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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
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第26話

金曜投稿です。



 さて、気分を変えまして、村人さんの救助に向かいましょう。

 何時までも、悲観してはいられません。

 アッシュ君の使い魔さんが、働いてくださりますので、私は精霊さんの浄化に専念します。

 避難小屋に向かう途中で、発見された魔導具は、8個です。

 囚われた精霊さんの数は6柱。

 残念なことに、2柱の精霊が存在を消失していました。

 浄化が間に合わず、やるせない気分にさせられました。

 ジェス君が、その都度慰めてくれませんでしたら、威圧に負けず襲いかかる魔物にうさ晴らししていました。


「セーラ。少し落ち着け」

「……はい。分かっているのですが、気分が晴れません」

「俺も腸が煮え繰り返る。だがなぁ、聖女と直接対決するのを決めたなら、冷静さは失うな」

「はい」

「やっぱり、直接対決は避けられないですか。僕は、あの変な魔力の持ち主に、関わらせたくはないです」

「ラーズに同意」


 ラーズ君は時期尚早だと言いますが、聖女さんの精神が持たないと思います。

 自滅する前に真面な状態で相対してみたいのです。

 実のお兄さんに駒の様に扱われているのを、自覚していないのは、現実を見ていないに等しいです。

 聖女を名乗るならば、自分の足で立ちなさいと、物申したいのです。


「ラーズも、リーゼも過保護だな。しかし、そうは言ってられないのが、神々の思惑だろう」

「兄さん?」

「今の大陸は帝国と神国の支配領域が拮抗している。だかな、神の代理人たる神王が権力闘争に準じていて、信仰力が落ちているのが実情だ。帝国は、その隙に領土拡大を虎視眈々と狙っている。裏には光りや実りの神がいるのにな」


 帝国の皇帝が権力欲を増大させているのは、神の加護が与えられているからです。

 帝国では、光りを司る神が唯一無二の神だと、信仰されています。

 ですが、実りの女神とは夫婦神とも言われています。

 その時点で唯一無二では、ありませんよね。

 矛盾しています。

 誰も、疑問を提示しないのが不思議です。

 いったい、帝国の神事はどうなっていることでしょう。


「兄さんは、神々の思惑とは代理戦争がまたもや起きると思っていますか?」

「小規模ながら、起きるだろうな」


 信仰を得る為に起きなくても良い戦争が起きる。

 大陸全土に負の連鎖を招いて、わざとらしい奇跡を演出する。

 神々の思惑とは、これを指します。

 小規模でも、混乱は避けられないと思います。


「今回の邪神討伐は、前哨戦だな。地位に固執した実りの女神が、言い出した」

「そうですね。お母さまが言っておられました。封じられているのは先代の実りの女神ですし、復帰されるのを逆恨みしているようです」

「神と崇められている間に、欲が産まれたな。そうそう、神の交代はないのにな」


 アッシュ君が、嘆息しました。

 神々は自由気ままにすごしているかと思われがちですが、世界を運営するために理力を費やしておいでです。

 失う理力を信仰心で補っておられます。

 ですから、信仰心を奪われる行為を嫌われます。

 忌避されています。

 実りの女神は、そうした感情がありますから、先代の実りの女神を邪神と偽り討伐させようとしています。

 本当は前回の代理戦争時に、罠に嵌められて封じられたにすぎませんのに。


「神々が加わると、厄介なのは分かりました。ですが、セーラを巻き込むのはいただけません」

「ん。過保護上等」


 リーゼちゃんが、拳を突き上げます。

 樹上から降ってきた猿型のを魔物が、吹き飛びました。

 アッシュ君の威圧に負けなかったお猿さんは、遥か彼方に行ってしまいました。


「煩わしい。結界を展開するぞ」


 半円球の膜が私達を包ました。

 アッシュ君の結界です。

 お猿さんは、また樹上から降ってきては、結界に弾かれました。


「煩い。喰うぞ」


 リーゼちゃんも竜の威圧を放ちました。

 キャッキャ煩いお猿さんが、硬直して落ちてきます。

 幻獣の最高捕食竜に、恐れをなして逃げて行きます。

 最初からリーゼちゃんの威圧に頼れば良かったですね。


 〔リーゼちゃんも、強い。ジェス、うんと頑張る〕


 肩の上のジェス君が感嘆しています。

 種族差でジェス君には、無理ではないかと思いますが、口にはしません。

 リーゼちゃんの威圧に負けないジェス君も、凄いですよ。

 慣れもあるかも知れません。


「ジェスは、そのまま成長したら良い」

「そうですね。ジェスは可愛らしさが一番ですよ」

「私もそう思います」


 にゃあ。


 誉められたジェス君が得意気に鳴きました。

 頬に柔らかな毛並が伝わります。


「代理戦争が始まれば、兄さんも慌ただしくなりますね」

「だろうな。頭が痛くなってくるが、馬鹿をやらかすのがいなくなれば、今後は助かる」


 アッシュ君のお役目は、魔素溜りを潰す他にも複数あります。

 アッシュ君でなければ出来ない、辛いお役目です。

 ご本人は納得して担っていますが、私達年少組は肩代わりできないまでも、手助けができればと思います。

 日々、厳しい武術鍛練をこなしていますのも、そのためでもあります。


「お手伝いできますところは、頼ってくださいね。ポーションやエリクサーも、必要なら作製しますから」

「ん。兄さん一人闘わせない。皆一緒」

「セーラとリーゼもこう言っています。少しは肩の荷を預かりますよ」

 〔ジェスもぅ。頑張るからね〕


 口々に宣言しますと、アッシュ君は肩を竦めました。

 絶対にアッシュ君一人に責任を被せたりはしないのです。

 クロス工房の団結力をみせつけてやりましょう。


「親を亡くしてビィピィ泣いていた雛鳥が、猛禽類に育て過ぎたか」


 アッシュ君の憎まれ口に、私達は笑います。

 それだけ、一人前と認められて嬉しいのです。


「兎に角、セーラは聖女と直接対決が待っている。豊穣対実りの代弁者同士の対決だ。相手の精神状態は相変わらず、美男子を侍らして悦に入っている。近頃は、皇帝の庇護から逸脱している行為が目に余るようだ」


