表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
70/197

第19話

月曜投稿です。


 帝国の騎士が駐留する屋敷は、俗に貴族街と言われる区画にありました。

 他の屋敷とは格別に大きな尖塔があり、謂わば離宮と説明されてもおかしくありません。

 周囲は林に囲まれています。

 高い塀は、見上げなくてはなりません。

 勿論、出入り口には見張りの兵士がいます。

 さて、どうやって忍びこみますか。


「進入禁止の監視魔法がある」

「ですね」

「魔法の腕はそこそこ有りそうに見えますが、穴もちらほら身受けられますよ」


 こっそりと、魔力の流れを視て見ました。

 展開されています魔法は、魔石で常時魔力の補完をしているようです。

 交換を怠っているのか、それとも侵入を誘っているのか、どちらでしょうか。


「ラーズなら、どう見る?」


 アッシュ君が、問いました。

 今回の侵入作戦はラーズ君が、主動するようです。

 私達は、屋敷が見える位置にいます。

 認識阻害をしていますが、何時までも屋敷を観察していてはいけません。

 貴族街の巡視の兵士に咎められること、間違いなしです。


「第一に陽動作戦を提案します。僕が観察魔法に穴を開けて先に侵入します。僕が騎士の注意を引いている間にリーゼとセーラを侵入させます」

「第二は?」

「見張りの兵士を眠らせて、堂々と表側から侵入です」


 第一の案ですと、ラーズ君の危険にリーゼちゃんが反対しそうです。

 リーゼちゃんは、私やラーズ君が傷を受けたら倍返しならぬ十倍にして、やり返す癖があります。

 私としましては、第二案に手をあげたいです。

 これですと、三人が一緒なら多少の事でも無理がききます。


「無難な策だな。だが、おれを忘れているぞ」


 アッシュ君が、ラーズ君を撫でました。

 解答がお気に召したようです。


「兄さんが手伝いをしてくださるなら、広域魔法で屋敷中の人間を眠らせますね」

「それが、最善な策だな」


 ラーズ君の魔力では、屋敷を全域に囲む魔法は展開できません。

 まだまだ、修行中の身です。

 私が魔力譲渡を召喚ラインでラーズ君に流す案ですと、リーゼちゃん一人で警戒して貰わないといけません。

 リーゼちゃんの索敵は雑と言わないとなりません。

 張りきりすぎて、無害な無関係者も排除してしまう可能性を秘めています。

 アッシュ君がいてくれますので、広域魔法が使用できます。


「では、セーラ魔力譲渡をお願いします」

「分かりました。始めます」


 自分では、攻撃・支援魔法が使えないのに、無駄に余りある魔力を、ラーズ君に召喚ラインを伝って譲渡します。

広域睡眠(フィールドスリープ)】の魔法が、展開して屋敷を包み込みました。

 ばたばたと人の倒れる音を拾います。

 戸惑い、何事か誰何する声も次第に弱まっていきました。


「若干名抵抗(レジスト)されました。耐性異常の護符でも、所持しているかも知れません」

「そうですね。帝国の魔法師がいるかもです」

「ん。魔法師が慌てる。素早く侵入する」

「では、行くぞ」


 アッシュ君が、正門に向かいました。

 正攻法です。

 私達も続いて歩きだします。

 それにしましても、魔法の掛かりが良すぎです。

 若干名抵抗されただけに、終わりました。

 曲がりなりにも、帝国の騎士です。

 護符や、耐性に優れている騎士が多くいても不思議では、なかったのですが。

 正門の兵士は、呑気な様子で眠りこけています。

 閉じられている正門を、アッシュ君が軽く叩きました。

 すると、展開していた監視魔法に穴が開きました。

 人一人分の穴を開けた技は、暴力的に見えて繊細な作業でした。


「むう。兄さん無敵」

「一瞬で展開する魔法に干渉するのは、さすがです」


 他者の張り巡らす魔法に、無造作に干渉するとは、年期の差ですね。

 恐らく、干渉された側には蟻が触れた位にしか感じなかったと思います。

 正門を潜ると、穴は元に戻りました。

 むう。

 リーゼちゃんではないですけど、称賛に値します。

 魔力操作に優れた魔人族の中でも、アッシュ君程にこなれた技を見せる方を見たことはありません。


「さて。侵入したのはいいが、次はどうする?」

「定番なら地下牢ですかね」

妖精族(エルフ)の気配は上。地下にはいない」


 あら。

 監禁されているのなら、地下だと思いましたが、外れました。

 隷属されていましたら、ある程度の自由は許されている派でしょうか。

 屋敷の中に難なく入りました。


「……何だ? 敵襲か? おい、どうした」


 入口のロビーには、此方に背を向けて同僚の騎士を揺さぶる姿がありました。

 ラーズ君が、音もたてずに滑るように近付いていきます。

 その首筋に手刀を入れて、気を失わせました。


「呆気ない」

「抵抗しませんでしたね」

「気配を隠していないのに、気付かないとは。僕等なら、鍛練が倍処ではないですよ」


 そうですね。

 無様にも一撃を受けたら、地獄の鍛練が待っています。

 アッシュ君は、鍛練時には容赦は何処かに行ってしまわれます。

 護身術ではなく、ひとかどの武人にするつもりです。

 種族特性に合わせた闘い方を伝授してくれています。


「リーゼ。何処だ」

「ん、三階のあっち」


 気配察知に優れたリーゼちゃんが、三階を指差します。

 私達一行は帝国の騎士の妨害に逢わず、三階にあがりました。

 さて、これからどうしましょうか。

 アッシュ君は、気付いて当然でしょう。

 三階に上がるなり、魔力の流れを感知しました。

