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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
73/197

第22話

金曜投稿です。


 トール君が睡魔に勝てず、寝室に引き籠りました。

 お腹が満腹になったジェス君も、陽当たりの良い場所で丸くなりました。

 また、お休みです。

 私達年少組とアッシュ君は、お茶でまったりと寛いでいました。

 そこへ、扉がノックされます。


「何だ?」


 アッシュ君が、誰何の声をかけます。

 私はリーゼちゃんと、ジェス君の近くで絨毯の上に座っていました。

 家ではなんてことのない風情ですが、いささか行儀が悪いですね。

 ジェス君を抱き上げて、ソファに座り直しました。

 カップはリーゼちゃんが、運んでくれました。


「失礼致します。宰相閣下がお話をしたいと、申し出ております」


 部屋付きの女官さんが扉を開けて、先触の侍従さんが顔をだされました。

 慇懃に頭を下げています。


「分かった。此方は、何時でも良い」

「畏まりました。では、此方にご案内させて頂いても、宜しいでしょうか」

「ああ。構わない」

「では、直ちにご案内致します」


 一礼して、侍従さんは部屋から下がりました。

 朝の一件の話ですかね。

 それとも、勇者派遣の話ですかね。

 どちらも、ありそうです。

 王妃さんからの依頼は、妖精族(エルフ)の保護です。

 随分と衰弱していましたから、フランレティアにではなく、アッシュ君が信頼する医師の方に預けて来ました。

 依頼には、フランレティアに連れて来る、との確約はしていません。

 が、王妃さんにしては、王宮に連れて来ると思われていそうです。

 美容液目的に、妖精族を使われるのは反対です。

 宰相さんは、どんな話を持ち込んでくるでしょう。


「お寛ぎの処を失礼する」


 ほどなくして、宰相さんと侍従さんが入室されました。

 護衛の騎士さんも、連れていました。

 ラーズ君とリーゼちゃんが、警戒しています。

 何時でも動ける様に、ソファから立ち上がりまして、私とアッシュ君の背後に回りました。


「急に申し訳ない。賢者殿から聴かれたと思うが、近日中には勇者殿と聖女殿が、フランレティアに訪れる」


 空いた席に、宰相さんが座りました。

 結果的に宰相さんに席を譲った形になりました。

 部屋付きの女官さんが、ワゴンを押して来ました。

 テーブルの上を綺麗にして、新たにお茶と茶菓子を配膳していきます。

 目的が終わると、静かに出ていきました。

 副団長さんが、扉を背にして立ちます。

 物々しくなってきています。


「確かに、トールから聴いた」

「賢者殿達が拘束して下さった代官と将軍が、帝国に送り帰されたのは、ご存知かな」

「いや。初耳だ」

「今朝、賢者殿が我らの書簡と共に、魔導具で転移させたのだがなぁ。そう言えば、賢者殿は?」

「トールは、寝室で寝ている。あんたも寝てないのでは?」


 宰相さんは、五十代のおじ様です。

 徹夜は堪えていないのでしょうか。

 外見年齢二十代のトール君は、今は夢の中です。

 お顔には隈がでていますよ。


「お気遣い有り難い。しかし、眠ろうにも、問題が集積しておりましてな。眠れなくなりました」

「宰相の役目も大変だな」

「確かにですな。帝国と同盟を結んだ途端に、手の平を返されますわ、邪神の民と虐げられますわ、効果も分からない美容液目的に恩人を敵地に向かわすわで、国王も怒り心頭でございます」


 宰相さんの合図で侍従さんが、小袋をテーブルの上に置きました。

 恐らく、依頼料ですね。


「王妃様が依頼した件の依頼料でございます」

「……。帝国の騎士が駐留する屋敷には、確かに、妖精族がいた。衰弱が激しく知人の医師に預けてある。あんたらは、妖精族の身柄を引き取りたいのか」

「いいえ。陛下のお考えは違います。帝国に対して不利になるだろう案件は、ないに越したことがありません。妥当な判断をして頂きありがとうございます」

「ならば、良い。妖精族の血肉には美容の効果はない。あるのは、怨嗟の念だけだ。逆に肌には悪く老化が早まる」


 そうなのです。

 自分の意思に反して、血肉を奪われるのです。

 恐怖や怨嗟の念がついて回るほかなりません。

 血肉に美容の効果があると、世間に広めた思惑はなんでしょうか。

 妖精族の根絶やしですかね。

 人族至情主義を唄う帝国にとりましては、良い他種族排斥理由を与えています。

 元を辿ると、帝国に行き着くかもしれません。


「人族は、数の暴力で様々な他種族を排斥し、絶滅に追いやった。何時までも、それが通じるとは思わない事だ」

「誠に耳に痛いお言葉、陛下や妃殿下にお伝え致します」


 宰相さんは、目礼しました。

 隣に控える侍従さんと護衛の騎士さんは、深々と頭を下げます。

 アッシュ君のお怒りも矛を収めるようです。

 敵対者は帝国であって、フランレティアではありません。

 私達は、フランレティアが暴力に蹂躙されるのを、防ぎに来たのです。

 こんなことで、不和にはなっていいわけがありません。


「話は変わりますが。帝国が邪神と断じた神を封じられている場所が、判明致しました」

「やはり、南方か? それらしい、歪みを感じる」

「はい、左様です。王都から、南に二日。カズバルの村近隣に、朽ち果てた遺跡がございます。以前から魔素溜りが発生しやすく、帝国が邪神云々を通告してきた頃に迷宮化が発覚しました」

