第9話
今夜の宿は何と、ギルド長さんのお家に決まりました。
当初予約して下さいました宿の従業員に、野良猫(猫君)を保護したことを伝えた処、難色を示されたのです。
結構高級感のある宿でしたが、従業員の教育が行き届いてないようで、露骨に嫌悪感を丸出しして追い出そうとしていました。
汚い、病気を持っている等声高に話されるので、面目を潰されたギルド長さんは静かにお怒りになりました。
真っ青になる宿の主人に暇を告げると、私達3人を自宅に案内して下さいました。
こちらとしましても、不快な従業員がいる宿は遠慮したいです。
あの従業員は獣人のラーズ君も見下した発言をされていたので、他種族に良い感情を抱いていないようでした。
念の為、私はフードを被りなおしていましたので、矛先がラーズ君にむいたのでしょう。
ラーズ君の魅惑的なもふもふ尻尾を貶すなんてありえません。
「重ね重ね申し訳ない」
「頭をあげて下さい。ギルド長さんに責任はありません」
「ラーズ君の言う通りです。悪いのはあの従業員の方です」
せめてものお礼にと、食材を自宅への道中買い求め、夕食を作らせて貰いました。
その最中ギルド長さんは怒りを持続させていまして、食事が終わるなり謝罪なさいました。
「弁護する訳ではないが、ここ最近街中が不穏な空気に包まれていてな。加えて騎士の不始末による水源地汚染が知れ渡り、トリシア周辺の移動規制がでた」
「水の汚染だけで、規制ですか? おかしくありませんか?」
それで門が閉鎖されていたのですね。
情報を知らない方が門に集い、列を為していたという訳ですか。
「あぁ、疑問は最もだな。実は今シルヴィータには、帝国から使者が訪れている。表向きは定例のご機嫌伺いだそうだが、今回は厄介な聖女様のご一行が一緒だった」
うわぁ。
因縁ある名称が出て参りました。
何故か精霊様は教えて下さらなかった情報です。
知らせて下さっていたら、リーゼちゃんの提案通り、シルヴィータには飛竜はいないので、空から帰ろうとしましたのに。
もしかすると、それを危惧されていましたか。
動揺を悟られないように、料理の間ラーズ君に預けていました猫君入りのポーチから、猫君を抱き上げます。
猫君はミィミィと鳴いて胸元に爪を起ててきました。
ラーズ君には私が料理をしている間に、猫君を濡れタオルで拭いて貰うよう頼んでありました。
汚染が心配なお水はリーゼちゃんの魔法に頼り心配しなくて良かったのですが、途中で目が覚めた猫君の鳴き声には驚かされました。
赤ちゃんの絶叫に近いものがあり、近所迷惑にならなかったのが不思議な位でした。
ラーズ君曰く、私の手だと思われたのが見知らぬ獣人の手だと気付き、恐慌状態になった模様でした。
ラーズ君はお風呂場から逃げ出そうとした猫君を、難なく捕まえ鳴き声をものともせずミッションを達成してくれました。
しかし、猫君は解放後暫くは警戒心極限状態で、ポーチの中に潜り込んでしまいました。
猫君用に作った流動食には見向きもしてくれませんでした。
祠で与えたポーションと飴以外まともな食事をしていませんから、お腹が空いていると思うのですが。
そんなに、怖がらせてしまったのでしょうか。
「聖女と言いますと、実りの聖女の事だと思いますが、よほどの事がない限り帝国外への招聘には応じていないはず。単なる観光だとは思えません」
「シルヴィータは中立国だが、それがいつまで保たれるかわからん。我が国の王位継承権を持つ人物が、聖女の騎士団に加入してしまったのだ。そして、トリシアの領主の息子が彼と乳兄弟な為、ある情報を聖女に教えてしまい、水源地が汚染される結果になってしまったという訳だ」
「ある情報も気になりますが、僕達に国の内情を教えて良いのですか? 機密情報ではないですか」
「賢者様狙いなら無駄。先生帝国嫌いだけど、不干渉貫く」
なんだか単なる討伐依頼で終わる話ではなくなってきました。
もしかして、落ちた収穫量を回復させる為豊作を強要し、自国の権勢を優位に保つ手駒として神子誘拐を企んだのだとしたら、シルヴィータの内情は何処まで堕ちているのでしょうか。
「実は今回君達をトリシアにと推薦したのは、トール殿ではないんだ」
「先生ではないなら……! もしかして、相談されたのは、あの人ですか?」
「トリシアには竜を討伐できるA級冒険者が、依頼によって王都に召集させられていてな。ギルドの緊急連絡網で駄目元で相談したら、丁度その辺に弟妹達が居るから任せろと言われたんだ」
再びの、うわぁです。
神殿とお話し合いをしているはずのトール君が先手を打つには、時間軸がおかしいとは思いましたが、そうきましたか。
つまり、神子誘拐とトリシアの異変は某か関り合いがあり、選択肢に回避は無いと言うことですね。
リーゼちゃんの帰ろうコールが途絶えました。
ラーズ君も肩を竦めています。
それだけ、私達3人の兄貴分は容赦なく、恐ろしい存外なのです。
何しろ二つ名が歩く災厄です。
ギルド長さんも易々と名前を呼べません。
きっと、自前の千里眼と地獄耳で、私の窮状を察知されているのですね。
これは何としても討伐を完了しなくてはいけなくなりました。
月曜投稿分です。
明日も投稿します。