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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
72/197

第21話

月曜投稿です。


「おう。お疲れさん」


 フランレティア王宮に戻りましたら、トール君に労われました。

 私達に与えられた客室で、呑気にお茶をしていました。

 トール君。

 徹夜でしたか?

 隈が出来ていますよ。


「トール。寝た方がいいんじゃないか?」

「俺もそのつもりだったがな。国王と食事していたら、やんごとない厄介事が起きたと連絡が来た。慌てた国王と宰相に問い詰められた王妃は、もう出発したと言いやがる。アッシュが引率者なら、心配はいらんがな。それでも、可愛い弟子達は心配するさ」


 トール君に、心配をかけてしまいました。

 まさか、フランレティア入りして翌日に依頼を持ちかけられるとは、思いもしませんでしたしね。

 王妃様の独断に近い形での依頼でありましたから、寝耳に水だったことでしょう。

 せめて、出発前にトール君に一声かけるべきでした。

 反省です。


「ほんで、妖精族は(エルフ)は救出できたのか。連れては来ていないみたいだが」

「ああ、知人に預けてきた」

「その方が良いな。王妃も、救出後の案は、大して展望がなかったからな。保護を名目に、優越感に浸りたいだけだしな」


 トール君にも、ばれているようです。

 人族に虐待されている妖精族を救い、保護をして、慈悲深げな王妃を演出するつもりていたのかもしれません。

 帝国には、見目麗しい奴隷を飼うのが上流貴族には流行っているとの、アッシュ君情報です。


「なんでも、妖精族の血液が美容液になるんだってな。宰相が暴露させたぞ」

「阿呆だよな。人族の女は美容の目的なら、金を惜しまないな」

「ほんとにな。セーラも気を付けろな。見ず知らずな人間に飴玉差し出されても、ついていくんじゃないぞ」

「行きません。そんな、小さなお子様では、ありませんから。それに、気を付けるなら、リーゼちゃんもです」

「そうだった。リーゼもだな。竜人も、狙われ易いな」


 どちらかと言いますと、リーゼちゃんの方が危険なのですよ。

 竜人は、竜族と人族との混血が祖です。

 人族にしてみましたら、割と人と近い位置にいる竜族の亜種と見なされています。

 竜殺し(ドラゴンキラー)の名声に傲る人族の中には、竜人を竜族と偽り粛清するお馬鹿さんもいます。

 竜人の血肉も、延命を促す素材として狙われます。

 そんな、効果はないにも関わらずに、少なくない被害を被っています。

 妖精族を確保出来なかったフランレティア王妃が、リーゼちゃんを狙わないとも限りません。

 まあ、黙ってやられるリーゼちゃんでは、ないですけども。


「セーラも、リーゼも、不審者には近づくなよ。一人では行動するな。絶対だぞ」

「はい」

「了承。セーラ、離れない」

「良し。んじゃ、俺は寝る。アッシュ、任せた」

「了解している。ラーズを含めた子供達から、眼は離さん」

「そうしてくれ。近々、帝国から招かざるお客さんも、来るようだしな」


 勇者と聖女が派遣されて来るのですね。

 フランレティアを孤立させて、権力に固執する帝国の優位性を示すよい機会ですからね。

 属国の自治を剥奪して、稀少金属を独占する。

 確か、フランレティア王族を廃する案も提示していたはずです。

 退位ではなく、物理的に排除でしたよね。

 愚かしいです。


「元外務大臣の専横で、派遣要請が出されていたんだと」

「ああ。駐留している朱の死神が、言っていた。シュバルナで、ひと悶着起こした奴が、帝国のお目付け役だ」

「ほう、思い出した。あの男か。アッシュと反りが合わなくて、大事になったな」


 トール君が遠い目をしました。

 本当に、何があったのでしょう。

 忘れないうちに聴いてみたいです。


「シュバルナで、何がありましたか?」

「ん? 話してなかったか? ギディオンが、珍しくぶち切れた事件があっただろう。犠牲になった土地がシュバルナだ」


 温厚な獅子であるギディオンさんが、大暴れした事件は覚えています。

 大怪我をして工房に帰還しましたから、皆さん驚いていました。

 アッシュ君とジークさんの三人で出掛けた矢先のことでした。

 何でも、定住していた獣人の土地を巡り、帝国の騎士団と死闘を繰り広げた、と本人は自虐的に嗤っていました。

 その土地には大地属性の年老いた亜竜が住み着いていたのも、帝国に狙われた一因でもあります。

 詳しい事情は教えてはくださいませんでした。

 恐らくですが、聴くに耐えない事が起こっていたのだと推測できます。


「ギディオンの名誉の為に言うが、集落を焼かれた獣人に自分を重ねたのだろうな。人質になっていた子供を助けに、単身で騎士団が駐留する砦に乗り込んだ。おれとジークが気付いた時には、既に騎士団と殺りあっていた」