 アッシュ君は、語ります。

 聖女騎士団を各地に派遣して、お膳立てした奇跡を披露しては、敬われていること。

 スラム街の炊き出しに、癒しの施しをしていること。

 魔素溜りの浄化は、高額なお布施が必要であること。

 表向きには、聖女の仕事を進んで行っている様子です。

 が、裏を覗くと危うい糸の上に乗っているのがわかりました。

 庇護先を皇弟に乗り換えて、皇位継承に関する神託をでっち上げたりしていること。

 可及的速やかに行わなくてはならない、魔素溜りの浄化も危険地帯は放置していたり、一神官の手柄を横取りしていること。

 数え上げればキリがないそうです。

 帝国内では、聖女を出し惜しみしてるのは、能力の枯渇が絡んでいるのではないか。

 情報屋さんが、教えてくれるそうです。


「聞く限り、神子に鞍替えしたくなる気持ちは、分かってきました。だからといって、協力する気は沸きませんけど」

「ん。自滅するなら。勝手にして、セーラ巻き込むな」


 辛辣なラーズ君とリーゼちゃんです。

 私は、力強い味方がいてくれます。

 聖女さんには、心安らぐ友達なりがいなさそうですね。

 美男子を侍らしているのですから。

 お兄さんは、聖女さんの肩書きだけしか見ていない気がします。

 兄妹の愛情は何処にいってしまわれたのか。

 自分がお兄さんの野心を満たす駒の一分だと、気がつけばよいのですけど。

 無理そうですかね。


「そろそろ、着くぞ」

「はい。セーラ。避難小屋が見えてきました」

「は、い、あれですか?」

「魔物がいるから、そうだろうな」

「あれは、精霊魔法ですね」

「精霊術師がいたようだな」


 目の前に、件の避難小屋が見えてきました。

 見えてきましたのですが、様相はとても小屋とは、言いがたい形状をしていました。

 例えるなら、複雑に絡み合った蔦の鳥篭のようです。

 アッシュ君の太い腕並の蔦が小屋を取り囲んでいました。

 精霊魔法には、似たような魔法があります。

茨の檻(ソーンケイジ)

 蔦バージョンですが、魔物の侵入を防いでいます。


「とりあえず、魔物を排除するぞ」

「「はい」」

「了承」


 私は弓、ラーズ君は双剣、リーゼちゃんは拳。

 それぞれ、得物を構えます。

 アッシュ君の長剣が鞘走ります。

 小屋を壊そうとする熊型の魔物を、背後から心臓目掛けて刺突しました。

 断末魔の悲鳴をあげて、倒れました。

 私達もつづきます。

 私は、樹上のお猿さんを重点的に射ち落としていきます。

 リーゼちゃんの威圧に抗う魔物は、強者のリーゼちゃんを狙います。

 しかし、リーゼちゃんは的確に、腕や脚を折っていきます。

 身動き取れなくなった魔物は、ポイ捨てです。

 ラーズ君が止めを刺してていきました。

 連携プレイです。

 粗方、魔物を片付けていきますと、敵わないと悟ったのか、逃げていきます。


「追え。根絶やしにしろ」


 小屋を警護していました使い魔さんに、アッシュ君の指示がいきました。

 村を襲われてしまいましたら、冒険者の名折れです。

 使い魔さんが、反対方向に誘導していきます。


「ラーズ、魔物燃やす。セーラ、じょ……」

「リーゼ」


 魔物を燃やして浄化をして、でしょうか。

 避難小屋を注視していたラーズ君に止められました。

 蔦が蠢きまして、精霊魔法が一部解除されていきます。

 入口から一人の男性が姿を見せました。

 樹木の精霊が、寄り添っています。


「皆様は、ハンターの方々ですか。ぼくは、カズバルの村の精霊術師のダヤンです」

「いいえ。僕達は、ハンターではなく、冒険者です」

「冒険者。魔族のかたが、どうしてこんな処に? 助けられておいて、何ですが。早く帰られた方がいいです。この国は帝国の属国です。知られたら、捕まります」


 正直な男性です。

 不審者丸出しの私達を案じて下さっています。

 彼がいたから、魔物が跋扈している森に狩猟が出来たのですね。


「心配はご無用です。僕達は、フランレティア国王からの依頼で、カズバル村に来ました」

「国王様から?」

「はい。村に帰れば派遣された騎士や、宰相補佐官がいます。僕達の話が信じられなくとも、彼等の話なら信じられるでしょう」

「そうですか。ですが、俄には信じられません。その騎士様を連れてきてはくださいませんか。こちらは、怪我人が多数います。……えっ?」


 樹木の精霊さんが、私を指さしました。

 男性は、リーゼちゃんに庇われている私を見ました。


妖精(エルフ)様?」

「そうだ。海のだがな。魔族は、信じられなくとも、妖精族は信じられるだろう」

『海の娘。信じて村へ帰ろう』


 樹木の精霊さんが、男性に訴えます。

 精霊術師の男性は、口を開けっ放しにしまして、私を見つめるだけです。

 怪我人がいるそうです。

 治療はしますから、早めに復帰されるのを願います。



ブックマーク、評価ありがとうございます。


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