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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
82/197

第31話

月曜投稿です。

 トール君とリック少年が、ミラルカに旅立ちました。

 私達は、騎士団の方々と魔物狩りにせいを出していました。

 村長さんは納得し難いのか、家に閉じ籠まれました。

 これで、私達の印象は悪くなったと思われます。

 幸いにも、ダヤン氏は友好的です。

 他の村人さんとの仲も良好です。

 気にしないでいくことになりました。

 そうこうしている間に、やって参りました。

 帝国の聖女さん一行が。

 フランレティア王宮に入ったそうです。

 明後日には問題の邪神が封じられているこの地に、訪れる予定です。

 すぐにも訪れないのには、理由があります。

 帝国からの道程は強行軍だった様子で、休養をとるとのこと。

 接待が大変そうですね。

 アッシュ君の使い魔さんが、色々な情報をもたらして下さいます。

 私達は魔物狩りを優先しながら、耳を傾けていました。


「気にしない」


 リーゼちゃんは相変わらず無関心な模様。

 ラーズ君は苦笑して、少し警戒を顕にしています。

 アッシュ君も、泰然と態度は変わりません。

 私はと言いますと、魔物狩りの間はアッシュ君の亜空間で待機していたジェス君の息抜きで、宿屋で遊んでいました。


 〔セーラちゃん。遊んで〕

「いいですよ。猫じゃらしで遊びましょう」


 ヒップバッグからお手製の猫じゃらしを、取り出します。

 ジェス君の目がキラキラしています。

 猫じゃらしにくぎ付けです。


 にゃあん。


 猫じゃらしを振ると、小さな身体を使ってジャンプ。

 右に左に元気なジャンプを繰り返します。

 余程鬱憤が、貯まっていましたね。

 亜空間で使い魔さんに面倒を見て貰っていた間は、遊ぶより薫陶を受けていたらしいです。

 僕もやっつける。

 亜空間から出た瞬間に、アッシュ君に訴えていました。


「幼児は遊べ」


 アッシュ君の説得には応じませんでした。

 いやぁと、全身で訴えるジェス君の可愛い我が儘には、アッシュ君も手を焼きました。

 次の魔物狩りには、参加することになりました。

 でも、明後日には、聖女さん一行がカズバルの村に来ます。

 忘れていませんよ。

 聖女さんは、ジェス君をアイテム扱いしようとしていました。

 重力魔法を操る幸運猫(フォーチュンキャット)の存在は、隠さなければいけません。

 ジェス君の魔物狩り参加は、明日一日のみになります。

 明後日には、また亜空間で待機して貰いますよ。

 自由行動は一日だけです。

 分かっていますね。

 アッシュ君もジェス君の誘惑には負けないで下さいよ。

 ジェス君の為です。


 〔楽しい。セーラちゃん、楽しい〕

「ジェス。落ちる」

 〔にゃあん。リーゼちゃあん。ありがとう〕


 ジャンプの目測を誤り、ジェス君が寝台から落ちかけました。

 慌てることなく、リーゼちゃんが受け止めます。


「ジェス。休憩。セーラも腕がつる」

「私は大丈夫ですよ。ジェス君は、水分補給しましょうね」

 〔はぁい〕


 ジェス君は、よいお返事です。

 適度に休憩をいれて、ミルクを小皿に出しました。

 喉が渇いていたジェス君は、凄い勢いで飲み始めます。

 リーゼちゃんと和やかに見守っていますと、部屋の扉が叩かれました。

 ラーズ君でしたら、念話で在室の確認がきます。

 何方でしょうか。

 ラーズ君とアッシュ君は、不在中です。

 遺跡の下見に行っています。

 私がいますと、妖精族(エルフ)の遺跡になにかしら不測の事態が起きますのを警戒されて、おいてけぼりになりました。

 リーゼちゃんとジェス君とお留守番です。


「誰?」


 リーゼちゃんが誰何します。

 気配察知に優れているリーゼちゃんですから、念話が飛んできました。

 宰相補佐官さんのようです。

 何用でしょうか。


「妖精姫殿、竜人のお嬢さん。グレイルです。少々宜しいでしょうか」

「兄さんならいない」


 扉を慎重に開けて、リーゼちゃんが答えます。

 ジェス君が威嚇しませんから、私達に害意はなさそうです。


「やはり、在室ではありませんか。何処かに行かれたか、ご存知ですか? 王宮の宰相閣下より言付けが届きました」

「知らない。ラーズと村の外に行ったのは分かる」

「詳しい行き先はご存知では無いのですね。いつ頃戻られますかは?」

「……。夕飯前には戻る」


 簡潔なリーゼちゃんの答えは、同行しているラーズ君の念話の指示です。

 私達年少組の念話は、阻害魔法に邪魔されなければ、距離は関係ありません。

 ラーズ君は先に戻ると連絡がありました。

 宰相さんの言付けは、私達が受け取る必要はなく、戻るまで保留にしろとのアッシュ君の指示です。


「兄さんが戻るまで、宿屋で待機」

「私とリーゼちゃんが、聴くわけにはいきませんから、宰相補佐官さんも待機していてください」

「そうなりますね。分かりました、一階の食堂で待ちます」


 宰相補佐官さんは戸口で踵を変え去りました。

 この宿屋は村で唯一の宿泊施設です。

 騎士団の皆様も、宿泊しています。

 一人で待機している訳ではないと思われます。


「多分、聖女関連」


 扉を閉めたリーゼちゃんは、顰め面です。

 これから起きる騒動に想いを馳せています。

