表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
65/197

第14話

金曜投稿です。



 あっさりと拘束された、帝国の代官と将軍。

 妖精姫に、見事に釣られました。

 実はトール君と別行動すれば、何らかの アクシデントが起こると期待されていました。

 それだけ、自信があったのでしょうね。

 報酬をちらつかせ、禁止麻薬まで使用したのに、逆に撃退しました。

 外見に惑わされた、愚かものです。

 伊達に、鍛練していません。

 この位の騒動は、軽い運動にしかなりません。


「何事だ。ガイル、何が起きた」

「おい。どうしたんだ」


 廊下に積み重なる兵士は、中和剤を含ませて放置してあります。

 人払いが為されていたのか、発見までに時間が掛かっています。

 ガイルさんの同僚が巡回に来るまで、ひとしきり一服お茶をしていました。

 ジェス君が多少目を回していました。

 膝の上で延びています。

 反省です。

 騎士であるガイルさんも、自国の兵士が起こした騒動に項垂れています。

 お金の魔力は怖いですね。

 大方に輸入が途絶えて、食料が高騰したのが、背景にありそうです。

 が、同情はしません。

 報酬に目が眩み、帝国に加担したのですから。

 罪は償ってください。


「ガイル。どうした」

「妖精姫を狙った襲撃者です。捕縛して、牢に放り込んでください」

「……はあ? それは、本当なのか?」

「本当だ。代官と将軍に連れられて、襲撃された」


 宰相補佐さんの指示に、騎士さんは呆れた様子で、兵士の山を見やりました。

 二十人程の兵士は、武器を手放し気絶しています。

 中和剤の効果とラーズ君の魔法で、強制的に眠りこけています。

 手荒く扱いましても、翌朝までぐっすりです。

 巻き込まれた警護の騎士さんは、既に治療済みです。

 比較的に軽症な騎士さんにも、お茶を配っています。


「隊長、事実です。妖精姫を部屋に案内して、間もなく襲撃されました」

「分かった。団長や、陛下に報告する。おい」

「了解致しました」


 隊長さんに促されて、巡回の相方さんが走り去っていきました。

 代官と将軍は、ラーズ君が縛り上げて室内に転がされています。

 隊長さんが、気付いて絶句しました。

 ガイルさんに、指で問い合わせしています。


「竜人のお嬢さんに、伸された。一発だった。護衛の出番がなかった」

「……執務室に姿がないと、報告があがったばかりで、これか。何も言えないな」

「外務大臣派の情報提供が、為された証だと思いますよ。いやぁ、見事な腕前でした」


 のんびりとお茶を口にする宰相補佐官さんです。

 緊迫感が一気になくなりました。

 対して、副団長さんは苦笑いです。

 さては、宰相補佐官の悪運の被害を、一番被っているのは彼ですか。


「グレイル補佐官が同席していたのか。それで、この結果か」


 隊長さんも宰相補佐官さんの姿に、納得されています。

 顔を天井に向けて、葛藤されている模様です。


「この結果だが、どうする? 代官や将軍を牢屋には入れられないだろう」

「執務室にでも、軟禁するか。その前に、陛下の裁可を頂かないと」

「賢者殿にも、謝罪しないとな。子供たちに手を出された、お詫びをしないと」


 実年齢は副団長さんより、歳上なのですが。

 人族は外見に拘りすぎですよ。

 トール君なんて数百歳なんですから。

 下手をしたら、建国年数と同じ歳です。

 私やラーズ君とリーゼちゃんも、其なりな歳ですよ。


「別に、トール先生はこれ位の襲撃で、気分を害する事はありませんよ」

「ん。小魚を釣った。その程度」

「そうですよ。こう見えましても、武術は嗜んでいますから」

「いや、小魚はないんじゃないかな」


 リーゼちゃんに突っ込みが入りました。

 ですが、小魚ですよ。

 トール君の目標は帝国の皇帝です。

 代官は変わりがききますし、見放されるのもありです。

 皇帝の後継者は父親に似ず、凡庸な人材ばかりと聴いています。

 専ら娘婿に、期待が掛けられてるようです。

 後は、聖女さんが推す皇弟殿下です。

 こうして見ると、帝国も屋体骨が揺れています?

