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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
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第33話

月曜投稿です。


 遺跡方向から溢れでて来ました魔物の群れは、最凶な魔人様に呆気なく殲滅されました。

 私達と合流したアッシュ君は、涼しい顔で使い魔さんに何やら指示をしています。

 見張りと間引きですかね。


「アッシュ君。ポーション要りますか?」

「いや。必要ない」


 ポーション瓶を掲げて尋ねてみましたが、案の定必要ありませんでした。

 これぞ、朝めし前と言ったやつです。

 アッシュ君にとりましたら、何て事のない準備体操だった模様です。

 一撃で殲滅でしたしね。

 私達とは、格が違います。


「珍しいな。アッシュが、遺跡とやらの封印を解かれるとは」

「ああ。少し警戒し過ぎた。まさか、おれ達への腹いせに命を掛けるとは、予想外だった」


 最初に出会いました印象は、善良で温厚な方だと思っていました。

 少々、孫に甘いお爺さんだと認識を改めましたが。

 自分の命と村人を省みないやり方に、リック少年の血筋だと考えさせられました。

 なにしろ、思い込んだら一直線ですからね。


「そんで、遺跡はどんな様子だ」

「何百年分の溜まりに溜まった瘴気と魔素が一気に溢れだし、異界化していた遺跡を更に塗り替えていっている」

「攻略難度が上がったか」

「確実に聖女の浄化は、焼石に水となったな。大神官級の浄化でも、無理だろう」


 と、なりますと、秘術の降臨に頼るしかないです。

 フランレティアに、神降しを出来る徳の高い大神官がいるとは、思えません。

 神国からの派遣は無さそうですし。

 どうやって対処しましょうか。

 こっそりと、アッシュ君を見やります。


「どうした。何か意見か」

「面倒くさらずに、アッシュ君が真剣に浄化したら良いのではないでしょうか」

「あ~。それは、最後の最後な奥の手な。聖女一行が着いたら、先ずはお手並み拝見だ」


 聖女さんの浄化は無理だと分かっていても、挑戦させるのですか。

 効率悪くないですか。

 いっそのこと、私達だけで攻略するのは、駄目でしょうか。


「納得してない顔だな。アッシュに頼むと、帝国への意趣返しが出来ないんだよ。俺のプランでいくと、明後日には第一の策を披露してやるから、見物だぞ」

「成る程、例の策をやるのか」

「おうよ。関係各所には根回し済みだ。まってろ、帝国の奴等。度肝を抜いてやる」


 なんだか、トール君は楽しそうです。

 意地の悪い笑みを浮かべています。

 釣られてアッシュ君も、良い笑顔です。

 ラーズ君は、策を承知しているみたいで苦笑しています。

 私とリーゼちゃんだけが、蚊帳の外です。

 まあ、私とリーゼちゃんは腹芸が出来ないので、仕方がありません。


「賢者殿、魔人殿。皆様方、ご無事ですか」


 数人の騎士を連れて、副団長さんが走って来られました。

 鎧を着込んでの全力疾走は、辛くはないのでしょうか。

 ああ。

 魔法陣が刻んでありますから、重量は感じないのですね。

 思わず、鎧を鑑定してしまいました。


「賢者殿。なんとか、村人の説得に成功しました。後は転移魔法を使われるだけです」

「分かった。一度、戻ろうか」

「先生。結界魔法を展開したまま、転移魔法を使用出来ますか」

「結界魔法は、一日は維持出来るように魔力を込めた。転移魔法は、アッシュに頼むさ」


 ラーズ君は、遺跡の方向を気にしています。

 再度の魔物の襲撃を警戒しているのでしょう。


「大丈夫。兄さんの使い魔の方が格上」


 気配察知しているリーゼちゃんは、魔物が村から遠ざかっていると教えてくれます。

 村自体に被害が及ばないのでしたら、結界魔法は展開しなくても良いと思います。

 トール君の負担は、なるべく軽減しましょう。


「賢者殿。先程はお伝えできませんでしたが、帝国の聖女一行がフランレティア王宮に入り、賢者殿と面談したいと要請が上がっております」

「面談だぁ? んなのは、無視だ。後まわし」

「ですが、応じないのならば、聖女と勇者の派遣は取り止めると」

「阿呆らしい。邪神討伐は、帝国が言い出しっぺだろうが。自分とこの、神様の神託を無視とは、神罰もんだな」


 トール君は、取り合いません。

 世間には、帝国の勇者による邪神討伐の情報が流布しています。

 賢者様との面談一つで反故にしたりしたら、帝国の面子が丸潰れだと思います。

 トール君が応じると、確信している根拠は何処にあるのでしょう。

 謎です。


「自分の首を絞めてどうする気でしょうね」

「ラーズに同意」

「やっぱり、私達だけで攻略しませんか」

「はいはい。年少組は黙る。それだと、俺のプランが台無しだ」


 むう。

 帝国への意趣返しなら、私達が手柄を横取りしてしまえばいいと思います。

 邪神を討伐は、実りの女神さんの機嫌を良くしてしまいますから。

 再度の封印か歪みを浄化して、神格の復縁を手助けしてあげれば、意趣返しになりませんか。

 そう、主張してみました。


「まだまだたな。それだと、帝国の二番煎じになる。俺達は、正々堂々と、帝国の輩から手柄をぶんどる」

「セーラの案だと、世間の同情は帝国に集まるだろうな」

「どうしてですか?」


 トール君とアッシュ君は、否定的です。

 帝国の二番煎じだと言われてしまえば、そうですね。

 卑怯なやり方でした。

 けれども、最善な策だと思いますよ。


「邪神討伐を掲げて盛大に送り出した聖女と勇者を、出し抜いて成功して見ろ。絶対に難癖つけて、俺等を悪者にしたてあげて、世間の同情を集める算段だろうが」

「ですが、先生。勇者が討伐に失敗したら、責任を僕等に被せられませんか?」

「だろうな」

「それは、幾ら何でも無茶ぶりだと思われますが」

「頭が固いな、ガイル。その無茶ぶりをするのが、帝国だ。あいつ等に常識を求めたら駄目だ。あいつ等は、己の益に繋がると思えば他国だろうと、蹂躙して富を食い散らかして行くんだ。まるで、蝗の様にな」


