第8話
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「君達はグレアム殿が教えてくれた通りに、クロス工房の主、トール=クローヴィス殿のお弟子さんなんだね」
「そうですけど?」
浮上しました隊長さんの質問は、否定して欲しかったのでしょうか。
肯定したラーズ君の言葉に、盛大な溜め息を吐かれました。
前にも述べましたが、トール君は職人として有名人です。
色素の薄い金髪碧眼が多い天人族のなかで、異色の黒髪黒目をしています。
そして、過去には双黒の賢者の二つ名で、横暴の限りを尽くした勇者教と、一戦交えた経歴の持ち主でもあります。
勝敗の結果は双方痛み分けだと主張していますが、たった一人で数万の信者と引き分けたのですから、脅威は押して然るべきです。
トール君本人は、賢者と呼ばれるのを何故か嫌っています。
ですので、私達もトール君を説明する時は、必ず職人と紹介します。
「確かに、賢者殿の知恵を借りたいと嘆いたのは私だ。だからと言って、何故未成年のお弟子さんが派遣されて来るのだ。危険地域に子供を連れて行けるか!」
「‥‥‥悪いが、嬢ちゃん。フードを取って頭の硬い隊長さんに、現実を教えてやってくれ」
「いいですよ」
ここで断ると話が進まないですよね。
躊躇いがないとは言えませんけど、ラーズ君とリーゼちゃんが側にいてくれますので、フードを取り素顔を晒しました。
「海の妖精族? 海辺の種族が内陸に?」
隊長さんが驚くのも無理ありません。
メーアエルフは内陸部では棲息していませんからね。
私はハーフエルフですが、母の血が色濃くでていますので、瞳の色を擬装してしまえば純メーアエルフと姿が変わりません。
誤解されがちなのですが、ハーフと聴くと大概の方が人族との混血だと思われます。
固定観念に縛られてますね。
そのお陰で神子疑惑をかわしてこれましたので、嬉しい誤算ですけど。
「嬢ちゃん達には、失礼だが。オレやあんたより3人とも年長者だぞ。外見で判断するから、痛い目にあったんだろうが。それに、今回の件については、エルフの嬢ちゃんと竜人の嬢ちゃん以上に適任者はいないな」
「その様だな。申し訳ない」
頭を下げる隊長さんです。
やっと本題に入って下さいますか?
いい加減だらけてしまい、置物と化している私達です。
〔帰りたい。セーラ連れて帰ろう〕
〔僕も茶番劇に付き合うのは遠慮したいですが、問題を解決しないことには帰れそうにないですよ〕
〔リーゼちゃんの助力が必要なのは、竜の逆鱗にでも触れましたか〕
〔近隣に竜の気配ない。あるのは、魔素に狂った魔物。水属性の大型蛇〕
〔‥‥‥亜種の竜なんですね〕
召喚契約による念話で、リーゼちゃんが問題点を割り出しました。
本性が竜なだけにあって、魔物や幻獣の気配を掴むのが長けて素早いです。
だから、先程から帰ろう発言をしていたのですね。
リーゼちゃんは私に竜が近づくのを、異様に嫌がります。
逆も然り。
以前にリーゼちゃんの親族が、私の魔力を美味しそう発言したのを、根に持っているのです。
その親族さんは、激怒したリーゼちゃんとトール君達保護者様に、物理的なお話し合いの末に、お帰り頂きました。
「あのだな。騎士の不始末をお弟子さんとはいえ、民間人の君達に押し付ける様で申し訳ないと思う。別件の重大案件の捜索に騎士を費やしていて、人手が足りないのだ」
「前置きは要りません。要件は簡潔にお願いいたします。僕達も暇ではないのです」
「‥‥‥!! トリシアと周辺の耕作地帯の水源地に邪竜が住み着き毒を撒き散らしているんだ。毒は軽度なもので浄化すれば飲料にできるが農作物に被害がでてきてる。君達には、調査及び討伐をお願いしたい」
ラーズ君の威圧に隊長さんは一気に捲し立てます。
横ではギルド長さんが顔をしかめていますよ。
調査は解りますが、竜相手に3人で討伐ですか。
随分と無理難題言いますね。
外見的には未成年者な私達です。
事情を知らない方がみれば、他国の少年少女を生贄に出す心情ですね。
隊長という役職は中間管理職とききますが、そこまで追い詰められていたのでしょうか。
危険地域に子供をと言った口で、討伐依頼ですから、かなり動揺されています。
「何て説明だ。それだと、トール殿の怒りを買うだけだぞ」
「構いません。隊長さんはお仕事が多忙の様ですから、詳しいご依頼内容はギルド長さんに伺います」
「あ、あぁ。そうしてくれると、助かる」
ラーズ君、隊長さんの相手を面倒に思われたのですね。
幻惑と暗示を重ね掛けして、隊長さんを困惑状態にしてしまいました。
威圧も与えていますから、ラーズ君の意のままに操られています。
本来なら無礼ととられる言動に、隊長さんは気にする素振りを示さないまま、詰所から退出を促してくれました。
これ幸いと私達3人は、怪訝な表情をされたギルド長さんと、トリシアの街の門を潜るのでした。
大変申し訳ありません。
本格的に風邪をひいてしまいました。
来週月曜日の投稿はお休みさせていただきます。