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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
69/197

第18話

金曜投稿です。


 肩肘が張る朝食が終わりました。

 サロンに移動して情報収集に着手することになりました。

 健啖家のリーゼちゃんは、空気を読んでお代わりは希望はしませんでした。

 味が今一だそうです。

 念話で、街に降りて屋台を廻りたいと言っています。

 私は、美味しく戴きましたよ。

 お肉料理のソースのレシピを、教わりたいぐらいです。

 デザートまで平らげておいての、リーゼちゃんの感想にラーズ君も苦笑いでした。


「彼女と便宜上呼ばせて戴いておりますが。彼女は恐らく帝国の騎士が駐留する屋敷に監禁されています」


 焦臭いお話になることを懸念して、王女殿下と王子殿下はお部屋に戻られました。

 後日、冒険談を聴かせる約束事をさせられました。

 抜け目がないですね。

 お子様の相手はラーズ君に任せてしまいましょう。

 ラーズ君の魅惑な尻尾や、私の耳に触りたがっていました。

 身内でもないので、触られるのはご免こうむります。


「その屋敷の正確な地図と、駐留する騎士の人数は?」

「地図は此方になります」


 女官長さんが既に用意されている地図を、テーブルに広げていきます。

 依頼を受けることが前提になっています。

 食事の席の裏側で先回りされているようです。

 まるで、掌の上で転がされている感じがして、なりません。


「駐留する騎士は、従騎士も含めて五十人もいない。が、属国に駐留させるだけあり、実力は高い」

「黒地に天馬の紋章を刻む輩なら知っている」

「話が早い。そうだ、皇帝直属の部隊だ」


 アッシュ君と、すっかり私達専用の対応役になってしまいました副団長さんの、話が進んでいきます。

 天馬は帝国の紋章に、よく使用されます。

 片翼か両翼か、角があるかで部隊名がわかります。


「フランレティアに駐留する部隊は両翼だ。朱の剣を持つ」

「リーゼに伸されて失神した馬鹿が、三翼の一人だとは知っている。だが、本人は凡庸だ。警戒するのは、部下にある。だから、あんた等が攻めきれないのも分かる」

「そうだ、朱の死神がいる限り、我々には手が出せない」


 三翼とは皇帝の直属の近衛騎士団です。

 朱、蒼、翠の記章を掲げる騎士は、皇帝に絶対服従の精鋭部隊です。

 ラーズ君とリーゼちゃんの肩が跳ねました。

 私も、良い気分ではありません。

 何故なら、その部隊に両親を狩られているからです。

 リーゼちゃんのやる気がみなぎってきています。

 リーゼちゃん。

 竜体での大暴れは駄目だと思います。

 ラーズ君。

 うっかり人死には駄目だと思います。

 お二人様、何を物騒なことを提案してきますか。

 アッシュ君が許さないと思いますよ。


「分かった。帝国の騎士はどう処分する? 後腐れもなく消し炭にでもするか?」


 アッシュ君⁉

 貴方まで何を言い出しやがりますか。

 副団長さんの口元がひきつっていますよ。

 王妃様を守ろうと、女官さんが身を乗り出して来ていますよ。

 私達が危険人物になってしまいました。

 お子様がいなくて、良かったです。


「できれば、生かして捕縛出来ないだろうか」

「交渉の駒にするなら、諦めろ。自決の手段を取るだけだぞ。其れぐらいなら、完璧に心を折って送り返すのが、良い策だ」

「朱の死神が簡単に折れるとは、思えないな」

「やり方は、幾らでもある。おれ達は、魔族だぞ」