 実りの聖女を使い潰して、豊穣の神子を手にした功績が継承問題に関わりそうです。

 嫌ですね。

 帝国の役にたつのは業腹です。


「ガイル、アレク。妖精姫殿達はご無事か」


 バタバタと足音を響かせて、騎士団長さんが飛び込んで来ました。

 鎧を着込んでの全力疾走は、ご苦労様です。

 副団長さんと宰相補佐官さんが立ち上がりました。


「はっ。お客様方は見ての通りです。お怪我ひとつございません」

「そうか。廊下の兵士を制圧したのは、お前たちか。よくやった」

「いえ。襲撃者に対応したのは、私ではありません」

「ん? 何をしていた」

「対応する以前に、竜人のお嬢さんに転がされました」

「……」


 副団長さんの報告に、沈黙が降りました。

 そうなのです。

 邪魔のひと言で、転がされたままでした。

 が、立ち上がれなかったのは、リーゼちゃんがそうしていたからに、他ありません。

 空気の重圧で、動きを阻害していました。

 連携出来ないと、お荷物の宰相補佐官さんを、守れない事態になったかもです。

 麻薬に侵された兵士は、捕らえる筈の私にさえ槍を突き出していました。

 敵味方の判断が出来ていない、証拠です。

 もし、私の命が失われていたら、どうする気だったのでしょう。

 まともな思考力があれば、槍の石突や剣の腹で攻撃したはずです。

 まぁ、アッシュ君の警護の魔法が掛けられていましたし、ラーズ君とリーゼちゃんが居ましたから、身の安全は心配していませんでした。


「そ、そうか。賢者殿の言葉通りであったな。さすがは、賢者殿のお弟子さんだ」


 騎士団長さんに、称賛されました。

 照れ臭いです。


「ほらな。安全だったろう」

「ですが、幾ら腕がたつとは言え、未成年のお弟子さんを囮になどするのは、如何でしょうか」

「俺の弟子は冒険者としても、活躍している。これ位の荒事には慣れているさ」


 トール君が国王さんに、非難されていました。

 やはり、外見に問題があります。

 そんなに、ひ弱に見えるのでしょうか。

 もっと、鍛えないといけませんか。


「ラーズ。阿呆な輩は何処だ」

「あちらです」


 ラーズ君が指差す方向には、気絶している代官と将軍がいます。

 トール君がニヤリと笑いました。

 その笑いかたですと、トール君が悪者に見えますよ。


「おねんね中か丁度いいな」


 代官と将軍に、魔法が掛けられました。

悪夢(ナイトメア)】の魔法です。

 悪どいです。

 やはり、悪者ですよ。

 トール君。


「んじゃあ。手筈通りに、貴賓室にでも軟禁してくれ。翌朝まで、寝てるから」

「賢者殿の指示に従え」

「はっ。了解致しました」


 近衛騎士さん方が、代官と将軍を運んで行きます。

 それを見ていた私達に、アッシュ君が近付いてきます。

 私達も立ち上りました。


「派手に暴れたな。だが、ラーズとリーゼの壁を越えて、兵士がセーラに接敵したな」

「はい。抜けられて仕舞いました」

「ん。連携ミスした」


 やはり、眼が付いていましたか。

 過保護ですよね。

 私もアッシュ君の鍛練には、参加しています。

 何時までも、ラーズ君とリーゼちゃんに甘えてばかりはいませんよ。

 異議を唱えたいです。


「ラーズ君とリーゼちゃんは悪くありません。今回の室内戦は、宰相補佐官さんを護衛しなくてはいけませんでした。私も戦力でしたよ」

「そうか。しかし、問題点がひとつあるだろう」


 力説する私に、アッシュ君は冷静に返しました。

 問題点なんて、ありましたでしょうか。

 本気で分かりません。


「ジェスですね」

