗になっても、責任は問われない。
勇者、よくやりました。
これで、どう対処しても私達に罪はなりません。
何しろ、勇者教の信望する勇者直々に下された命令です。
やる気に満ちてきました。
「では、邪神以外の魔物は任せて討伐してくる。行くぞ」
「「はい」」
「了解」
食事の跡片付けを済まし、遺跡に乗り込みます。
視界の端で、死神さんが頭を抱えているのが、映りました。
ご愁傷さまです。
肝心要の戦力に、そっぽを向かれてしまいました。
邪神以外の魔物は、任せて討伐しますよ。
それ以外は、ノータッチです。
頑張れ勇者。
君の肩に帝国の未来はかけられました。
「ちょっと、待ってくれ。勇者殿の他愛ない発言に、重きをおかないでくれないか」
「煩いな。たかが、聖女の兄が、勇者の言葉を撤回できるつもりか」
「お兄様? 勇者様のお言葉通りにしましょう。勇者様のお力は、邪神以外の魔物には、振るう訳には行きません」
「アンジェ。そうはいかないよ。遺跡の魔物は、彼等に退治して貰うのは賛成だ。しかし、邪神討伐には、魔族の協力が必要なのだよ」
「可笑しいですわ、お兄様。神託には、勇者様のお力でしか邪神は討伐できないとあります。幾ら、お兄様でも神託には、従って頂きます」
「アンジェ?」
ふむ。
聖女さんが、珍しくお兄さんの言いなりには、なりません。
それだけ、神託には重要視しているのですね。
お兄さんも、神託をだされたら、黙るしかありません。
何を企んでいたのか、神子かもしれない私と離れるのを忌避しているのが、見てわかります。
隷属させたいのが、ひしひしと伝わってきています。
お兄さんは、侮っていた妹に反論を封じられて、悔しげに顔を歪めています。
こういうのが、ざまぁですかね。
私達にとりましては、お荷物を気にしないで魔物を狩れますから、安全性は揺るぎがないです。
ラーズ君とリーゼちゃんが揃っています。
迷宮を探検した緊張感で赴きたいです。
さあ、やっと鬱憤晴らしの前哨戦が始まります。
フランレティアに邪神が封じられていると、大陸に激震を震わせた帝国への、盛大な意趣返しが始まります。
トール君の企みが何か分かりませんが、頑張って演じてみせますよ。
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