第43話
水曜投稿です。
あっ。
魔霊草見つけました。
魔物に踏みつけられる前に採取しないとなりません。
ぶん。
長戦斧を横凪ぎしました。
只今、遺跡譜へと至る道筋の、魔物を間引きしています。
ラーズ君がいませんので、私も前衛で討伐しています。
「リーゼちゃん。暫く、魔物を引き離してください。魔霊草を採取したいです」
「了承」
横凪ぎした魔物に止めを差しながら、リーゼちゃんにお願いしました。
魔霊草は、魔力回復薬の原材料になります。
薬草が魔素をふんだんに蓄積して、変質しましたのが魔霊草です。
魔素溜りの近くに群生します。
工房のお店でも、上級ポーションと並んで販売数が多いです。
リーゼちゃんが風の膜を展開して、周囲を威圧しています。
引率のアッシュ君は、肩を竦めて見逃してくれました。
薬草の群生地を見つけてしまいましたら、調薬師がやることといえば採取です。
諦めてくださいな。
なにも、全て採取する訳ではありません。
手持ちが心途もない素材ですから、採取出きるならば採取したいのです。
魔物の群れに囲まれていましても、リーゼちゃんがついています。
私には傷ひとつ負わない、安全を確保してくれます。
手早く、採取しました。
「リーゼちゃん。ありがとうございます」
「もう、いい?」
「はい。取り尽くしは駄目です。カズバルの村が再興しましたら、貴重な収入源になるかもです」
「ん。分かった」
武器を構えます。
リーゼちゃんが一瞬風の膜を広げ、魔物を吹き飛ばします。
間髪入れずに、長戦斧を振るいます。
ホーンラビット、フォレウルフ、ビックボア。
魔素に歪められた魔物が、断末魔をあげて倒れます。
食料にしない魔物の駆除に、森の生態系が壊れてしまわないか、少し悩みます。
「セーラ。右手側に草ある」
「本当です。あれは、服用すると麻痺を与えます」
「毒?」
「そのまま口に入れてしまうと、半日は麻痺してしまいます。けれども、複数の素材と混ぜ合わせれば、耐麻痺薬にもなります」
「採取する?」
「では、少しだけ」
幸い、魔物の群れの来襲は小康状態になりました。
索敵は、リーゼちゃんにお任せして、採取します。
麻痺草は、素手では触れません。
分厚い手袋をして、慎重に空き瓶に入れていきます。
毒薬関係の素材には、触れただけで人体に悪影響をもたらす場合があります。
慎重さが求められます。
「随分としっかりしてきたな」
採取し終わりましたら、アッシュ君に感心されました。
うう。
調薬師見習いの時分には、毒草と薬草の見分け方に難ありでした。
何度も失敗してきました。
錬金術師のメル先生のお叱りを沢山受けました。
間違えたら、一抱えはある薬草辞典を暗記させられ、テストに合格しないと採取には行かせてくださいませんでした。
「これでも、上級調薬師です。成長したのですよ」
「ん。いい子」
胸を張ります。
リーゼちゃんが頭を撫でてくれます。
師と付きます職業には、階級があります。
見習いから始まり、下級、中級、上級、特級です。
試験に合格すれば、中級までは取得できます。
上級、特級は、新薬を開発したり、流行病を駆逐したり、世間に貢献したりすると、職業神様から認定されます。
私も、上級ポーションの改良型を開発しましたので、上級位になりました。
後は、霊薬のエリクサーの調薬に、新しいレシピを開発しました。
魔力過多症の特効薬を開発したら、特級位に届くやもしれません。
目標は高ければ高いほど、目指しがいがあります。
「あの、小さく震えて泣いていた幼子が、見違えて成長したな」
「何時の話ですか。これでも、人族の半生は生きてきていますよ」
「ん。セーラに同意」
「はは。リーゼもセーラも、おれからにしたら、まだまだ子供だぞ。だか、ラーズも含めて、頼りがいがある子に成長した。時が流れるのも速いな」
