第15話
あけましておめでとうございます。
月曜投稿です。
バタバタとした騒動が落ち着きましたのは、あれから数分と経たずに、トール君が再び国王さんとの会談を再開した後です。
私達も迎賓館の客室から、王族の私的な居住空間の、警備が行き届いた奥の宮に案内されました。
他国の人間をここまで招き入れて、いいのですかね。
それだけ、重要視されたのでしょうね。
王妃さんとの対面は明日以降になりました。
なかば、強引に乗り込んだのは、こちらこそなのですから、恐縮しないでください。
頭を直角に下げる女官長さんに、どう対応したら良いですか。
アッシュ君、悠々とソファに座りお酒を嗜んでいる場合ではありません。
二度目の襲撃を懸念したのか、アッシュ君は会談に不参加です。
「本日は僕達も、この階からは動きません。それに、庶民ですからお付きの侍女や女官は、ご遠慮願います」
「畏まりました。では、御用がございましたら、ベルを鳴らして下さいませ」
ラーズ君の言葉に女官長さんは、部屋を退出していきました。
部屋付きの侍女さんも一緒にです。
ようやく、一息つけます。
いえ部屋付きの侍女さんが、壁際に待機していましては、肩肘が張った気がしてなりませんでした。
監視されているみたいでした。
実際は監視されているのでしょう。
リーゼちゃんが、変な風の流れを感知しています。
除き穴があるようです。
知らない振りをしていましょう。
「兄さんは会談に参加しなくて良いのですか?」
「おれの役割は終わった。後はトールに任せた」
「商人さんの姿が見えませんけど」
「あれは、財務大臣と詰めの話があるそうだ。持参した小麦やらは、すべて売買が成立した」
ラーズ君が口火をきりました。
私も気になりました案件をアッシュ君に尋ねました。
商人さんを一人にして、身の安全は大丈夫なのでしょうか。
「まだ、完全には帝国の属国です。魔族だと、排斥されませんか?」
「大丈夫だろう。あれは、自前の防護の魔法があるし、精霊と契約している。何かあれば、おれにも伝わる」
「ん。場数、踏む。、攻撃、当たらない」
「リーゼの言う通りだ。今は、トールのご機嫌を損ねたくないからな。フランレティア側も、安全には気を使うだろう」
リーゼちゃんも商人さんが気になりましたのか、実力を計っていました。
犬人族の商人さんは、中々の腕前らしいです。
「兄さんの配下ですか」
「ああ、群れを魔物に食い荒らされていた処を拾った。魔王のお膝元の魔都に移住させたら、商売で成功していた。今回の件で恩義は返して貰ったな」
優雅にお酒を傾けるアッシュ君。
どうですかね。
何ら儲けのでない人族との商売位で、恩義は返したと言えますか、どうか。
アッシュ君の配下の方々は皆さん、商人さんと同様に冒険者ギルドの依頼で大陸を廻る際に、救われたりした魔族が大半です。
配下の皆さんはアッシュ君の役にたつならば、己に利がなくとも率先して行動に移します。
今回も商人さんは、張り切っていると思われます。
フランレティアの食糧事情は解消されると思いますよ。
「まあ、食糧庫を満杯にする程運び込んだから、当面は問題ないな。トールは農地開拓について、奥の手を使うだろうな」
「奥の手ですか」
もしや、豊穣のお母さまです?
トール君がお話したいとは、伝えましたけども。
お返事はあったのでしょうか。
「フランレティアは鉱山が多く、農地に適した大地が少ない。肥料がどうの、連作障害がどうのと、頭の痛い話が続いていた」
「雨、少ない。大地、乾く、水、潤い、ない」
「湖があるのですよね。そこから、水路を引けないのでしょうか」
「湿地滞があったはずです。渇いた大地と言うのが不思議です」
水竜とリザードマンとは、湿地滞と棲み分けはしているのです。
人族の土地だけ水の潤いがないのは、ラーズ君の言う通り不思議です。
失礼して固有技能の【理の瞳】を発動しても良いですかね。
小型ポーチから瞳を模した置物を取りだし、テーブルに置きました。
会話に出来ない時に出す合図です。
「水の精霊辺りがいないな。何処かで水脈が狂っているのではないか」
「水の精霊。最近、噂でどなたかが契約していましたね」
アッシュ君がすぐに置物を手にしました。
そして、大事な情報を教えてくれました。
ラーズ君も、思い至った事実を口にしました。
思い出されるのは、帝国の聖女。
シルヴィータで高位な精霊と契約していました。
アッシュ君の使い魔情報では、水源地が渇れたとの事です。
トリシア近隣の作物は全滅です。
民人の不満や怒りは、お母さまの罰の証を戴く貴族や王族に向けられています。
大地の御方の加護持ちな王族さんが、漸く立ち上り政権交代が囁かれています。
今年の実りは、昨年の半分以下だそうです。
話が逸れました。
瞳に理力を集めます。
情報が浮かび上がります。
リーゼちゃんが風の流れを制御して、除き穴を塞いでいます。
聞耳をたてている武官の、何処の誰かと不倫している情報はいりません。
知りたい情報を精査していきます。
ありました。
やはり、水脈が乱されています。
