第20話
金曜投稿です。
執務室にはアッシュ君が殴り飛ばした騎士が、延びていました。
走り難い障害物をリーゼちゃんが、蹴り飛ばします。
部屋にいる騎士は、八人です。
制圧開始です。
「何をしている23番。命令に従え」
朱の死神さんが、慌てた様子で命令を下します。
鎖を力一杯に引っ張りました。
肉体強化をして飛び出した私はエルフの彼女の元へ。
命令に従わない彼女の首輪が絞まっていきます。
このままでは、窒息してしまいます。
早く首輪から解放してあげなくてはなりません。
リーゼちゃんは、周囲の騎士を牽制する為にですから、死神さんは後まわしです。
ヒップバッグから、目的のアイテムを取りだします。
「がっ」
「ぐわっ」
リーゼちゃんの蹴りが炸裂します。
ラーズ君は魔法を待機して威嚇してくれています。
部屋の魔法無効の陣が反応して、やりづらそうです。
無数の【火炎球】が、部屋に出現しました。
「ルーカス様!」
「ちっ」
火炎球に狙われた死神さんが、鎖を離しました。
引っ張りたくても、リーゼちゃんが踏みつけて間に入りました。
隙を逃さず、隷属の首輪にアイテムを近付けます。
アイテムは単なる魔水晶です。
石に込められた魔力を解放します。
すると、隷属の首輪に皹が入りました。
よしよし。
力業で解錠出来ました。
所詮は人族が製作した隷属の首輪です。
純粋な魔力の塊に晒せば、解錠出きる荒業なのです。
貴重な魔水晶を惜しみ無く消費すればですけど。
人族には思い付かない業です。
鉄製の首輪は力を入れたら、すんなりと割れました。
『貴女を縛る枷は外れました。森に還りましょう』
『……ぅ。……あ、り、が、と、う』
声が発しにくいのは、鉄製の首輪のせいです。
森の妖精族は、金属には弱いのです。
無惨にも焼け爛れた首筋が、痛々しいです。
治療をしてあげたいです。
「ハンター風情が、わたしに恥をかかせてくれるなぁ。生きて帰さんぞ」
顔を赤くした死神さんが激昂しています。
動けないエルフの周りにはアッシュ君とラーズ君も、警戒しながら集まってきています。
いえ。
アッシュ君は余裕綽々です。
「これぐらいで、激昂するなよ。二つ名が泣くぞ」
「黙れ‼ ハンター風情が。わたしに口答えするな‼」
死神さんが、剣を抜きます。
この人一目を置かれる武人なはずでしたよね。
こんなに、短気だとは思わなかったです。
「女をハンター風情に寝とられたからと言って、俺達に八つ当りするな。不快だ」
「黙れ‼ おい、増援の騎士を呼べ。こいつ等を、血祭りにあげろ」
なんと言う、八つ当りです。
性格上自業自得では、ないかと思います。
アッシュ君に言い当てられた死神さんは、長剣を抜きましたけど、襲ってはきません。
何処が死神さんなんでしょう、
全然恐ろしくもありません。
然して広いとはいえない執務室で、長剣を抜くのは悪手だと思います。
せめて、小剣にしませんと。
室内戦では、不利ですよ。
襲いかかる騎士も、上段に構えては天井に引っ掛り、リーゼちゃんの餌食となっています。
一流処か、二流です。
一際小さな私に騎士が殺到しては、リーゼちゃんに蹴られて床に沈められていきます。
勢い良く手足を折っていってます。
命を奪わないだけ、有り難いと思ってください。
ラーズ君は魔法で対応しています。
アッシュ君は、リーゼちゃん同様に無手です。
腰の剣の出番はなさそうです。
私は短剣で、長剣の相手をしています。
リーゼちゃんの間から突きだされる長剣を、払い除けています。
的確に隙を付いて長剣を操る騎士がいます。
中々の手練れが混ざっていました。
「なぁ、この茶番に何時まで付き合わせる気だ。飽きてきたぞ。朱の死神」
「なっ。ルーカスは、わたしだ」
「生憎と面識はあるんでな。お前は影武者だろう」
「うわっ」
アッシュ君が腕を取った騎士を、死神さんに向けて放り投げました。
影武者と呼ばれた偽死神さんは、交わすことなく呆気なく巻き添えになりました。
抜き身の剣が転がります。
通りで挑発に乗りやすいと思いました。
戦場では命取りになりますよ。
「みな、止めよ」
制止の掛け声に騎士は、距離を取りました。
急に統率が取れてきました。
リーゼちゃんが倒しきれない騎士が、壁際に待機しています。
三人に減ったにもかかわらず、余裕が見え隠れしています。
「帝国の騎士を前に、その余裕。ハンターではないな」
「一度もハンターと、名乗ってはいない」
「このやり取り、シュバルナでしたか?」
「ああ」
本物の死神さんに肯定するアッシュ君。
私達には、分からない会話が続きます。
「貴様、あの災害級の魔人族か」
思い出されたのか、吐き捨てる様に死神さんが喚きました。
兜を手荒く脱いでアッシュ君目掛けて、投げつけます。
アッシュ君は、無造作に腕を薙ぎます。
兜は重量がある鎧の下敷きになった、影武者さんに命中しました。
顔面が真っ赤になりました。
「貴様、良くもわたしの前に姿を現したな。シュバルナでの借りを返してやる。いや、待て。依頼で来たと言ったな」
「ああ、フランレティアの代官が妖精族を奴隷にしていると、依頼が入ったからな」
「あの、日和見が。将軍と一緒になって見世物にするから」
本物さんは、金髪の精悍な顔立の持ち主でした。
偽者さんとは、似ていません。
リーゼちゃんと互角な戦いかたをした騎士です。
実力は、それなりに有りました。