 忘れられていそうですね。

 私達は、帝国に一方ならない怨恨があります。

 非情にだってなれます。

 対人戦闘になれば、容赦はしません。


「大体な、捕縛したい部隊を何処に収容して、管理をする。依頼後まで、おれ達に任せる気なのか。頼りにし過ぎだ」


 アッシュ君の言い分には皆さん黙りました。

 やはり、捕縛後の展望がありません。

 搾取され過ぎて、自己の判断が鈍っています。

 一から百まで賢者様やアッシュ君に、責任を負わせる気でいますね。

 彼女を救うのも、自軍の兵力が宛にならないからです。

 アッシュ君が、依頼としてなら受けると言った意味を理解していません。

 フランレティアには冒険者ギルドはなくとも、ハンターギルドはありますよね。

 まあ、王妃様が気軽に依頼をするとは思ってもいません。

 万が一にも依頼に失敗したら、責任を被るのは依頼者です。

 実質は、別の誰かが責任を取らせられるか、よくて幽閉確実です。

 そこのところを、理解しなくてはなりません。

 責任の所在ははっきりとしなくては、依頼は受けられません。


「依頼内容は、奴隷にされているエルフの身柄確保。帝国の駐留する部隊の排除は俺達の仕事ではない」

「……。では、どうやって彼女を保護できる。帝国も、容易く侵入させてはくれん」

「最低限の被害はでるだろう。たった四人で、騎士を相手に立ち回りを演じるんだ、今は手段は話せないな」


 そう。

 四人で、精鋭部隊を相手にしなくてはならないのです。

 アッシュ君の実力なら、相手に不足はないでしょう。

 そして、敵地に等しい場所で手段の暴露はしたくはありません。

 副団長さんも、自軍の機密情報を話せないのと同様です。


「信頼はされてない、のだろうか」

「当たり前だ。俺は、賢者程に優しくはない。未成年者に、帝国の精鋭部隊と事を構えろと、厚かましく言わないな」

「! ですが、皆様方は……」

「依頼は受ける。冒険者だからな。行くぞ」

「「はい」」

「了承」


 アッシュ君の機嫌は最低値です。

 依頼金を決める前に席を立ちました。

 交渉決裂にならないだけ、ましと思って下さいね。

 地図は記憶済みです。

 手早く着替えましょう。

 ドレスでは、戦えません。

 リーゼちゃんの転移魔法で、寝室に移動します。

 清掃をしていたのか、侍女さんが驚いています。

 丁度良いです。

 脱いだドレスをお願いいたします。

 着せられるのは時間がかかりましたが、脱ぐのは短時間ですみました。

 何時もの装備を身に包んだら、リーゼちゃんが【清潔(クリーン)】の魔法を使用しました。

 髪型を結われた整髪剤と香水の匂いが消えました。

 正味五分足らずでアッシュ君達と合流出来ました。


「お待たせしました」

「お待たせ」

「……ですから、自分も同道致します」

「邪魔、足手まとい」

「なっ?」


 アッシュ君に詰め寄る副団長さんが、リーゼちゃんに転がされました。

 相変わらずよく転がされます。


「リーゼ嬢。何をする」

「リーゼに転がされている内は、役にはたちません。背後が疎かになりすぎすよ」


 ラーズ君の指摘は尤もです。

 騎士なら、背後にも気を付けておかないとです。

 仮にも副団長が転がされていいわけありません。

 自分の欠点に副団長さんは、放心気味です。


「で、どうしますか」

「特に何もない。予定通りに行くだけだぞ」

「魔人殿……」

「期待されているのは分かる。あんた等が、どれだけ甘い考えに至ったかは、トールにあるだろう。人族と魔族の実力を天秤に掛け、自国を優位に保ちたいのもな。だからと言って、子供達も戦略に加えたのは許されないぞ」