「タイミングが良すぎたな」

「そうでもありません」


 アッシュ君の言葉を宰相さんは否定されます。

 私もタイミングを図った様に感じました。

 アッシュ君は魔素溜りを発見して、潰す役割を担っています。

 大陸中を渡り歩いています。

 この役割には、人族の土地も他種族の土地も関係がないのです。

 人知れず、帝国領土にも出向いています。

 ですから、フランレティアの土地も巡っているはずです。

 もしかしたら、土地の事は地元住人よりも詳しいかも知れないです。


「お恥ずかしながら、魔素溜りの浄化を担う神官が報告を怠り、隠蔽しておりました。一年前より、神官の手に負えなくなり迷宮化していたそうです」

「その神官の出自はフランレティアか?」

「はい。神国で長年の修行を終えて、産まれ故郷の地で布教しておりました。ですが、フランレティアが帝国と同盟を結び、属国となりましてからは、教義を絶たれておりました。その過程で、遺跡は誰もが祀ろわぬ土地となったのです」


 神国で修行をなさったのなら、教義を絶たれても不自然ではありません。

 帝国は、唯一神を信仰させています。

 対して神国は、世界神を筆頭に複数神祀っています。

 中には、精霊信仰も赦しています。

 教義は、幅広いのです。

 さぞかし、面映ゆい事でしたでしょう。


「魔素溜りは、人族には毒にしかならんだろう。帝国は、神官を派遣しなかったのか?」

「はい。カズバルは数少ない農村です。帝国は、農村を廃村にして、食糧難に陥らせ、輸出に頼ざる負えなくして、フランレティアを併呑するつもりなのでしょう」


 同盟を結ぶだけではなく、一領土にしたい訳ですね。

 フランレティアは、良質な鉱石を排出しています。

 そして、新たに希少金属が発掘されました。

 自国の装備を一新して軍事力を上げつつ、富を独占しようとしています。

 フランレティアにしたら、憤慨ものです。


「賢者殿が代官から、聞き出しました、食糧難は現王家の責任だとして、粛清する気だと。聖女の名で、我が国に食糧支援をもたらしてやるそうです」


 どれだけ、上から目線でしょう。

 食糧難を惹き起こしたのは、帝国です。

 自作自演も甚だしいです。

 人気取りも、いい加減にして欲しいですね。

 何時でも、犠牲になるのは力ない民人です。


「現在は、皆様方のおかげで食糧難は改善しております。各地に食糧を輸送しておりますが、行き渡るまでは時間がかかります。そこで、皆様方に依頼を受けて頂きたいのです」


 宰相さんが、身を乗り出さして提案してきました。

 正当な理由があれば、アッシュ君は受けると思います。

 真面目なお話をしていましたから、無茶振りはされないでしょう。


「是が非でも、カズバルに食糧を届けて頂きたい。彼の地は魔素溜りの影響で、陸の孤島と化しております。何卒、お受け頂きたいのです」

「それは、裏を返せば聖女を出し抜けと言いたいのか?」

「はい。勇者殿と聖女殿がフランレティアに派遣されるのは必定となりました。妖精姫殿と聖女殿とは、因縁があるご様子。どうぞ、フランレティアも一矢報いさせて頂きたい」


 本音をぶちまけられました。

 宰相さんは、良い笑顔です。

 帝国を出し抜ける良い機会に、鬱憤が貯まっている皆様は、色好い返事を期待しています。

 私達年少組は、アッシュ君の返答を見守ります。

 私の意見は、宰相さんに賛成です。

 ラーズ君は、やや懐疑的です。

 念話で宰相さんの、詳細な人物鑑定を頼まれました。

 大丈夫でしたよ。

 特に隷属されていませんし、興奮状態でもありませんでした。

 概ね、本音を話していました。

 フランレティアの国を守ろうとされています。


「分かった。依頼は受ける」

「ありがとうございます」

「トールが起き次第出発する」

「では、直ちに準備に入らせて頂きます」


 アッシュ君の気が変わらないうちにでもと言うノリで、宰相さんは一礼して護衛の騎士を引き連れて客室を出ていかれました。

 慌ただし方です。


「と、言う事になったぞ。トール」

「おおう。了解した」


 寝室から、トール君が出てきました。

 話の途中から起き出していたのです。

 まぁ、隣室で会話していたら、気がつきます。

 鎧の音もしていましたしね。


「んじゃあ。そのカズバルで、勇者と聖女一行を待っててくれ」

「先に、遺跡を攻略してなくていいのか?」

「うん、いい。どうせ、やりあうのなら、現実を実感させてやるさ」

「成る程。いきなりの実践か。勇者の実力では厳しいな。適当に間引いておくか」


 大人同士の話についていけません。

 二人で納得していませんで、教えてください。

 思わず剥れてしまいます。


「何だ? 何を剥れている」

「話についていけません」

「ああ。悪いな。トールと打ち合わせしていた」

「そうだ。カズバルに着いたら、炊き出しをして人気を集めていろよ」


 人気をですか?

 どういう意味でしょう。


「短気な勇者とお子様な聖女との、格の違いを見せてやれば、フランレティアの溜飲も下がるだろうしな」

「つまり、僕達はフランレティアの国王に頼まれて炊き出しをした、と事実にするのですね」

「そう言うことだ」


 ニヤリとトール君が笑います。

 如何にも企んでいます。

 と言う笑顔です。


「できれば、農地改革もしてくれたら、尚良いな」

「奥の手を使うのです?」

「いや。土壌改良位なら、薬草を育てている知識が役立つだろうしな」


 現地に行かないと分かりませんが、知識が役立つなら良いです。

 ラーズ君は、トール君が言いたい事を理解した模様です。

 反芻しています。

 これから、帝国への意趣返し作戦が始まりそうです。


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