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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
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第24話

金曜投稿です。


 リーゼちゃんの魔法で、井戸から取り除かれた魔導具をアッシュ君が拾います。

 強烈な異臭を放っています。

 ラーズ君が風上に移動しまして、臭気から距離を取りました。

 ポーチの中で寝入っているジェス君は大丈夫でしょうか。

 私もラーズ君に倣います。

 リーゼちゃんが、風魔法で臭気を払います。


「どうみても、浄化する機能はないな」

「まったくだ。領主はカズバルを見捨てる処か……」

「ガイル。子供たちが見ています」

「‼ 悪い」


 アッシュ君の鑑定に副団長さんが憤ります。

 炊き出しに集まる子供さんが、此方を伺っています。

 暖かな野菜スープを、ゆっくり食べるよう指導されています。

 満足に食べれない日々が続いていましたから、勢いよく食べてしまうと、胃腸がびっくりしてしまいます。

 良く味わって食べてください。

 畑仕事に出ていた女衆も、炊き出しの煙に気付いて集り始めています。

 騎士の姿に驚いていましたが、説明を受けて涙ぐみ、野菜スープを配る列に並びます。

 大して距離が離れていませんし、村長さんも居ますので、不躾な事は言わない方が良いです。


「申し訳ない。騎士として、不安感を煽る事をした」

「いいえ。わたしも、領主様の為さりようには、不審しかございません。領主様は、不作が続いている村の救済には否定的でおられた。先祖代々受け継ぐ土地を、放棄したとしてもやむ無し、とも受け止める発言をしていました」

「確かカズバルの領主は、外務大臣派だったな」

「流民と化した農民を捕らえ、鉱山で働かせるつもりでしょう。外務大臣派らしい、企みです」


 土地を捨てた流民は、市民権がなくなります。

 他の土地では、犯罪奴隷以下の扱いをされてしまいます。

 また、領地で流民がでたら罰せられるのは、領主の方です。

 領地は元々国のものです。

 国王が任命して、領主となります。

 拝命した領主が国力低下に繋がる事を、平気で招いている事実に言葉がありません。


「鉱石目当てだけとは、限らんな」

「魔人殿?」

「恐らくだが。この土地に残る妖精族(エルフ)の、伝承狙いだろうな」


 村長さんが受け継ぐ品があると、言ってましたし。

 精霊言語も残っていました。

 邪神が封じられた土地。

 だけでは、なさそうです。

 妖精族が関わる土地に私が招かれましたのも、ただの偶然とは思えません。

 豊穣のお母さまが、企んだとは思えません。

 お母さまより、上位に連なる神の仕業でしょうか。

 疑問が沸きます。


「とりあえず。これは俺が預り、賢者に解析を頼むことにする」

「その方が良いですね。我々には、どうする事も出来ません」


 アッシュ君が魔導具を亜空間にしまいます。

 かわりに、空の大樽が数個地面に置かれました。


「リーゼ。水で満たせ」

「了承」


 リーゼちゃんの魔法で、大樽が水で満たされていきます。

 はて?