 ラーズ君も、扉越しに潜む息づかいの音を拾います。


 〔ここから、二つ目の扉に複数の人間がいます〕

 〔ん、まだ違う。魔法師がいる〕

 〔奇襲攻撃ですか。私達に察知されているとは気付いてないですね〕

 〔リーゼ。適当な魔法で、扉を壊して見てください〕

 〔了承〕


 作戦が決まりました。

 私達に待ち伏せや、奇襲攻撃は効果がありませんよ。


「【空気弾(エアショット)】」

「な、扉が……」

「何だと」

「ぎゃあ」


 部屋の中へ吹き飛んだ扉越しに、悲鳴があがりました。

 待機していただろう魔法が炸裂しました。

 自分の【麻痺球(パラライズボール)】の魔法で、麻痺を引き起こしています。


「煩い」


 リーゼちゃんが意識を刈り取ります。

 部屋にいたのは魔法師が四人でした。

 あっさりと制圧されていきます。

 ですが、侵入者がいると知られました。

 副団長さんの話では魔法師がいませんでした。

 情報が秘匿されていたのか、敢えて提供しなかったのか微妙です。

 副団長さんの態度を見ると前者かと思います。

 そうであって欲しいです。


「お前達何者だ。何しにここへ来た」

「この屋敷は帝国の代官の屋敷だぞ」


 一目で上級騎士だと分かる鎧兜を身に着けた騎士が、目的の部屋から出てきました。

 どうやら、突き当たりの部屋では、魔法が無効化される造りになっていました。

 そして、鎧には状態異常耐性の陣が刻まれています。

 実質的、普段から鎧を着込んだ騎士はラーズ君の魔法に、抵抗したと言う訳ですね。

 リーゼちゃんが誰何の声を聞き付けて、私の背後に回りました。

 先陣はアッシュ君とラーズ君に任せます。


「もう一度問う。何しに来た。返答によっては、斬り捨てる」

「依頼だ」

「何だと」

「あんた等が見世物にしているから、エルフを救えと依頼された」

「ハンターか。依頼者は誰だ」

「馬鹿か。教えると思うのか」

「貴様、帝国に逆らう気か」


 威圧高に命令してきますが、アッシュ君は飄飄と対応しています。

 そう言えば、私達は人族に偽装したままでした。

 だから、ハンター呼びでした。

 アッシュ君の本性を晒すと人族は、畏怖をしますから不思議でした。

 このままで、いく腹づもりでしょうか。


「帝国に逆らうつもりがなければ、依頼は受けんぞ。愚者に説教をするつもりはない。朱の死神に合わせろ」


 直球勝負です。

 騎士も、言葉を無くした模様です。

 強者でなければ、出来ない芸当です。


「愚者は、貴様の方だ。ルーカス様が一介のハンター風情に合うものか」

「なら、押し通るまでだ」

「ふん。出きるものか」


 あらら。

 騎士はとうとう剣を抜きました。

 アッシュ君に斬りかかりました。


 ガツン。


 鈍い音を響かせて騎士が吹き飛びます。

 斬りかかる腕を払いのけ、横面を殴りましたのです。

 一直線に死神さんがいると思わしき部屋に、飛んでいきました。


「貴様‼」


 ガツン。


 二人目も飛んでいきました。

 これでも、アッシュ君は手加減をしています。

 本気で殴れば胴体に穴が開いて、絶命してしまいますから。


「単純」

「相手の力量を図れないのは、騎士としてどうかと思います」

「僕達、着いてくる必要がありましたか?」


 ないですね。

 アッシュ君一人で充分な気がします。


「愚痴るな。敵地だぞ。気を抜くな」


 アッシュ君に叱られました。

 愚痴りたくもなります。

 私の出番なんて、魔力譲渡しただけですよ。

 生きた魔力貯蔵庫です。

 やるせなさを、痛感してしまいます。


「ルーカス様が合うそうだ。武器を渡せ」


 次に出てきた騎士が、また命令します。

 アッシュ君は無言で、顔面を兜ごと掴み持ち上げました。


「や、止めろ。痛い痛い痛い」


 そのまま、前進していきます。

 騎士が掴む腕を叩きますが、アッシュ君は気にしてないです。

 蹴りも入りました。

 腕は揺るぎなく騎士を掴みあげています。


「邪魔するな」

 異変を察知した騎士が、部屋から出て来ようとしています。

 見やったアッシュ君は、騎士をぶん投げで進路を確保しました。


「ルーカス=ハーヴェイ。朱の死神に用がある」

「聴こえている。ハンター風情が威勢がいいな。わたしと敵対するとは、ハンター資格が剥奪されても良いのだな」


 部屋の主は執務机に寄り掛かりながら、出迎えてました。

 朱の死神さんは、外見は赤毛の優男に見えます。

 けれども、上位者並の威圧を掛けてきています。

 私達はアッシュ君で慣れていますから、萎縮はしていません。

 右手には金髪碧眼の森の妖精族(フォレエルフ)の首に繋がれている鎖が握られています。

 妖精族は床に蹲り生気のない衰弱した様子を見せています。

 粗末な衣装に隠されている肢体には、暴力を受けた痕跡が残されています。


「おい。23番。こいつらを弱体化させろ。序でに、人物鑑定で情報を読み取れ」


 命令に、虚ろな眼差しが私達に向けられました。

 精霊言語が微かに聴こえてきます。

 私は、番号で呼ぶ様に怒りが沸いてきました。

 帝国人の、亜人の扱いを生で体感してしまいました。


『貴女は助かりたいですか?』


 精霊言語で話し掛けますと、呪文が止まりました。

 途端に隷属の首輪が締まりました。

 命令に違反したのです。


『……ぁ。た、す、け、て……』


 それだけ聴ければ充分です。

 リーゼちゃんと私は飛び出しました。


ブックマーク登録ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