 精神年齢がお子様の聖女さんと、取巻きさんの言動には注意しなくてはです。

 差別意識が高い一行さんが、私達とは相容れないと思いますし。

 村の宿泊施設に慣れるとは思いません。

 豪華なテント持参とか、専属料理人を連れていそうです。

 一体、何しに来たのか分からなくなるかもです。


「遺跡攻略に時間が掛かりそうですが、村長さんがどう出てきますか、気掛りですね」

「あれは、出来の悪い子程可愛い。そんな、自分に酔ってる」


 辛辣なリーゼちゃんは、村長さんを評します。

 実は、私もそう思います。

 リック少年の成長を阻害していましたのは、狭い村の中で噂話を聴けてしまう環境や、溺愛するだけで甘えさせてしまった村長さんです。

 何故に叱らず発奮させなかったのか、理解に苦しみます。

 他所様の家庭環境に、口を挟む権利はないですけど。

 トール君が介入したのには、リック少年の歪さが見ていられなかったからでしょう。

 村とは遠いミラルカの土地で、更正できる機会を貰えたことに感謝してあげたいです。

 私はこれから帝国の聖女さんと、直接対決が待っています。

 意識を切り替えなくてはいけません。


「きっと、村長さんは私達に対抗して、聖女さんの魅了に取りつかれるでしょうね」

「兄さん情報。村長が遺跡に来た」

「今ですか?」

「そう。妖精族の鍵を使って、森に入った」


 ラーズ君経由ですか?

 魔物狩りをしていましたが、全滅はしていません。

 戦闘に非力な村長さんが、無謀にも危険な森に入るだなんて、自殺行為です。

 妖精族の鍵があるからと過信して、遺跡に無事に辿り着くとは限りがないでしょう。

 よく、遺跡に行けましたね。


「兄さんの使い魔が保護。兄さんが遺跡で意識奪った」

「そうですか。一安心ですね」

「そうでもない」


 リーゼちゃんが、遺跡の方向を見ています。

 問題発生した模様です。


「遺跡の扉が開いた。魔素と瘴気が溢れ出してきた。魔物の発生率が上がった」


 大問題です。

 聖女さん処では無くなりました。

 窓を急いで開けます。

 確かに、森がざわめいています。

 僅かに聴こえていた、魔物の咆哮が大きくなってきています。

 そして、森の方角から黒い瘴気が溢れ出したのが、見えました。

 浄化されてない剥き出しの瘴気が、村に到達するのも時間がありません。

 異変に気が付いたジェス君が、肩の上に飛び乗ります。


 〔なあに、あれ?〕

「リーゼちゃん。アッシュ君の指示はありませんか」


 ラーズ君の念話はきていません。

 始めて見る瘴気に、ジェス君が震えています。

 落ち着かせる為に、身体を撫でます。

 爪が肩に当たります。


「大丈夫。もうじき、結界魔法が展開する。先生の魔導具。安心」


 アッシュ君に言われて、村の彼方此方に埋めた魔導具を忘れていました。

 念の為の措置でしたが、幸いしました。

 瘴気が魔導具の範囲内に入り、空に魔法陣が浮かび上がります。

 すると、村を結界魔法が覆いました。

 流石は、トール君の魔導具です。

 瘴気の流入を防いでいます。


 〔あれ、気持ち悪い〕

「魔素が歪んだ瘴気です。ジェス君の身体では、害にしかなりません。ポーチに入っていてください」

 〔ジェス、役にたたない。足手纏い、いやぁ〕

「ジェス君は、瘴気対策の訓練をしていませんから、仕方がありません。ミラルカに戻りましたら、少しずつ慣らしていきましょう」

 〔……。はぁい〕


 束の間の逡巡の後に、身体を頬に擦り寄せたジェス君は、おとなしくポーチに入りました。

 トール君謹製のポーチですから、多少は瘴気避けになるはずです。

 アッシュ君と合流しましたら、亜空間に避難です。


「ラーズが、村長連れて戻る。それまで、魔物の排除」

「分かりました」


 窓の下の村人と騎士さんが異変に気が付きまして、空を見上げています。

 事情を話さないといけません。

 窓を締めたら、急いで階下に降りました。


「妖精姫殿。竜人のお嬢さん。空を見ましたか? 魔法陣が浮かんでいます」


 私達を目敏く見つけた、宰相補佐官さんと副団長さんが駆け寄ります。


「生憎と詳しくは言えませんが、魔法陣は結界魔法です。村を守る為に起動しました」

「魔人殿のですか?」

「いいえ。賢者様の魔導具です。森から魔素が歪んだ瘴気が溢れ出したのです。村人には隠さずにお話して、避難誘導してください」


 嘘がつけない私と、包み隠さず話してしまうリーゼちゃんしかいません。

 交渉約のラーズ君のようには、話せません。

 腑甲斐無いですが、村長さんが仕出かした事実は伏せた方が良いと判断しました。

 まさか、自暴自棄な行いをするとは、誰も予測がしていませんでした。

 私達に対する嫌がらせの可能性もあります。

 巻き込まれた村人が可哀相です。


「避難するにしても、何処に逃がすかだな」

「一時的に集合小屋に集めても、詳しい理由がなければ、避難してはくれないと思いますよ」

「そうだな。村を取り巻く魔素が浄化した訳でもなく、村人を安全に逃がせられない」

「村長も姿が朝から見えません。私達だけの指示には従ってくれるか、どうか」


 大人二人は思案してしまいました。

 ラーズ君。

 ラーズ君は未だですか。

 私達だけでは、有効性な話題が出せません。

 速く、戻って来てください。

 アッシュ君でも、可です。

 リーゼちゃんが暴露する前に、早めの帰還が待ち遠しいです。



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