 アッシュ君の亜空間に、何故に空の大樽が入っていたのか不思議です。


「水脈の浄化が終わるまで、井戸の水の使用は止めておけ。変わりに、水を置いておく」

「ご助力ありがとうございます」

「魔人殿は、水脈の浄化が出来るのですか?」


 村長さんが、期待に目を輝せます。

 残念ながら、今のアッシュには浄化は出来ません。

 力業で水脈の栓をしているであろう、異物を取り除くだけです。

 人目がありませんでしたら、私の出番です。


「いや、賢者の魔導具に頼る。後は、狩猟に出ている村人の保護に行く」

「ん。大型の魔物の気配、ある」

「騎士は、村の警戒にあたってくれ。魔物は、此方で排除してくる」

「了解致しました。おい。手が空いている騎士は、村の巡回に当たれ」


 アッシュ君とリーゼちゃんが、森の方向を見やりました。

 大型の魔物ですか。

 狩猟に出ている村人は、無事でしょうか。


「森が騒がしくなってきた。近くまで逃げて来ているな」

「村人をお助けください」

「了承している。村長も、食事を取るといい」


 村長さんの懇願に、アッシュ君が答えます。

 森に向かって歩き出しました。

 私達も、続きます。

 萎びた野菜が実る畑を越えて、森の外周まで歩くと切羽詰まった声が聴こえてきます。

 村人が、必死に逃走を図っている模様です。

 ですが、このまま直進しますと、村に被害がいきます。

 直前で押し留まっています。

 迎撃しようと武器を構える音がします。


「ラーズ」

「了解しました」


 アッシュ君の指示に、ラーズ君が双剣を抜き走り出しました。

 いつもなら、リーゼちゃんが先制します。

 役割交代でしょうか。


「リーゼ。右手方向を注意」

「了承」


 リーゼちゃんが、何気なく歩き出しました。

 アッシュ君の正面に、魔物と村人の間に入るラーズ君の姿があります。

 魔素に侵され狂気と化した熊型の魔物がいます。

 ラーズ君の双剣に、降り下ろされた腕を受け止められました。


「な、何だ。獣人が、こんなところに?」

「こっちは、竜人だ」

「助かったのか」


 粗末な武器を携える村人さんが、へたりこみました。

 右手側には猪型で大型の魔物の牙を掴み、突進を防いだリーゼちゃんがいます。

 2体の魔物に追われていました村人は、半信半疑でゆったり歩くアッシュ君に気がつきました。


「カズバルの村人だな」

「そ、そうだ。あんたらは、何者だ」


 一行のリーダーらしい村人が、問いました。

 矢筒を背負っていますから、猟師さんでしょうか。

 しかし、手には弓がなく、左手は傷を負っています。

 十人前後の狩猟一行は、皆さん傷だらけです。


「セーラ。ポーションを配れ」

「はい。分かりました」


 中級ポーションを取り出しては、村人に配ります。

 まずは、血止めが最優先です。

 魔物は、ラーズ君とリーゼに任せます。

 実力は、二人の方が上です。

 支援は必要ないと思います。

 アッシュ君も、静観しています。


「フランレティア国王から、依頼された冒険者だ。ポーションを飲んだら、村へ帰れ。騎士が派遣されている」

「国王さまが、魔族のあんた達に依頼?」

「信じられない」

「俺達を信用出来ないのは、理解している。事情は騎士に聞け」


 アッシュ君が剣を抜きました。

 村人さんに、緊張が走ります。

 が、アッシュ君は三体目の魔物に向かって、剣を横薙ぎしました。


「ひゃっ」

「蜂の魔物?」

「セーラ。一矢で仕留めろ」

「了解です」


 森の奥から巨蜂の魔物が沸いてでてきました。

 ラーズ君とリーゼちゃんは、飛び交う巨蜂に苦戦しています。

 左手の無間収納(インベントリ)から、弓を取り出します。

 矢は、堅い毛皮を考慮して、精霊銀(ミスリル)の鏃を使います。

 狙いますのは、眉間か延髄です。

 雄叫びをあげて執拗に、ラーズ君に向い豪腕を降り下ろしています。

 ラーズ君は、余裕で交わしています。

 飛び交う巨蜂は火魔法で、焼いています。

 リーゼちゃんは、風魔法で迎撃しています。

 村人さんの護衛にアッシュ君は、結界魔法で対処しています。

 私は、まず熊型の魔物に狙いを定めました。

 捕まらないラーズ君に、泡を吹き出し、腕を振るう熊型の魔物です。