アッシュ君は、感慨深い言葉を口にします。
そうですね。
魔力が寿命に影響する魔人族のアッシュ君にしたら、私達なんてまだまだお子様です。
ヒヨコは卒業しているかと思いたいです。
「そろそろ、移動するか。今日は遺跡まで行くか」
「妖精族のセーラが行っても、安全?」
「どうだろうな。不確かな情報しかないから、行くのは止めておくか」
「兄さん。遺跡方向、魔物、気配薄い」
「そうか。魔力喰いに喰われたか、逃げたかだな。リーゼ、大型の魔物はいるか?」
「否定。森にはいない」
確かに、大型の魔物に出会えてはいませんでした。
精々、中型の魔物ばかりでした。
以前は、家一軒分の大型な魔物と遭遇しています。
何処に行ってしまいましたか。
アッシュ君の言うとおりに、魔力喰いに食べられてしまいましたか。
と、しますと。
かなり、進化しているのではないでしょうか。
早めの討伐をしておくべきでしたかね。
ですが、それほど時間を与えてはいない筈です。
明日の決着を待つほかありません。
トール君の装備に身をつけた勇者の、活躍を待ちましょう。
どうにもならなくなりましたら、アッシュ君の力業で対抗しますか、トール君の聖属性に期待です。
私達は、お手伝いをしましょう。
雑魚は任せてくださいね。
「魔物、接敵まで、少し」
「シルバーウルフの群れだな」
「では、弓の出番です」
シルバーウルフの毛皮は防寒具に最適です。
工房で頑張るギディオンさんの、お土産にしてしまいましょう。
今まで倒した魔物は、アッシュ君の別な亜空間に収容しています。
冒険者ギルドにて売買するも、工房の皆さんのお土産にするも、後日決めます。
長戦斧を仕舞い、弓を武装します。
私達目掛けて襲いかかる、シルバーウルフの眉間を狙います。
一矢狙い違わずに刺さりました。
リーゼちゃんは風魔法で動きを封じこめ、首を折っていきます。
「おれの出番はないな」
群れの半数を駆逐していきますと、敵わないと判断したシルバーウルフは散り散りに逃げだしました。
アッシュ君は、私とリーゼちゃんの活躍に笑顔です。
不肖の弟子は武術の腕も、日々精進しているのです。
シルバーウルフの遺骸を、無限収納に収納しました。
「さて、どうするかな」
「兄さん、ラーズからの念話。馬鹿が森に飛び出した」
あらら。
ラーズ君から、装備の力試しをしようと勇者が、結界を抜けた。
呆れた念話が届きました。
思わず、三人溜め息を吐き出しました。
仕方がありません。
村へと戻ります。
やや、憂鬱になってきました。
実戦経験がない勇者と聖女騎士団の、警護をしなくてはならないなんて。
嫌ですね。
歩く速度は緩やかです。
〔勇者と聖女騎士団の一部が、嬉々として森に入りました。先生と僕は、何の因果か朱の死神さんと、後をつけていますよ〕
〔ん。気配掴んだ。ゆっくり、合流中〕
〔出来れば、急いで合流してほしいです。今一人、ホーンラビットに足を刺されて、絶叫しています〕
〔癒し要員は、どうしていますか?〕
〔聖女なら、出血に驚いて卒倒間近です〕
役にたたず卒倒間近ですか。
本当に何しに来たのだろうか。
疑問が沸きます。
傷を受ければ出血に至るのは当たり前です。
癒し要員は聖女一人だけです。
死神さんの部下には神官がいませんでした。
ああ。
私をあてにされているのでしたね。
遺憾ながら、役目を全うするしか無さそうです。
帝国の役にはたちたくはないのですが。
怪我人がいるのならば、四の五の言ってはいられません。
〔勇者が、ワイルドベアにはね飛ばされました。介入します〕
〔了承。頑張れ〕
〔はぁ。勇者は装備のお陰で怪我はありませんが、気絶しました〕
〔〔弱っ〕〕
リーゼちゃんとハモりました。
ワイルドベアに一撃を食らい気絶。
地面を叩きたくなります。
リーゼちゃんに通訳されましたアッシュ君も、苦い表情で足を早めました。