水の精霊の気配がありません。
代わりに火の精霊が溢れています。
水脈の真上に火の魔晶石が埋められています。
火の精霊はこれに、惹かれているようです。
大地の精霊は地底に追いやられ、鉱山に集っています。
王城からは距離がありすぎて、水竜が棲む湖までは情報が拾えませんでした。
ただし、水脈を遡るとリーゼちゃんと同じ種の魔力を感知しました。
水竜ですね。
回りには眷属のリザードマンらしき群れをなす魔力があります。
「セーラ。お茶のお代わりをください」
「酒には飽きた。俺にもくれ」
制限時間が来ました。
ゆっくりと視界が切り替わっていきます。
瞬きを繰り返し、正面に心配気なリーゼちゃんの顔が見えました。
にゃあお。
ジェス君も、膝上から甘えてきます。
大丈夫ですよ。
どうしても、固有技能を発動すると、倦怠感に包まれてしまいます。
「お代わりですね。分かりました」
「体調が悪いなら、リーゼに頼みますよ」
「大丈夫です。今日は色々な事が有りすぎて、少しぼーっとなりましただけです」
「なら、いいのですが」
心配症なお兄さんです。
部屋の片隅にあるお茶セットの前に移動します。
流石は王城です。
最新の魔導具が揃えてあります。
僅かな魔力でも短時間でお湯が沸かせます。
茶葉には細工はしてありません。
使わせて貰います。
「リーゼちゃんも、お茶でいいのですか?」
「手伝う」
「では、運んでください」
ティーセットを運んで貰います。
お茶請けは、自前の焼き菓子を出していきます。
果物が添えられていましたが、中に異物が混入してあります。
外務大臣派の仕業でしょう。
まぁ、効果の低い睡眠剤です。
誰も眠らないと思います。
蒸らし時間も終わりましたら、人数分のカップに注いでいきます。
アッシュ君にはブランデーを数滴香り付けに淹れました。
「お待たせしました。どうぞ」
角砂糖とミルクは各自でお願いします。
小皿にはジェス君用のミルクは欠かせません。
にゃあ。
大きめなマドレーヌを半分にして、小皿の端に乗せました。
嬉し気に鳴いて、ハグハグと食べていきます。
お腹が空いていましたか。
そう言えば、朝御飯が早かったのでした。
お昼ご飯はどうしましょう。
作らせてくれるのでしょうか。
無理そうですよね。
「先程の話ですが。精霊の姿が偏り過ぎな気がしてなりません」
「ん。ラーズ、言う通り。火、多い」
「そうですね。水の精霊の姿が見えません。やはり、何処かの誰かの嫌がらせで終わればいいですね」
〔ばっちり、水脈の真上に火の魔晶石が埋められています〕
〔聖女の仕業?〕
〔どうですかね。思考が御花畑な聖女より、参謀を勤める方の仕業では、ないですか〕
〔有り得ますね。アッシュ君なら、知っていそうです〕
私達の視線がアッシュ君に集まります。
当の本人はどこ吹く風と、泰然自若です。
情報を小出しにしてないで、話て欲しいです。
「嫌がらせでは、終わらんな。あれらは、属国の民人はを自国の貴族を肥え太らす手段にしか見ていない。フランレティアで、画策している輩は御大層な野望を秘めているぞ」
苦々しく笑うアッシュ君に、ラーズ君の考えが当たっていました。
自分の欲望に忠実な聖女さんは、お兄さんのいいなりな感じがありました。
兄妹だからでしょうか。
私は、聖女さんは歪んで見えました。
魅了魔法で、見目麗しい男性を侍らして、悦に入る様子は幼い子供の用でした。
精霊を使い潰す有り様には、忌避感しかありません。
利用されていることに、気付いていないのでしょう。
可哀想。
いいえ。
利用されているなら、利用され返せばいいだけです。
けれども、自分に優しい箱庭しか知らないでいる、聖女さんの自業自得です。
「トール君は、帝国に意趣返しを狙っていますが、彼女の境遇を新たに知りましたら、彼女を救うのでしょうか」
「セーラ?」
勇者教や皇帝、実のお兄さんの駒にされている
聖女さんに、トール君は手心を加えるのではないかと思いました。
異世界からの、落ち人。
召喚者と違い魂だけが異世界人の聖女さん。
二つの世界の常識を併せ持つ異端児です。
お母さまは、この世界は異世界人には優しくないと、仰っていました。
トール君のお父様と、同郷の幼馴染にいたぶられた少年。
召喚した神は無情にも加護を取り上げました。
幸いにも、二人は路頭に迷うことなく、保護されました。
聖女さんも、女神の意向に沿わなくなれば、見捨てられるのでしょうか。
「トールの本心はどうか知れんが。御花畑の少女は、救わないだろうな。救いがあるとすれば、行うのは姉妹喧嘩に巻き込んだ当人が、しなければならない」
「神族の掟ですか」
「ああ。神々は敬われ、崇められれば神格が上がると思いがちだがな。上位になるほど、縛りがきつくなる。光や実りは勘違い甚だしいと、世界神も嘆いているさ」
地上で唯一、世界神様と接触出来るアッシュ君の言葉は重いです。
アッシュ君は魔素を潰す役割の他に、ある役目を授かっています。
神族や魔族の皆様から嫌われる、その役目が果たされないのを祈ります。
ブックマーク、評価ありがとうございます。




