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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
67/197

第16話

金曜投稿です。


 翌朝。

 寝惚けたリーゼちゃんに抱き締められ、少々苦しさに目が覚めました。

 リーゼちゃんとは同室の寝室が用意されていましたが、朝になると抱き枕になっていました。


「リーゼちゃん?」

「おはよう」

「おはようございます。夜に何かありました?」

「兄さん、魔法、引っ掛る、馬鹿、いる」


 何処に、との問い掛けは言葉になりませんでした。

 昨夜は固有技能(ユニークスキル)を使用した反動で、ぐっすりと寝てしまいました。

 物音に反応していれば、床に転がる侍女さんと兵士さんがもがく音に、眠ってはいられなかったでしょう。

 三名程、魔力の鎖に捕縛された姿がありました。


「あー。妖精姫と竜人のお嬢さん、その馬鹿を引き取ってもいいかな?」

「レディ、部屋、押し入るな」


 がん、と二間続きの隣室から、物音が響きます。

 リーゼちゃんの仕業ですね。

 私が起きるまで放置状態でしたか。

 急いで身支度しましょう。

 でないと、騎士さんの被害が多くなります。

 案の定、不審者を捕縛しに来たであろう、騎士さんが壁に張り付けられていました。

 お仕事ご苦労様です。

 どうぞ、職務を全うしてくださいませ。

 何時もの装備に身を包み寝室をでますと、騎士さんの拘束が解かれました。

 因みにジェス君は、アッシュ君とラーズ君の男の子の寝室にいます。

 珍しくアッシュ君に、甘えていました。


「あー。やっと自由になれた。魔人族の守護魔法は凄いな」


 騎士さんは、副団長さんでした。

 肩を回しながらぼやいています。

 もしかして、一晩中でしたか。


「最初の不審者は、部屋から出した。あれは、明け方近くに襲って来た」

「不審者は、他にもいたのでしたか」


 こくん。

 口下手なリーゼちゃんは頷きました。

 ほわわ。

 悠長に寝ている場合ではありませんでした。

 全く気付きませんでした。

 それは、リーゼちゃんに心配されて、抱き枕になる筈です。

 あと、副団長さんを拘束したのは、アッシュ君ではなくリーゼちゃんです。

 心中で訂正させていただきます。


「レデイ、寝室、入る。誰でも、叩き出す。兄さん、助言」

「妖精姫。通訳を頼む」

「ええと。年頃の娘さんが寝ている寝室に、押し入ろうとする人は、例えばトール君でも外に遠慮なく叩き出せ。と、アッシュ君に言われているようです」

「不審者でも、身内でもかい?」

「はい。正当な理由が無ければ、です」


 我が家では当たり前でしたが、余所様のお宅では、違うのでしょうか。

 リーゼちゃんと、二人して首を傾げます。


「確かに、年頃の娘さんがいる寝室には入れんな。申し訳ない」


 副団長さんは、素直に頭を下げられました。

 他種族に真正面から接してくださっています。

 宰相補佐官さん絡みで、苦労していそうです。


「昨夜から夜明けにかけて、寝室に押し入り捕縛した人数は相当数になる。王族の居住区たる奥の宮にも、外務大臣派や帝国の間者が紛れ込んでいる証だな」

 〔正確には何人です?〕

 〔16人。兄さん達側、9人〕


 念話で問いましたら、衝撃な事実が判明しました。

 私達だけでなく、アッシュ君側にもでしたか。

 それにしましても、人数が多いですね。

 自前の結界を張るべきでしたね。

 今日からは、そうしてみましょう。

 竜族のリーゼちゃんが、いくら数日は眠らなくても平気とは言え、甘えてばかりはいられません。

 トール君謹製の結界魔導具を、展開することに決めました。


「失礼致します。女官長殿が入室をしたいと、申し出ています」

「構わないかな?」

「良いですよ」

「入って貰え」


 誰何の後、副団長さんが扉と私達の間に入りました。

 警護してくださいます。

 まあ、不審者が大量に出現した以上は警戒しても、罰が当たりません。


「失礼致します」


 女官長さんは、昨日丁寧にもてなそうとしてくださいました方です。

 背後に複数の女官さんを、伴っていました。


「王妃様より、この度の不始末をお詫びしたいと申し出ております。ご不快でなければ、是非に朝食をご一緒に取りたいと仰せ付かっております」


 女官長さんと女官さんは、揃って頭を下げられました。

 ええと。

 私達の保護者様は、何をしていますかね。

 勝手に判断ができません。


「僭越ながら、賢者様は国王陛下とご一緒でございます」

「魔人族の保護者様と、義兄は何と言ってましたか?」


 義兄はラーズ君の事です。

 義姉はリーゼちゃんで、義妹は私を意味します。


「お二方とは、ご理解頂けました」


 〔ラーズ君。ラーズ君は、何処にいますか?〕

 〔僕と兄さんは、隣の客室です。何がありました〕

 〔女官長さんが、王妃様と朝食をと仰っています〕

 〔ああ、兄さんは了承しましたよ。受けても良いです〕

 〔ありがとうございます〕


 ラーズ君と、アッシュ君の了承は得られました。

 女官長さんは、嘘を吐いてはいません。

 ですが、用事が王妃様の伝言なら、背後の女官さんはいらないのでは。

 不思議に思いました。


「保護者様と義兄が了承したのなら、構いませんが。マナーは清廉されていませんよ」


 王族と一緒に食事を取るとは、思いもしませんでしたから。

 一通りは習っていますけど、不安です。


「構いません。無理を承知でご招待するのです。マナーについて、とやかく言う者はおりません。では、身支度をさせていただきます」


 失礼致します。

 異口同音に女官さんが、頭を下げられました。

 えっ。

 身支度?