 きつい言葉には、棘があります。

 お子様方を部屋に下げる時に、私達も下げるべきでした。

 アッシュ君一人なら、秘密裏に彼女を保護出来ましたのに。

 私達を巻き込んでしまったが為に、アッシュ君の不興を買いました。

 まだまだ、冷静に対応していますけども。

 王妃様は為政者にしては、危機管理能力が宛になりませんね。

 トール君以上に怒らせたらいけない人を、怒らせました。


「用件がそれだけなら、行くぞ」

「申し訳ない。頼みます」


 土下座に近い形で副団長さんが、頭を下げました。

 リーゼちゃんに転がされて、起き上がれないだけですけどね。

 アッシュ君は、睥睨して黙したまま、転移魔法を展開しました。

 魔力に包まれたと思いましたら、裏道にいました。

 移動が早いです。


「フランレティアも、シルヴィータと変わりがありませんよ」

「ん。王族は我が儘」

「そうですね。きっと、妖精族(エルフ)の彼女には秘密がありそうです」

「見世物にされていたそうですが、王族が欲しがる何かがあり、奴隷解放はされないでしょう」

「だろうな。国王が知れば王妃を叱責では、済まん」

「兄さんは、情報を得ているのでしたね。事実は何ですか?」

「ああ」


 アッシュ君は、私とリーゼちゃんを見ました。

 私達に関連がありそうですか。

 思わず、首を傾げます。


「帝国の貴族婦人は美容に金を惜しまない。長命種の生き血を加工した美容液が、流行っている。特に、妖精エルフ種の生き血を加工した美容液は、天上知らずの値だ」


 うわぁ。

 気持ちが悪いです。

 生き血を加工とは。

 私も調薬師ですから扱いますけども、妖精種の生き血に美容効果はないですよ。

 竜族の生き血も延命効果があると、乱獲されたのです。

 リーゼちゃんに断り数滴貰いましたが、そんな効果はありませんでした。

 人族の考えることは理解が追いつかないです。


「それは、何と言っていいのか、分かりません」

「いい迷惑」


 王妃様も、俗物です。

 美容液目的ですか。

 そうですか。

 善意の行動では、なかったです。

 彼女にしたら、奴隷主が変わるだけになりそうです。

 一気にやる気が削がれました。


「保護出来ましたら、然るべき場所に預けた方がよくないでしょうか」

「セーラに同意します」

「同じく」


 アッシュ君が眩惑の魔法を掛けて人族に変化して歩き出しました。

 私達も続いて、特徴ある部位を隠して裏道から表通りに出ます。

 気のせいでしょうか。

 お店が閉まっていたり、通行人がすくないです。

 その中を何気無さを装い、中央広場の屋台がある場所まで歩いていきます。

 お肉の串焼きの、良い匂いが漂ってきています。


「串焼きを八本くれ」

「まいどー。ちょっと待っててくれよ」


 ミラルカより、割高な金額でした。

 アッシュ君も、リーゼちゃんとラーズ君のお腹が膨れていないのを、知っていましたね。

 次々と木皿に串焼きが乗っていきます。


「食べていい?」

「いいぞ」


 待ちきれないリーゼちゃんが、串焼きに手を伸ばしまます。

 アッシュ君は、リーゼちゃんの頭を撫でてにこやかに笑いました。

 では、私もご相伴に預かりたいと思います。


「美味しい。鶏肉ですね」

「おおう、ありがとよ。昨日絞めて、一晩タレに漬け込んだんだ」


 屋台のおじさんは、焼き終わった串焼きを木皿に乗せて笑いました。

 それなりに、量がある串焼きを平らげるリーゼちゃんに、目を向けて追加を尋ねてきました。

 ラーズ君も、まだまだ足りなさげです。


「追加を頼む。今日は随分と人が少ないな」

「兄さん達はハンターらしいが、仕事で王都に来たのかい。食料が高騰しているせいもあって、暴動が起きないように外出制限されているんだぞ。おれたち、屋台主も日替わりで出店だ」

「それは、知らなかったな」

「だから、兄さん達も気を付けなよ。不審な素振りを見せたら、即牢屋行きだ」


 惜しみなくお金を落とすアッシュ君に、機嫌よく答えてくれました。

 外出制限ですか。

 通りで、活気がないと思いました。

 巡回の兵士が多いなら、人身御供に副団長さんを連れて来ても良かったかもです。


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