第23話
月曜投稿です。
宰相さんから準備が調えられ、カズバル出身の兵士さんを起点にして、転移することになりました。
魔族がいきなりカズバルに訪れても、不信感丸出しで警戒されるだけです。
輸送するのは警護の騎士込みとなりました。
「では、魔人殿。お願いいたします」
「了解した」
顔馴染となりました副団長さんと、宰相補佐官さんが付き添いと相成りました。
輸送する食料品の回りを騎士さんが取り囲み、アッシュ君が展開する魔法陣を広げていきます。
個人で複数人覩転移させますのは、魔力を大量に消費します。
転移門を使わない魔法に、皆さん驚いています。
「カズバルを思い出せ」
「はっ、はい‼」
起点になる兵士さんは、緊張気味に答えます。
アッシュ君の魔力が兵士さんを包みます。
情報を読み取りました魔力が蒼く光を発して、転移魔法が起動しました。
瞬きを数回繰り返したら、そこはもうカズバルの村にいました。
「着いたぞ」
「村長の家は何処ですか?」
「えっ。あっ、はい。此方です」
余りにも早い転移に、体験された騎士さんと兵士さんは、放心していました。
宰相補佐官さんが副団長さんの頭を軽くはたき、周りを見回しました。
共同井戸がある広場には、私達以外の人影がありません。
子供が遊ぶ姿さえなく、閑散としています。
水の気配が薄く、乾いた土の匂いがします。
歪んだ魔素が漂っています。
浄化が間に合っていません。
寂れた農村の体を表しています。
「酷いな」
「はい。井戸があるのに、水の精霊がいません」
「水脈に栓が打ち込まれているな」
「取り除きますか」
「そうだな。まずは、村長の話を聴いた方が良さそうだ」
兵士さんが、村長さんを連れて広場にやって来ました。
随分と痩せています。
満足に食事がとれていないのでしょうね。
騎士さんと私達魔族を見る瞳には力がありません。
念の為に私はフードを被りました。
認識阻害を働かせています。
ラーズ君とリーゼちゃん。
アッシュ君は自然体のままです。
「カズバルの村長だな」
「はい。そうです、騎士様。見ての通りな有り様です。税は払えそうにありません」
「いや、我々は徴税官ではない」
「では、何用でございますか。生憎と男衆は森に狩猟に出ております。女衆は畑に出ておりますが……」
怪訝な表情で私達を警戒しています。
騎士が魔族と一緒にいるのは、不信感しかないでしょうね。
「此方の皆様は、国王陛下から依頼された方々だ。決して誹謗中傷するなよ」
「はっ、はい。」
なんだか、脅しているみたいです。
アッシュ君も、威圧は止めましょうね。
倒れてしまいますよ。
それにしましても、お昼前の時間帯です。
村人の昼食の準備は、どうなっていますかね。
竈の煙は見当たりません。
もしかしまして、食料難から一日二食だけとか、ありそうです。
着いて早々に炊き出しの準備を始めた方が良さそうです。
魔素溜りが発生した場所が近くにありますが、畑だけでは食べていけないのでしょう。
動物も魔素に侵されていましたら、魔物と変質してしまいます。
命懸けな狩猟とみていいのかも知れません。
「狩猟に出ている男衆を引き返させろ。我々は、国王陛下の命で食料の配給に来た」
「それは、誠にですか? 国王様はカズバルを見放したのでは、ないのですか?」
「見放す理由がない。こうして、食料を持参した」
副団長さんが食料を積んだ台車を、村長さんに示します。
優に一月分の量に値する小麦と野菜類とお肉類。
これだけ、あれば暫くはもつでしょう。
目の当たりにされた村長さんが、崩れ落ちました。
安堵されたのかと思います。
ですが、気になりますのは、見放したとの言葉です。
確かに、魔素溜りが拡大して村を取り囲んでいます。
危険な魔物が発生しやすくなっていますが、実力ある騎士さんやハンターがいれば、突破出来ると思うのですけど。
「おい。大丈夫か。すぐに炊き出しを行う。住人を集めるぞ」
「……ありがとうございます。ありがとうございます。飢えに苦しむ子供が死ななくてよくなります」
「分かった。おい、皆。炊き出しを始めるぞ」
泣き出しました村長さんを宥め、副団長さんが指示を出します。
私も手伝いたいのですが、魔族が作った食事を食べてくれるとは思いません。
今回は諦めましょう。
でも、騎士の皆様は料理が出来るのでしょうか。
即席の竈が組まれ、大きな鍋が並びます。
何を作るのか気になります。
長いこと食事を取れていない住人に、重い食事は厳禁ですよ。
リゾットか、具のないスープ辺りが妥当です。
「妖精姫殿。準備が出来ました」
はい?
私に視線が集ります。
えっ。
私が造るのですか?
魔族が信頼もなく作っていいのでしょうか。
村の女衆はどうしました?