ラーズ君が介入しましたから、一行の安全は確保されたも同然です。
が、ワイルドベアが、出現した。
村近辺に脅威になる魔物が移動してきていると、結論に至りました。
「走るぞ」
「はい」
「了承」
身体強化を施し、走ります。
全力疾走で、村へと戻ります。
すると、剣戟と怒声が聴こえてきました。
ワイルドベアを視認しました。
一個体ではなく、三個体いました。
此方に背を向けているワイルドベアの延髄を狙います。
グアアアッ。
狙いが少しずれました。
ワイルドベアが振り向きます。
そこへ、リーゼちゃんが飛び込み、顎下に容赦なく掌底をかまします。
五メートルは吹き飛ばされたワイルドベアは、地面に墜ちて絶滅していました。
「次」
複数人でワイルドベアに対峙している場に、リーゼちゃんは移動していきます。
私は蒼白な顔色の聖女さんに近付きます。
呆然と立ち尽くしている聖女さんの頬を叩きました。
「何を呆けているのです。怪我人がいるのです。回復しなさい」
「えっ? えっ? わたしがするの。あんなに一杯の血が出てる。恐い、お兄さま」
現実を認識していないのか、傍らにいたお兄さんにしがみつく聖女さん。
自分の騎士団が、怪我をしているのでしょうが。
怒鳴り付けたくなりました。
ですが、無駄だと悟りました。
踵を返して、小型ポーチから中級ポーションを取り出します。
戦闘はラーズ君とリーゼちゃんに任せます。
私は、回復要員に徹します。
ホーンラビットに足を刺された騎士の、負傷箇所にポーションをぶっかけます。
飲んでくださいとお願いしても、素直に飲んではくれないと思ったからです。
次は、ワイルドベアの爪にお腹を抉られた重症患者です。
制止を降りきって、ポーションをまたぶっかけます。
「何をする」
怪我の治療を妨げた私に剣呑な眼差しがむけられました。
わたしは、無言で負傷箇所を指します。
と、ポーションがかけられた負傷箇所が癒えていきます。
「この通り、回復ポーションです。次の怪我人は、何方ですか?」
「あ、ああ」
傷に呻いていた重症患者が、穏やかになりましたのを、目の当たりにした怪我人が集まりました。
中には、掠り傷の怪我人もいましたが、治療しましたよ。
今回使用しましたポーションの内訳は、中級ポーションが6本、3600ジル。
下級ポーション23本、6900ジル。
後払いになりますが、必ず請求してもらいますから。
無謀にも危険な森へと足を踏み入れた代償は支払って頂きます。
ワイルドベアが退治されたら、聖女さんが勇者に気がつきました。
「勇者様。いま、回復致します」
「アンジェ、勇者殿は気絶しているだけだよ。安全な場所で治療しよう」
「そ、そうですね。皆さん勇者様を運んでくださいな」
聖女さんの声に魔力が乗ります。
が、治療を躊躇った聖女さんに、不信を覚えた様子の聖女騎士団の一行は動こうとしません。
信望していたトリシアの領主の息子さんは、口を真一文字に結び聖女さんの動向を見ているだけです。
魅了魔法が解けてきています。
「皆、どうしたの?」
聖女さんから、甘ったるい魔力が噴き出しました。
魅了魔法ですね。
のろのろと魅了に取り憑かれた騎士団が動き出しました。
「所詮は紛い物の忠誠心か。瓦解するのも時間の問題か」
人族より鋭敏な耳が小声を拾いました。
呟いていたのは、聖女さんの兄です。
どことなく、覚めた感想に苛立ちが混ざっています。
己の妹に下す判断ではないと思います。
〔セーラ。短気は駄目です〕
ラーズ君に制止をされます。
自然にリーゼちゃんが寄り添ってくれました。
歪な兄妹を見せつけられて気分は最悪です。
コテージにもどりましたら、ラーズ君のブラッシングをさせて貰えないでしょうか。
ジェス君にも癒されたいです。
ブックマーク登録ありがとうございます。