「そうだ。護衛の中には、戦闘力のないジェスも当てはまる。もし、槍の穂先がポーチに当たっていたら、どうしていた」


 ラーズ君の指摘に、気付かされます。

 そうでした。

 派手に動いた訳ではありませんでしたが、ジェス君がポーチの中で、目を回していました。


「ジェスを閉鎖空間に収めたのなら、セーラは戦闘に加わるのではなく、結界を展開するべきだったな」


 若しくはと、チェーンベルトの召喚具に視線がいきました。

 アッシュ君は、結界に特化した召喚獣を召喚して、襲撃者をやり過ごせと、言いたいのですね。

 それか、トール君謹製の魔導具です。

 召喚獣は秘匿していたい奥の手です。

 何処に帝国の眼があるか知れない状況で、私が取れる最善の手段は、壁を抜けてきた敵を迎え撃ちする手のみです。

 初めから、宰相補佐官さんに預ける選択肢はありません。

 そこまで、信頼はしてはいませんから。

 フランレティアの国王が帝国からの独立を、思案しているからと言いましても、報酬に釣られて襲撃してきた兵士がいます。

 宰相補佐官さんは国王派に属していますが、その国王の命令で何時反旗を翻されるか、今の時点では分かっていません。

 念の為に、宰相補佐官さんが背後から襲って来ても、対応できる位置取りはしていました。

 最悪な事態は想定していましたよ。

 リーゼちゃんが副団長さんの自由を阻害していたのも、そうした手段を鑑みていたからだと思います。


「まぁ、実際は良い方向に敵を無力化したから、及第点だな」


 しょげた私達の頭を、アッシュ君に撫でられました。

 及第点ですか。

 辛い点数です。

 今後の課題にジェス君をどうするか、相談しないといけません。


「あー。アッシュの心配は尤もだが、ジェスのポーチはガチガチに耐刃防御はしてあるぞ」

「物理防御だけか?」

「いいや。耐魔法防御もしてある。竜族の吐息(ブレス)も防ぐ、優れ物だ」


 意外な事実が判明しました。

 トール君に頼みましたポーチは、耐物理防御・耐魔法防御はばっちりとしてありましたよ。

 重量軽減と空間拡張だけでは、ありませんでした。

 それは、以前にも聴いていましたけれども。

 スリ対策ではありませんでしたか?

 竜族の吐息にも耐えるポーチ。

 評価額は幾らになるでしょう。

 恐ろしくて鑑定できません。

 アッシュ君は額に手を当てています。

 お小言が意味をなさなくなりました。

 ジェス君とは、ダンジョン以外で魔法を使用するのは禁止と約束しています。

 アッシュ君からも、言われているようです。

 普通の幸運猫(フォーチュンキャット)は、重力魔法は操りません。

 ただでさえ、絶滅危惧種ですのに、付加価値が付いてしまっています。

 好事家に狙われる処では、ないですね。


「ジェスの安全を考慮したら、当たり前の効果だろう」

「やりすぎだ。ポーチの性能に目をつけられたら、どうする気だ」

「ちゃんと、認識阻害もつけてあるぞ」

「付ければいいと思うな。所持するセーラの安全も考慮しろ」


 アッシュ君は、滔々とトール君を諌めています。

 今更な感が否めません。

 現に竜族のリーゼちゃんがポーチに、全力で爪をたてていますが、穴は空きません。

 見事に、無効化しています。


「頭が痛くなってきました」

「むう。弾かれる」


 ラーズ君もポーチの性能を、目の当たりにして、頭を押さえています。

 トール君。

 一体、私に何てものを装備させていますか。

 竜族の攻撃も弾いていますよ。

 自重を何処に忘れて来ましたか。

 是非、拾いに行ってください。



ブックマーク登録ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