「妖精姫殿? 如何しましたか?」
「いえ。魔族の私が作りましても、良いのです?」
「ああ。そうでした」
今思い出した、と言わんばかりな宰相補佐官さん。
副団長さんも、同様です。
皆様、忘れていますか。
今は、人族に偽装していません。
村長さんが、私に気付きました。
アッシュ君が、私のフードを外します。
「妖精姫? 森の民人……」
旧い言葉で、森の妖精族を差します。
カズバル近隣には妖精族がいたのですね。
「いえ。正確には海の民人です」
ラーズ君が訂正を入れます。
どちらも、正解であり、間違いですけど。
ややこしくなりますので、黙っています。
「カズバルの森には妖精族がいたのか」
「はい。自分が小さな頃に婆様から教えて頂きました。森の奥地に遺跡が御座います。その遺跡近くに集落があり、遺跡を守っておりました」
遺跡。
邪神が祀ろわれ、封印された土地に妖精族がいた。
何かの符牒のようです。
アッシュ君が、眉をひそめます。
初耳みたいです。
アッシュ君の情報網にないとは、随分と昔な話ですね。
「我が村とは、親交があったと聴いております。代々受け継ぐ品も御座います。海の民人様、どうか……」
『我等隣人に友好な手を差し伸べて下さい』
村長さんは、頭を下げて精霊言語を口にします。
たどたどしい、その言葉に、私は答えます。
「分かりました。食事を作ります。リーゼちゃん。お水を出して下さい」
「了承」
リーゼちゃんが、右手をお鍋にかざします。
すぐに、溢れんばかりに水が満たされていきます。
井戸の水は魔素に侵されているようですから、使いません。
薪を竈にくべます。
「ラーズ君。火をお願いしますね」
「分かりました」
竈に火が入ります。
お腹に優しい野菜スープを作る事に決めました。
リーゼちゃんと二人して野菜を切っては、お鍋に入れていきます。
キャベツ、人参、玉葱、セロリ、ピーマン、トマト、しょうが。
スープの素は時間短縮の為に持参した品を使います。
味を調える調味料をいれて、お野菜が溶け込むまで煮込んでいきます。
灰汁を取り除き、火加減を調節していきます。
辺りに良い臭いが充満していくにつれ、村の住人が広場に集り始めました。
皆さん、やはり痩せています。
動きが鈍いです。
ノロノロとお鍋の前に子供や老人が、お椀を持ち寄ってきています。
炊き出しが行われるのを、村長さんと騎士さんが、宣伝しています。
拾われる前の自分の姿が重なり、痩せ細る姿が目に痛いです。
配膳は騎士さんに、お任せしました。
公平に配ってくださる事でしょう。
私達を見る村人の瞳は、何方も好奇心に満ちています。
「エルフ様だ」
「エルフ様が、森にお還りになった」
「これで、森の異変も収まる」
また、気になる事を言われました。
妖精族が森と遺跡を守護していた話は、村全体に言い伝えられているのですね。
老齢の方々に、期待されています。
とうとう、拝まれてしまいました。
「森が気になるな」
「異変とやらですね。僕も気になります」
「トールには、手だしするなと言われたが。調査してみるか」
畑を挟んで右手側に鬱蒼とした森が見えます。
私の瞳には、その森から魔素が漂ってきているのが、映し出されています。
「その前に、村に漂う魔素を浄化した方が、良さそうです」
一段と濃密な魔素が沸いてきました。
井戸も浄化しないと、飲料には適しませんよ。
何気なく、子供が水を汲んでいます。
畑に撒くにしても魔素が含んでいますから、農作物にも影響が出ているはずです。
「確かに、危険だな」
アッシュ君が、水を飲もうとする子供に気がつきました。
止めようにも、水が汚染されている事実を知らない子供に、無体な事を強いていると判断されてしまいます。
「宰相補佐官。井戸を閉鎖しろ。水が汚染されている」
「水が、ですか」
「そうだ。魔素が含んでいる。このままでは、体調悪化を招くぞ」
「分かりました。少しお待ちください」
水を飲んでいる子供は、苦い後味を感じている様子で顔を歪めています。
噎せて咳込みます。
ああ。
辛いのでしょうに。
可哀相です。
宰相補佐官さんは私達を信頼しているのか、副団長さんと村長さんをすぐに連れてきました。
「どうされました、魔人殿」
「水が魔素に汚染されている。できるだけ早く井戸を閉鎖しろ。その間の飲料水は準備させる。騎士達も決して飲むなよ」
「水が汚染。分かりました。直ちに閉鎖させます」
「森に続き、畑に水ですか。やはり、領主様の言葉通りに村は呪われているのでしょうか」
「どうして、領主が呪われていると言ったのかは、知らんが。全ては、魔素溜りの仕業だぞ。特に、呪いの気配はない」
はい。
アッシュ君が仰有る通りです。
村は呪われていません。
ただの、魔素溜りの被害にあっているだけです。
村長さんには、悪いですけども。
人物鑑定をさせて頂きました。
すると、軽度の魔素中毒になっています。
満足に食事を取れていないせいで、自己治癒力が落ちてしまい、自然浄化ができていないのです。
ポーションによる一時的な回復は見込めますが、原因を取り除かない限りは、解決にはなりません。
「村は呪われていないのですか」
アッシュ君の断言に、村長さんは呆然自失されています。
半信半疑ですね。
見ず知らずの魔人族よりも、見知った領主様の言葉の方が重いでしょう。
「では、領主様のお付きの魔術師が呪いの浄化と、井戸に高価な魔導具を設置したのは、意味がないのですか」
「リーゼ」
「ん。井戸に何か埋まっている」
「取り除け」
「了承」
リーゼちゃんが、井戸に向けて右手を払います。
水を操り異物を取り除くのです。
果たして、すぐに件の魔導具が井戸から放り出されました。
水で構成された蛇が吐き出した魔導具。
それは、禍禍しい異臭を放っていました。
「何ですか。どうみても、浄化の魔導具では、ありませんよ」
宰相補佐官さんが指摘されます。
どうやら、領主様が人為的に呪われている原因を、自ら作り出していたようです。
村長さんは、怒りで顔を赤くしています。
トール君。
カズバルの村にも問題が発生しています。
これは、勇者さんや聖女さん処では、なくなってきましたよ。
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