 普段のギディオンさんからは、殺伐とした雰囲気がありませんので、勘違いしがちですけど。

 ギディオンさんも、立派な武人です。

 徒手空拳の体術の師です。

 リーゼちゃんも純粋な体術だけでは、ギディオンさんに負けてしまいます。

 組み合わせたと思いましたら、リーゼちゃんが宙を舞っています。

 不思議でしたね。

 リーゼちゃんは、力点が反されると言っていました。

 習得したリーゼちゃんはばんばんと使用していますが、私には出来ない芸道です。

 ラーズ君と二人して宙を舞っています。

 受け身と交わし方は上手くなりましたね。

 ギディオンさんには、鍛練前には力の振るい時を誤るなと言われていました。

 ですから、帝国と事を構えたと教えられた時は驚きました。

 自分の耳を疑いました。


「その話には続きがあってな。半ば怒りで狂乱したギディオンをアッシュが力ずくで捩じ伏せ、代わりにシュバルナの砦を更地に変えた」

「当時は最善だと思ったのだが、少しやり過ぎたな」

「何を言うか。俺がジークに呼ばれてシュバルナに来てみたら、どうだ。でっかい獅子を一撃で昏倒させたアッシュが、高笑いして騎士団を壊滅状態にしてやがった」


 高笑い。

 アッシュ君には、似合わないと思います。

 ラーズ君と、リーゼちゃんも首を傾げています。

 アッシュ君なら、冷笑が妥当だと思います。


「兄さんが、高笑い。本当ですか?」

「おう。本当だ」


 私達の視線がアッシュ君に向きます。

 当の本人は苦笑しています。

 やったんですね。


「あれは、魔人の本性がギディオンの気に充てられて、気分が高揚していたんだ」

「嘘を吐くな。乗り気で演出していただろうが。騎士団を壊滅させるわ、砦を更地に変えるわで、後始末が大変だった」


 朱の死神さんとの出会いは、そこに繋がるのでしたか。

 それなら、あの態度も分かります。

 一騎当千を唄う帝国の騎士が、関わりたくないと言うのも頷けます。


「呆然とした騎士団の連中の中にルーカスだったか。朱の死神と言う奴にだな、停戦を持ちかけられたのは、何故か賢者の俺だった」

「よく、帝国が敵対している先生に、停戦を持ちかけましたね」

「ん。不思議」


 リーゼちゃんに同感です。

 未だに、異世界人との混血のトール君の身柄と知識の、所有権を主張している帝国です。

 一騎士が提案しても、上の立場の人は認めないはずです。


「それだけ、被害がでかかったんだよ。アッシュは人的被害は出さずに、砦とシュバルナの土地を更地にしやがる。ギディオンは、片っ端から襲い来る騎士を再起不能にしやがる。二人の身柄を要求しない代わりに、シュバルナの土地での、出来事を吹聴しないと約定を交わしたんだ」

「もしや、帝国に取ってシュバルナでの事件は、不名誉な出来事だったのですか。そうなると、朱の死神の態度も納得です」

「そうだな。朱の死神は、弱者を甚振る腹芸は嫌っていたな。よく、帝国で出世できたもんだな。とにもかくにも、砦を潰された事実を隠蔽して、シュバルナでの事件は黙殺された。まあ、不名誉な出来事を理由に、朱の騎士団はフランレティアに左遷された訳だ」


 へぇ。

 フランレティアは、左遷の土地でしたか。

 てっきり、反帝国の先鋒たるシルヴィータの隣国だから、精鋭の騎士団が駐留していると思っていました。

 それにしましては、騎士団の人員が少ないとも気付いていました。

 ギディオンさんに、殺られてしまっていたのですね。

 練度が低いのは、新人が入隊した間に合わせの数だったからとか。


「ん? ああ、セーラ」

「はい。なんでしょうか」

「ジェスが鳴いている」


 思案していた私に、アッシュ君は亜空間からポーチを取り出しました。


 ふみゃあ。


 ポーチの蓋が開いて、ジェス君が飛び出しました。


「ジェス! 危ないですよ」


 目測を誤り途中で失速したジェス君を、ラーズ君の手の平が掬いました。

 寝起きでしょうか。

 悪夢でもみてしまいましたか。

 ジェス君は、みゃあみゃあと鳴いています。


「どうしました? ジェス君」

 〔セーラちゃん。ジェスお腹が空いたの〕


 あら。

 きゅるると、可愛いお腹の虫さんが鳴っています。

 そうでした。

 ジェス君の朝御飯はまだでしたよ。

 忘れていました。

 完全に忘れていました。


「ごめんなさい。ジェス君。朝御飯はまだでしたね」


 予定では、私達の朝御飯が終われば、持ってきてもらうはずでした。

 王妃さんからの依頼が入り、アッシュ君を不機嫌にさせられて、強引に王宮を出てしまいました。

 ジェス君の、朝御飯は宙に浮いたままでした。


「ジェスの朝飯なら、呼鈴を鳴らせば持ってきてもらう手筈になっているぞ」

「ありがとうございます」


 早速、トール君が呼鈴を鳴らしました。

 数秒と経たずに部屋付きの女官さんが、入室しました。


「失礼致します。御用命は如何致しましたか」

「外に出ていた連れが戻った。宰相に知らせてくれ。後、可愛い仔猫のご飯を頼む」

「分かりました。すぐに手配致します」


 一礼して部屋から下がる女官さん。

 少し、私達に怪訝な眼差しを向けていました。

 アッシュ君の転移魔法で移動していましたから、いつの間に戻ったのか不思議に思われたことでしょう。

 わざわざ、宰相さんに連絡するのは、私達が城門を潜ったのではないからです。

 お手数をおかけしますが、宜しくお願い致します。

 程なくして、ジェス君のご飯が運ばれてきました。


 〔お魚とお肉だぁ〕


 テーブルに置かれたご飯に、ジェス君は釘付けです。

 美味しそうな匂いがします。

 温野菜と薄味な茹でた鶏肉のサラダと、蒸した魚。

 お魚は骨が柔らく煮込まれていました。

 仔猫のエサではなく、ちゃんとした食事を提供してくださいました。


 〔ジェス。食べていいの?〕

「どうぞ。お待たせしました。ジェス君のご飯ですよ」

「ゆっくり食べろよ。骨に気を付けろ」

 〔はぁい〕


 お腹が空いていましたから、ジェス君はいい子のお返事。

 はぐはぐと、美味しそうに食べ始めました。

 城下町で買い食いをした時に、一緒に食べれば良かったですね。

 失敗しました。

 本日二度目の反省です。


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