 トール君は渋い表情で、帝国に滅ぼされた国々を例にあげていきます。

 副団長さんも思い返したのか、顔付きが変わりました。

 そうですね。

 まさに、フランレティアが狙われています。

 新しい鉱脈は、希少金属を産出しました。

 帝国は邪神討伐の傍らに、フランレティアの富を独占しようとしています。

 抵抗するフランレティア王族を排除してまでです。

 帝国が属国の完全支配に乗り出せば、フランレティアの国力では、耐えきれません。

 軍事力が違い過ぎです。

 素直に希少金属を差し出したとしましても、後に残されるのは疲弊した国です。

 付加価値が無くなれば、平気で見捨てます。

 帝国は、そういう国なのです。


「……蝗。そこまで、帝国は、我が国を蹂躙すると、賢者殿は言われますか」

「やるな。帝国は、皇帝の代が変われば変わる分だけ、派手に近隣諸国を併呑していく。今代は、神国と睨み合いになっているから、遠征に等は行けずに燻っていやがる。邪神討伐は、帝国の示威を顕す格好な宣伝材料さ」


 だから、帝国は今回の邪神討伐に、躍起になって聖女さんや勇者を派遣してまでも、失敗は出来ないのですね。

 私達が先攻して攻略出来ない訳です。

 でも、トール君は漁夫之利を狙うつもりでしょうか。

 アッシュ君曰く、勇者の実力は大して高くはないと言っていました。

 不仲のトール君に、装備一式準備しろと書状が来ていました。

 あれは、どうなりましたかね。

 トール君の事ですから、一応は準備しているとは思います。

 聖女さんに骨抜きになりました勇者に、扱いが出来るとは思わないです。

 お手並み拝見ですね。


「まあ、なんにしろ。明後日にはカズバル入りするんだ。俺達は前準備に勤しむわ。ほんでもって、村人の避難を実行するか」

「そうだな。瘴気も質が重くなってきた。弱っている身体には辛いだろう」


 トール君は村の広場に向けて、歩き出しました。

 私達と、副団長さんも、続きます。


 ふみゃあ。


 ぐったりと延びてしまったジェス君に気が付きました。

 そうでした。

 ジェス君をアッシュ君に預けておかないといけませんでした。


「アッシュ君。ジェス君を亜空間に保護をお願い出来ますか。瘴気が辛そうです」

「そう言えば、忘れていたな。ジェスは、瘴気耐性が無かったな」

 〔セーラちゃあん。アッシュくうん。ジェス、辛いよう〕

「分かった。ジェスは、暫くはお休みだ」


 アッシュ君の掌にジェス君は掬われました。

 力なく手足が延びています。

 そんな、ジェス君の上に魔法陣が浮かび、アッシュ君は掌を突っこみました。

 アッシュ君の使い魔さんが眠る、待機場所の亜空間です。

 優しい腕がジェス君を包む感じがしました。


「良し。ジェスは、子供好きな使い魔に面倒を任せた。トール、宿屋に戻ったら、聖光で満たした部屋を作ってくれ」

「構わねぇが。ジェス一人の為にか」

「せめて、夜位はセーラの側にいさせてやりたい」

「おおう。了解した」


 聖光で満たした部屋。

 一種の聖域です。

 子猫のジェス君の為に贅沢な部屋を作ってしまうのは、簡単に決められてしまいました。

 きっと、張り切って作ってしまうのでしょうね。

 トール君ならやります。

 村人が避難している間も宿屋には、逗留できるのでしょうか。

 その辺りは抜けていると思います。

 念の為に、魔法のテントは準備してあります。

 聖女さんの一行に、宿屋を追い出されても心配はないです。

 まあ、寂れた農村の宿屋に帝国の面々が馴染むとは思えません。

 彼方も、テントなりを準備しているでしょう。

 もしかしたら、専属の料理人もいるかもです。

 あれ?

 聖女さんの一行には、転移魔法を使用出来る魔導師さんは、いるのでしょうか。

 魔素によって、陸の孤島と化したカズバル村には、どんな手段で来られるのかな。

 微妙に不安です。

 村ね惨状を目にしたら、安全な王宮に籠りそうなのですが。

 要らない配慮ですかね。


「どうした。百面相して」

「いえ。私達は王宮から転移魔法で、カズバル村に来ましたけど。聖女さんの一行は、どうやって村に来るのかな、と」


 私の疑問に、トール君とアッシュ君は顔を見合わせました。


「確かに、大人数を転移できる魔導師はいなかったな」

「やだぞ。俺達を足代わりに、顎で使われるのは」


 げんなりと肩を落とすトール君です。

 有り得そうですね。

 彼方も移動手段は確保していなさそうです。

 それまでも、フランレティアに用意させようとしていそうです。

 何だか、先行きが不透明になってきました。




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