 このままでは、いけませんか?


「ガイル殿。不遜な輩はお任せ致します。お客様方は、お着替え為さります。早く、牢屋なりに連行してくださいまし」

「はっ。直ちに」


 寝室に戻されそうになりました。

 床に転がる不審者を見つけるなり、女官長さんは副団長さんに指示を出されました。

 手荒く隣室からだされた不審者は、待機していた騎士さんに連行されていきました。

 無情にも女官さんに、囲まれた私とリーゼちゃん。

 副団長さんがいなくなると、ドレスの塊に目がいきました。


「時間がありません。皆様、手早く、丁寧にお客様をドレスアップさせましょう」

「「「「「はいっ」」」」」


 やる気に満ちた女官さんに、服が脱がされそうになります。

 どうしたことか、リーゼちゃんは無抵抗にされるがままです。


 〔悪意、ない。怪我、させれない〕


 女官さんは、仕事熱心な方なんですね。

 アッと言う間に、ドレスに着替えさせられています。

 竜燐に合わせた淡い色合のドレスで、似合っています。

 コルセットがないだけ、御の字です。

 私は瞳の色に合わせた色合いのドレスでした。

 薄紅なだけましです。

 薄桃色には抵抗させていただきました。

 残念そうな女官さんでしたけれども、薄桃色はどうしても聖女さんの歪んだ魔力を、思いだしそうで嫌でした。


「御髪は如何致しましょう」

「竜人のお嬢様は、軽く横髪を結い背中に流しましょう。髪飾りは要りません。妖精姫は、髪飾りが御座いますから、似合った髪型に」

「「はい」」


 未成年者は、余り髪を結いません。

 既婚者は、それと分かる用に複雑に結びます。

 私とリーゼちゃんも、未成年者と分かる髪型をしています。

 リーゼちゃんは肩より少し長目に。

 私は、背中の仲ば程です。

 髪結いの女官さんが、櫛やピンを持っていましたので、リーゼちゃんが警戒しました。

 が、杞憂に終わりました。

 見事な腕前を披露して、髪飾りの反対側が結われました。

 短時間に凄い早業でした。

 リーゼちゃんの視線は、髪結いの女官さんに、釘付けでした。

 覚えて、結ばれるかもしれません。

 リーゼちゃんは、自分には無頓着です。

 その割りには、私を着飾るのが好きです。

 得意の鍛治と細工の技で、装飾品を作っては貢いでくれます。

 竜族は、光りモノを溜め込む習性がありますから、私に貢いでどうするのかと思いました。

 ラーズ君によれば、貴重な財宝の中に着飾る私も入るのではないかと、予測されました。

 ラーズ君にも、シルバーアクセサリーや、バックルを貢いでいるようです。

 リーゼちゃんの事です。

 きっと、習性は続くかと思います。


「お化粧は……」

「申し訳ありませんが、お化粧はご遠慮願います」

「同意。ラーズ、嫌がる」


 言い切りました。

 勝ちました。

 負けてばかりはいられません。

 ドレスや髪結いに問題はありませんでしたけども、お化粧となると別です。

 疑いは完全には晴れていません。


「了承致しました。では、身支度はこれで仕舞いに致しましょう」


 女官長さんも、諦めてくださいました。

 信頼されているとは、思わないでしょう。

 化粧品には細工はされていませんでしたが、自衛はしなくてはなりません。

 続いて靴が運ばれて来ました。

 踵が高い靴ばかりです。

 小さな嫌がらせですか。

 転ばずにはいられないと思います。


「あら?」


 幸いにもサイズがあう靴がありませんでした。

 妥協して布靴になりました。

 ドレスには着替えましたが、装飾品は手放しはしませんでした。

 指輪と腕輪が浮いて見えます。

 外して欲しいとは言い出されませんでした。

 ラーズ君なり、アッシュ君なりに、忠告されているようでした。

 髪型も、髪飾りありきで結われましたし。


「衣服はお洗濯致しましょうか?」

「いらない。触らないで」

「失礼致しました」


 リーゼちゃんの拒絶に女官長さんは、引き下がりました。

 人前ですので、腕輪の無限収納(インベントリ)に、仕舞えません。

 リーゼちゃんが空間魔法を発動して、衣服やポーチを仕舞ってくれました。

 女官さんは、密かに驚いた様子を見せています。

 人族の中では空間魔法は、珍しい魔法のようです。

 魔法の袋(マジックバッグ)や、空間収納(アイテムボックス)の効果がある品は、高額です。

 滅多に世間に出回りません。

 見慣れない魔法に、興味深けな眼差しが向けられています。


「ごほん。失礼致しました。お嬢様方、お似合いでございます。では、食堂にご案内致します」


 女官長さんの咳払いに、女官さんが、壁際に下がりました。

 えっ。

 ラーズ君とアッシュ君とは、一緒に赴くのではないのでしょうか。

 少しだけ、心細くなってきました。

 人族の王族との会食の前に、出来れば二人に会いたいのですが。


「失礼致しました。ご安心下さい。まずは、保護者様とお義兄様が控える客室にご案内致します」


 それなら、一安心です。

 ラーズ君とアッシュ君に、合流できます。

 二人ともに、どんな礼服を身に付けているか、見てみたいです。

 高揚した気持ちで女官長さんの、後に続きました。




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