第7話
街道を北進すること2時間が過ぎた頃に、トリシアの街に着きました。
ラーズ君が聞いた足音の主は、商人の馬車と護衛の冒険者の集団で、急いでいたのか私達3人を気にすることなく、追い越して行きました。
少し、拍子抜けでした。
銀色の毛並みの狐耳とふわふわの尻尾|(1尾)の獣人に、黄金の竜角と露出した肌に所々鱗が見える竜人、フードを目深に被った少女らしき3人組は、人族の国では結構衆目を集めると思うのですが。
自意識過剰でしたでしょうか。
そう、ぼやいてみましたら、リーゼちゃんにお小言を頂きました。
「危険回避。ラーズが幻惑掛けてる」
仮にも敵国です。
余計な、騒動はないに越したことはないそうです。
ですが、トリシアの街が見えるにつれて、二人が危惧していた事が起きていました。
街の門が閉ざされていたのです。
季節は初春で、まだ日暮れまでには時間があります。
神子捜索の検問強化でしょうか?
長くない人の列ができていました。
兵士や騎士の人数がかなり多いと思われます。
一人一人入念に確認が行われていますので、街の住人でない限り検問に時間がかかりそうです。
これはひと波乱ありそうですね。
大人しく列に並びました。
あの追い越した商人と冒険者の後ろでした。
「何だか物々しいですけど、何事かあったのですか?」
如何にも自然体に、冒険者の一人に質問するラーズ君です。
情報収集ですね。
声を掛けられたその人は、獣人が珍しかったのか、驚きながらも親切に答えてくれました。
「何でも、巡回中の騎士の小隊が消息不明になったらしい。それと、誰かまで知らんが人探しをしているみたいだ」
「そっちの嬢ちゃん。騎士に目をつけられる前に、フードは外した方が良さそうだぞ」
冒険者さんの忠告は少し遅かったみたいです。
街が見えた時点でラーズ君は、幻惑の魔法を解除しています。
列に並び初めてすぐに私達は、やはり注視の的となっていました。
兵士さんのこちらを探る視線が突き刺さりますが、ラーズ君とリーゼちゃんは慣れたもので、気にしていません。
猫君も相変わらず熟睡しています。
それにしても、巡回の騎士さんはあの森で精霊様の魔法の影響化に、まだあるみたいですね。
解放されるのはいつになるかは、精霊様次第だと思われます。
「君達少しいいかな」
「他国出身だと思われるのだが、獣人や竜人は別に手続きが必要何だ」
「詰所に来てくれないかい」
言葉は優しいものでしたが、有無を言わせない威圧的な態度で、騎士さんに囲まれました。
シルヴィータは亜人に寛容な国だと思っていましたが、鞍替えでもしましたか。
ラーズ君とリーゼちゃんは警戒を露にしつつも、私を挟む位置について先導する騎士さんの後に続きます。
私は脅えていますという体で、リーゼちゃんの腕に掴まり歩いています。
「失礼します。隊長、お捜しの人物かもしれない3人組を連れて参りました」
はて?
3人ということは神子関連ではなかったのですか?
疑問符が湧き上がります。
詰所の中には、隊長さんらしき方が頭を抱えて項垂れていました。
空気が重いです。
「おぅ、遅い到達だったな。まぁ、調薬師の嬢ちゃんがいたら、寄り道は当たり前か」
「失礼ですけど、初対面の方とお見受けしますが、僕達のことはご存知なのですか?」
「本当にトール殿は何も説明せずに送り出してくれたんだな」
トール君のお知り合いですか。
隊長さんを置き去りにして、筋骨逞しいお髭のナイスミドルな人族のおじ様が、にこやかな笑顔で出迎えて下さいました。
騎士さんと違い平服ですので、精霊様が教えて下さいました、冒険者ギルドの方でしょうか。
「オレは冒険者ギルド、トリシア支部のギルド長グレアムだ。今回トール殿の知恵を借りたくて相談したら、嬢ちゃん等が派遣されたという訳なんだが。その様子だと詳しい理由は説明されてないな」
何事か疑問符だらけの私達に、ギルド長さんは苦笑いです。
はい、演技するまでもなく素で訳が解っていません。
ええと、トール君が先回りして手を打っていて下ってくれていたみたいです。
通信規制されていましたが、ギルドの緊急連絡用通信網は稼働していたのですね。
「隊長さん、あんたいつまでそうしているんだ。あんた達騎士の不始末を尻拭いしてくれる嬢ちゃん等に、説明義務があるのは上司の責任だろうが」
「‥‥‥何故こうも同時期に問題が起きるのだ」
知りません。
隊長さんは嘆くだけで仕事放棄です。
神子の一件は私に関わりがありますが、その他は関連がないはずです。
ギルド長さんでよろしいので、説明をお願いいたします。
でないと、しびれを切らしたリーゼちゃんが、暴れ出しそうなのですよ。
しっかりと、リーゼちゃんの腕にしがみつき直しました。