しかし、アッシュ君は帝国でも、災害と呼ばれていましたのが判明しました。
本当に何をやらかしましたか。
興味本位で、聴いてみたいです。
「まぁ、いい。依頼者は魔族か、そいつの氏族か知らんが、とっとと消えろ」
「物分かりがいいな」
「ふん。亜人一人の損失で事が済むなら、容易いわ。借りは何時でも返せる。今は魔族と事は構えられん」
「邪神討伐前に勇者と聖女の名声に、傷をつけれないからか。中間管理職も大変だな」
「……。そうか、貴様が魔族からの推薦者か。魔王も厄介な奴を寄越してくれる。魔族は、人手不足か」
「成程。帝国の付き添い者はお前が、任されたか」
「煩い。さっさと消えろ。後は追わん」
厄介払いをされてしまいました。
アッシュ君の、災害振りを味わったのでしょう。
シュバルナの土地で本当に何がありましたか。
息巻いていた死神さんは、あきらかに戦意喪失してしまいました。
長剣を仕舞い、空いた両手を見せます。
部下の騎士さんは、警戒しています。
さすがに、無抵抗になられますと、敵対はできません。
短剣を仕舞います。
「なら、帰らせて貰うが。次は、敵対したら殲滅するぞ」
アッシュ君。
煽ってどうします。
無傷で帰らせてくれるなら、帰りましょう。
「ふん。23番には、呪いの刻印があるぞ。どうにかしないと、いずれは衰弱死する」
「珍しいな。人族至上主義者が、鞍替えか」
「喧しい。わたしは、無抵抗な亜人を甚振る趣味はないだけだ。それに、その亜人は将軍を自堕落にさせた。奴隷の癖に目障りだ。今日も妖精姫を手に入れるとご満悦で、何処かに消えた。わたしは、煩わしい妖精族は、大嫌いだ」
私の情報は、死神さんには伝わっていないようです。
不仲なのでしょうか。
指揮系統に不備を見つけてしまいました。
「見逃す対価に教えておく。フランレティアに双黒の賢者が肩入れした結果、代官と将軍は王宮に捕縛されたぞ」
「何だと。あの阿呆が、妖精姫を既に狙った後か。これでは、皇帝陛下のご下命が果たせないではないか。……おい、待て。貴様は賢者との仲は良好だったな。妖精姫を何処に隠した」
ここにいます。
死神さんも、まさか妖精姫が目の前にいるとは、理解してないですね。
私は人族に偽装していますし、認識阻害の魔導具がお仕事頑張っていますから、認識していないと見ます。
「答えると思うか」
「わたしでも、思わん。どうせ、王宮にいるんだろうが。後日、聖女様と勇者殿が、邪神討伐に訪れたら、否応なく会える」
「会ってどうする。あれの保護者は帝国を蛇蝎に嫌う賢者だ。そう易々と歓迎はされん」
「はん。妖精姫は弱者にはお優しいと聴いている。伝えろ、救護院で子供が流感にかかり、死にかけているぞ」
「食料事情なら、改善済みだ。残念だがな、妖精姫の出番はないな」
アッシュ君が断言しました。
妖精姫=神子の図式が帝国には、あります。
弱者の子供が飢えていると情報を流して、神子の心情に訴えて神業を披露する機会に、探ろうとの魂胆ですか。
私は偽善者でも、善人でもありません。
エルフの彼女を救いに来たのも、依頼されたからにすぎません。
戦争奴隷にされた彼女には悪いですが、救助後には関わらないと思います。
アッシュ君と死神さんの会話の間に、ポーションを飲ませて回復を待ちます。
傷跡には安全地帯になりましたら、治療をしていきたいと思います。
「だかなぁ、その余裕が何時までも続くか見物だ。精々高みの見物でもしていろ。必ず、妖精姫は帝国が手に入れて見せる」
「なら、見物させて貰おう」
話が一段落しました。
アッシュ君が転移魔法を展開しました。
魔力の陣が私達を囲みます。
「後から入ろうとするなよ。腕なり脚なり切断されても構わないならな」
「ふん。一度で懲りた。災害に出会ったら、出来るだけ早く目的を遂行させろ、とのお達しだ。だかな、蒼の魔法師と将軍は、シュバルナでの騒動は忘れていないからな」
「お前が上手く立ち回れば蒼の何某は、来ないだろ」
「それと、23番は早くフランレティアから出せ。朱の将軍はご執心だ。女狂いがなければ、立派な上司だからな。首を洗って待っていろ」
リーゼちゃんに一発で伸された人ですよね。
人望が有りましたよ。
びっくりです。
薄れて行く景色に、苦虫を噛み潰した死神さんの表情が見えました。
割合に、真面目な人でした。
何故に影武者を使ったのか不思議です。
堂々と対応すれば、余計な怪我人を出さなくて済みました。
「初っ端に、広域魔法を使用したので、警戒されてしまいましたね。抵抗もされましたし」
ああ。
そうでしたか。
納得しました。
転移先には医療チームが待っててくださいました。
いつの間に連絡してありましたか?
用意周到です。
彼女は、精霊言語を習得している看護師に任せればよいですね。
魔王様の居城にいれば、一安心です。
ですが、アッシュ君に問いたいです。
「彼女の保護施設に魔王城を薦めた理由はなんでですか」
「ん? 単純に呪い返しが出来る知人が魔王城にいただけだ」
はい。
私も同感です。
魔王城の医師には呪術に精通しています。
きっと、彼女は呪いからも解放されることでしょう。
ただし、少し変態気味なんです。
呪術には、並々ならね関心を見せる医師なのです。
彼女の精神は大丈夫か、心配です。
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