 狙いを定めにくい動きをしています。

 ですが、単調な攻撃手段に、予測はつきやすいでした。


 シュッ。


 ラーズ君の双剣が腕を切り裂きます。

 怒りの声を発し、仁王立ちした隙に、眉間を狙いました。

 外れずに、鏃が刺さりました。


 グアアアアアッ。


 やりました。

 動きを止めて棒立ちした熊型の魔物は、弛緩して後ろに倒れました。

 一矢で仕留めましたよ。

 念の為に、ラーズ君が止めを刺します。

 血飛沫があがり、首が飛びました。


「次‼」

「はいっ」


 アッシュ君の指示が飛びます。

 ラーズ君は、村人さんの護衛に回りました。

 私は、狙いがつき易い位置に移動します。

 リーゼちゃんは変わらず、猪型の魔物と力比べをしています。

 この位置ですと、リーゼちゃんの頭が射線に入ります。

 どうしますかね。

 巨蜂も邪魔して狙いがつきにくいですね。

 リーゼちゃんの風魔法との弓の相性は悪いです。

 長戦斧(バルディシュ)の出番ですか。

 アッシュ君を見ると、首を横に振られました。

 弓での続行です。


 にゃっ。


 悪いタイミングでジェス君が起きてしまいました。


「ジェス君、出てきたら駄目ですよ。戦闘中ですよ」


 みゃっ!


 〔ジェスも頑張る〕


 猪型の魔物の上部に魔法陣が浮かびました。

 ポーチの中から参戦ですか。

 透視の魔法は、何時覚えたのでしょう。

 私は、知りませんでしたよ。

 誰ですか。

 教えたのは。


 〔重力魔法。いくよ〕


 浮かび上がる魔法陣が、猪型の魔物に接しました。

 直前でリーゼちゃんは、待避しています。

重圧(プレス)】の魔法に呑まれた魔物は、四肢を地面に投げだして潰れています。

 巨蜂も地面に落ちました。

 空間に空きができました。

 期を逃しては、アッシュ君に怒られてしまいます。

 肉体強化を施した身体で、魔物の背後を取るべくジャンプしました。


 うにゃ?


 ポーチの中でジェス君が鳴きました。

 くるんと、空中で頭を下に体勢を変えます。

 ポーチの蓋を閉めておいて、良かったです。

 でないと、転がり落ちてしまいます。


「よっ、と」


 重力魔法が、途切れました。

 けれども、空中で背後を取れました。

 弓を構えます。

 すれ違い様に延髄を狙い、矢を放ちます。


「お見事」

「ん。上出来」


 軽やかに降り立ちますと、ラーズ君とリーゼちゃんに称賛されました。

 曲芸紛いな体勢で狙いを付けた矢は、堅い皮毛を貫き絶命させました。

 巨蜂の大群も、粗方排除を果たしていました。


「ジェス……。何てタイミングで起きるかな」


 アッシュ君が頭を押さえています。

 課題は一矢で仕留めましたから、及第点でしょう。

 まさか、ジェス君が参戦するとは、アッシュ君も思わなかったことでしょうね。

 私的には、助かりましたよ。


「すげえなぁ」

「おい、見たか」

「魔族のみんな。強いなぁ」

「馬鹿、それ処じゃないだろ」

「はっ。そうだった」


 何やら、村人さんが揉めています。

 リーダーさんが、アッシュ君に向きなおりました。


「魔族のお兄さん。森の中で仲間が助けを待っているんだ。助けてくれ」

「森小屋に避難している」

「怪我が酷くて動けなくなっているんだ」


 それで、村に逃げて来たのですね。

 ですけど、村から来た私が見るに、増援は無理そうでした。

 残されていましたのは、女子供、老人です。

 戦力にはなり得ないと思います。

 偶々、依頼で騎士が派遣されてきたに過ぎません。

 どうやって、助けに行くつもりだったのでしょう。

 不思議です。


「了解した。あんた達は村に戻れ」

「お願いする」


 探索は私達に任せてください。

 即死していない限りは、ポーションで助けますから。


 ふにゃあ。


 〔目が回るよう〕


 ジェス君。

 一回転しただけですよ。

 猫ちゃんは、回転に強いはずです。

 ポーチの蓋を開けましたら、ジェス君が延びていました。

 今度は、声をかけてから回転しますね。

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